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怪奇幻想読書倶楽部 第14回読書会 開催しました
 6月24日の日曜日、JR巣鴨駅前のカフェにて「怪奇幻想読書倶楽部 第14回読書会」を開催しました。出席者は、主催者を含め10名でした。
 テーマは、第1部「新入生に勧めたい海外幻想文学」、第2部「課題図書 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン『不思議屋/ダイヤモンドのレンズ』(南條竹則訳 光文社古典新訳文庫)」です。参加してくださった方には、お礼を申し上げたいと思います。

 それでは、当日の会の詳細について、ご報告したいと思います。

 今回も、参加者全員のプロフィールをまとめた紹介チラシを作りました。チラシをPDFにしたものを、メールにて事前に配信しています。

 第1部「新入生に勧めたい海外幻想文学」では、以前に筆者が選んだ「新入生のための海外幻想文学リスト」をベースに、新入生に薦めるならどんな作品がいい? というコンセプトで話しました。
 幻想文学ジャンルにおいては、他のジャンルほど、定番作品というものが存在せず、そのため選ぶ人によってセレクションは様々…という意見が多かったように思います。
 現役で入手しやすい本の中では、光文社古典新訳文庫の評判は非常に良かったです。文字が大きく読みやすいこと、解説や年譜など資料面が充実していることも高評価ポイントですね。

 第2部は「課題図書 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン『不思議屋/ダイヤモンドのレンズ』(南條竹則訳 光文社古典新訳文庫)」。
 「ダイヤモンドのレンズ」や「あれは何だったのか?」などのアンソロジー・ピースは別として、オブライエン作品をまとめて読むのは初めてという方も多かったです。
 全体的な感想としては、物語そのものが面白い、時代背景を考えに入れても非常に先駆的な作品を書いた作家、といった意見が多かったように思います。
 この読書会においては、課題図書を取り上げるのは初めてでした。一つの作品に対していろいろ話していくのも、思わぬ発見があったりして面白いものだな…というのが個人的な感想です。しばらく、課題図書形式は続けていきたいなと思っています。

 それでは、以下話題になったトピックの一部を紹介していきます。


●一部 新入生に勧めたい海外幻想文学

・光文社古典新訳文庫には幻想文学的にも貴重なラインナップが多い。

・怪奇幻想小説ファンはどのぐらいいるのか? 「怪奇」と「幻想」でも大分違うのでは。ホラーに限っても、映像や漫画分野に比べて、小説ファンはかなり少ない気がする。

・ホラー小説のファンの中でも、スティーヴン・キングと「クトゥルー神話」のファンは別格。

・幻想文学には明確な定義がない? 対象範囲が非常に広くなるだけに、いろいろな作品を手に取れるという意味では逆にいいのかもしれない。

・《世界幻想文学大系》(国書刊行会)には、「幻想文学」といいつつも、小説でない著作も入っている。これは監修者の一人だった荒俣宏さんの「幻想文学」概念が非常に広いことによる。

・荒俣宏、紀田順一郎といった人たちは、日本の幻想文学の概念を作ってきた伝道師的な人たちだと思う。こういった人たちが現代ではあまり見当たらない。

・幻想文学ジャンルの紹介者は、最後はジャンルを離れてしまう人が多いのが残念。

・《妖精文庫》(月刊ペン社)は、非常にいいファンタジーの叢書なのだが、古書価はあまり高くない。

・古書価の高さは内容とはあまり関係ない。手に入れて読んでみたらどうしようもない内容だった、ということもある。

・ファンタジー作品は、人によっては読み方がわからない…という人がいる。SFファンの一部の人にはその傾向が強い?

・日本SFの黎明期には、ある作品がSFなのかそうでないのか?という議論がよくあった。ブラッドベリやシマックの作品などは、ファンタジーなのでは?

