ブックガイド・ガイドブック -ブック・ガイドの愉しみ1 ミステリ編-
夜明けの睡魔―海外ミステリの新しい波 夢想の研究―活字と映像の想像力 怪奇幻想ミステリ150選―ロジカル・ナイトメア ミステリー倶楽部へ行こう 水面の星座 水底の宝石 バカミスの世界―史上空前のミステリガイド 江戸川乱歩全集 第26巻 幻影城

 どんな本を読んだらいいの? どんな本が面白いの? という人のためにあるブックガイド。とはいっても、世の中にはブックガイドだけでも、たくさんの数があるのです。そもそも、どのブックガイドが有用なのか、ブックガイドのブックガイドまで必要なぐらい。そこで僕がお世話になったブックガイドのいくつかを紹介しましょう。

 とりあえず、今回はミステリ畑から。
 筆頭にあげられるのは、やはり瀬戸川猛資の著作です。『夜明けの睡魔』(創元ライブラリ)は、本格ミステリから奇妙な味まで、さまざまなジャンルのミステリの魅力を語った本。一つ一つの記述は短いながらも、要点を得た解説は見事です。
 同じく瀬戸川の『夢想の研究』(創元ライブラリ)は、ミステリに限らず小説や映画について考察したエッセイ。欧米の小説に出てくる悪魔像や、破滅SFについての章などもあって、その縦横無尽な切り口は、才気を感じさせます。
 植草甚一の『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』(晶文社)は、かって創元社から出ていた〈クライム・クラブ〉シリーズの解説を始め、著者が惚れ込んだ作品について語ったエッセイです。邦訳が出たものの、絶版であるとか、そもそも邦訳がないもの、どっちにしても手に入らない作品についてのエッセイが多いのが難点ですが、柔らかい話し言葉のような文体に、はまる人もいるはず。紹介文であるという以上に、著者の話芸、といった要素が強いです。
 本来合理的であるはずのミステリの、とくに幻想的な要素の強いものを集めるというユニークな切り口なのが、千街昌之『怪奇幻想ミステリ150選』(原書房)。国内ものと海外ものとのバランスのとれた構成です。カーの『火刑法廷』に代表されるようなミステリとホラーの境界線上の作品が多いようです。
 同著者の『水面の星座 水底の宝石』(光文社)は、ミステリに関する評論集。個々の作品を語るのではなく〈名探偵〉〈偶然〉〈見立て〉〈語り手〉など、ミステリの要素について考察を深めた独創的な評論です。
 山口雅也『ミステリー倶楽部へ行こう』(講談社文庫)は、珍しい作品についての宝庫です。忘れられたミステリの面白さを語る『プレイバック』コーナーや、ミステリに関する蘊蓄など、すれっからしのミステリファンにも楽しめる構成になっています。
 初心者やミステリ入門者のための指針となる本としては『ミステリ絶対名作201』『ミステリベスト201』(どちらも瀬戸川猛資編 新書館)がオススメです。『ミステリ絶対名作201』は、本格やサスペンス、ハードボイルドなどミステリの各ジャンルの、誰もが認める名作をセレクションした解説書。
 対して『ミステリベスト201』はその現代編ですが、多様化した作品群を反映してか、ジャンル分けをせず、面白さのランクで分けているのが面白いところ。
 『バカミスの世界』(小山正とバカミステリーズ編 B・S・P)は、ディクスン・カーの諸作を始め、馬鹿馬鹿しいミステリ、通称「バカミス」を集めたもの。オーソドックスなミステリに飽きた人向けです。
 『深夜の散歩』(ハヤカワ文庫JA)は、福永武彦、中村真一郎、丸谷才一がそれぞれミステリについて語ったエッセイ集。いかにも好きで語っているという、ファン気質が感じられる語り口が心地よい一冊。
 小鷹信光『パパイラスの舟』(早川書房)は、基本的にはハードボイルドの記述が多いのですが、ミステリ短篇について触れた章もいくつかあり、読み応えがあります。とくに「中古帆船暴走中!」と題された章は、リチャード・マシスン論の力作です。
 松村喜雄『怪盗対名探偵』(晶文社)は、著者専門のフランス・ミステリについて語ったエッセイ集。デュマやヴェルヌ、ボアゴベなどフランス・ミステリ成立以前から説き起こし、ルブラン、ルルー、シムノンなどの大家まで、通史としてもしっかりとしています。またカミ、シュオッブ、ルヴェルなど忘れられかけている短編作家にもしっかりとページを割いており、これ一冊でフランス・ミステリを鳥瞰できる得難い本です。
 阿刀田高『恐怖コレクション』(新潮文庫)は、作者の恐怖の原体験を語るというエッセイ集ですが、ジョン・コリア、ロアルド・ダール、ヘンリイ・スレッサー、ロバート・ブロックなど異色作家の作品への言及が非常に多く、ブックガイドとしても重宝します。
 そうそう忘れていました。このジャンルでは外せない江戸川乱歩『幻影城』(光文社文庫)。今となってはいささか古い感があるものの、いまだ影響力を持ち続ける力作評論集です。怪談の面白さを語った『怪談入門』など、ジャンル外の読者にも楽しめるエッセイが収録されているので、ぜひどうぞ。
 あとは、森英俊編の分厚い辞典『ミステリ作家事典 本格派編』と同じく『ハードボイルド・警察小説・サスペンス篇』があります。情報量はすさまじいものですが、かなり入れ込んだファン向けでしょう。個人的には異色作家に割かれたページが少ないのに不満を覚えます。
 ジャンル小説としては、とびぬけてファン数が多いものか、ミステリに関するエッセイ・評論というのは数多くあります。とりあえずこのぐらいで。次回はSF編を予定しています。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

