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スティーヴンスンの怪奇と冒険
 ロバート・ルイス・スティーヴンスン(1850-1894)は、天性の物語作家ともいうべき人です。テーマやジャンルは異なれど、どの作品でも読者を夢中にさせる物語性が魅力です。怪奇幻想的な要素のある作品を中心に、スティーヴンスン作品をいくつか紹介していきたいと思います。


4488590012ジキル博士とハイド氏 (創元推理文庫)
ロバート・ルイス スティーヴンスン Robert Louis Stevenson
東京創元社 2001-08-22

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『ジキル博士とハイド氏』(夏来健次訳 創元推理文庫)
 アタスン弁護士は、従弟のエンフィールド青年から奇妙な話を聞きます。十字路で、異様な風貌の男が少女を平然と踏みつけたというのです。周りの人間たちとともに賠償金を払うよう要求したエンフィールドは、その男ハイドが、高名な医師ジキル博士の屋敷に入っていくのを目撃します。
 ジキル博士の友人でもあるアタスンは、博士から遺言書を預かっていました。それには博士が死亡または失踪した場合は、その財産をハイドに譲るという内容が書かれていました。ハイドと顔を合わせたアタスンは、言うに言われぬ不快感を感じます。しかし博士はハイドを守るような発言を繰り返すのです…。

 人格者であるジキル博士が、なぜ悪漢ハイドを守ろうとするのか。ハイドに弱みを握られているのではないか?という疑問を軸に、前半は展開していきます。あまりにも有名なテーマの作品なので、ネタは割れた状態で読む人が多いと思いますが、それでも飽きさせずに読ませるのは、作家の筆力でしょうか。
 後半では、ジキルとハイドの関係とその秘密が明かされます。「悪の化身」であるハイドだけでなく、ジキル自身にも悪への渇望があったこと、そして二人の間の境目もまたなくなっていきます。人間の二面性について考えさせられる…という点で、今でも力を失っていない作品でしょう。



4334751393新アラビア夜話 (光文社古典新訳文庫)
ロバート・ルイス スティーヴンスン Robert Louis Stevenson
光文社 2007-09-06

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『新アラビア夜話』(南條竹則訳 光文社古典新訳文庫)

 ボヘミアのフロリゼル王子を主人公とする連作短篇集です。大きく二部に分かれており、それぞれ「自殺クラブ」3篇、「ラージャのダイヤモンド」4篇から構成されています。

「自殺クラブ」
 秘密の組織「自殺クラブ」に潜り込んだフロリゼル王子とジェラルディーン大佐の冒険を描く作品。このクラブでは、この世に未練がなくなった者たちが集まり、ゲームでそれぞれ殺人者と被害者を決めるというのです。
 青年が奇矯な行動をする導入部から、殺人クラブの内実が明かされるクライマックスまで、間然するところのない「クリームタルトを持った若者の話」、純朴な青年が殺人に巻き込まれ死体を運ぶ羽目になるという、サスペンス風の「医者とサラトガトランクの話」、自殺クラブの会長とフロリゼル王子の最後の対決を描く「二輪馬車の冒険」
 二篇目と三篇目は、視点人物が事情を知らない王子以外の人物に設定されているのが特徴で、緊張感たっぷりの巻き込まれ型サスペンスといった趣です。

「ラージャのダイヤモンド」
 トマス・ヴァンデラー卿がインドの藩王から譲り受けたという巨大なダイヤモンドをめぐる作品です。
 ヴァンデラー夫人お気に入りの青年が横領計画に巻き込まれるという「丸箱の話」、ダイヤモンドを拾った若い聖職者がそれを売りさばこうと考える「若い聖職者の話」、実の父親の行方を探す銀行員の青年が犯罪計画に巻き込まれる「緑の日除けがある家の話」、ダイヤモンド盗難の容疑者になってしまったフロリゼル王子を描く「フロリゼル王子と刑事の冒険」の4篇から成っています。
 怪奇味の強い「自殺クラブ」と比べると、純粋な犯罪サスペンスといった要素が強いです。「自殺クラブ」同様、視点人物が王子以外の人物に設定されている短篇が多くなっています。ダイヤモンドをめぐって、登場人物たちの計略が描かれたり、心理が描写されるなど、群像劇といった感じでしょうか。

