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『怪異十三』と雑誌掲載の怪奇短篇のことなど
4562055901怪異十三
三津田信三
原書房 2018-07-24

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 三津田信三編『怪異十三』(原書房)を読みました。日本作品7篇と海外作品6篇に、編者の単行本身収録作品1篇を加えた13篇を収録した怪奇小説アンソロジーです。収録作品はどれも微妙に珍しいところを集めていて、初心者にもマニアにも楽しめるアンソロジーになっているようと思います。

 日本篇では、貧困に追い詰められた男がふと死の世界を垣間見るという「死神」(南部修太郎)、行方不明の少女が衆人環視の前に現れるという「寺町の竹藪」(岡本綺堂)、正調幽霊物語ながらどこか不気味な要素の強い「逗子物語」(橘外男)、山中での怪異を民話風に語る「蟇」(宇江敏勝)、不条理なシチュエーションが魅力的な「茂助に関わる談合」(菊地秀行)などを面白く読みました。
 いちばんインパクトがあったのは「茂助に関わる談合」でしょうか。訪ねてきた甥に、自分の雇った奉公人が人間ではないと言われたことを発端に、不条理な現象がエスカレートしていくという掌編です。

 海外篇も安定した出来の作品揃いです。魔女だという噂のある首のねじけた女性を雇った牧師の恐怖を描く「ねじけジャネット」(スティーヴンスン)、古代の笛によって怪異が呼び出されるという「笛吹かば現れん」(M・R・ジェイムズ)、人妻と出奔した男が不思議な現象に出会う「八番目の明かり」(ロイ・ヴィカーズ)、幽霊屋敷で一晩過ごすという賭けをしたアメリカ人青年が恐ろしい目に合うという「アメリカからきた紳士」(マイクル・アレン)、夫が昔の恋人の幽霊と会っていると訴える妻を描く「魅入られて」(イーディス・ウォートン)など。
 海外作品では、怪異そのものよりも人間の恐ろしさ・不思議さが強調される、マイクル・アレンやイーディス・ウォートン作品が印象に残りますね。

 巻末の三津田信三「霧屍疸村の悪魔」は、日本を舞台にした「悪魔」テーマという珍しい作品。迫害されるたびに棄教し、再び別の人間がキリスト教信仰を続けているという霧屍疸村。そこを調査に訪れた女性の恐怖を描く作品です。話が始まる前に展開される、著者のホラー談義も非常に楽しい作品です。



B07432NPHVミステリマガジン 2017年 11 月号 [雑誌]
早川書房 2017-09-25

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 ちょうど収録作品のイーディス・ウォートン作品を読んで思い出しました。昨年の『ミステリマガジン』の〈幻想と怪奇〉特集で訳載された、イーディス・ウォートン「一壜のペリエ水」『ミステリマガジン2017年11月号』早川書房 収録)が未読だったのを思い出し、改めて読んでみました。
 青年メドフォードは、かっての誘いを思い出し、砂漠の家に住むという変わり者の知り合いアーモドハムを訪ねます。しかし、主人は遠くに出かけたばかりだというイギリス人召使いゴズリングの言葉を聞き、彼は主人が帰ってくるまで待たせてもらおうと、その家に滞在することになります。
 しかし一向に主人は現れず、ゴズリングも、他の召使の言葉も要領を得ません。痺れを切らしたメドフォードは、自ら馬に乗ってアーモドハムを探しに行こうとしますが、ゴズリングに制止されます。もしやアーモドハムは家に隠れ潜んでいるのではないかと考えるメドフォードでしたが…。
 主人公は時間の流れもはっきりしない砂漠の家の中で過ごすことを余儀なくされます。召使の言葉は皆要領を得ず、明確な答えは返ってこないのです。何とも不条理な味わいの作品で、読後の印象はまるでディーノ・ブッツァーティ。超自然現象こそ起こりませんが、これは一種の怪談といっていい作品ですね。



B07D57WC74ミステリマガジン 2018年 09 月号 [雑誌]
 
