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滋味ある怪異譚  三馬志伸編訳『ヴィクトリア朝怪異譚』
ヴィクトリア朝怪異譚
ウィルキー コリンズ ジョージ エリオット メアリ・エリザベス ブラッドン マーガレット オリファント
作品社
売り上げランキング: 14,950

 三馬志伸編訳『ヴィクトリア朝怪異譚』(作品社)は、19世紀ヴィクトリア朝に書かれた怪奇小説を4篇収録したアンソロジーです。紹介の難しかった、少し長めの中編小説を集めるというコンセプトで編まれたそうで、読み応えのある作品が集められています。
 収録作品中、エリオットとブラッドン作品は既訳がありますが、どちらも入手難ですので、収録は有難いかぎり。それでは紹介していきましょう。

ウィルキー・コリンズ「狂気のマンクトン」
 マンクトン家は莫大な資産を持ちながらも、周りの人々からは芳しくない評判を得ていました。一族には代々遺伝性の狂気が伝わっているらしい…というのがその理由です。
 一族の末裔アルフレッドは周囲の反対を押し切り、知り合いの娘エイダと婚約しますが、突如イタリアに出かけてしまいます。彼は決闘で死んだという叔父の死体を捜して回っているというのです。現地でアルフレッドと知り合った「私」は、彼と友人になり、アルフレッドの奇行の原因を聞くことになります。
 マンクトン家には、家の者が死んだ場合、必ず一族の墓所に葬らないといけないという言い伝えがあるというのです。さもなくば一族は滅ぶと…。

 「一族の呪い」をテーマにしたゴースト・ストーリー。一族の呪いを信じ行動する青年の言っていることは本当なのか、それとも狂気のなせる業なのか? 超自然に対して懐疑的な第三者が語り手になっているところがポイントです。さらに語り手の一家は、青年の婚約者の娘を庇護する立場にあり、結婚を破談にしたいという思惑もあるのです。
 様々な要素が複雑に絡み合っており、非常に面白く読める作品です。最後まで怪異が本当なのかどうかもはっきりとはわからない…というのも近代的ですね。

ジョージ・エリオット「剥がれたベール」
 「私」は小さいころから、未来の情景を見ることと、相対した人物の内面を読み取ってしまうという能力を持っていました。しかし兄の婚約者である女性バーサだけは、内面を知ることができないのです。
 驕慢で利己的であることを理解しながらも、その内面の神秘性に惹かれた「私」は、バーサとの結婚を望みますが…。

 超能力者の内面の心理と苦悩を描いた作品といえるでしょうか。1859年という発表年を考えると、恐ろしく先駆的な作品です。不幸な結末に至るのを理解しながら「悪女」とくっついてしまう…という「悪女もの」の趣もあります。全篇ドロドロとした内面描写が続くという、重厚なゴシック小説です。

メアリ・エリザベス・ブラッドン「クライトン・アビー」
 一族の館クライトン・アビーに招待された遠縁のサラは、そこで当主の跡継ぎである青年エドワードと、その婚約者ジュリアに出会います。
 屈託のないエドワードに比べ、ジュリアは心根は優しいものの気位の高い女性でした。ある夜サラは館の外から狩猟の一行が入ってくるのを目撃しますが、翌朝にはその一行の影もありません。
 やがてサラは、それは恐らく以前に亡くなったクライトン家の幽霊であり、そのような現象が起こった場合、近いうちに一族に不幸が起こる…という言い伝えを聞くことになりますが…。

 怪奇現象よりも、それをめぐって展開する青年エドワードと婚約者ジュリアの恋愛模様が読みどころになっています。青年を愛しながらも素直になれないジュリアが選んだ選択は、取り返しのつかない悲劇を招いてしまいます。語り手が第三者になっていることとも相まって、落ち着いた語り口の作品ですね。趣のあるゴースト・ストーリーです。

マーガレット・オリファント「老貴婦人」
 資産家である高齢のレイディ・メアリは、同名の少女リトル・メアリを引き取って可愛がっていました。レイディ・メアリは、遺言書を書いておかないとリトル・メアリが路頭に迷ってしまう、という周りからの忠告を聞き流していました。
 ある日、レイディ・メアリは密かにリトル・メアリを相続人に指定した遺言書を作成し、秘密の引き出しに隠します。しかしその直後急逝してしまうのです。ふと気がついたレイディ・メアリは自分の体が軽やかになり、見知らぬ館にいることに気がつきます。
 自分が死んだということを聞かされたレイディ・メアリは、自分がリトル・メアリを路頭に迷わせてしまう状況で置いてきてしまったことに気付き激しく後悔します。直接意思を伝えようと、レイディ・メアリは地上世界に戻ることになりますが、地上の人々は彼女の存在を認識してくれないのです…。

 死者の世界(恐らくは煉獄)から地上に戻る幽霊という、ファンタジー色の濃い作品です。「幽霊」であるレイディ・メアリの側と、霊の存在をかすかに感じ取る屋敷の人々の側と、両方向から事態が描かれるのがユニークですね。後味も非常に良い、味わいのあるゴースト・ストーリーです。

 収録作品4篇とも「怪奇小説」としてだけでなく「小説」としても滋味のある作品ばかりで、非常にいいアンソロジーです。ジョージ・エリオットを除く3人は、もともと大衆小説畑の作家ということもあり読みやすさも抜群です。これは強力にお薦めしたい本ですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

やっと読了しました。
ウォーターハウスの絵も印象的(図書館本なので、きっとあるであろう絵の説明が見られないのが残念)
オリファントは知らない作家でした。この作品はユーモア(?)と思ったらそうではなく、でも、ラストがハッピーエンド(?)で安心しました。

ブラッドンは「レディ・オードリーの秘密」の作者だと気が付きました。奥が深いアンソロジーでした。
【2018/10/05 22:19】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
ストーリー的に面白いのもそうなんですが、文学性も高くて良いアンソロジーでした。あと「怪奇」部分がしっかりしている作品が多かったのが、個人的には嬉しかったです。
オリファント作品は、序盤ちょっとコミカルな部分もあったりしますね。後半は結構シリアスですが。
【2018/10/05 23:11】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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