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4336062463夢のウラド: F・マクラウド/W・シャープ幻想小説集
フィオナ マクラウド Fiona Macleod
国書刊行会 2018-02-27

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フィオナ・マクラウド/ウィリアム・シャープ『夢のウラド』(中野善夫訳 国書刊行会)

 スコットランドの作家ウィリアム・シャープの本名名義の作品と、彼が女性名フィオナ・マクラウド名義で発表した作品、それぞれの作品を収録した作品集です。
 マクラウド名義の作品は、全体に「死」の香りが強く、形容するなら「昏い」「夢幻的な」ファンタジーでした。知識を持つ賢者も、全能の王も、みな等しく死の世界へ消えてゆく…といった感が強いです。
 ちょっと意外だったのは、シャープ名義の作品。マクラウド作品と同様「昏さ」はあるのですが、マクラウド名義よりも「地上的」で人間味のある作品が多いのです。巻末の「〈澱み〉のマッジ」「ヴェネツィア舟歌」は殊にその要素が強いです。
 「〈澱み〉のマッジ」は、貧困と暴力に囲まれて育った娘が、「宿敵」である男性と恋人になるが…という話。「ヴェネツィア舟歌」は兵役で別れ別れになった恋人たちが引き裂かれそうになる…という作品です。
 「地上的」な題材とはいえ、「〈澱み〉のマッジ」の結末において、やはり「死の世界」が現れるところは、マクラウド的といっていいのでしょうか。
 ちなみに、マクラウド名義の作品では、作中で他の作品が言及されることが多く、ゆるやかに世界観がつながっているようです。



jimboo.jpgジンボー (1979年) (妖精文庫)
アルジャナン・ブラックウッド 北村 太郎
月刊ペン社 1979-10

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アルジャナン・ブラックウッド『ジンボー』(北村太郎訳 月刊ペン社)

 想像力豊かな少年ジンボーは、家庭教師としてやってきたミス・レークの言葉によって、古くから地所の端にあった「空屋」に対する恐怖をうえつけられてしまいます。事故で気を失ったジンボーが気がつくと、たくさんの子供たちと一緒に室内に閉じ込められていました…。

 生と死の狭間の世界を描いた美しいファンタジー小説です。ジンボーが閉じ込められている世界は、明らかにこの世のものでなく、生と死の狭間の世界であることがわかります。そこから脱出できなければ、おそらく永遠に幽閉されてしまうのです。この世界が不気味であると同時に、また魅力を感じさせる部分でもありますね。
 ジンボーの前に現れたのは、解雇されたはずのミス・レークでした。彼女は「つぐない」のために、ジンボーをこの世界から脱出させようとします…。
 後半の脱出行のシーンは得も言われぬ美しさ。童心に満ちた傑作ファンタジーといっていいかと思います。



aoimeikyuu.jpg蒼い迷宮 (角川文庫)
アーナス ボーデルセン 村田 靖子
角川書店 1988-01

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アーナス・ボーデルセン『蒼い迷宮』(村田靖子 角川文庫)

 雑誌編集者ブルーノは、不治の病を宣告されます。現代の医療では治癒は不可能、しかし20年後には確実に治療法があるというのです。実用化されたばかりの冷凍睡眠に入ってみる気はないかと勧められたブルーノは、天涯孤独の身だったこともあり、冷凍睡眠に入ることになります。
 20数年後に目覚めたブルーノは自分の体が治癒していることに気がつきます。すでに不老が実現したその社会では、自然死を受け入れるグループと、不老を選ぶグループとに人は別れていました。ブルーノもどちらを選ぶか選択を迫られます。
 孤独感に囚われたブルーノは、かって短い間恋人だった女性ジェニーの行方を探します。バレリーナとして大成したジェニーはしかし、脊椎の事故に会い、それを復元する技術が開発されるまで、冷凍睡眠に入っているというのですが…。

 冷凍睡眠をテーマにしたSF小説です。目覚めた未来は、様々な技術が進んだ社会なのですが、社会は停滞しており、そこに生きる人間は皆、活気を欠いています。病からは逃れられたものの、主人公は、そもそもそれほど生に執着していたわけではないことに気付くのです。恋人がまだ若いまま冷凍睡眠されていることを知ったブルーノは、彼女に会おうと思い切った手段を取ることになりますが…。
 未来社会がディストピアっぽいというのもありますが、作品全体に動きは少なく、結末まで諦観に満ちた「暗い」作品ではあります。ただ、環境の変化に対する主人公の心の動きが独特で、読んでいてなかなか面白いのですよね。ユニークな「SF心理小説」として、一読の価値はある作品かと思います。



4488014631世界の終わりの天文台 (創元海外SF叢書)
リリー・ブルックス=ダルトン 加藤 直之
東京創元社 2018-01-12

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リリー・ブルックス=ダルトン『世界の終わりの天文台』(佐田千織訳 東京創元社)

 何らかの原因で人類が滅亡を迎えようとしているなか、年老いた学者オーガスティンは、皆と一緒の撤収を拒否して、ひとり北極の天文台に残ります。誰もいなくなったと思った直後に、オーガスティンは一人の少女を発見します。少女の身の上もはっきりしないまま、彼は少女と一緒に共同生活を始めます。
 一方、木星探査から帰還中の宇宙船「アイテル」の乗組員は、地球からの反応が全くなくなったことに不安を隠せません。核戦争なのか、疫病なのか?乗組員たちは必死で調査を進めますが…。

 「破滅SF」作品にあるような、人類や世界が破滅していく様というのはほとんど描かれません。では何が描かれるかというと、そうした災難を迎えた後の、少数の人間たちの行動と心理が丁寧に描かれていくのです。
 具体的には、地球の天文台で暮らすオーガスティンと、宇宙船乗組員の女性サリー、彼ら二人が今までの人生を振り返りつつ、当面どう生きていくのかが描かれていきます。二人はどちらも優秀ではあるものの、人間関係を築くのが下手で、家族とも別れてしまったという後悔の念を持っています。
 「世界の終わり」にあたってオーガスティンとサリーは自分の人生を肯定できるのか?というのが読みどころですね。ハッピーエンドというわけではないにしても、二人にとっての「救い」がほの見えるラストも非常に好感触です。表立った「感動作」とは違いますが、しんみりとした味わいのある佳作です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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