 全篇を通して、アラビア人が語っている原作を紹介するという体裁になっており、各短篇の最後には「引き」となる語りがはさまれるのが、非常に楽しい趣向になっています。



4003725069マーカイム・壜の小鬼 他五篇 (岩波文庫)
スティーヴンソン 高松 雄一
岩波書店 2011-12-16

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「その夜の宿」
 仲間が起こした殺人に巻き込まれ逃げ出したヴィヨンは、金も盗み取られ、一夜の宿を求めて、ある屋敷で施しを受けることになります。屋敷の主人である老人は、身分のある領主でした。やがて老人とヴィヨンとの間で問答が始まりますが…。
 有名なフランスの詩人フランソワ・ヴィヨンを描く作品です。老人との問答が描かれる後半が読みどころでしょうか。自らの身分と業績を誇る老人に対し、ヴィヨンが示した答えとは…? 諦観に満ちてはいるものの、生きる意志を失わないヴィヨンの姿が魅力的です。

「水車屋のウィル」
 山地で養父母に育てられた少年ウィルは外界への憧れを持ちますが、長じるにしたがって周りの自然を愛し、そこに居を定めることになります。牧師の娘マージョリーに惹かれたウィルは、彼女に結婚を申し込みますが…。
 自然と故郷を愛し多くを求めない自然人を描いた物語…と言えるのでしょうが、主人公のウィルがあまりに達観が過ぎていて、ちょっと怖さを感じるほど。結末では超自然とも思える出来事が起こりますが、これの真実も定かではありません。ユニークな味わいの寓話と言える作品です。

「天の摂理とギター」
 歌や踊りを生業とする芸人夫婦レオンとエルヴィラは、訪れた町の横柄な警察署長が原因で宿を追い出され、持ち物まで盗まれてしまいます。野宿を余儀なくされるかというときに、夫婦はイギリス人の青年スタッブズと出会います…。
 陽気な芸人夫婦の冒険を描いた作品。芸術と人生についてのテーマを扱っています。ロマンティストの夫と現実家の妻の、夫婦のすれ違いと和解を扱った作品でもあります。後味の非常に良い、味わい深い作品です。

「ねじれ首のジャネット」
 牧師のスーリス師は、家政婦として村でも評判の悪い女性ジャネットを雇うことになります。ジャネットは魔女との噂もある女でした。ある時を境に、ジャネットは首をねじまげた異様な状態で動き回るようになりますが…。
 スティーヴンソン怪談の中でも一、二を争う名作。ジャネットは明らかに異様な様子ながら、インテリでもあるスーリス師はそれを素直に認めることができません。やがて恐ろしい事態が起こります…。クライマックスの恐怖感は絶品で、迫力のある作品です。

「マーカイム」
 骨董屋を訪れた男マーカイムは、店の主人を殺し、金目のものを奪おうとしていました。しかし殺害直後、誰もいないはずの店から何者かが歩く音が聞こえます…。
 罪と罰について描かれたシリアスな作品。中から現れた男は一体何者なのか…? 自らの罪と良心に向き合うことになる男を描いた寓意性の強い作品です。テーマの共通性から『ジキル博士とハイド氏』と並んで論じられることもある作品です。

「壜の小鬼」
 ハワイのケアウェという男が、豪華な家に住む男からある取引を持ちかけられます。それは何でも願をかなえてくれる小鬼が入った壜を買ってほしいというものでした。なぜそれを売るのかというケアウェの問いに男は答えます。
 何でも願いが叶うかわりに、その壜を持ったまま死ぬと永遠に地獄の火に焼かれてしまうというのです。そしてもう一つ、その壜を手放したい場合、買った時よりも安い値段で売らなければならないといいます。手持ちのお金で壜を買ったケアウェは、富や家など様々な願いを叶えます。
 友人ロパカに壜を売り、美しい娘コクアとの結婚も間近に迫ったケアウェは、自分が重い疫病にかかっていることに気付きます。病を治すために、再度、壜を手に入れようと考えたケアウェはロパカの行方を探しますが…。
 何でも願いが叶う魔法の壜を扱った作品。後半では夫婦愛と自己犠牲といったテーマも前面に出てきます。