・ブラッドベリ作品の科学は、あくまでガジェット。『火星年代記』でも舞台になる火星は、実在の火星ではなく幻想の火星となっている。

・現代のSFファンでもブラッドベリがわからない…という人は一定数いる。文章の美しさなどに興味のない人も。

・ジャンルの革新者の作品には驚きがあるが、その後続者たちの作品は小さくまとまってしまう傾向がある。

・ブリューソフ『南十字星共和国』について。近未来を舞台にしたSF・幻想的な短編集。暴力や血を見る描写が意外に激しい。

・H・R・ハガード作品について。「女王シリーズ」はユングにも影響を与えた?

・アルベルト・モラヴィア『薔薇とハナムグリ シュルレアリスム・風刺短篇集』について。非常にシュールな異色短篇集。クトゥルー神話っぽい作品もあったり。

・《奇想コレクション》で一番人気があったのは? やはり『たんぽぽ娘』。SFやファンタジー系の作家に混じって、純文学系の作家の作品集はなかなか貴重。マーゴ・ラナガン、ウィル・セルフなど。

・本国より日本の方が人気が高いSF作家は、感傷的な傾向が強い。ブラッドベリ、シマック、ロバート・F・ヤングなど。

・ヨーロッパの作品は根底にキリスト教的な思想がある。ゴシック小説などでは、ほぼ必ずといっていいほど神や罪についての話が出てくる。僧侶が罪を犯す話はやたらと多い。M・G・ルイス『マンク』やマチューリン『放浪者メルモス』など。

・『怪奇小説傑作集4』は、フランス怪奇小説を集めたアンソロジーだが、今見ても非常に素晴らしいセレクションだと思う。マイナーな作家を集めているところがいい。

・グザヴィエ・フォルヌレについて。『怪奇小説傑作集4』に収録された「草叢のダイヤモンド」は素晴らしい作品だが、近年でた邦訳作品集の作品は習作ばかりで面白くなかった。

・テオフィル・ゴーチェ作品について。ホフマンの影響を受けて多くの幻想小説を書いた作家。「死女の恋」など。官能的な作品が多い。

・フランス作品は怪奇ものでも、人間っぽくて、情緒的に引っ張られるものが多い印象。

・レオノーラ・カリントン作品について。シュールな物語展開が印象的。「耳らっぱ」「最初の舞踏会」など。

・ドイツ作品は、「怪奇」というよりは「神秘」? 国民性として大自然に対する畏怖や憧れといった要素が感じられる。

・ロシア作品は、全般的に暗い? 理屈っぽくて、セリフが長い印象。

・アレクサンドル・グリーン作品について。ファンタジーっぽい設定・世界観ながら、ファンタジーにはなりきらないという、不思議な作風の作家。ナイーブで繊細な話が多い。「消えた太陽」など。

・中東やアフリカなどに幻想小説はある? 突然変異的に才能のある作家は出るとしても、ジャンルの広い下地などはあまりないのでは。


●第2部 課題図書 フィッツ=ジェイムズ・オブライエン『不思議屋/ダイヤモンドのレンズ』(南條竹則訳 光文社古典新訳文庫)

・創元推理文庫版短編集より光文社古典新訳文庫版短編集の方が、訳がこなれていて読みやすかった。

・取り扱われた題材は、当時としては非常に先端的。

・作品中に、ホフマン、チャールズ・ブロックデン・ブラウンなどの名前が見える。こうした幻想小説を作者は好んで読んでいた形跡がある。

・チャールズ・ブロックデン・ブラウン作品について。『エドガー・ハントリー』は、大自然を舞台にしたユニークなゴシック小説。主人公が積極的だったり、アクション描写が多かったりと、同時代のイギリス作品に比べると新しい。

