FC2ブログ
幻想文学関連の評論・ノンフィクションから
 最近読んだ、幻想文学関連の評論・ノンフィクションからいくつか紹介していきたいと思います。


gennsounobigaku.jpg幻想の美学 (文庫クセジュ 310)
ルイ・ヴァックス 窪田 般彌
白水社 1961-10

by G-Tools

ルイ・ヴァックス『幻想の美学』(窪田般彌訳 文庫クセジュ)

 海外の幻想文学について紹介した本です。原著が1960年、翻訳が1961年と古い本ですが、非常に要領よくまとめられていて、今でも参考になる本だと思います。面白いのは文学の分野だけでなく、幻想的な美術分野についても紹介されているところ。
 ボッシュ、ブリューゲル、アルチンボルド、デジデリオ、ゴヤ、モロー、ルドン、現代に近いところでは、アンソール、ロップス、レオノール・フィニ、ダリ、デルヴォーなどが紹介されています。画像は全くなく、文章だけの本なのが残念ですが。

 さて、幻想文学の章では、各国の代表的な幻想作家と作品が紹介されています。ドイツは、ルートヴィヒ・ティーク、アヒム・フォン・アルニム、ホフマン、シュトルム、カフカ。フランスは、ジャック・カゾット、ドールヴィイ、ノディエ、バルザック、メリメ、モーパッサンなど。
 英米はさすがに多いです。ウォルポール、ラドクリフ、M・G・ルイス、スコット、ポオ、レ・ファニュ、ヘンリー・ジェイムズ、スティーヴンスン、M・R・ジェイムズ、ブラックウッド、ラヴクラフトなど。記述もこの部分が一番詳細ですね。
 その他の国では、ヤン・ポトツキ、ゴーゴリ、アレクセイ・トルストイ、コルタサル、ボルヘスなど。著者がフランス人だけに、フランス作品にも結構な記述が割かれています。

 面白いと思ったのは「M・R・ジェイムズがメリメに近いように、レ・ファニュはモーパッサンに近い。一方の二人は病人で、その不安を告白しているのに対し、他方の二人は芸術家で、冷静に恐ろしい物語を生み出すのだ。」という箇所ですね。
 レ・ファニュとモーパッサン、全然比較したこともない組み合わせの作家なのですが、確かに考えると共通点があるような気もします。これは非英米の人ならではの視点というべきでしょうか。



kyouhusyousetusi.jpg

エディス・バークヘッド『恐怖小説史』(富山太佳夫ほか訳 牧神社)

 「恐怖小説史」とはいうものの、原著が1921年刊行ということもあり、新しい時代(原著刊行時)の作品にはあまり触れられません。18世紀末~19世紀初頭の作品が中心です。
 ウォルポール『オトラント城』に始まり、アン・ラドクリフ、M・G・ルイス、マチューリン、ベックフォード、ウィリアム・ゴドウィン、ウォルター・スコット、メアリ・シェリーなどが主に論じられていきます。特にラドクリフはかなり詳しく紹介されていますね。M・G・ルイスやマチューリンの未訳作品についても多く触れられているほか、日本ではあまり知名度のない、ネイサン・ドレイク、イートン・スタナード・バレット、レジーナ・マリア・ローシュといった作家の珍しい作品についても言及されており、参考になります。
 本の8割方がイギリスの作品で占められていますが「アメリカの恐怖小説」という章では、C・B・ブラウン、ワシントン・アーヴィング、ホーソーン、ポオらについても触れられています。この章の中心はホーソーンでしょうか。

 全体にかなりよくまとめられている本です。主要作品のあらすじも詳しく、ブックガイドとしても読めます。その作家や作品が誰に影響を受けている…といった影響関係がこまめに書かれているのが参考になります。それだけに、新しい時代の作品にまで筆が及んでいないのが残念ですね。
 レ・ファニュ、ブラックウッド、E・F・ベンスンといった近代怪奇小説の「大物」は、結びで少し触れられるぐらいでしょうか。



433604080X異形のテクスト―英国ロマンティック・ノヴェルの系譜
横山 茂雄
国書刊行会 1998-07-01

by G-Tools

横山茂雄『異形のテクスト 英国ロマンティック・ノヴェルの系譜』(国書刊行会)

