FC2ブログ
想像力の冒険  ヴェニアミン・カヴェーリン『ヴェルリオーカ』
verurioka.jpg
ヴェルリオーカ
ヴェニアミン・アレクサンドロヴィチ カヴェーリン 田辺 佐保子
群像社 1991-04

by G-Tools

 老いた天文学者プラトン・プラトーノヴィチには子供がありませんでしたが、子ども部屋まで用意して、想像上の息子を空想していました。ある日、部屋に突然現れた少年はワーシャと名付けられ、天文学者の息子となります。
 普通の子供と同じように成長していくワーシャは、隣人の娘イーワと恋仲になります。ある日現れた謎の男ペシチェリコフがイーワに求婚し始めたことから、二人は、おしゃべりな牡猫フィーリャと共に奇想天外な冒険の旅に出ることになりますが…。

 ヴェニアミン・カヴェーリンの長篇ファンタジー小説『ヴェルリオーカ』(群像社)は、孤独な天文学者の想像から生まれた少年ワーシャが、恋人のイーワとともに繰り広げる奇想天外な冒険を描く作品です。作者が80歳の時の作品なのですが、老齢で書かれたとは思えない瑞々しさと想像力にあふれた作品です。

 想像から生まれた少年がさまざまな冒険を繰り広げるファンタジー、といっていいのですが、この「想像から生まれた」という設定が、あとあと物語の伏線になっています。
 「想像」がテーマだけに、何でもありのゆるい作品かと思って読んでいくと、意外に練られた設定で驚きます。少年ワーシャの生誕の秘密や因縁などが少しづつ明かされていく展開は、正統派のヒロイック・ファンタジーを思わせます。
 登場人物たちもそれぞれコミカルで楽しいのですが、主人公の家の飼い猫であるフィーリャや、猫と会話する「スコットランドのバラ」などの、人間以外の登場人物のキャラクターが立っていますね。

 後半に至ると、ワーシャが生まれた理由とその使命が明らかになります。そして、使命を果たした後に現れるメタフィクション的な展開には驚く人もいるのでは。世界そのものを揺るがす展開で、これはもうまるで、ダンセイニの「ペガーナ神話」です。

 カヴェーリン(1902-1989)は、1920年代から活躍していたロシアの作家です。日本でもいくつかの邦訳はありますが、一番有名なのは、初期の幻想的な短篇集『師匠たちと弟子たち』(1923年 月刊ペン社)でしょう。
 初期作品以降、リアリズム作品をずっと書いていたカヴェーリンは、晩年に至ってファンタジーに回帰します。『ヴェルリオーカ』は1982年の作品なのですが、その味わいは60年近く前の『師匠たちと弟子たち』とほとんど変わりません。強いていうなら『ヴェルリオーカ』の方がより「楽天的」で「楽しい」のです。晩年に至って作風が「暗く」なる例はよくありますが、「明るく」なるというのは珍しいですね。
 メタフィクション的な手法も、初期作品の頃から多用していたもので、作家としての一貫性も感じられます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/804-852b2b1a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
twitterアカウントは@kimyonasekai



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する