「声たちの島」
 怠惰な男ケオラは、結婚した妻レファの父親カラマケが多くの富を持っているのを不思議に思っていました。カラマケは、ある日ケオラに秘密を明かします。
 カラマケに同行したケオラは、魔術によってある島に移動し、そこで拾った貝殻を銀貨に変えていることを知ります。ケオラは、島に住む住民からは二人の姿は見えず、声だけが聞こえていることに気付きます。欲をかいたケオラはカラマケの魔術により海に放り出されるものの、通りかかった船に拾われます。やがて辿りついた島は、かってカラマケの魔術で訪れた島であることにケオラは気付きますが…。
 「壜の小鬼」と同様、南洋を舞台にしたファンタジー作品です。恐ろしい魔術師の手から逃れるものの、また一難…という、躍動感に満ちたファンタジー小説です。登場する魔法とその効果が風変わりで、一般的な西洋ファンタジーとは違った味わいがあります。



4828830812スティーヴンソン怪奇短篇集 (福武文庫―海外文学シリーズ)
ロバート・ルイス・スティーヴンソン 河田 智雄
福武書店 1988-07-15

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「死骸盗人」(河田智雄訳『スティーヴンソン怪奇短篇集』福武文庫 収録)
※『ポケットマスターピース08 スティーヴンソン』(辻原登編 集英社文庫)にも「死体泥棒」(吉野由起訳)のタイトルで収録。
 「わたし」の地元の飲み仲間であるフェティスは、かっての友人マクファーレン医師に出会ったところ、彼に強烈な罵声を浴びせます。フェティスはその理由を語り始めます。
 かって医学生だったフェティスはマクファーレンとともに、高名な外科医「K-」のもとで働いていました。フェティスは、ある日届けられた解剖用遺体が知り合いの娘だったことから、遺体の出所を怪しみ始めます。殺されたものもいるのではないかという疑いに対し、マクファーレンは知らないふりをしろと言いますが…。
 都市伝説風のテーマを扱った恐怖小説です。実在の事件にヒントを得たと思しく、作中でその件についても言及がされます。スティーヴンソン怪奇小説の中でも最もリアルなタッチの作品でしょう。

「宿なし女」(河田智雄訳『スティーヴンソン怪奇短篇集』福武文庫 収録)
 フィンワールの家に滞在することになった「宿なし女」ソルグンナは、誰も見たことのない装身具や服飾品を持っていました。フィンワールの妻オードは、その品物を欲しがり買い取ろうとしますが、ソルグンナは断ります。
 病との床についたソルグンナは、自分が死んだら品物はオードとその娘アスディスに譲るが、寝具は必ず焼き捨ててほしいと言い残し息絶えます。フィンワールは遺言の通りにしようとしますが、オードはもったいないと言い寝具を焼くのを止めてしまいます。やがて家の者は、ソルグンナの遺体が歩いているのを目撃しますが…。
 アイスランドを舞台にした民話風の怪奇小説。死者の遺言を守らなかったために起きる怪異を描いています。「宿なし女」が突然死ぬ理由も、品物と怪異との関連性も明確に描かれなかったりと、ところどころに不条理な空気の感じられる不気味な作品です。

「トッド・ラプレイクの話」(河田智雄訳『スティーヴンソン怪奇短篇集』福武文庫 収録)
 語り手は、父親が管理人の地位をめぐってライバル関係にある男トッド・ラプレイクの家で彼の姿を目撃し、異様な印象を受けます。はたを織りながらも目は閉じられており、ゆすっても反応もしないのです。
 管理人の地位を奪われたトッドは、父親を脅迫するような言葉を吐きます。ある日、絶壁で海鳥の狩りをしていた父親は、命綱を狙ってつついてくる異様な鳥がいることに気がつきますが…。
 魔術を扱った物語です。謎の男トッドが魔術を駆使しているらしいのですが、魔術の直接的な描写はないところがポイント。あくまで間接的にその影響が描かれているという、非常に技巧的な作品です。
 トッドの初登場シーンから結末に至るまで、その行動がかなり不条理で恐怖感を煽ります。作者の自信作だったというのもうなずけますね。



