FC2ブログ
新しい生と死  木犀あこ『奇奇奇譚編集部 怪鳥の丘』
4041073197奇奇奇譚編集部 怪鳥の丘 (角川ホラー文庫)
木犀 あこ
KADOKAWA 2018-09-22

by G-Tools

 木犀あこ『奇奇奇譚編集部 怪鳥の丘』(角川ホラー文庫)は、《奇奇奇譚編集部》シリーズ3作目にして完結編。新人ホラー作家の熊野(ゆや)惣介と、怪奇小説誌『奇奇奇譚』の編集者である善知鳥(うとう)のコンビが、小説の取材のために心霊スポットを訪れ、さまざまな怪奇現象に巻き込まれてゆくというシリーズです。
 今作は「邪神あらわる」「無限増殖温泉宿」「怪鳥の丘」の三篇からなる連作になっていますが、それぞれの結びつきが強く、シリーズ中でも完成度の高い作品に仕上がっています。

 「邪神あらわる」は、水族館の廃墟に現れるという「邪神」を調査に訪れた主人公二人が遭遇する事件を描く一篇。ラヴクラフト風の「邪神」の存在を匂わせておきながら実は…という展開になっています。

 「無限増殖温泉宿」は、出版社の企画で、ある温泉宿を訪れた熊野と善知鳥が、増改築が繰り返された温泉宿に隠された秘密を探るという物語。隠された真相が非常に「怖い」作品です。クライマックスのシーンを直接的に描かず、間接的に表現する箇所が想像力豊かに描かれています。

 「怪鳥の丘」は、「無限増殖温泉宿」の事件を受けて自らの処女作「怪鳥の丘」に描いた過去の事件を思い出した熊野が、善知鳥に黙って出奔するという物語。熊野の封印されていた記憶の秘密とは…?
 一作目から言及されてきた熊野の処女作「怪鳥の丘」の内容が明かされますが、それは熊野自身が自分の恐るべき業に直面することでもあったのです…。

 今作では、前作の「不在の家」事件の後、霊を感じ取る能力が上がった熊野自身にスポットが当たっています。彼の能力が変化したのは何故なのか? 作品全体を貫く不老不死伝説と謎の薬「不死鳥の胆嚢」、そして「怪鳥」とは?
 最終篇「怪鳥の丘」では、熊野一人の過去だけでなく、生と死をめぐる壮大なテーマにまで踏み込んでいます。前作『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』収録の「不在の家」も傑作といっていい作品でしたが、今作の「怪鳥の丘」はそれをさらに上回る出来になっているのではないでしょうか。

 これでシリーズ三作を読み終えましたが、このシリーズの三部作は近年の日本ホラー小説の収穫といってもいいかと思います。どれも欧米の怪奇幻想作家たちのエッセンスを上手く取り込み、なおかつ独自の世界観を構築しています。今作では、特にポオやラヴクラフトの影が見え隠れしますね。
 主人公二人の「絆」を描く部分も読みどころです。もう少し二人の活躍を読みたかったというのが正直なところではありますが。
 それぞれ非常に工夫されたアイディアと細やかに描かれたストーリーと、全体に丁寧な作りで、ホラーが苦手な方にもお薦めできる作品ですね。もちろん、ホラー小説マニアにもお薦めしておきます。

一作目『奇奇奇譚編集部 ホラー作家はおばけが怖い』の感想はこちら
二作目『奇奇奇譚編集部 幽霊取材は命がけ』の感想はこちら

テーマ:怪談/ホラー - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/834-c29b3bcd
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する