巻き戻される愛  ロアルド・ダール他『壜づめの女房』
20060219123711.jpg

 最新版の刊行が始まった、早川書房の『異色作家短編集』ですが、今回新編集のアンソロジーが入る代わりに弾かれた巻があります。それがこれ、ロアルド・ダール他『壜づめの女房』(早川書房編集部編)です。確かに他の巻に比べると、それほどのクオリティではないという気もするのですが、やはり中には捨てがたいものも。
 近所の家庭の内情が聞こえる不思議なラジオの話ジョン・チーヴァー『非常識なラジオ』、小説のプロットを教えてくれる小人が見えるようになった作家を描くビル・ヴィナブル『剽窃』、純真無垢な殺人犯の奇跡譚マルセル・エイメ『変身』、自分の幽霊に出会う男の物語アンソニイ・バウチャー『私の幽霊』などは、なかなかに捨てがたい作品です。
 しかし一番印象に残るのは、J・T・マッキントッシュ『プレイバック』です。
 ある月曜の夜、酒場《ゴールデン・スワン》で、男たちが議論を交わしながら、たむろしています。愛妻家で知られる温厚な男バート・シドンは、妻マーサをいまも熱烈に愛していると語り、皆から冷やかされます。

 「わたしは、もし、世界中の女から一人えらべといわれても、やっぱりマーサをえらぶでしょうね」

 やがて議論はふとしたことから、時間旅行の可能性に及ぶことになります。物知りの《教授》は、時間旅行は不可能だと語りますが、バートはそれに否定的な意見を述べます。彼によれば、タイム・マシンなどは必要ない、過去を完全に思い出せたなら、それで過去に戻ったことになる、というのです。
 他のものは、時間旅行ができれば金儲けが出来ると言い出しますが、バートは今のままで幸せだと語ります。

 「ええ…マーサみたいな女をまた見つけるには、なん回か、人生を繰り返さなきゃならんでしょうからね」

 意味深な発言を残して、帰宅したバートは、愛妻マーサを見て、ふと心を痛めるのです…。
 彼が心を痛める理由とは? バートは本当にタイム・トラベラーなのでしょうか? 彼は過去に戻ったことがあるのでしょうか? 避けられない悲劇を暗示するこの作品は、切ないラブストーリーとして読むこともできます。時間SFの傑作です。
 最後に気になっている方もいると思うので、表題作の紹介も少し。誤解させるような表記なのですが、『壜づめの女房』の作者は、ダールではなく、マイクル・フェッシャーです。内容はユーモラスなとんち話といった趣で、とりたてて言うところのない作品です。

テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
コメントありがとうございました。
先日は当ブログにコメントを寄せていただきましてありがとうございます。お返事が遅れまして申し訳ございません。
「埋もれた短編発掘!」・・・楽しく読ませていただきました。看板に偽りなく、本当に読みたくなりたくなるすばらしい紹介文だと思います。
「異色作家短編集」・・・新版で何冊か持っているため、このたびの最新版ではブラウンやスタージョンなどだけ買おうかと考えてはいたのですが(笑)。紹介された短編が非常に気になってなりません。上記の短編は新編集のアンソロジーに分載されるのでしょうか?
【2006/02/13 23:19】 URL | げし #ItxbjV56 [ 編集]


今回これは弾かれるんですね。代わりの新編集というのは「イギリス編」と「世界編」でしょうか?
あとリンク貼ってくださってどうもです。自分も貼らせていただきますね。kazuouさんに刺激されたので、自分も負けじとどんどん本を読んでいきたいと思います(笑
【2006/02/14 00:15】 URL | そら #- [ 編集]

アンソロジーは、完全新編集?
>げしさん、こんにちわ。
埋もれた短編コーナーは、ほとんど再刊の可能性がない作品をとりあげているつもりです。それだけに知名度がないんですよね。昔のミステリマガジンの読者もそう考えた人が多いみたいで、お便りコーナーを見ると、オリジナルアンソロジーを出してくれという要望がよくあったようです。未だに全く出てませんが…(笑)。
異色作家短編集の新編集の三冊のアンソロジーには、『壜づめの女房』収録作は、全く入らないようです。詳しくは、編者の若島正さんのページで内容に触れていますので、ご参考までに
http://www.wombat.zaq.ne.jp/propara/diary/200510.html
【2006/02/14 09:43】 URL | kazuou #- [ 編集]

あと、アメリカ編らしいです。
>そらさん、どうも。
新編集は、アメリカ編、イギリス編、世界編の三冊らしいです。収録作家はみな魅力的なのですが、どうも一抹の不安が…。若島正さんは、ものすごい目利きなのですが、スタージョンの編著や自身の著書を見る限り、かなり玄人好みなんですよね。エンターテインメント性においては、どうかな…、という点が気にかかります。もっとも異色作家短編集自体が、もともと玄人を想定してはいるのですが。
それでは、僕もいよいよマニアックな…、いえ面白い本を読んでいきたいと思います。
【2006/02/14 09:52】 URL | kazuou #- [ 編集]

新編集
こんばんは。
異色作家短編集、最新版と以前のものでラインナップが変わってしまうんですね。
kazuouさんの記事を読むとこの「壜づめの女房」も読みたくなって図書館の所蔵を検索してみたのですが置いてありませんでした・・・。

実はわたしも短編好きなので(といってもたいして読んでないんですけど 汗)、こちらのブログはとっても参考になります。
更新楽しみにしてますね!
【2006/02/14 21:11】 URL | nine #RS4k0RpE [ 編集]

残念!
それは残念ですね。ちなみに収録作品のうち、現行本で読めるものを挙げときます。ジョン・チーヴァー『非常識なラジオ』は早川書房『ニューヨーカー短編集2』収録、ロード・ダンセイニ『災いを交換する店』は『不幸交換商会』のタイトルでロード・ダンセイニ『世界の涯の物語』河出文庫に収録、ロアルド・ダール『マダム・ロゼット』はロアルド・ダール『飛行士たちの話』ハヤカワミステリ文庫に収録。
マッキントッシュ『プレイバック』は、絶版なんですけど、福島正実編『時と次元の彼方から』講談社文庫にも収録されてます。こちらは図書館にあるかも。
あとマッキントッシュは、アシモフ他編『クリスマス13の戦慄』新潮文庫に収録されてる『フェイカーの惑星』という作品がすごく面白いのでおすすめです。これもまた絶版(すいません)なんですが、古本屋でもしゅっちゅう見るので、機会があったらどうぞ。
【2006/02/14 22:10】 URL | kazuou #- [ 編集]

ありがとうございます!
うわー、わざわざ教えてくださってありがとうございます。
kazuouさん、本当に詳しいですね。すごい。
しっかりメモって探してみます。
【2006/02/17 14:40】 URL | nine #- [ 編集]


再読しようと思って(やっと)図書館でかりました。
やっぱり面白いですよね。
絶版なのが本当に悔やまれます。
【2010/07/27 18:37】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
新版の異色作家短編集が完結して、この巻だけ、またプレミアがついちゃいましたね。
それほどの傑作ではないものも含めて、味わいのある作品集だとは思うので、この巻も復刊していただきたいところですよね。
【2010/07/27 20:05】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/8-ebfecc1a
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する