早川書房 2018-07-25

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 せっかくなので、『ミステリマガジン』に訳載された怪奇短篇をいくつか紹介していきたいと思います。まずは今年(2018年)の『ミステリマガジン9月号』〈幻想と怪奇〉特集の掲載作品から。

マーガレット・アーウィン「写本」
 学識豊かな伯父の蔵書を受け継いだコーベット氏は、蔵書のなかにラテン語で書かれた写本を見つけます。翻訳しながら読む進めるコーベット氏は、あるページに、なかったはずの文章がいつの間にか書かれていることに気付きます。
 同時にコーベット氏には幸運が舞い込み始めます。写本のおかげではないかと考えるコーベット氏でしたが、やがて写本は彼に命令とも思える文章を表わし始めます…。
 本をめぐる怪奇小説です。始まりこそ地味ですが、写本が登場してからの禍々しい雰囲気は素晴らしいです。写本の正体が最後まではっきりしないのも良いですね。
 ちなみに、マーガレット・アーウィンには「暗黒の蘇生」『怪奇幻想の文学2 暗黒の祭祀』新人物往来社 収録)という短篇の邦訳があります。

L・A・ルイス「嬰児」
 語り手の「私」は、ふと立ち寄った旅籠やのおかみから不思議な話を聞きます。森番に雇われた男の妻が何人も子供を産んだものの、皆不審な死を遂げていたというのです。
故殺の罪で捕えられた女は精神病院に収監されますが、女は脱走し行方不明になります。その直後から、森には幽霊が出るという噂が流れているというのです…。
 超自然ともサイコスリラーともとれる珍しい読み味の作品です。都市伝説風の狂女のエピソード、幽霊の噂、と序盤は手堅い怪奇小説のフォーマットが現れるのですが、後半で登場する怪異現象の形は非常にユニークで、記憶に残ります。これは知られざる名作といっていい作品では。

L・A・ルイス「海泡石のパイプ」
 妻を亡くした語り手の「私」は引退後、わけありの〈ヘロネイ屋敷〉を入手します。格安の理由は、かって屋敷の主人が猟奇的な殺人事件を引き起こした場所だったからです。 時間が経っているからと考えていた「私」は、今でも村人が〈ヘロネイ屋敷〉に幽霊が出ると恐れていることを知ります。かっての屋敷の主人ハーパーの持っていた海泡石のパイプに魅了された「私」は、そのパイプを愛用し始めます。やがて村では猟奇的な殺人事件が連続して発生しますが…。
 過去の亡霊に影響されるというゴースト・ストーリーです。かって殺人が行われた屋敷とその主人の持ち物であるパイプ、それらが語り手に影響を与えている…というのは、読んでいると割とすぐわかってはしまうのですが、語り口が上手いので最後まで飽きさせずに読ませますね。
 「嬰児」でもそうだったのですが、「海泡石のパイプ」でも、過去に起こった陰惨な事件を間接的に描く語り口が巧みです。このL・A・ルイスという人、邦訳はほとんどないと思うのですが、非常に達者な作家だと思います。



1979-09.jpg
 あとはこれ。ちょっと古い号ですが、非常に面白い短篇なので紹介しておきます。

G・L・タッソーネ「312号室」『ミステリマガジン1979年9月号』早川書房 収録)
 30年近くホテルのフロント主任をやっているチャールズ・シェルトンは、ある日オーナーのウェブスターから、金をくすねているのではないかと詰問されます。シェルトンは泊まった客が消えてしまうことがあり、それらの客からは支払いをしてもらっていないと話します。
 具体的には「312号室」に午前二時前に泊まると、その客はきれいさっぱり消えてしまうというのです。たまたま泊まりにきたホームレスの男が実際に312号室から消えるのを見たウェブスターは話を信じますが、とたんにこの現象を商売にしようと考えつきます。邪魔な人間を消して、金を取ろうというのです。
 彼らの商売は上手くいき、客が引きも切らない状態になります。そんなある日、かって妻を312号室で消してしまった男が、妻を帰してほしいと訴えてきますが…。
 痕跡も残さず人が消えてしまう謎の部屋。それを利用して商売を企む二人でしたが、やがて部屋の秘密がわかりかけてきます。部屋で消えた人間は一体どこへ行ってしまうのか…? 全体にとぼけた味わいの怪奇短篇で、主人公(?)のシェルトンにしてからが、すました顔で人を消していく冷淡な男。
 結末も人を食った展開で、例えるならジャック・リッチーが書いた怪奇小説みたいな味わいです。原文の掲載誌は『プレイボーイ』誌らしく、言われてみると、この雑誌に載るような洒落た作品だと思います。

