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アレクサンドル・グリーンの幻想冒険小説2作を読む
 アレクサンドル・グリーン(1880-1932)は、独特の世界観を持つロマンティックな幻想小説・冒険小説を書いたロシアの作家です。ファンタジーに満ちたグリーンの作品世界は「グリーンランディア」と呼ばれています。
 グリーンの作品世界に登場する人物や地名は、独自の響きを持っています。ロシア風のものは少なく、どちらかと言うと英語風の響きを持つ名前が多いです。おそらくロシア本国では、非常にエキゾチックに感じられる名前なのでしょう。
 また日本で翻訳を通して読む場合も、グリーン作品の登場人物名は、ロシア風の名前が頻出する作品よりは、はるかに読みやすく感じられますね。
 今回は、幻想的な冒険小説『黄金の鎖』『波の上を駆ける女』を紹介していきたいと思います。



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黄金の鎖 (1980年) (ハヤカワ文庫―FT)
アレクサンドル・グリーン 深見 弾
早川書房 1980-02-29

by G-Tools

『黄金の鎖』(深見弾訳 ハヤカワ文庫FT)

 船員見習いの少年サンディ・プルーエルは、ある夜、飲みに出かけた船長の代わりに船の番をしていました。そこに現れた二人の男は、至急、自分たちを岬に立つ屋敷まで連れて行ってほしいと頼みます。依頼を引き受けたサンディは、男たちとともに屋敷に向かいます。
 莫大な資産を持つ屋敷の主人ハヌーヴァーは、サンディを気に入り、彼に船員の教育を受けさせることを約束します。屋敷の隠れ通路を見つけたサンディは、そこからハヌーヴァーの婚約者である美女ジゲが話をしているのを聞いてしまいます。彼女はハヌーヴァーを騙して金を巻き上げようとしていたのです。
 もともとハヌーヴァーが愛していたのは、村の純真な娘モーリでした。策略により、ハヌーヴァーがモーリから別れの手紙を受け取っていたことを知ったサンディは、二人の男ドュロクとエスタンプとともに、モーリを迎えに行くことになりますが…。

 船員見習いの少年が体験する数日の冒険を描いた作品です。悪人たちの手により引き裂かれようとする恋人たちを結びつける…という、単純といえば単純なストーリーではあるのですが、物語の舞台や事物がことごとく魅力的で、読んでいて非常に「心地良い」物語です。
 物語の中心となる巨大な館〈黄金の鎖〉が何と言っても魅力的です。機械仕掛けの匠によって立てられたその建物には、ところどころに仕掛けがあり、隠し通路があったり部屋が動いたりします。館の中には海賊の宝が隠されていたり、自動人形が格納されていたりもするのです。
 少年の冒険物語とはいっても、主人公はそれほど危機に陥りません。危機に陥っても、大体において何となく切り抜けてしまうのです。その意味でほとんど「人間的成長」は描かれないのですが、グリーンの描く物語世界は「なんとなく」歩くだけでも魅力的なのだから、じつに不思議です。
 仕掛けに満ちた巨大な城館、自動人形、海賊の宝、そして恋と冒険…。子供の空想を目いっぱい詰め込んだかのような、ロマンティックな作品です。



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波の上を駆ける女 (文学のおくりもの 7)
アレクサンドル・グリーン 安井 侑子
晶文社 1972-01

by G-Tools

『波の上を駆ける女』(安井侑子訳 晶文社)

 ハーヴェイは、船で到着した人々の中に美しい少女を見かけて一目惚れをしてしまいます。ホテルの人間から少女の名前がビーチェ・セニエルであることを聞き出したハーヴェイでしたが、少女はすでに発った後でした。
 ある夜、友人とともにトランプに興じていたハーヴェイは、突然不思議な女の声を耳にします。その声は「波の上を駆ける女」という言葉をささやいていました。しかし周りにそんな女性はいないのです。
 港に出かけたハーヴェイは、停泊している船の中に《波の上を駆ける女》号があるのを見つけます。この船に乗らなくてはならないと考えたハーヴェイは、自分を乗せてくれと船長のゲスに交渉します。
 ゲスは断りますが、船主であるブラウンと直接交渉したハーヴェイは、船に乗ることに成功します。航海の途上、ビーチェ・セニエルの写真が船内に置いてあるのを見つけたハーヴェイは、船員から、船がかってビーチェの父親ネッドのものであったことを知ります。
 ことあるごとにゲスはハーヴェイに食ってかかり、二人の仲は険悪になっていました。ある夜、船客の女性に乱暴を働いたゲスを止めたハーヴェイでしたが、それが決定打となり、激怒したゲスはボートにハーヴェイを乗せ、海に放り出します。
 放り出される直前、ハーヴェイも見たことのない女性が突然現れ、ハーヴェイに同行するとボートに乗り込みますが…。

 耳にした「波の上を駆ける女」という謎の言葉をきっかけに、運命の恋人を求め海をさすらう男の幻想的な物語です。全体に非常にロマンティックなお話で、海の中に放り出されたり、殺人事件の容疑者になったりと、冒険小説的な要素もたっぷりです。
 主人公ハーヴェイを導く「波の上を駆ける女」とは何者なのか? 彼は運命の恋人ビーチェに出会えるのか? 宿敵ゲス船長との争いをはさみながら、舞台もまた海から地上へと移動していきます。

 アレクサンドル・グリーンの作品では、幻想的なモチーフが頻出するのですが、はっきりとした超自然現象が起こることは滅多にありません。しかしこの作品では、明確な超自然現象が起こるため、はっきり「幻想小説」といってしまっていいかと思います。
 冒険小説でもあり恋愛小説でもあり、運命劇でもある作品。しかしその「運命」も一筋縄ではいきません。話の流れから予定調和的なものを予想していた読者は結末で驚くかもしれません。邦訳があるグリーン作品の中では、一番の傑作といっていいのではないでしょうか。


 アレクサンドル・グリーン作品の邦訳は少なく、代表的な長篇『輝く世界』(月刊ペン社→沖積舎)、『黄金の鎖』(ハヤカワ文庫FT)、『波の上を駆ける女』(晶文社)、『深紅の帆』(フレア文庫)、短篇集『消えた太陽』ぐらいでしょうか。
 また近年、アルトアーツより『アレクサンドル・グリーン短篇集』が2冊ほど出ています。

 参考に『深紅の帆』のレビューも挙げておきます。
 夢のかなう国  アレクサンドル・グリーン『深紅の帆』

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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