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熊と人間  ミック・ジャクソン『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』
こうしてイギリスから熊がいなくなりました
 ミック・ジャクソン『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』(田内志文訳 東京創元社)は、イギリスから絶滅してしまった熊をめぐる8つの物語をまとめた短篇集。ユーモアと哀愁に満ちた物語集になっています。

 森の悪魔と恐れられる「精霊熊」との交渉に送り出された男を描く「精霊熊」、死者の罪を引き受けるための供物を食べた熊を描く「罪喰い熊」、闘熊のスターとなった熊を描く「鎖につながれた熊」、サーカスで虐げられている熊たちが脱出するという「サーカスの熊」、下水道で働かされる熊たちを描いた「下水熊」、人間の相棒と共に潜水夫として働く熊を描く「市民熊」、何かに導かれ旅を続ける熊たちを描いた「夜の熊」、熊たちの最後の船出を描く「偉大なる熊」の8篇を収録しています。

 登場する熊たちは、人間と共に働いたり、比較的友好的なものもいるものの、概して、野生的であり攻撃性を残した存在として描かれています。人間から虐待をされる熊だけでなく、人間から(一方的ではありますが)可愛がられている熊でさえ、結局は人間と相容れることはないのです。
 大体の作品において、虐げられていた熊たちは、人間の手から逃亡する形になります。逃げ出した熊たちのその後は、最後の二篇「夜の熊」「偉大なる熊」で描かれます。特に「偉大なる熊」の最後は、非常に詩的で美しく描かれていますね。

 「寓話」といっていい作品なのですが、登場する熊たちの描き方(デフォルメ)が絶妙です。人間と意思を疎通したり仕事を代りにやったりと、そういう意味では「擬人化」がされているのですが、かといって、彼らの中身は「人間」ではありません。飽くまで「野生動物」なのです。
 人間の一方的な思い込みで、虐待されたり枠にはめられたりした熊たちは、それらに対して反乱を起こします。そんな熊たちの悲しみをユーモアを交えて描いた短篇集、といっていいでしょうか。そういう風なので、当然のごとく作者の筆は熊に友好的です。
 熊たちも一方的に虐げられるわけではなく、強欲な人間たちが復讐されたりといった話も見られます。しかし、善意で接する人間も同じように熊に殺されてしまったりと、熊と人間との「分かりあえなさ」を描いており、一筋縄ではいかないところがまた面白いですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「夜の熊」の章が好きです。
「10の奇妙な話」と同じイラストレーターと翻訳者で、文章と挿絵がピッタリ合っていました。訳者あとがきを読んで驚いたのですが、イギリスでは熊のみならず猪も絶滅していたのですね。自分の地元では猪は猿や鹿と並んで農作物の天敵で、お墓の供物も食べられてしまうんです。あんなに賢く繁殖力旺盛で何でも食べる生き物を絶滅させるとは。ベンスン「ノウサギ狩り」でも凄い量の獲物を狩りまくっていましたものね。
【2018/11/20 11:42】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
狩りはイギリスのお家芸ですもんね。以前、イギリスの歴史に関する本を読んだとき、動物に対する扱いがひどいなあ…と思った覚えがあります。
【2018/11/20 19:22】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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