 ちなみに『ミステリマガジン』の1979年9月号と10月号には、ファンタジー要素のあるミステリを解説したエッセイ「殺人光線、悪魔、知られざる虫類」(ロバート・E・ブリーニイ)が載っていて、これも怪奇幻想ファンには参考になります。
 文中で著者も断っていますが、M・R・ジェイムズやラヴクラフトのような本格的な怪奇小説は取り上げず、あくまで幻想性の強いミステリを扱うという方針のようです。
 前編では、サックス・ローマー、ジョン・ディクスン・カー、L・P、ディヴィス、ジョン・ブラックバーン、ロバート・ブロック、ヘレン・マクロイ、L・ロン・ハバードなどが扱われています。L・P、ディヴィスとジョン・ブラックバーンに関しては、未訳含めいくつかの詳しい梗概が紹介されています。L・ロン・ハバードの紹介されている作品は『恐怖』ですが、かなり高く評価されていますね。
 後編では、未訳の作品が多く紹介されていて興味を惹かれます。フランク・M・ロビンスンの短篇「パワー」、C・S・コディ『魔の夜』、ウィリアム・スローン『夜を歩む』など。ロジャー・マンヴェル『夢見る人々』は、おそらく邦訳のある『呪いを売る男』のことですね。
 後編の内容は、オカルト探偵ものとSFミステリが中心になっています。オカルト探偵ものに関しては、レ・ファニュの《ヘッセリウス博士》、ブラックウッドの《ジョン・サイレンス》、ホジスンの《カーナッキ》、シーバリイ・クイン《ド・グランダン》などが紹介されています。
 《カーナッキ》の評価は低く、逆に評価が高いのがサックス・ローマー《モリス・クロウ》です。SFミステリの部分では、ベスター『破壊された男』、アシモフ『鋼鉄都市』、ランドル・ギャレット『魔術師が多すぎる』など、定番作品が並んでいて、あまり目新しい作品はありませんでした。
 日本ではあまり知られていないシリーズものいくつかについても触れられているのですが、ピーター・サクスン《ザ・ガーディアンズ》であるとか、フローレンス・スティーヴンスン《キティ・テルフェア》、ジャック・マン《ジーズ》などは邦訳はないのではないでしょうか。
 全体に、日本には紹介されていない未訳作品、またミステリとホラーの境界上作品などが取り上げられており、今でも有用なエッセイだと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
怪異十三
やっと「怪異十三」を読了しました。「茂助に関する談合」と「蟇」が一番ゾッとしました。どちらも掌編なのに不気味で忘れられません。茂助の話の元の「幽剣抄」シリーズを読んでいますが凄く面白くて。菊池先生の「妖魔の宴」を家宝にしていましたが、幽剣抄は未読でした。旦那さんの実家には「魔界都市新宿」「吸血鬼ハンターD」シリーズが山をなしているし本当に昔から大人気で、現在も第一線の書き手だなんて凄過ぎます。
【2018/12/13 18:01】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
「茂助に関する談合」は読んだ人の評価が高いですね。菊池さんの大人向け短篇集などは読んだことがあるのですが、時代ものは盲点でした。近い内に読んでみたいと思っています。
【2018/12/13 19:16】 URL | kazuou #- [ 編集]

ありがとうございました
ただ十三といっても、どんな十三編が収録されているのか知りたかったので助かりました。
【2019/07/14 17:45】 URL | Agitation Free #ugTHG0r2 [ 編集]

>Agitation Freeさん
お役に立てたようで良かったです。
【2019/07/14 19:52】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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