 18世紀末から19世紀にかけて書かれたイギリスの「ロマンティック・ノヴェル」について論じた本です。
 主に取り上げられている作品は、ウィリアム・ゴドウィン『サン・レオン』、メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』、エミリー・ブロンテ『嵐が丘』、ジェイムズ・ホッグの『義とされた罪人の手記と告白』(『悪の誘惑』)、シャーロッテ・ブロンテ『ヴィレット』です。
 リアリズムを旨とする「ノヴェル」に対する存在として「ロマンティック・ノヴェル」という概念が置かれています。「ゴシック的」な要素がある作品にもかかわらず「ゴシック・ロマンス」という言葉を使わないのは、年代的にも「ゴシック・ロマンス」が終焉した時代の作品も含む概念だからだそうです。
 それぞれの章で一つづつ作品を取り上げ論じています。特に面白いと思ったのは、ゴドウィン『サン・レオン』、シェリー『フランケンシュタイン』、ホッグ『義とされた罪人の手記と告白』の章。『フランケンシュタイン』には『サン・レオン』の影響が強い…というのも初めて知りました。

 イギリスで起きたゴシック小説ブームの直接の火元はアン・ラドクリフであって、ホレス・ウォルポール『オトラント城』ではなかったというのもなるほどという感じでした(もちろんウォルポール作品が嚆矢ではあります)。
 アン・ラドクリフの作品は、最終的に超自然現象が合理的に説明されるという「解明される超自然」を旨としています。本当の「超自然小説」ではないところが、リアリズム信奉が強かった当時のイギリスで彼女の作品がヒットした理由ではないか、というのは目から鱗でした。
 確かに「ゴシック小説」の中には「解明される超自然」型の小説が結構あるのですよね。ただそれらも「恐怖」がメインテーマではあるので、「超自然小説」ではないかもしれないけれど「怪奇小説」ではあります。
 時代はちょっと下りますが、レ・ファニュやウィルキー・コリンズの一部のスリラー作品は「解明される超自然」が洗練されたタイプの作品なのではないかなあ、と考えたりもしました。



4562054727怖い女
沖田瑞穂
原書房 2018-01-29

by G-Tools

沖田瑞穂『怖い女 怪談、ホラー、都市伝説の女の神話学』(原書房)

 「怖い女」「怖い女神」の系譜を語った本です。各国の神話だけでなく、都市伝説、ホラー映画、コミック、小説などを題材に、現代にもそのモチーフが受け継がれているといいます。
 具体的には、神話そのものの他に、『リング』や『呪怨』などのホラー映画、三津田信三、貴志祐介などのホラー小説、美内すずえや山岸凉子などのホラー漫画、「ひきこさん」「テケテケ」といった都市伝説なども取り上げられています。
 各章は「怖い女」のいろいろな特徴や側面を語っていて、それぞれ興味深いのですが、「口裂け女」の系譜を語った第一章「口裂け女」と、神話の「パンドラの箱」、都市伝説の「コトリバコ」、京極夏彦『魍魎の匣』などをめぐって展開される第四章「怖い箱」は特にユニークな試みだと思いました。



4044003491人は「死後の世界」をどう考えてきたか
中村 圭志
KADOKAWA 2018-03-22

by G-Tools

中村圭志『人は「死後の世界」をどう考えてきたか』(KADOKAWA)

 「死後の世界」について、さまざまな宗教や神話からの考え方をまとめた本です。その範囲はギリシャ・ローマ、オリエント、キリスト教、ヒンドゥー教、仏教、イスラム教など、非常に幅広いです。
 ギリシャの「地獄」には懲罰的な要素がないとか、仏教の「地獄」とキリスト教の「煉獄」の概念は近いとか、はっとするような考え方がいろいろと出てきて参考になります。
 キリスト教の「煉獄」と「地獄」の概念がいまいち理解できなかったのですが、この本でようやく得心がいった感じです。キリスト教の「地獄」は救いの可能性がまったくない世界で、対して「煉獄」はそこでの過ごし方によって救われる可能性がある世界なのですよね。
 仏教の「地獄」は膨大な懲罰の時間を強制される世界ではあるのですが、救済の可能性は残されています。なので、仏教における「地獄」に対応するのは、キリスト教における「地獄」ではなく「煉獄」だ、との意見にはなるほどと思いました。