nezike.jpgねじけジャネット―スティーヴンソン短篇集 (1975年) (ブックスメタモルファス)
スティーヴンソン 河田 智雄
創土社 1975

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「マレトルワ邸の扉」(河田智雄訳『ねじけジャネット』創土社 収録)
 15世紀前半のフランス、他国の軍隊でいっぱいの夜の街で、騎士デニ・デ・ボリョは兵隊に追われ、ある邸に迷い込んでしまいます。しかも仕掛けのあるらしい扉は全く開きません。
 やがて現れた邸の主人マレトルワ公は、デニに出て行くことはおろか、言うことを聞かないと殺すと脅し始めます。その日中に公の姪ブランシと結婚しなければならないというのです。名誉を重んじるデニはその命令を拒否しますが…。
 ロマンティックなサスペンス作品。予定調和的な展開ではありますが、雰囲気は素晴らしく、正統派のロマンスといっていい作品です。



4087610411ポケットマスターピース08 スティーヴンソン (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
ロバート・ルイス スティーヴンソン 辻原 登
集英社 2016-05-20

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「嘘の顛末」(大久保譲訳『ポケットマスターピース08 スティーヴンソン』集英社文庫 収録)
 地主の青年ディックは遊学先のパリで、「提督」とあだ名される元画家のいかさま紳士ヴァン・トロンプと知り合います。帰郷したディックは、ある事件をきっかけに父親と仲たがいをしてしまいます。
 失意のディックは、近くに住む美しい娘エスターと恋仲になりますが、彼女はなんとヴァン・トロンプの娘でした。エスターは父親を立派な画家だと思い込んでおり、ディックは彼女を失望させたくないためにヴァン・トロンプは立派な画家だという「嘘」を話してしまいます。
 そこへ突然帰郷してきたヴァン・トロンプの実際の姿を見たエスターは、ディックに対してつれない態度を見せるようになりますが…。
 恋人と親子のすれちがいをテーマにしたラブコメディ作品です。ディックとエスターの、それぞれの父親との確執、そしてそれが元になった恋人同士のすれ違い、それぞれが善意で動いているにもかかわらず誤解が発生してしまうのです。
短い中にも多くのドラマの要素が盛り込まれており、本当に上手いの一言。実際に作家自身が、結婚を反対されてアメリカ行きの最中に書かれたという事実と考え合わせると、さらに味わいが増しますね。

「ある古謡」(中和彩子訳『ポケットマスターピース08 スティーヴンソン』集英社文庫 収録)
 厳しいながらも愛情に満ちたフォークナー中佐は、二人の甥ジョンとマルカムを引き取って育てることになります。中佐は年長のジョンを財産の相続人と決めていました。
 幼馴染のメアリーとも結婚を約束していたジョンでしたが、ある日マルコムから自分もメアリーを愛しているという話を聞き、ジョンは自分は身を引く決心をします。わざと中佐に自分のだらしのない姿を見せ、勘当させようと考えるジョンでしたが…。
 兄弟間の確執とその運命を描いた作品です。解説にもありますが、兄弟間の確執を描いた『バラントレーの若殿』にも通じるところのあるテーマを持った作品です。ただこちらの短篇では、兄弟ともにそれほど強い個性を感じさせないキャラクターになっているところがまた味わいでしょうか。

「メリー・メン」(中和彩子訳『ポケットマスターピース08 スティーヴンソン』集英社文庫 収録)
 語り手の「わたし」は、おじのゴードンが住むアロスという土地に身を寄せます。そこは「メリー・メン」と呼ばれる巨大な砕け波で有名な土地であり、過去に財宝を積んだ船が多数沈んだという伝説もありました。
 ある日、おじは難破船から拾ったという品物を持ち帰りますが、「わたし」は彼が不当な手段で品物を手に入れたのではないかと疑います。一方、見知らぬ人間たちが財宝を手に入れようと調査をしているらしいことを「わたし」は知りますが…。
 自然環境の厳しい土地が舞台の作品で、登場人物たちの情念も暗く描かれるという、ゴシック風宝探し小説です。財宝の話よりも、それをめぐる登場人物たちの葛藤や罪の意識などに重点が置かれているというユニークな作品。

