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あらかじめ失われた恋  デイヴィッド・リンゼイ『憑かれた女』
憑かれた女
 デイヴィッド・リンゼイ『憑かれた女』(中村保男訳 文遊社)は、分類の非常に難しい作品です。あえていうなら観念的な幻想恋愛小説、といったところでしょうか。登場する館が魅力的で、ゴシック・ロマンスのような雰囲気もありますね。

 若い女性イズベルは、婚約者のマーシャルに、ある男から古い館の買取を打診されているという話を聞きます。その館、ランヒル・コート館は、13世紀頃にウルフという男が建てたとされていました。ウルフは館の最上階ごとトロールにさらわれ、それ以来、館では失われた部屋が目撃されているというのです。
 マーシャルと伯母とともに館を下見に訪れたイズベルは、同行者がいたときには気付かなかった上り階段が大広間から伸びているのに気付き、階段を登ってみます。登った先の部屋には三つの扉がありました。探索を進めようとした矢先にマーシャルの声が聞こえます。
 マーシャルたちのもとに戻ったイズベルは、階段を登った後の記憶が全く残っていないことに気付きます。イズベルは、秘密を知っているらしい館の主人ジャッジと話すうちに、彼に惹かれつつありました…。

 ある特定の能力を持つ人物にのみ、幻の部屋へと通じる階段が現れる…という幻想的な邸が登場します。面白いのは、この部屋にいる間の記憶は、部屋を出ると失われてしまうというところです。
 婚約者のいるイズベルと、やもめの初老の男ジャッジは互いに惹かれつつも、表立っては礼儀正しい姿勢をくずしません。しかし幻の部屋では不思議な作用により、自分たちの思いを語り合うことになります。しかし部屋の外に出るたびにその記憶は失われてしまいます。彼らの恋の行方はどうなるのか…?

 ストーリーをまとめると上記のような感じになるのですが、著者は観念的な幻想小説『アルクトゥールスへの旅』で知られるリンゼイ。恋愛模様も普通のそれではなく観念的・神秘的な様相を帯びています。
 幻の部屋は異世界らしき場所へつながっています。著者はこの場所を「美しい」と描写するのですが、読んでいる方からするとやたらと「怖い」世界なのですよね。ヒロインの恋愛がどうなっていくのか?という興味と同時に、この異世界はどうなっているのか、ヒロインたちは異世界に行ってしまうのか?という興味でも読み進んでいくことができます。

 「観念的」というと身構えてしまうかもしれませんが、全体に会話が多く、読みやすい作品です。変わった恋愛小説、幻想小説を読んでみたい方にはお薦めしておきたいと思います。「館もの」としても出色の出来ではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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