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《モダンホラー・セレクション》を読む
 1980年代後半から1990年代初めにかけて、ハヤカワ文庫NVから出版されたホラー長篇の叢書《モダンホラー・セレクション》。40冊近くが出版されましたが、今ではほとんどが絶版になっています。
 当時の最新のホラー小説だけでなく、アイラ・レヴィン『ローズマリーの赤ちゃん』、シャーリイ・ジャクスン『山荘綺談』、リチャード・マシスン『地球最後の男』といった、過去のホラー小説の傑作も再刊という形で組み込まれているのが特徴です。
 上記のように、再刊ものにも「モダンホラー・セレクション」の肩書きがついているものがあるので、全てを把握しているわけではないのですが、とりあえずこのシリーズのリストを挙げておきたいと思います。

《モダンホラーセレクション》ハヤカワ文庫NV(1987-1990)
マイクル・F・アンダースン『総統の頭蓋骨』
コリン・ウィルスン『ロイガーの復活』
F・ポール・ウィルスン『触手(タッチ)』
バリ・ウッド&ジャック・ギースランド『戦慄の絆』
ラムジー・キャンベル『母親を喰った人形』
チャールズ・L・グラント『ティー・パーティー』
チャールズ・L・グラント『ペットの夜』
ディーン・R・クーンツ『ウィスパーズ』
ディーン・R・クーンツ『ファントム』
ジェフリイ・コンヴィッツ『悪魔の見張り』
ダン・シモンズ『カーリーの歌』
シャーリイ・ジャクスン『山荘綺談』
デイヴィッド・ショービン『アンボーン 胎児』
マイケル・スチュアート『モンキー・シャイン』
J・マイケル・ストラジンスキー『デーモン・ナイト』
ホイットリー・ストリーバー『ウルフェン』
ジョン・ソール『暗い森の少女』
ジョン・ソール『惨殺の女神』
ショーン・ハトスン『スラッグス』
ショーン・ハトスン『シャドウズ』
ショーン・ハトスン『闇の祭壇』
ジェームズ・ハーバート『聖槍』
ジェームズ・ハーバート『ダーク』
ジェームズ・ハーバート『奇跡の聖堂』
ジェームズ・ハーバート『ムーン』
ジェームズ・ハーバート『魔界の家』
スーザン・ヒル『黒衣の女』
ジョン・ファリス『サーペント・ゴッド』
ジョン・ファリス『果てしなき夜の息子』
マイケル・マクダウェル『アムレット』
リチャード・マシスン『地球最後の男』
リチャード・マシスン『縮みゆく人間』
リチャード・マシスン『地獄の家』
ロバート・マラスコ『家』
デイヴィッド・マレル『トーテム』
アン・ライス『夜明けのヴァンパイア』
レイ・ラッセル『インキュバス』
アイラ・レヴィン『ローズマリーの赤ちゃん』
ディーン・R・クーンツ/エドワード・ブライアント/ロバート・R・マキャモン『ハードシェル〈ナイトヴィジョン〉』
スティーヴン・キング/ダン・シモンズ/ジョージ・R・R・マーティン『スニーカー〈ナイトヴィジョン〉』

 改めてリストのタイトルを見てみると、結構バラエティに富んでいるのですよね。題材も超自然的なもの、そうでないもの含め、いろいろです。
 派手なホラーに特化しているのかと思いきや、チャールズ・L・グラントの地味な作品とか、スーザン・ヒル『黒衣の女』といった上品な作品も入っていたりします。

 ちょっと目に付くのは、ジェームズ・ハーバートの作品です。このシリーズ最多で5作が入っています。他に収録作品が多いのは、リチャード・マシスンの3作、ショーン・ハトスンの3作あたりでしょうか。マシスンはともかく、ハトスンやハーバートは、こういうシリーズでもないと、紹介されなかったであろう作品ではあるので、ファンとしては感謝したいところです。

 マシスンやジャクスンの「名作」はもちろん、いわゆるB級作品でも、それぞれ独自の魅力がある作品が多く、今読んでも面白いものが沢山あります。以下、このシリーズからいくつかの作品を紹介したいと思います。



soutouno.jpeg総統の頭蓋骨 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
マイクル・F・アンダースン 小倉 多加志
早川書房 1988-06

