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恋愛(ロマンス)と謎(ミステリー)  ウィルキー・コリンズ『ウィルキー・コリンズ短編選集』
ウィルキー・コリンズ短編選集
ウィルキー・コリンズ
彩流社
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 『ウィルキー・コリンズ短編選集』(北村みちよ編訳 彩流社)は、イギリスの作家ウィルキー・コリンズ(1824-1889)の短編を5編収録した選集です。犯罪の謎あり、サスペンスあり、ロマンスありと、ストーリーテリングに富んだ作品が集められています。紹介していきましょう。

「アン・ロッドウェイの日記」
 親友の死の理由を探るヒロインを描く物語。アメリカに行った婚約者を待つ娘アンは、同じような境遇の娘メアリーの面倒を何くれとなく見ていました。ある夜、意識を失った状態で運ばれてきたメアリーはそのまま息を引き取ります。
 彼女がつかんでいた布切れを見つけたアンは、メアリーは何者かに暴力をふるわれたのではないかと考えますが…。
 布を元に犯人を捜していくという、ミステリ的な味わいもある作品です。気丈なヒロイン像が魅力的ですね。善意が報われる…という結末も好印象。

「運命の揺りかご」
 航海中の商船内で、奇しくも二組の妊婦の赤ん坊が生まれることになります。片方は資産家の妻であるスモールチャイルド夫人、片方は大工の夫を持ち子沢山のヘビーサイズ夫人。
 二人はほぼ同時に出産したため、船医はどちらの赤ん坊がどちらの子供かわからなくなってしまいます。しかも赤ん坊はどちらも男の子であり、父親同士も外見はかなりよく似ているのです…。
 二人の赤ん坊をどう見分けるのか? という顛末をユーモラスに描いた作品です。語り手が、成長した赤ん坊の片方である男性というのも面白い趣向です。ちょっとしたきっかけで「運命」が変わってしまう…というテーマの作品でもありますね。

「巡査と料理番」
 巡査の「私」は、ある夜、警察に飛び込んできた料理版の娘プリシラから殺人事件を知らされます。下宿人であるゼベダイ夫人が、夢遊病で意識のないまま夫を刺し殺してしまったというのです。
 同じ下宿人のドリュク氏が、ゼベダイ夫人に言い寄っていたという事実を知った警察は彼を調べ始めますが…。
 サスペンス風味の強い作品。夢遊病中の殺人、怪しげな下宿人。魅力的な謎の真相が、後半ふとしたことから明かされることになります。人間の二面性が露になるというテーマも面白いですね。

「ミス・モリスと旅の人」
 港町サンドイッチで、家庭教師のミス・モリスは、見知らぬ男性と出会います。恥ずかしがりであるらしい紳士は彼女を昼食に誘いますが、ミス・モリスは断ってしまいます。
 雇われ先の家庭の経済的な苦境により離職したミス・モリスは新しくイングランドの勤め先で、紳士と再会することになりますが…。
 ユーモアあふれるロマンス作品です。気丈でしっかり者のヒロインと、いささか常識に欠ける年上の紳士との恋愛を描きながら、そこに財産相続の話を絡めています。
 互いに不器用な二人がどうくっつくのか? が読みどころです。ヒロインにあしらわれる紳士の姿が非常にユーモラスですね。楽しい読み味の一編です。

「ミスター・レペルと家政婦長」
 資産家で独身の紳士レペル氏は、伯父の屋敷を訪れた際に門番の娘スーザンの美しさに目を見張ります。彼女のフランス語の勉強を手伝ってやるレペルに対し、スーザンはほのかな恋心を抱きます。
 レペルの親友ロスシーは、スーザンに一目惚れしてしまいます。しかし財産がないため結婚はできないというのです。一方、急速に病状の悪化したレペルは、ロスシーに対しある提案をします。その提案は、イタリアで見た芝居の筋を参考にしたものでした。
 近々死んでしまうであろう自分とスーザンとが結婚すれば、自分の死後未亡人となったスーザンと晴れてロスシーは結婚できるというのですが…。
 ヒロインをめぐる不思議な三角関係に、タイトルにある「家政婦長」が絡んでくるというスラップスティック風味の楽しいロマンスです。
 三角関係に陥る三人が皆善人で、互いに他人のことを思いやっている…というところがいいですね。「勘違い」と「思い込み」がストーリーを複雑にするというのも面白い。作品全体がいくつかの「エポック」に分けられているのと、最初の「エポック」がイタリアの芝居の紹介から始まる趣向も洒落ています。集中でも一番の力作。

 収録作品は、どれも19世紀後半に書かれたものながら、今でも相当面白く読めるのに驚きます。どの短編にも核となるしっかりした「ドラマ」があるのですよね。訳文も読みやすいです。コリンズといえば『月長石』『白衣の女』などの大長編が有名ですが、コリンズ入門としては、こちらの作品集をお薦めしたいですね。


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

面白そうですね。
私は「月長石」は何度読んでも、ドラマでもダメでした。
「白衣の女」はドキドキしながら読んだものですが、(今は、かなり忘れてますが)
「婚姻」に関する「法律」には、悪人といえど、同情する部分があるような気が(→勘違いでないといいのですが)したものです。

しかし、長かったので、短篇はぜひトライしようと思います。
【2018/10/05 22:30】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontanka
いろんな要素が入っていてバランスが良いのと、短篇であることもあって読みやすい本です。コリンズはドラマを生み出すのが上手くて、その山に乗れると一気に読めてしまうんですよね。
この本、fontankaさんは好きそうな感じがしますよ。
【2018/10/05 23:14】 URL | kazuou #- [ 編集]


読みました。
いやぁ~読ませますね。短篇も。
でした。
【2018/10/12 20:29】 URL | fontanka #- [ 編集]

コリンズ
コリンズは長篇も短篇も上手いですが、短篇の中に過不足なく物語を入れられる…というところは、エンタメ作家の見本のような感じですね。
【2018/10/12 20:51】 URL | kazuou #- [ 編集]


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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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