・「ダイヤモンドのレンズ」にせよ、「チューリップの鉢」にせよ、オブライエンの作品には共通して「見る・見られる」というテーマが感じられる。

・作風は違うものの、ジャック・ロンドン、W・H・ホジスンなどと、作家的な共通点を感じる。日本では稲垣足穂? オンリーワンの作家だと思う。

・コードウェイナー・スミス作品について。「シェイヨルという名の星」にはオブライエン「手から口へ」との共通点も感じる。スミス作品はSFというよりは幻想小説に近しい手触りの作品が多い。


●「ダイヤモンドのレンズ」について。

・ダイヤモンドレンズによって極小世界を覗き見た男が、その世界の女性に恋をするという物語。

・男は女をレンズ越しに一方的に見るだけで、女の方は男の存在さえ認識できない。悲恋に終わらざるを得ない構造になっている。

・ハミルトン「フェッセンデンの宇宙」、マシスン『縮みゆく人間』、H・G・ウェルズ「水晶の卵」など、類似テーマのプロトタイプ的な作品。

・極小世界の女性に恋する男という、一見ピュアな題材ながら、主人公が横暴で自分勝手、サイコパスっぽい性格に設定されているため、それほど単純な話になっていない。

・ホフマンの影響が強い?


●「チューリップの鉢」について

・因果応報的な要素の濃い、オーソドックスなゴーストストーリー

・幽霊となった強欲な男など、登場人物のキャラクター描写に特徴がある。

・当時の心霊科学の影響が強い?

・幽霊現象に対して、主人公側がただ怖がるだけでなく、調査をしようとするところなど科学的に感じられる。

・登場する幽霊が象徴をもって現れる。精神分析的な見方も可能。


●「あれは何だったのか? 一つの謎」について。

・幽霊話だと思わせておいて、透明な怪物が登場するという怪奇小説。江戸川乱歩が「透明怪談」として分類している。

・主人公たちが怪物を触って調べたりと、あくまで自然現象としてとらえているとことが面白い。

・透明現象に対しても、ありえないことではないと、疑似科学的な説明がされる。

・同種のテーマ作品について。モーパッサン「オルラ」、ラヴクラフト「ダンウィッチの怪」、ジャック・ロンドン「影と光」など。光学迷彩は科学的に実現可能?

・ゴースト・ハンターものの先駆的作品の趣もある。


●「なくした部屋」について。

・愛着のある部屋が「奪われてしまう」物語。部屋を奪う連中についての説明が全くないのが不気味。シュールだが、非常に怖い作品。

・部屋が「二重写し」のようになるイメージがユニーク。

・主人公の統合失調症的な不安を表した作品とも読める。自分自身の空間が持てない…というアイデンティティーをめぐる問題。

・前半、部屋や家具に対する愛着がじっくり描かれる。後半それが奪われる恐怖・不安が強く感じられるようになっている。

・主人公を見ている第三者、客観的な視点がない。客観的な視点があるとまた違った物語が生まれてくるような気がする。

・オブライエン作品の中でも、深い憂愁の感じられる作品。部屋の中に本人は弾かないピアノがあるのは非常に意味深。

・舞台がニューヨークだけに、都会の孤独的なテーマも感じられる。


●「手から口へ」について。

・ジャーナリストが手や口の大量に生えた奇怪なホテルから脱出しようとする話。

・全体にシュールな話だが、特に鏡でゆがんだ鳥が複製されるというイメージが強烈。

・結末が夢落ち、尻切れトンボで終わってしまうが、それまでの展開があまりに異様なので、結末がどうなっても許せる感じがある。

・作品で描かれる魔法の描写が非常に魅力的。


●「世界を見る」について。

・詩を作る才能とともに世界のすべてを「見る」能力を手に入れた男の物語。寓意性が強い作品。


●「墓を愛した少年」について。

・墓を愛した少年を描く掌編。

・墓を愛するということについて、具体的な描写は描かれない。それが逆に想像力を刺激するのではないか。

・作中で墓の中身を移されてしまうが、それによって少年にとっては墓の本質が変わってしまう。変わってしまったものとは何なのか?