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マイクル・F・アンダースン『総統の頭蓋骨』(小倉多加志訳 ハヤカワ文庫NV)

 新聞記者ハモンドは、パリから地元の町に戻る列車の中にいました。やくざ者に絡まれるものの、上手くやり過ごしたハモンドでしたが、直後に列車が転覆し、怪我をしてしまいます。死体となって発見された者の中には、あのやくざ者も入っていましたが、検死の結果、その男の死因は他殺だったことがわかります。
 やがて小さな町に、たびたび怪事件が起こるようになります。霊的なものが原因ではないかと考えたハモンドは、友人の霊能力者ロイを呼び寄せ、調査を開始します。
 一方、列車に乗っていた男は、事故の際に落としてしまった箱の行方を探し続けていましたが…。

 序盤から、謎の物体が入った箱が登場し、それに関わった人々が死んだり事故に遭ったりと災難を引き起こしていることが仄めかされます。その箱に入っているものは何なのか? という謎で引っ張っていくのですが、悲しいかな、邦題で盛大にネタバレしてしまっているという作品です。
 箱の中身の謎はともかく、それによって引き起こされる怪奇現象と、それに取り憑かれる人々の惨劇など、演出部分は意外に悪くありません。
 前半、列車の中で乗客同士のいがみ合いが始まり、やがて列車の事故に至るまでの流れは、なかなかサスペンスに富んだ筆致で期待感を煽ります。後半は、箱の呪いで、亡霊たちが大量発生して襲ってくるという、典型的なB級ホラーになってしまうのが残念。亡霊なのに物理的に攻撃してくるのはなぜなのか? とか、呪いを解くための手段が、物理的に箱の中身を破壊するだけ、といったツッコミ所はともかく、B級作品だと割り切って読めば、それなりに楽しめる作品といえます。



4150404674アンボーン―胎児 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
デイヴィッド ショービン 竹生 淑子
早川書房 1987-10

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デイヴィッド・ショービン『アンボーン 胎児』(竹生淑子訳 ハヤカワ文庫NV)

 妊娠した大学院生のサマンサは、子供を一人で育てることを決心します。出産費用の足しになればと、大学の実験に参加することになりますが、その実験装置は、膨大な医学知識を収めたコンピュータと連結されていました。
 コンピュータと接続された胎児は、あらゆる医学知識を吸収し、自らの成長を促進するために母体を操り始めます。
 実験の責任者は、サマンサと恋仲になりますが、やがて彼女が胎児に気分や行動までもコントロールされていることに気付き、胎児を堕胎させようと考えます…。

 コンピュータと接続された胎児が母親をコントロールするというハイテク(当時としては)・ホラーです。
 医学知識を蓄えたコンピュータと接続されるという設定なので、人間の体内の環境のコントロールはお手の物。自分に必要な食物や栄養素を母親に食べさせたり、運動をさせたりし始めます。
 しかし、堕胎をしようとしていることに気付いた胎児は、母親の気を変えさせ手術をさせまいとします。やがて自らの誕生と同時に、母体のみを殺そうと計画を始めるのです。 胎児の能力が強大で、母親は動かされるままになっていきます。記憶も一定せず、善悪の判断も失われてしまうのです。
 1980年代初頭の作品なので、コンピュータの描写は古びているものの、それを除けば、今読んでもサスペンスたっぷりで楽しめる作品です。母親の行動が自らの意思の結果なのか、胎児に動かされているだけなのかがわからず、彼女とつきあっている責任者も、下手に手を出せば母体が危ないため、思い切った行動に出ることができません。
 妊娠の経過が詳細なのも、リアリティを高めていまねす。



415040531X戦慄の絆 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
バリ・ウッド ジャック・ギースランド 日夏 響
早川書房 1989-03

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バリ・ウッド&ジャック・ギースランド『戦慄の絆』(日夏響訳 ハヤカワ文庫NV)

 一卵性双生児である、デイヴィッドとマイケルのロス兄弟は、それぞれ有名な医師として知られていましたが、ある日、同じ部屋で変死体で発見されます。当初は自殺と思われた二人の死は、実は殺人事件だったことが判明します。彼らの間に何があったのか…?

