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仮面の中の孤独  アルジス・バドリス『アメリカ鉄仮面』
amerikatekka.jpgアメリカ鉄仮面―仮面の正体を探るSFサスペンス (ソノラマ文庫―海外シリーズ)
アルジス・バドリス 仁賀 克雄
朝日ソノラマ 1984-10

by G-Tools

 アメリカの天才物理学者マルティーノは、秘密の軍事実験中の大爆発に巻き込まれ、瀕死の重傷を負います。実験場が国境近くにあったため、マルティーノは意識不明のまま、ソヴィエトに拉致されてしまいます。
 数ヵ月後、アメリカに引き渡されることになったマルティーノでしたが、現れたのは顔を鉄の仮面で覆われ、鋼鉄の義手をつけた男でした。彼は本当にマルティーノなのか? 上層部の命令を受けたロジャーズは、男がマルティーノ本人かどうかを確かめるため、身辺調査を開始しますが…。

 アルジス・バドリス『アメリカ鉄仮面』(ソノラマ文庫海外シリーズ)は、事故で重症を負い、半機械の身体に改造された男を描くSFサスペンスです。
 アメリカの調査部隊が、鉄仮面の男の挙動を監視していくパートと並行して、マルティーノの過去の人生のパートが描かれていきます。てっきり、機械化された異形の男の正体をめぐって陰謀が繰り広げられる…という話かと思ったのですが、読んでみると、全く異なる展開の物語で驚かされます。
 何しろ、鉄仮面の男がアメリカに戻ってからは、事件らしい事件は全然起こらないのです。孤独にさいなまれた男が、過去につきあいのあった人間たちに会いに訪れ、人生を振り返る…というしんみりした話になってしまいます。

 鉄仮面の男の正体は誰なのか? という謎は最後まであるものの、基本的には一人の男の孤独な人生が描かれていくというヒューマン・ストーリーです。サイボーグや秘密の実験に関するSF的な要素も、陰謀にまつわるサスペンス的な要素もほとんどなく、正直ジャンル小説といっていいのかも微妙ではあります。
 ではつまらないかと言うと、そうでもなく、意外に味わいのある作品であることは確かです。打算的になろうと思ってもなりきれなかったり、ガールフレンドとすれ違いを繰り返したりする主人公の「弱さ」が描かれていて、感情移入という意味では非常に感情移入しやすい作品ではありますね。

 そういえば、あの本にバドリスについて書かれた文章があったな、と思い出し『殊能将之読書日記』(講談社)をめくってみました。なるほどと思える部分があったので引用しておきましょう。

 バドリスの小説には、怪我や病気や人体改造によってグロテスクな存在に変貌した人間がしばしば登場するがこれはおそらく「アメリカ人に改造された」バドリス自身の実感なんだろうと思う。
 そのため、バドリスには、異質な存在によって認識が拡大するとか、見たことのないすばらしいヴィジョンが拓けるといった発想がない。彼によって、異質な存在と対峙するのは、いやなこと、つらいことなのだ。それゆえ、異質な存在と出会った人間の疎外感や孤独感のほうに焦点があってしまう。


 殊能氏の言っている通りで、『アメリカ鉄仮面』を読んでいても「人間の疎外感や孤独感」がメインテーマになっているように思います。
 ジャンル小説としての魅力には欠けるのですが、バドリスの作品には、どこか惹かれる部分があります。他の作品も読んでみたい作家ではありますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

アルジス・バドリスは一番手に入りやすかった『第三次世界大戦後のアメリカ大陸』しか読んでいないのですが、こちらはあまりおもしろくありませんでした。
もっとも、自分の読み方が悪かっただけで違う視点で読みなおせば面白い見方ができるのかもしれませんが。
アトリエサードから出版予定の『無頼の月』が楽しみですね。
【2018/06/08 10:54】 URL | Takeman #- [ 編集]

>Takemanさん
『第三次世界大戦後のアメリカ大陸』は未読なのですが、あんまり評判が良くないようですね。

『アメリカ鉄仮面』もエンタメとしてはちょっとどうかという作品なのですが、人によっては惹かれる要素のある作品だと思います。雑誌に載った短篇もちょっと「文学的」な香りがしないでもないので、バドリスは文芸好きの人には楽しめるのかもしれません。

『無頼の月』は昔からずっと気になっていた作品なので、刊行を楽しみにしています。
【2018/06/08 20:40】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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