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異界への憧憬  アルジャーノン・ブラックウッド『いにしえの魔術』
4883753182いにしえの魔術 (ナイトランド叢書3-2)
アルジャーノン・ブラックウッド 夏来 健次
書苑新社 2018-08-07

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 イギリス怪奇小説の巨匠、アルジャーノン・ブラックウッドの傑作集『いにしえの魔術』(夏来健次訳 アトリエサード)は、5篇を収録した作品集。収録作品中、「いにしえの魔術」「獣の谷」は既訳のあるものの新訳、それ以外の3篇は本邦初訳になっています。順に紹介していきたいと思います。

「いにしえの魔術」
 旅の途次、フランスの田舎町で宿を取ることになった男は、町の人々から監視されているような感覚を持ちます。蠱惑的な宿の娘に惹かれた男は、やがて町の異様な雰囲気に気がつきますが…。
 〈ジョン・サイレンス〉ものの一篇です。雰囲気が素晴らしく、ブラックウッドの代表作といっていい作品です。クライマックスでの、町と人々の変容、空間が歪んでいくような描写は圧倒的です。

「秘法伝授」
 アメリカで事業家として成功した「わたし」は、夢想家肌の甥のアーサーを気にかけていました。スイスに滞在しているアーサーと再会した「わたし」は、甥が天才肌だった曽祖父にそっくりに成長しているのを見て驚きます。
 アーサーの案内で共に山のある場所に案内された「わたし」は不思議な体験をすることになりますが…
 曽祖父の魂に導かれて、異教の神々と思しき存在に出会うという物語。語り手が魂を持っていかれそうになる際に、その実務的な意識で抵抗する…というのは面白いですね。

「神の狼」
 トムは、30年ぶりにカナダから故郷オークニーに帰ってきた弟ジムを歓迎しますが、弟が何か秘密を抱えているらしいことに気付きます。ジム同様、カナダで働いた経験のある友人ロシターは、ジムの気鬱の原因は「神の狼」にあると話しますが…。
 カナダの伝承をモチーフにした怪奇小説です。大陸を越えて襲ってくる怪異という、インパクトの強いモチーフを扱っています。ジムがなぜ怪異に追われるのかはっきりしたことは明確にされなかったりと、謎のままに終わる部分が多く、それが逆に効果を上げています。
 後半に、嵐の中で家に閉じ込められた面々が怪談話をする部分があるのですが、その中で、ブラックウッドの代表作のタイトルとしても有名な「ウェンディゴ」の名が言及されるのは、怪奇小説ファンとしては楽しいですね。

「獣の谷」
 狩猟家グリムウッドは、大鹿を駆るため、原住民の案内人トゥーシャリとともに森に入り込んでいました。ようやく大鹿を見つけ発砲するものの、かすり傷を負わせたのみで逃がしてしまいます。
 後を追おうとするグリムウッドでしたが、案内人はそれ以上進むことを拒否します。なぜなら鹿が逃げ込んだのは、地元の人間が恐れるという「獣の谷」だったのです。迷信を信じず激昂するグリムウッドでしたが、一夜明けてみると、彼は一人取り残されているのに気がつきます…。
 ブラックウッドお得意の大自然の恐怖を描いた作品です。ブラックウッド作品には「大自然」や「土地の力」がよく登場しますが、この作品に登場する「獣の谷」は中でもユニーク。その場所では人間性も攻撃性も失ってしまうというのです。インディアンの神々や神秘的なアイテムも登場したりと、色彩豊かな怪奇小説です。

「エジプトの奥底へ」
 語り手の「わたし」は、エジプトで知り合いであるイスリーに再会して驚きます。多芸多才、エネルギーにあふれた男だったはずのイスリーが、内面がからっぽの人間になっていたのです。まるで何かが「失われた」かのように。
 過去に考古学に熱中していたイスリーは、モールソンというエジプト学者と共に何らかの研究をしていたらしいのです。その際に何かがあったのではないかと「わたし」は疑います。やがてモールソンは「わたし」とイスリーの前に、再度姿を現しますが…。
 かなり長く、中篇といっていい作品です。怪奇小説とはちょっとベクトルが異なる作品ですが、題材は非常にユニークです。扱われるのは「土地の力」というべきテーマなのですが、この作品の場合、さらに抽象度の上がった「概念の力」といってもいいぐらいになっているのです。
 これまたブラックウッドの代表作である『人間和声』同様、作者がシリアスに書いているのは間違いないのですが、ある種のシュールさを獲得している作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
獣の谷
ルクンドオは取り寄せ中。獣の谷が一番面白かったです。現地の案内人への扱いは白人至上主義の当時は当たり前だったのでしょうが、ベアハッグされて御陀仏になれば良いのにと。全編を通じて怪異への恐怖はありますが、生理的嫌悪は無いです。何ならあちらの世界へ行っても良いような。
【2018/10/06 19:06】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
古い怪奇小説だと「横暴な白人」が結構出てきますよね。まあ、怪奇作品だと「禁忌をやぶる人物が不幸な目に会う」というパターンもあるので、一概には言えないのですが。
「獣の谷」の世界観はなかなか魅力的でした。

『ルクンドオ』はかなり面白かったのでお薦めですよ。
【2018/10/06 19:30】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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