 小さい頃から、互いに離れられない関係だった双子の兄弟。大人になってからも、その関係は変わらず、弟は兄から離れようとしつつも、同時に兄と一緒にいたいという欲望も抑えることができないのです。
 やがて弟は結婚しますが、結婚後も兄は、自分と一緒に暮らそうなどと、支配力をふるい続けます。仕事においても、死亡率の高いがん患者の治療に従事していたマイケルは、精神的に病み、麻薬におぼれていきます。
 子どもの頃から、兄弟は全てを共有し、それは女性においても例外ではありません。兄から離れようとする弟は、自分だけを愛してくれる女性を見つけ結婚します。しかしその結婚も彼の精神バランスを支えるまでには至らず、結局兄の元へ走らせてしまうのです。 同性愛的傾向のある兄は、精神的にだけでなく、肉体的にも弟を所有しようとします。
 「殺人」が描かれるのも結末の1件のみであり、それまで猟奇的な事件も特に起こりません。その意味で、この作品を「ホラー」とは呼びにくいのですが、双子の兄弟の異常な心理、特に弟マイケルの躁鬱的な心理がねちねちと描かれる部分には、強烈なインパクトがあります。
 全体的に、ノーマル、アブノーマル両方の性描写が多く含まれるので、読む人を選ぶ作品ですが、異常心理小説として傑作といっていい作品ではないでしょうか。
 原題は『双生児』ですが、クローネンバーグ監督の映画化作品に合わせて、文庫化の際に『戦慄の絆』というタイトルに変更された作品です。



4150404542ウルフェン (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
山田 順子 ホイットリー・ストリーバー Whitley Strieber
早川書房 1987-07

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ホイットリー・ストリーバー『ウルフェン』(山田順子訳 ハヤカワ文庫NV)

 ニューヨークの下町で、2人の警官の惨殺死体が発見されます。拳銃を抜く間もなく殺されたらしい2人の死体には、狼のような獣の跡が残されていました。しかしその傷跡は、犬や狼がやれるようなものではないのです。
 捜査に着手したニューヨーク市警のウィルソンとそのパートナーであるベッキィは、犯人が、人間とは異なる進化を遂げた別の種族であることを確信しますが…。

 警察小説の形で描かれたホラーサスペンスです。人知を超えた殺害方法にもかかわらず、警察本部は現実の範囲内での事件収束を望みますが、主人公たちは、動物学者などの力を借りながら、犯人は、人間よりも進化した別の種族であることを確信します。
 やがて進化した種族「ウルフェン」は、自分たちを追っている人間がいることを知り、彼らを始末しようと動き始めるのです。

 この作品に登場する「ウルフェン」は、狼でも狼男でもなく、人間とは別個に進化した高度な知的生命体という位置づけです。彼らは、人間に知られることなく生きてきましたが、一族の若者が禁止されていたはずの若い人間を殺してしまったことから、人間社会に彼らの存在が知られてしまいます。
 「ウルフェン」内の一族の情愛や掟、地位をめぐる争いなど、「ウルフェン」視点での描写が、警察側の捜査と交互に描かれていきます。敵側である「ウルフェン」の情報が作中で明かされてしまうので、怪物の恐怖を描く作品というよりは、異種族と人間との対立を描くという、SF的な感触が強い作品になっています。
 主人公二人とその夫との三角関係的な部分や、あくまで事件を大事にしたくない上司との対立などをはさみながら、「ウルフェン」と人間との争いを描いていく著者の筆さばきは達者です。



4150405638デーモン・ナイト〈上〉 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
J.マイケル ストラジンスキー 小倉 多加志
早川書房 1990-01

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J・マイケル・ストラジンスキー『デーモン・ナイト』(小倉多加志訳 ハヤカワ文庫NV)

 幼い頃、両親とともに自動車事故に遭い、両親を失ったエリックは、数十年ぶりに故郷を訪れます。彼が町を訪れるのと時を同じくして、町では殺人や行方不明事件などが相次いで起こっていました。
 エリックは、父親が残した「洞窟を見張れ」という言葉をもとに、町はずれの湖畔の洞窟に何か秘密があるのではないかと疑います。警官から容疑者として疑われるなか、恋人となった作家のリズとともに調査を進めるエリックでしたが、やがて町の人々が次々に狂気にとらわれていきます…。

