カメラはまわっているか?  ジョン・シンプソン監督『フリーズ・フレーム』
B000E0L8E8フリーズ・フレーム
リー・エヴァンス ジョン・シンプソン ショーン・マッギンレイ
キングレコード 2006-04-05

by G-Tools

 現代において、カメラは社会のあちこちに存在します。自分の知らないうちに自分の行動が監視されている、そんな不安を抱く人間も少なくないはず。しかし逆に言えば、それは自分のアリバイを提供してくれる装置でもあるのです。この作品の主人公のように…。
 ジョン・シンプソン監督『フリーズ・フレーム』(2004 英・アイルランド)は、アリバイ作りのために、偏執狂になってしまった主人公を描くスリラー。
 残忍な一家殺人事件の容疑者となり、誤認逮捕された経験のある男ショーン・ヴェイルは、そのことから精神的なショックを受け、被害妄想に陥っています。濡れ衣を着せられたと考えるショーンは、また事件の容疑者にされないように、アリバイを作ることを考えます。そしてショーンがとったのは、信じられない行動!
 それは、四六時中、自分をカメラで撮影し続ける、というものでした。家に何十台ものカメラを据え付け、外出するときには体にカメラを装着する。以来その行動は、10年間に及んでいます。ビデオの数は何万本にもなっていました。
 自分を冤罪に追い込んだ心理学者シーガーの演説会場に現れたショーンは、自らの無実を訴えますが、会場からつまみ出されてしまいます。興味をもった女性記者は、ショーンに話を聞かせてくれと迫ります。相手にしないショーンでしたが、彼女が一家殺人事件の被害者の家族であることを知り、自分の家に案内します。
 そのとき、突如侵入者が現れます。それは警察でした。新たな殺人が起こり、容疑がかけられているというのです。その刑事は、以前の事件でショーンをむりやり自白に追い込もうとした人物でした。自信ありげにアリバイを写したテープを探すショーンでしたが、その事件の日のテープだけが盗まれていたのです!
 ショーンは隙を見て逃げ出します。殺人事件の犯人が自分だと頑ななまでに信じる心理学者シーガーが自分を陥れようとしたと考えるショーンは、シーガーの自宅に忍び込みます。彼が自分を陥れたという確信を得たものの、目的を果たせずに逃げ出します。
 結局警察に出頭することになったショーンは、シーガーの死体を見せられます。これも陰謀の一部なのか? ショーンは真犯人の証拠を探すのですが…。
 アリバイを作るため10年間もずっと自分を監視し続ける男。実に独創的なアイディアです。厳重な監視に置かれた家には何十台ものカメラ装置。そして何万本ものビデオが収納された倉庫。そして偏執狂じみた行動をとるショーンは、周りの人間から見れば露骨に怪しい人物であり、殺人者であると疑われかねません。
 必死で撮りためたビデオにもかかわらず、ショーンは警察にマークされてしまいます。そして彼が陥る危難。その展開は不条理といってもいいくらい、やたらと悲惨な目にあい続けます。彼を犯人扱いする刑事と心理学者。刑事に至っては署内で公然と暴力行為に及ぶ始末。
 一方、彼の無実を信じる女性記者も登場するものの、ほとんど役に立ちません。結末まで主人公の悲惨な受難が続くばかりです。これで結末まで悲惨だったら後味が悪すぎだなと思いましたが、なんとか結末で主人公は救われます。
 次から次へと主人公に苦難が降りかかる、その展開は興味をそそるのですが、いかんせんテンポが悪すぎます。主人公の境遇を説明する描写が、だらだらと続く序盤に至っては、かなり退屈です。結末の真相も驚きはするものの、伏線がどうも弱く、唐突の感を拭えません。
 設定がどうもプロットに有機的に絡んでこないのです。ビデオに主人公の記憶にない行動が映っている、とか不可能状況をもっと強調していれば、もっと面白くなったように思うのですが。
 設定でミステリ的な興味を高めるというよりは、神経症的な主人公のサイコスリラー的な側面が強調されすぎている感じがします。ユニークな設定を生かし切れなかったという感が強い作品。非常に惜しいです。

テーマ:洋画 - ジャンル:映画

この記事に対するコメント
設定最高!
この設定でおもしろくならないわけがないと思うんですが…。

アリバイ作りのために始めたビデオ撮影が、ある時期から当初の目的から逸脱してしまって、ビデオを撮ること自体が目的化していてもおもしろそうです。ゴミ屋敷の住人の論理ですね。そういえば、「猫を4匹以上飼い出すと危ない人」みたいな小説ありましたよね?
ビデオを撮って、ビデオを見る、それもまた撮られている。それをまた見る…果てしなく続きそうです。…おもしろくないか。

偏執狂シリーズも興味深いです。
【2006/05/12 19:57】 URL | 加納ソルト #- [ 編集]


まあ設定が設定ですし、つまらなくはないんですよ。それなりに面白い。
でも、もっと面白くできるところが、できてない、と思わせられてしまうところが、ちょっと甘い感じがします。
ビデオを撮っているところを、さらにビデオに撮る…というような、入れ子風の展開は、残念ながらないんですよね。
あと主人公が、あまりに偏執狂的で感情移入できないところと、あまりに悲惨な目にあい続けるところが、見ていて痛々しい、というのもあります。
とりあえず一見の価値はある作品ですよ。
【2006/05/12 20:12】 URL | kazuou #- [ 編集]

ビデオカメラは電気くらげを写すか
アイディアが興味深い。凶悪犯罪の増加(という社会的認識)から監視カメラがどんどん増えている今の世相からすると、いずれ自分のアリバイは自分で証明するということになるような気がします。
おそら現実に実現するのは、ICチップを体内に埋め込むことを義務づける法案が通って、全国民の生活は中央コンピュータの監視するところになる。そして誰もそれをおかしいと思わない。ICチップを自ら除去するグループが出現して月に追放される(死刑が廃止されているので)。そして20年後‥
【2006/05/13 23:16】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

ディック風に…
そして20年後…、予知能力を持つ主人公は、その能力ゆえに当局に監視されていたが、ICチップを埋め込んでいない人間に出会い、レジスタンスグループに参加することになる。それを察知した当局は、彼の家族を人質にとろうとするが、主人公は能力を駆使し、間一髪で救い出す…。
ちょっとディック風の妄想を続けてみました。
ICチップ、そんなのあり得ない、とか言い切れないところが、ちょっと怖い気もしますね。恐るべし管理社会!
【2006/05/13 23:26】 URL | kazuou #- [ 編集]


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