こう見てみるとたくさんありますよね。
インターネットが無かった時代、地方に住んでいる身としてはガイドブックが唯一の情報源でしたからある意味バイブルと化していました。「深夜の散歩」はボロボロになるくらい何度も繰り返し読みましたよ。
最近はこの手の本をよんでもワクワクしなくなってしまったのが寂しいです。
【2006/05/01 17:02】 URL | Takeman #- [ 編集]

そうですねえ
たしかに。インターネットが普及する前は、こうしたリファレンス本は貴重でしたからね。
コレクター趣味といっていいのか、こうした本を見かけると、今でもすぐ購入してしまいます。『深夜の散歩』もいい本でしたが、僕としてはやはり『雨降りだからミステリーでも勉強しよう』でしょうか。この本で紹介されていて、たぶん一生読めないと思っていた作品が、今頃になって、ぽつぽつと訳されてして驚いています。
【2006/05/01 19:02】 URL | kazuou #- [ 編集]


私の座右の書は、昨年決定版が出た間羊太郎著「ミステリ百科事典」(文春文庫)です。こいつの現代教養文庫版を学生時代に読んだのが、ミステリにハマるきっかけでした(スレッサーの面白さを知ったのもこの本のおかげです)。
この本で紹介されていた、小酒井不木、小沼丹、M・ルヴェルなどが、近年復刊された時はとてもうれしかったです。
【2006/05/01 19:44】 URL | げし #ItxbjV56 [ 編集]

ミステリ百科事典
おお『ミステリ百科事典』! そういえば触れるのを忘れていました。
一時期は、僕も教養文庫版を持ち歩いていて、ぼろぼろになってしまったので、買い換えた覚えがあります。文春文庫の増補版も、もちろん購入しました。ミステリ関係のリファレンスというと、やたらと本格重視なのが多いんですが、これはいわゆる「変格」、異色短篇などにも、けっこうページを割いていてユニークでした。何よりテーマ別というのが、かなり斬新でしたね。
それにしても、ルヴェルが復刊されるとは思いませんでした。創土社版『ルヴェル傑作集』を目の飛び出るような値で買ったのが悔しいです。しかも乱丁でしたからね。
【2006/05/01 20:09】 URL | kazuou #- [ 編集]


千街晶之の「水面の星座 水底の宝石」は「ジャーロ」で連載されてたやつですよね?
批評文を読むのは結構好きなのですが、「ここから先は犯人とトリックに言及しますので未読の方は注意」的な文がミステリ評論の場合書かれていて、「おっ!読んでないから読まないでおこう」と敬遠してしまいます。
私は個々の作品がどうのこうのというより、テーマ(設定)で分類・評論されたものがどちらかというと好きです。
【2006/05/01 23:19】 URL | 加納ソルト #- [ 編集]