 町全体が悪魔(悪霊)に支配されてしまう…という伝奇ホラー作品です。
 取り憑かれた一般人は、悪魔のなすがままに、伴侶や友人を殺害してしまいます。一方、主人公には超能力があり、その能力で悪魔に対抗することができます。しかし、能力のコントロールが上手くできないため、都合良く能力を使うことができません。
 主人公は過去に能力が原因で問題を起こしているという設定で、その履歴が警察に知られたことによって、犯罪の容疑者になってしまうといういう流れは上手いですね。
 前半は、町の人々それぞれの人物描写や情景がカットバックで描かれます。町全体がおかしくなる…というのを描くためにやっていると思うのですが、登場人物がやたらと多いのと、それぞれの描写が短いので、正直、印象は薄いです。
 後半、悪魔に取り憑かれた人々が暴れ始め、町はパニックに陥ります。このあたりから非常に盛り上がってきますね。無事なのは主人公エリックのほか、数人のみ。彼らはエリックとともに、悪魔の本拠地に向かうことになります。
 ただ、超能力で戦う主人公よりも、どちらかと言うと、何の能力もない普通の人間たちの戦いの方が読み応えがあります。普通の人間にとっては、敵は強大な存在なので、非常に緊迫感があるのです。特に、教会に立てこもった仲間たちが、包囲した悪魔たちと戦うパートは非常にインパクトが強いです。

 作者のストラジンスキーは、主に脚本畑で活躍してきた人だけに、描写は非常に視覚的です。悪魔の造形や、町が怪異に襲われるというプロット自体はわりとステレオタイプではあるものの、悪魔が町を襲ってくるあたりからの盛り上がりは強烈で、エンターテインメントとしては、なかなかの秀作だと思います。


 以前にジェームズ・ハーバートとショーン・ハトスンについてまとめた記事もリンクしておきます。

 ジェームズ・ハーバートの恐怖小説

 B級ホラーの職人芸  ショーン・ハトスン作品を読む

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
装幀が素敵でした。
何冊か復刊されましたが、あとは・・・。装幀も忘れられない独特のものでした。
このシリーズで初めて知った作家も多く、ハトスンやハーバートの作品をもっと読みたいです。マイケル・マクダウェル作品はアンソロジー以外で長編が読めるのはこれだけですし。
【2018/05/26 13:52】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
装丁も今見ると味がありますよね。

復刊されたものも、どちらかと言うとシリーズ刊行前からあった「名作」が多いんですよね。このシリーズで初めて出ていて復刊したものは、映画化のタイアップで復刊した『黒衣の女』以外は、クーンツ、ウィルスン、シモンズ、アン・ライスなど、後に日本でも人気が出た作家ばかりです。

ハトスンやハーバートは、未訳作品でも面白いものがいっぱいありそうですし、マクダウェルは一作しか出てないものの、すごく面白かったので、他の作品も読んでみたいですね。
【2018/05/26 16:23】 URL | kazuou #- [ 編集]

ハヤカワ文庫
今、ロバート・マラスコの「家」を読み始めたばかりです。最近、アンソロジーばかり読んでたので、久しぶりの長編です。もともとお化け屋敷ものが好きなので楽しみです。ところでkazuouさんはウインドアイという短編集を読まれたことありますか?もし読まれてたら、感想お聞きしたいです。
【2018/06/05 14:33】 URL | ひとみ #- [ 編集]

>ひとみさん
マラスコ『家』は、正統派の幽霊屋敷ものですね。これは僕も好きな作品です。

『ウインドアイ』は、ブライアン・エヴンソンの短篇集ですね。これは読みました。この人、最初の邦訳短篇集『遁走状態』もそうだったのですが、すごくホラーがかった短篇を書く人です。ジャンル小説ではないのだろうけれど、書き方や雰囲気がすごくホラーっぽいのですよね。
『遁走状態』の方は、ホラーっぽくはあるものの、まだ「純文学」的な感じが強いのですが、『ウインドアイ』の方は、ホラー味の強い異色短篇集という感じで面白い作品が多く収録されています。
とくに表題作である「ウインドアイ」は、家の外壁にある謎の窓を語った作品で、すごく不気味で面白い作品でした。お薦めです。
【2018/06/05 19:42】 URL | kazuou #- [ 編集]


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怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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