 死後の世界を紹介した本とか、各国の天国・地獄の概念を紹介した本とか、この手のジャンルの本を何冊か読んでみましたが、この本ほどわかりやすいものはなかったです。単なるカタログ形式のガイドではなくて、それぞれの死後に対する考え方の比較や意味などについても触れられています。
 現代編では、C・S・ルイス、トーベ・ヤンソン、ミヒャエル・エンデ、新海誠の作品に現れる死生観などにも触れられています。ファンタジーや幻想小説好きの人にとっても、参考になる本だと思います。



4309253849とんでもない死に方の科学: もし○○したら、あなたはこう死ぬ
コーディー・キャシディー ポール・ドハティー 梶山あゆみ
河出書房新社 2018-06-07

by G-Tools

コーディー・キャシディー、ポール・ドハティー『とんでもない死に方の科学』(梶山あゆみ訳 河出書房新社)

 いろんな人間の死に方のシチュエーションを「科学的」に検討するという、不謹慎ながらも興味深い本です。
「雷に打たれたら」とか「旅客機の窓が割れたら」とか、あり得そうなシチュエーションはもちろん、「バナナの皮を踏んだら」「無数の蚊に刺されつづけたら」などの冗談のような項目もあります。そうした冗談のような話題でも、科学的に大真面目に検討する姿勢が非常に楽しいです。
 笑える部分だけでなく、非常に参考になる部分もたくさんあります。「粒子加速器に手を突っ込んだら」「本物の人間大砲となって打ち出されたら」などでは、どのように人体に悪影響があり、どういう最期を迎えるのか、詳しく描写されていて、背筋が寒くなってしまいますね。

 一番興味深く読んだのは「乗っているエレベーターのケーブルが切れたら」の項目。どのようにしたら助かる可能性があるのか? という部分がすごく面白いです。75階分落下して生還した人がいるとか。これまた冗談のようなのですが、加速の衝撃をいちばん和らげる姿勢は「仰向け」らしいです。
 一項目あたり、5~6ページでさらっと読めるので、興味のある項目だけ拾い読みしても楽しいです。タイトルだけ見るとちょっと扇情的ですが、ためになる科学エッセイとしてお薦めしたい本です。



4781601200死なないための智恵
上野 正彦
イースト・プレス 2009-03-01

by G-Tools

上野正彦『死なないための智恵』(イースト・プレス)

 『とんでもない死に方の科学』とはアプローチは全く異なるのですが、法医学者、上野正彦さんのこの本も面白いので、ついでに紹介しておきたいと思います。
 こちらは、主として犯罪に巻き込まれたときに死なないためにはどうしたらいいか? というハウツーをまとめた本です。
 犯人に刃物で襲われたときの対応とか、実際に刺されてしまったときにどうしたらいいのか? とか、すごく実用的な知識がつまっています。片刃と両刃で刺されたときの傷口の違いの図解が載っているのは、この本ぐらいじゃないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
とんでもない死に方の科学
 丁度先月読んだ所です。
 自分が一番気を付けようと思ったのは、「クッキーの食べ過ぎ」ですね。

 樽詰めでナイアガラの滝から落下した人達の死因トップが「落下の衝撃」ではなく「落下後に滝つぼから浮かび上がれない」だったのは…当人の気持ちを考えるとちょっと切ないですね。
そして生還後にまさかバナナの皮で…

 昔何かの本で読んだんですが、日本でも「清水の舞台から本当に飛び降りた人」が結構いたそうです。意外と生還率が高かったとか。
【2018/08/16 09:40】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
常識的に考えると助からないようだけれど実は…というパターンもありますね。逆もしかりですが。
この手の、科学的に緻密に考えていくと冗談みたいな結末が導き出される…というタイプのノンフィクションは個人的に大好きです。
【2018/08/16 20:11】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/822-2bf81b29
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
twitterアカウントは@kimyonasekai



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する