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秘密結社の恐怖  フリードリヒ・シラー『招霊妖術師』
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 ヴェネツィアに滞在中のやんごとなき青年貴族「若殿」は、ある日謎のアルメニア人から従兄の死を予言されます。神秘的な要素に惹かれるようになった「若殿」は、シチリア人の主宰する交霊会に出席し、呼び出された霊に出会うことになりますが…。

 『招霊妖術師』(石川實訳 国書刊行会)は、ゲーテと並ぶドイツの文豪フリードリヒ・シラーの怪奇小説です。「秘密結社小説」の嚆矢であり、イギリスのゴシック・ロマンスにも影響を与えたと言われる作品です。
 未完の作品なのですが、全体は2部に分かれています。1部では交霊会や妖術師であるアルメニア人についての調査と、その顛末が描かれるというミステリ要素の強い展開、2部では「秘密結社」の影響により放蕩に陥った「若殿」が破滅していく様を描くという展開です。
 一度は超自然的な現象を信じかけるものの、合理的な解釈で全てが明かされる、という一部は、いわゆる「解明される超自然」型のゴシック小説といってもいいかもしれません。対して二部はトーンが変わって、暗躍する「秘密結社」の影響を描く謀略小説といった感じになっています。

 一部の最後では、一応合理的に謎が解かれるという形にはなっているのですが、それでも解決できない謎が残り、不穏な雰囲気を残して終わります。このあたり「ジョン・サイレンス」や「カーナッキ」を思わせて、「ゴースト・ハンター」ものの趣もありますね。
 一部の中心となる妖術師「アルメニア人」は、実在の人物カリオストロがモデルになっているそうです。時代的にはシラーとほぼ同時代の人物なのですよね。一部にせよ二部にせよ、主人公側が勝手に解釈はするものの、客観的に真実は明かされないので、読み終わってももやもやしたものは残ります。

 いろいろな要素がごった煮になっていて、要約の非常に難しい作品です。現代で言うところの「怪奇小説」とは違ったタイプの作品ですが、分類するとすると、やはり「怪奇小説」か「恐怖小説」と呼ばざるを得ないという、微妙なところに位置する作品です。

 参考になるかと思い、『招霊妖術師』の訳者である石川實「ドイツ恐怖小説とゴシック小説」(小池滋ほか編『城と眩暈 ゴシックを読む』国書刊行会 収録)という評論も読んでみました。『招霊妖術師』そのものについては、それほど詳しく触れていないのですが、これはこれで参考になります。

 ドイツの作家がアン・ラドクリフやホレス・ウォルポール作品に影響を受けたりしているものの、時代的には、ドイツ恐怖小説の源流はイギリス作品ではなく、「シュトルム・ウント・ドランク」運動にあること。
 ドイツの恐怖小説の大きな二つのパターンとして「疑似歴史小説」と「秘密結社小説」の二つがあること。その中で、シラーの『招霊妖術師』はかなりの影響を与えたこと、などが書かれています。
 ドイツ恐怖小説の影響を強く受けた作家としては、本国のホフマン、ルートヴィヒ・ティーク、イギリスのM・G・ルイス(『マンク』の作者)などが挙げられています。ティークに関しては、ちょっと詳しく触れられていて、言及されている恐怖劇『カール・フォン・ベルネック』は翻訳があるようですね。

 ドイツ恐怖小説の隣接ジャンルとして「ドイツ運命劇」というジャンルがあるらしく、『カール・フォン・ベルネック』が収録されている、『呪縛の宴 ドイツ運命劇集 ドイツ・ロマン派全集 17』(国書刊行会)も読んでみる必要がありそうです。

 ちなみに「シュトゥルム・ウント・ドラング」(疾風怒濤)は、18世紀後半に見られた運動でロマン主義の前身となるものですね。理性や啓蒙主義に対して、感情に重きを置く傾向があります。文学方面での実作には詳しくないので、音楽での例を挙げさせてもらいますが、大バッハの息子であるW・F・バッハやC・P・E・バッハ、ヨーゼフ・ハイドンの中期の交響曲などが典型的な「疾風怒濤」作品でしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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