「ファレサーの浜」(中和彩子訳『ポケットマスターピース08 スティーヴンソン』集英社文庫 収録)
 イギリス人男性ウィルトシャーは、ファレサーという土地に駐在することになります。現地社会で顔がきくという白人の商人ケースは何くれとなく世話を焼き、現地の娘ウマとの結婚まで仲介してくれます。
しかし徐々にケースの黒い噂を聞くことになったウィルトシャーは、ケースに対して不審の念を抱き始めます。やがて過去にウマにちょっかいをかけていたことを知ったウィルトシャーは怒りを覚えますが…。
 南洋の風俗がみっちりと描かれた作品で、非常に雰囲気がありますね。主人公がかなり熱血漢という設定です。この作品を読んでいたらしい夏目漱石の『坊つちやん』との類似性を指摘した研究もあるようで、確かに主人公の人物像には似た点が感じられるように思います。



4861102987クリス・ボルディック選 ゴシック短編小説集
クリス・ボルディック
春風社 2012-02-15

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「オララ」(金谷益道訳 クリス・ボルディック選『ゴシック短編小説集』春風社 収録)
 療養のため、ある没落貴族の館の一室を借りることになった「私」は、そこで美しい容姿を持ちながらも、近親結婚の繰り返しにより狂気に囚われた母親とその子供たちと出会います。日常の家事は、知的な問題を抱えた息子フェリペが行っていました。
 母親は一日をほとんど寝て過ごしており、姉娘オララに至っては全く姿を見せません。ようやくオララに会えた「私」は、彼女の美しさと聡明さに感銘を受け、恋をしてしまいます。彼女もまた「私」に思いを寄せているといいながらも、なぜか「私」にこの場所を立ち去れというのです…。
 古い広壮な館、滅びゆく貴族、呪われた一族の血…。暗い情念に彩られたゴシック風奇談といっていい作品です。タイトルにもなっているヒロイン、オララよりも彼女の母親の不気味さが印象に残ります。吸血鬼小説のバリエーションでもあり、非常に迫力のある作品です。



B000J8U0XA寓話 (1976年)
スティーヴンスン 枝村 吉三
牧神社 1976-10

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ロバート・ルイス・スティーヴンスン『寓話』(枝村吉三訳 牧神社)
 ブラックユーモアに満ちた掌編を集めた作品集です。「寓話」とはいいつつも、明確な教訓があるものは少なく、象徴性の高い作品が多くなっています。
 沈没寸前の船員たちの悠々とした様子を描く「沈みかけた船」 、マッチをすったことで起こる結果を大げさに想像するという「二本のマッチ」 、絶大な効果があるという塗り薬を塗った男を描く「黄色い塗り薬」 などは、風刺の効いたショート・ショートといった感じで楽しめる作品ですね。
 掌編といっていい長さの作品が大部分ですが、中にはいくつか長めの作品があって「試金石」「みすぼらしいもの」「エルドの家」 などは、短篇といってもいい作品です。「試金石」は、王女と結婚するための条件として提示された「試金石」を探して旅をする男の物語です。
 「みすぼらしいもの」は、貧乏な男が「みすぼらしいもの」に導かれて幸福を手に入れるという物語です。「試金石」「みすぼらしいもの」、これらの二つは童話としても優れた作品だと思います。
 集中で、いちばん読み応えがあるのは「エルドの家」でしょうか。民がみな足枷をつけている国に住む少年ジャックは、その境遇に不満を持っていました。旅人から、足枷は「エルドの森」に住む魔法使いが作ったものだという話を聞いたジャックは、神が鍛えたという剣を手に「エルドの森」に向かいます…。
 怪奇幻想色の濃いヒロイックファンタジーといった趣の作品で、味わいとしてはダンセイニの「サクノスを除いては破るあたわざる堅砦」などに似た感触です。ただ、かなりブラックな結末が待っており、不思議な味わいの短篇ですね。
 全訳は絶版のようですが、集英社文庫の《ポケットマスターピース08 スティーヴンソン》に、抄訳として『寓話』のいくつかが収録されています。



B000J74UGOドイツ・ロマン派全集〈第5巻〉フケー…シャミッソー (1983年)
国書刊行会 1983-12

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フリードリヒ・ド・ラ・モット・フケー「地獄の小鬼の物語」(深見茂訳『ドイツ・ロマン派全集5』国書刊行会 収録)

 ドイツ・ロマン派の作家、フリードリヒ・ド・ラ・モット・フケー(1777-1843)の短篇「地獄の小鬼の物語」は、スティーヴンスン「壜の小鬼」と非常によく似たモチーフを扱っています。ストーリーは以下のようなもの。

