FC2ブログ
徳間書店《ワールドホラー・ノベル》を読む
 《ワールドホラー・ノベル》シリーズ(徳間書店 1968年)は、主に1950年代に書かれた恐怖・ホラー小説を中心に刊行されたシリーズです。全4冊が刊行されました。4冊のタイトルは以下の通り。

 ロジャー・マンベル『呪いを売る男』
 アルフレッド・ヒッチコック編『私が選んだもっとも怖い話』
  →1970年代に『1ダースの戦慄 精選世界恐怖小説』(トクマ・ノベルズ)というタイトルで再刊
 キャサリン・ターニイ『寝室に棲む亡妻』
 エイブラム・メリット『魔女を焼き殺せ』
  →アトリエサードより新訳版が刊行

 刊行年度の古さもありますが、現在では非常に入手困難になっているシリーズです。先ごろまとめて手に入れる機会があり、読むことができたのですが、今読んでも非常に面白いエンターテインメント・ホラーのシリーズだと言えます。
 以下、内容について簡単に紹介していきたいと思います。



worldhorror04.jpg
 アルフレッド・ヒッチコック編『私が選んだもっとも怖い話』(邦枝輝夫訳)はアンソロジーです。収録作品も挙げておきましょう。

 ピーター・フレミング「獲物」
 レイ・ブラッドベリ「群衆」
 H・R・ウェイクフィールド「幽霊ハント」
 ウイリアム・サンブロット「タフな町」
 J・J・ファージョン「警官が来た!」
 フィリップ・マクドナルド「羽根を持った友だち」
 エドワード・L・ペリー「追いはぎ」
 アガサ・クリスティー「神の燈」
 シオドア・スタージョン「それ」
 ポール・エルンスト「小さな地底人」
 リチャード・マシスン「ぼくはだれだ!」
 ロバート・アーサー「悪夢のなかで」

 怪奇プロパーの作家だけでなく、ミステリ、SF系のホラー作品が多く収録されているのが特徴です。全体にレベルが高い作品集ですね。再刊された『1ダースの戦慄』の方は古書でも割とよく見ます。



worldhorror01.jpg
 エイブラム・メリット『魔女を焼き殺せ』は、2017年にアトリエサードより新訳版(森沢くみ子訳)が刊行されました。以前に書いたレビューのリンクを載せておきます。

 現実と幻想のあいだ  A・メリット『魔女を焼き殺せ!』



worldhorror02.jpeg
 ロジャー・マンベル『呪いを売る男』(岡本浜江訳)は、夢を介して間接的に襲ってくる怪異という、面白いテーマの怪奇小説です。

 小さな村の店で働くジェーンは、友人のマイラに、自分の見た奇怪な夢について話します。夢の中で巨大な屋敷が現れ、その内部には得体の知れない何かがいることを感じるものの、自分の意思とは無関係にその家に近づいていってしまうというのです。
 何とか目覚めることができたものの、非常な恐怖を味わったとジェーンは話します。しばらくしてやつれたマイラに出会ったジェーンは驚きます。マイラもまたジェーンと同じ夢を見ており、しかも夢の中ではジェーンよりも先に進んでいるというのです。
 やがて、マイラから夢の話を聞いたマイラの夫アルバートもまた悪夢を見た結果、重態に陥ります。治療に訪れた医師のモーガンは夢の話を信用しませんが、自らもまた悪夢を見ることになります。夢が人の間をたどっていくごとに内容が悪化していくことを認識したモーガンでしたが…。

 夢の話を聞くと悪夢が伝播していく…という題材の怪奇小説です。原因も詳細もわからず、悪夢がどんどんと広がっていく前半の不気味さは強烈です。夢の中に現れると言う屋敷の描写も非常に「怖い」ですね。
 後半「探偵役」ともいうべき人物が登場し、怪異現象の理由について絞込みがなされるため「怖さ」が途中で薄れてしまうのは残念ですが、そこからはどうやって悪夢から逃れるか…という手段を探る展開になり、こちらはこちらで非常に面白くなります。
 登場人物は数人なのですが、それぞれ描き込みが詳細でキャラクターが立っていますね。主役ともいうべきモーガンを始め、ジェーン、マイラ、アルバートといった脇役たちもいい味を出しています。
 お話自体はシンプルなのですが、全体を通して、怪異現象に対しての対抗策とそのための調査、と登場人物たちの目的がはっきりしているので、脱線部分がなく面白く読めます。200ページちょっとという短さながら、読後感は非常に充実しているのは、作家の手腕といっていいかと思います。



worldhorror03.jpeg
 キャサリン・ターニイ『寝室に棲む亡妻』(永井淳訳)は、黒魔術+幽霊譚というオカルト要素が強めの題材ながら、意外にも夫婦の絆や男女のロマンス、親子関係の機微など、登場人物たちの心理の綾を細やかに描いた、なかなかの佳作でした。