・墓の中身がなくなって、自分自身が墓に入る…というのも非常に象徴的なイメージ。

・墓をテーマにした作品について。シオドア・スタージョン「墓読み」、チャールズ・ボーモント「無料の土」など。


●「不思議屋」について。

・キリスト教徒を殺そうと呪いの人形を作るジプシーたちの物語。

・オブライエン作品としては長めの作品。悪役たちに非常に精彩がある。

・日本人的な考え方では何にでも魂があるが、キリスト教的な考え方では異なる。あちらでは、霊と魂は別のもの。

・ポオの「跳び蛙」に似たモチーフを感じる。

・ポオもそうだが、ホフマン作品との共通性も感じる。

・結末で家が焼け落ちるのは「浄化」のイメージもあるのだろうか。炎のイメージは聖書由来?


●「手品師ピョウ・ルーが持っているドラゴンの牙」について。

・架空の中国を舞台にした「シノワズリ」作品。

・前半の魔法のドラゴンの牙の話と、後半の皇帝の末裔のクーデターの話が上手くまとまっていない感はある。

・魔法の描写は魅力的。


●「ハンフリー公の晩餐」について。

・貧しい夫婦を描いだO・ヘンリー風の人情話。

・友人の本を売ってしまうのはどうかと思う。O・ヘンリーが同じ題材で書いたとすると、本を売らずに夫婦が救われる話になると思う。

・夫婦の空想のシーンは生彩がある。

・作者オブライエンの経歴が、登場人物の造形に反映されているような気がする。



「第15回読書会」は、7月29日(日)に開催予定です。テーマは、

第一部:課題図書 ジャック・フィニイ『ゲイルズバーグの春を愛す』(福島正実訳 ハヤカワ文庫FT)
第二部:参加者が選ぶ小説ベスト10

詳細は後日あらためて公開したいと思います。
この記事に対するコメント

ちゃちゃです
お世話になりました
特に二次会はいろいろ話せて楽しかったです

また、持参したバームクーヘンのチョコがとろけてしまって申し訳なかったです
今後 品質管理に努めます

次回にはプリズナー6忘れずにお持ちします


【2018/06/28 21:55】 URL | ちゃちゃ #- [ 編集]

>ちゃちゃさん
いえいえ、わざわざ差し入れもいただき、ありがとうございます。他の方も喜んでいたかと思います。二次会の方も遅くまでおつきあいいただき、ありがとうございました。
今回は人数も多くて、二次会の方の話が把握し切れなかったもので、レポートには載せられませんでしたが、いろんなお話ができて楽しかったです。
次回もよろしくお願いします。
【2018/06/28 22:44】 URL | kazuou #- [ 編集]


先日は初参加をさせていただきまして、ありがとうございました。皆様からいろいろな刺激を受け取ることができて、楽しかったです。kazuouさんの「早すぎた幻想作家 フィッツ=ジェイムズ・オブライエンのファンタジー世界」を読んで、改めて頭の中で復習しております。
それと、皆様ご推薦のスタージョン「墓読み」を読みました。印象深い短編ですね。「生きている人間は完結してない」という言葉に小林秀雄の「無常という事」を思い出したり、物語のプロットにブッダの「死んだ子供の母親」のエピソードに通じるものがあるように感じたり。
【2018/07/02 21:45】 URL | haku #- [ 編集]

>hakuさん
この前はご参加ありがとうございました。いろいろお話できて楽しかったです。
オブラインエンは、単体で話すことも少ない作家なので、あれだけ集中的に話したのは初めてでした。個人的にもいろいろ発見があったように思います。

スタージョン「墓読み」は、いろいろ解釈できる奥深いテーマを持った作品だと思います。スタージョンもいつか読書会で扱ってみたいと思っています。
【2018/07/02 23:07】 URL | kazuou #- [ 編集]


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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
twitterアカウントは@kimyonasekai



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