 ドイツの若き商人ライヒァルトは、ヴェニスでイスパニアの大尉と知り合い、彼から何でも願いを叶えてくれる黒い小悪魔の入った瓶を買い取ります。ただし瓶を売る際には、自分が買ったときよりも安い値段で手放さなければならないのです。
 ライヒァルトはお金をけちり、大尉が提示した額よりもずっと安い値段で瓶を買い取ってしまいます。馴染みの娼婦ルクレチアとともに豪奢の限りを尽くすライヒァルトでしたが、自堕落な生活ゆえか、病気にかかってしまいます。しかも瓶には、病気を治すことはできないようなのです。
 主治医を騙して瓶を買わせることに成功したライヒァルトは、再度医者から騙されて瓶を買い戻してしまいます。薄情なルクレチアに売りつけるも再び手元に戻ってきてしまった瓶をかかえてライヒァルトはローマに向かいますが…。

 「壜の小鬼」と非常によく似たモチーフを扱った作品で、瓶(壜)の小鬼というアイテムはほぼ一緒です。それを手に入れた主人公が、アイテムを手放すためにいろいろな行動をする…というのも一緒なのですが、作品の背景やその内包するテーマは大分異なっています。
 フケー作品の方では、主人公がかなり欲深で快楽主義者に設定されており、結末に至るまでほとんど精神的に「成長」しないところがポイントです。主人公の行動が行き当たりばったりで、突然ローマに行ったり、軍隊に入ったり、敵に寝返ったりと、ほぼ考え無しで行動します。
 人々の間の瓶のやりとりも激しく、スティーヴンスン作品に比べ、瓶が主人公の元に戻ってくる回数が激しいです。そこで恐れおののくよりも、とりあえず快楽をほしいままにしようとする主人公の態度がある種潔いですね。
 瓶(壜)の特性もちょっと異なっていて、スティーヴンスン作品では病を治したりと「何でも」叶うようなのですが、フケー作品では基本的に物質的な富に限られるようです。
 『ドイツ・ロマン派全集』の解説によれば、この壜(瓶)の小鬼のモチーフは、ドイツ起源の伝承だそうです。フケー作品の直接の参照元はおそらくグリンメルスハウゼンの『肝っ玉姐さんクラーシェ』とのこと。スティーヴンソンの方は、イギリスの芝居から着想したという自身の言葉があるそうです。
 アルベルト・ルートヴィヒという研究者によると、フケーの作品が、芝居化された作品などによって間接的にスティーヴンスンに伝わったのではないかという推論を立てているそうです。ちなみにフケー作品は1810年、スティーヴンスン作品は1891年と、書かれた年代にはかなりの差があります。
 ちなみに、フリードリヒ・ド・ラ・モット・フケー(1777-1843)は、ドイツ・ロマン派の詩人・作家。長編メルヘン『水の精(ウンディーネ)』(識名章喜訳 光文社古典新訳文庫)で有名な人です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「マーカイム・瓶の小鬼」を読みました。
 「瓶の小鬼」ですが、こういう「願いは叶えてくれるけど、ルールと代償がある」ものは大好きです。この手の話にしては、ブラックな描写が少なく上品だと感じました。登場人物に普通の人が多かったからでしょうか。 後半の展開が少し「賢者の贈り物」っぽかったのでどうなるかと思いましたが、なかなかラストもひねりが効いていて良かったと思います。

 ハワイが舞台の2作は、いわゆる「文明国」でも「未開の地」でもない雰囲気が良かったです。作者は白人なのに、現地の人を主人公にしている点も面白いと思いました。
【2018/09/22 13:49】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
スティーヴンスンは基本ヒューマニズムの人で、ブラック風の題材でもブラックになりきらないので、読後感が非常に良いのですよね。あと、「賢者の贈り物」は僕もそれっぽいなと思いました。

スティーヴンスンは、いわゆる「帝国主義」時代の作家ではありますが、他人種に対する偏見などが少なく視線が公平なのも、今でも読まれる理由の一つかもしれません。エキゾチックな要素もあって、彼の「南海もの」はどれも面白いですよ。
【2018/09/22 19:46】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
twitterアカウントは@kimyonasekai



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