 結婚して別の町に暮らす妹ミランダから訪問の誘いを受けた姉のケティは、再会した妹がやつれているのを見て不審の念を抱きます。何かが自分に乗り移ろうとしていると話したミランダは、その直後に痙攣の発作を起こし流産してしまいます。目覚めたミランダはまるで別人のように振舞うようになります。
 ミランダは、自分はミランダではなく「フェリシア」だと話します。夫のディックはそれを聞いて戦慄します。「フェリシア」は数年前に事故死したディックの先妻だったのです。
 医者は、先妻のことを知ったミランダが、流産のショックからフェリシアのふりをしているのではないかと考えますが、ディックは先妻のことはミランダに話したことは絶対にないと言うのです。かっての義父母であり、フェリシアの親であるブラッドレー夫妻に会ったミランダは、彼らを親と呼び、自分がフェリシアである証拠として過去の事実を話し始めます。やがてブラッドレー夫人も自分の娘が帰ってきたと信じ始めます。
 知り合いの話から、ブラッドレー夫人が娘を甦らせるために、密かに黒魔術を行っていたという噂を聞くに及んで、ミランダの体はフェリシアに乗っ取られていることを信じ始めるディックとケティ。しかしディックは精神的に支配され、手出しができなくなってしまいます。
 やがてブラッドレー夫人は、ミランダを自分の元に返せとケティに迫ります。断れば何が起こるかはわからないと告げられたケティは、友人のモリーやジョンとともに、フェリシアの過去を調べ始めますが…。

 甦った先妻の霊に取り憑かれた妹を救おうと、姉が奮闘するという物語です。霊が本当に存在するのか?という点に関しては、序盤で決着がついてしまい、後は霊をいかにして追い出すか?という展開になります。
 取り憑いた先妻は生前から怪物的な人間であり、さらに黒魔術を操る母親のサポートまで受けているため、なかなか追い払うことができません。主人公を応援する協力者はいるものの、主人公含め魔術の領域では皆、素人であり、全篇を通して、主人公ケティの孤軍奮闘が続きます。
 登場人物たちの関係は非常に複雑で、それぞれの思惑や関係性がドラマを盛り上げていくとことも魅力の一つになっています。先妻フェリシアそのものになったミランダに当惑する夫ディック、ディックとケティの仲を勘繰るフェリシア、 恋人ジョンが過去にフェリシアと関係があったという噂を聞き動揺するケティ、娘に執着するブラッドレー夫人、妻と娘に対し恐れを抱くブラッドレー、そして時折現れる本来の人格であるミランダ。ケティはミランダを救えるのでしょうか?
 登場人物同士が繰り広げるドラマ部分に非常に魅力がある作品で、「ホラー心理小説」とでも呼びたくなります。現代風「ゴシック・ロマンス」の趣きもある佳作ですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
おめでとうございます。
 稀少な本を入手されましたね。おめでとうございます。
 なんとなく6~7冊出たような気がしていたのですが、4冊だけでしたか。
 私が所有しているのは『私が選んだもっとも怖い話』と『魔女を焼き殺せ』の2冊です。6冊も7冊もあるならお手上げですが、全4冊とわかると、揃えてみたくなるような……。
 ちなみに、『私が選んだもっとも怖い話』の新装版・袖には石川喬司さんが寄稿。オールドリッチ「人類最後の男が……」を紹介し、恐怖小説について語っています。私にとっては、オリジナルよりもこの新装版のほうが貴重です(笑)。
【2018/05/14 14:13】 URL | 高井 信 #nOdkmSi2 [ 編集]

> 高井信さん
ありがとうございます。昔から気になっていたシリーズなので、入手できて感無量です。4冊揃いだとかなり難しいですが、バラであれば、揃えるのもそれほど難しくないかもしれません。

新装版にも石川喬司さんの文章が載ってるのですね。シリーズの一冊に入っていた月報に石川喬司さんの文章が載ってるのですが、もしかして使いまわしているのでしょうか。
【2018/05/14 20:59】 URL | kazuou #- [ 編集]

月報!
へえ。月報なんてあるんですねえ。うちの本(新装版も合わせて3冊)には付いていません。
>もしかして使いまわしているのでしょうか。
新装版については月報をなくし、その代わりに袖に文章を載せたということも考えられますね。こういう推理は楽しいです。
【2018/05/14 22:25】 URL | 高井 信 #nOdkmSi2 [ 編集]

月報
今回、シリーズを3冊同時に手に入れたのですが(『魔女を焼き殺せ』以外の3冊です)、月報は一つしかついていませんでした。これも何種類あるのかも不明です。

おっしゃるとおり、月報の一部を袖に転用したのかもしれませんね。こういう新装版とか異装版は、時間が経つと詳細がわからなくなってしまいます。
【2018/05/14 22:36】 URL | kazuou #- [ 編集]

読欲そそられます。
表紙からいいですね。kazuouさんの紹介読むと、あれこれ読みたくなりますが、速度がついていけないです。
【2018/05/16 08:38】 URL | ひとみ #- [ 編集]

>ひとみさん
今見ると、表紙もレトロな感じがしていいんですよね。このシリーズは内容も、それぞれ独自の面白みがあります。メリットの一冊だけ新訳版が出ましたが、他の作品も復活させてほしいなあ…と思うような作品でした。

あれこれ、いろんな作品について書き散らしてしまって申し訳ないです。ご興味のあるものだけでも参考にしていただければと思います。

【2018/05/16 18:54】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/800-ee1e8a87
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
twitterアカウントは@kimyonasekai



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する