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邪悪な部屋  S・L・グレイ『その部屋に、いる』
4150414297その部屋に、いる (ハヤカワ文庫NV)
S L グレイ S L Grey 奥村 章子
早川書房 2018-03-06

by G-Tools

 南アフリカで教員を務めるマークは、20歳以上年下の妻ステファニーと娘のヘイデンと暮らしていました。強盗に入られたことをきっかけに、夫婦の間にわだかまりが生まれるなか、夫妻は、友人から短期間の自宅交換(ハウススワップ)を勧められます。
 パリにおしゃれなアパートを持つという、プティ夫妻と契約したマークとステファニーは、早速現地に向かいますが、実際のアパートは話に聞いていたのとは程遠いものでした。手入れがされていないのはもちろん、その部屋にいると、なぜか陰鬱な気分になるのです。
 階上に住む女性は奇矯な行動を取り、夫妻にその部屋に住んではいけないと警告しますが、理由は全く説明しません。パリでの生活を無理にでも楽しもうとする夫妻でしたが、クレジットカードは使えず、手元の現金も少なくなっていきます。プティ夫妻と連絡をとろうとするものの、連絡はとれません。
 そもそもプティ夫妻は、南アフリカの自宅に姿を現していないというのです。この部屋はいったい何なのか? 部屋の履歴を探ろうとする夫婦でしたが、やがて夫のマークの様子がおかしくなり始めます…。

 南アフリカ作家S・L・グレイによる『その部屋に、いる』(奥村章子訳 ハヤカワ文庫NV)は、強烈な「気色悪さ」を持ったホラー小説。心霊的なテーマを扱っており、題材としては目新しくはないのですが、欧米の作家によるそれとはどこか違った空気が感じられる作品です。

 夫のマークは、かって自分のミスで先妻との娘を死なせてしまったというトラウマを持っています。加えて、強盗に入られたときに何もできなかったという無力感から、精神のバランスを崩していました。
 経済的な苦しさもあり、若い妻は夫に対して不信感を抱きつつあるなか、パリの生活でそれが頂点に達します。陰鬱な「部屋」の影響によりおかしくなっていくマークに対して、妻は恐怖を感じるようになっていくのです。

 「部屋」に何か秘密があることはわかるのですが、基本的には「部屋」において明確な心霊現象はほとんど起こりません。登場人物に不可解な影響を及ぼすという形で存在感を発揮するのです。
 小説は、夫マークと妻ステファニーの語りが交互に現れるという体裁なのですが、マークが問題ないと思っている行動が、ステファニーにとっては不気味でおかしい行動として目に映っています。このあたり、もともとあった夫婦間の価値観の違いが、「心霊的」な意味で更にも膨らんでいくということでしょうか。

 南アフリカの作家ということもあり、欧米型のホラー小説とは、どこか雰囲気が違います。南アフリカの土地も出てきますが、アフリカの土俗的な要素はほとんどなく、無国籍的な雰囲気が漂います。全体に、何というか妙に「間の悪さ」を感じさせる演出で、これが不気味さを増しているのです。
 作者のグレイはどんな人なのかと思ったら、以前『黙示』(府川由美恵訳 ハヤカワ文庫NV)という作品が邦訳された作家サラ・ロッツと、ルイス・グリーンバーグという人の合作ペンネームだったのですね。そういえば『黙示』も、説明しにくい妙な雰囲気の作品でした。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
花の都パリ
パリのアパルトマンとか言われたら期待してしまいますよね。それがあんな部屋で、自由にグルメやショッピングも楽しめないとなったらストレスしか無い!終わり方も不気味でモヤモヤとしました。マシスンの切れ味の良さやクーンツのカタルシスとは違ってJホラーのドラマを見た後みたいな。
【2018/04/25 08:59】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
端的に言って「嫌な話」でしたね。明確な形ではないのですが「Jホラー」の影響はあるような気がします。どろどろしてはいましたが、それほど陰湿には感じられないところが、また面白い作品ではありました。
【2018/04/26 15:17】 URL | kazuou #- [ 編集]


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