『水面の星座 水底の宝石』は…
そうです、『水面の星座 水底の宝石』は『ジャーロ』連載のやつですね。たしかにこれから先トリックをばらします、ってのが多いんですが、僕はかまわず読んじゃいました。どうせ作品を読むころには、忘れてると思うので。
私見では『水面の星座 水底の宝石』は、僕が今まで読んだミステリ評論の中ではピカイチの出来です。そうだよ、こういうのが読みたかったんだよ!というようなツボにはまった評論でした。ある程度ミステリを読んでないと面白くないかもしれませんが、あの明晰さは素晴らしい! これはオススメですよ。
テーマ別の本がお好きなら、上の方のコメントで挙げられている間羊太郎『ミステリ百科事典』(文春文庫)がいいですよ。評論というよりは、あらすじ紹介に近いのですが、類書がないだけに貴重な本です。
【2006/05/01 23:34】 URL | kazuou #- [ 編集]


kazuouさんの紹介記事といい、皆さんのコメントといい、とても参考になりました。
早速Amazonでどれか購入してみようと思います。どれも面白そうなので迷ってしまいますが…(^.^;)
【2006/05/02 23:23】 URL | そら #- [ 編集]

おすすめは…
さりげなく絶版の本がまじってるので、安易にオススメとはいえないんですが…(すみません)。
手に入る本としていくつか挙げさせてもらいますね。
これからいろんなミステリを読んでいこうというときには間違いなく『ミステリ絶対名作201』『ミステリベスト201』です。『ミステリー倶楽部へ行こう』は読み物としても面白いので、これもいいですね。
あとミステリというよりは異色短篇の方に興味があれば、阿刀田高『恐怖コレクション』が一番のオススメ。『ミステリ百科事典』もテーマ別に短篇がたくさん紹介されているのでいいですよ。ちなみにこの『ミステリ百科事典』は、以前、お訊ねのあった『新パパイラスの舟』に一番近い感じの本です。
【2006/05/02 23:35】 URL | kazuou #- [ 編集]


ブック・ガイドは最近あまり購入しませんが、気になるので書店で見かけると目を通してしまいます。瀬戸川さんのブック・ガイドには本当にお世話になりました。
【2006/05/03 21:52】 URL | てん一 #- [ 編集]

瀬戸川猛資
そうですか。僕はガイド本とかリファレンス本のファンです。もしかしたら、実際の作品に目を通すよりも、こうした本を見ている方が好きかも知れないぐらいですね。
とくに、瀬戸川猛資の著書は、僕の座右の書となっています。一番影響を受けたのは『夢想の研究』でしょうか。とにかく新しいテーマや分野に興味を開かせてくれた、という意味で感慨深い本ですね。
【2006/05/03 22:11】 URL | kazuou #- [ 編集]


バカミスのガイドブックってあるんですねー。『このミステリーがすごい!』を読んで初めてこの言葉を知ったのですが、結構好きな分野かも。意外に普段読んでた本がこのバカミスに分類されてたりして・・・(笑)。

ブックガイドって自分が興味ある著者の情報を知ったり、新たな分野への開拓が出来ていいもんですね。というよりガイドブックだけでもう既に読んだ気分になって楽しかったり、今度はこの本を読んでみようという気になります。これがブックガイドへの第一歩を踏み出したって感じでしょうか(笑)。
【2006/12/18 23:21】 URL | TKAT #- [ 編集]

いろいろあります
「バカミス」という分類は、日本独自のものだと思いますが(笑)、内容としてはけっこう、よくあるものですよね。ディクスン・カーなんかは、大真面目にやってるんだけど、それが馬鹿らしく見える…というパターンなんだと思いますけど、はじめから冗談としてやってる作品もあるところが、面白いですね。
いろいろなジャンルの作品を知れば、間口も広がるし、ある作品の位置づけや面白さもわかってくるようになります。そういう意味で、ブックガイドは便利かもしれません。
【2006/12/19 06:44】 URL | kazuou #- [ 編集]


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ミステリー倶楽部へ行こう(山口 雅也/著)

書籍として世に出ている山口雅也氏の著作はほとんど読んでしまい、残すとこ… 活字中毒のブックレビュー【2007/06/13 16:51】

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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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