FC2ブログ
アメリカン・ゴシックの開祖  チャールズ・ブロックデン・ブラウン作品を読む
 チャールズ・ブロックデン・ブラウン(1771-1810)は、18世紀末から19世紀初頭にかけて活躍した「アメリカ小説の父」と呼ばれる作家です。
 日本では『ウィーランド』『エドガー・ハントリー』、代表作とされる2作が邦訳されています。作風的にはいわゆるゴシック小説の作家といっていいのですが、このジャンルの本場とされるイギリスの同種の作品と比べ、ブラウンの作品にはユニークな点が見られます。
 まず、舞台となる時代が遠い過去ではなく現代であること。巨大な城や館などの建築物がこれといって登場しないこと。登場人物が積極的に事件に対して動くこと。大まかに挙げるとこんなところでしょうか。逆に、これらの特徴を反転させると、イギリスのゴシック小説の特徴になります。
 時代が遠い過去だったり、巨大な建築物が出てきたりと、基本的にはイギリスのゴシック小説はかなり「非現実的」な要素が強い小説です。つまり、イギリスのゴシック小説の特徴を反転させると、逆に「リアル」な物語になるといってもいいかと思います。ブラウンの作品は、その意味でリアリズム要素の強いゴシック小説なのです。

 それでは、具体的に作品を見ていきましょう。


braun001.jpg世界幻想文学大系〈3〉ウィーランド (1976年)
紀田 順一郎 荒俣 宏
国書刊行会 1976

by G-Tools

『ウィーランド』(志村正雄訳 国書刊行会 1798年)
 ドイツ出身の一族の末裔であるセオドア・ウィーランドと妹クララは、アメリカで平穏に暮らしていました。セオドアは友人プレイエルの妹キャサリンと結婚し、何人かの子どもにも恵まれます。
 ある日、カーウィンと名乗る男が現れ、ウィーランド家と友人付き合いを始めます。見た目は粗野ながら異様な魅力を持つカーウィンに対して、クララは不審の念を抱きます
 セオドアは、外出した際に経験した奇妙な出来事を語ります。家の中にいたはずの妻キャサリンの声が聞こえたというのです。「声」を聞いた日を境に、セオドアの様子が変わり始めたのにクララは気付きます。
 そんな折、プレイエルは故郷ドイツの領地の相続権がセオドアにあることを知り、ともにドイツに行くことをセオドアに提案しますが…。

 物語は妹クララの一人称で語られる形式になっています。兄妹の父親が宗教的な情熱に憑かれた人物で、超自然的とも思われる形で謎の焼死を遂げたことが序盤で語られます。兄セオドアもまた父の血を継ぎ、敬虔でありながらも、どこか危うい人物として描かれるのがポイントです。
 前半はウィーランド家の幸福な生活について描かれ、語り手クララも、友人プレイエルに恋心を抱いていることが語られます。謎の人物カーウィンの登場と、セオドアが聞いた「声」の事件を境に、一家の幸福はだんだんと危ういものになっていき、最後には悲劇が起こるのです。
 「悲劇」の犯人はほぼはっきりしているので、その部分に対する驚きはありません。ただその人物像と犯行に至る動機が異様で、その異常心理描写は今読んでも読み応えがあります。
 語り手クララが、多少思い込みの強い女性として設定されているのもポイントです。「信頼できない語り手」というほどではないのですが、事件が本当にクララのとらえている形でいいのだろうか、と考えながら読んでいく過程もなかなかサスペンスフルですね。
 ひたすら暗く、救いがない作品なのですが、そのサスペンスには吸引力があります。



braun002.jpgエドガー・ハントリー (1979年) (ゴシック叢書〈10〉)
C.B.ブラウン 八木 敏雄
国書刊行会 1979-06

by G-Tools

『エドガー・ハントリー』(八木敏雄訳 国書刊行会 1799年)
 語り手の青年エドガー・ハントリーは、友人であるウォルドグレイヴを殺害した犯人を見つけようと、殺害現場を訪れます。そこで目にしたのは、挙動不審な行動をする謎の男の姿でした。男が、友人イングルフィールドの召使クリゼローであることを認めたエドガーは、彼を問い詰めます。
 クリゼローは自らの過去を話し始めます。故郷アイルランドで領主の妻ロリマー夫人に可愛がられ執事まで勤めたクリゼローは、夫人の不肖の弟アーサーをふとしたことから殺してしまいます。事実を知ったロリマー夫人は衝撃から命を落としてしまいます。
 やがてアメリカに渡ってきたクリゼローは、罪の意識から夢遊病にかかっているというのです。事実を話し終えたクリゼローは自らの命を絶とうと失踪してしまいます。クリゼローに同情の念を覚えたエドガーは、彼が隠れているらしい洞窟に出かけますが…。

 プロットが複雑かつ錯綜している作品で、最初は友人殺しの犯人探しが始まるかと思いきや、容疑者クリゼローは犯人ではなく、かれの過去の回想が始まります。そこからはクリゼローを助けようとするエドガーの行動が描かれます。
 その間にウォルドグレイヴが横領を働いていたのではという疑惑が発生し、一方、エドガーは遭難してしまいます。同時に、村をインディアンが襲撃してくる…という激しい動きのある展開です。
 ゴシック小説らしい古城や巨大な邸などは登場せず、その代わりに洞窟や森といった大自然が前景に出てきます。実際、主人公エドガーが戦うのは、大自然そのものといっていいのです。クリゼローを追いかけていったエドガーが遭遇するのは、巨大な豹や集団で攻撃してくるインディアンたちです。
 後半のインディアンとの戦闘はアクション小説そこのけの激しさで、まさかりでインディアンを仕留めたり、銃で複数のインディアンたちと渡り合ったりと、激しいバイオレンス描写が続きます。
 上記のように、動きが非常に激しい作品なので、物語が動き始めると退屈せずに読ませます。ゴシック小説というよりは、アクション小説、冒険小説的な要素が強く、現代の読者が読んでも楽しめる作品ではないかと思います。
 超自然的な要素はほぼなく、謎はほぼ結末までに解き明かされます。ミステリ的な技法も使われており、ミステリやサスペンスのご先祖様といった面もありますね。

 ブラウンの作品では、舞台が現代(作品発表当時)であり、登場人物も自分たち(読者)とそう変わらない人々に設定されています。いわば「自分にも起こり得る」物語であり、その点非常にリアルな物語なのです。当時の読者にとってはかなり「怖い」作品だったのではないでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/816-eac99465
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
twitterアカウントは@kimyonasekai



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する