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さまざまな怪奇  E・F・ベンスン『見えるもの見えざるもの』
488375300X見えるもの見えざるもの (ナイトランド叢書3-1)
E・F・ベンスン 山田 蘭
書苑新社 2018-02-19

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 2016年度刊行の『塔の中の部屋』に引き続き、E・F・ベンスンの怪奇小説集『見えるもの見えざるもの』(山田蘭訳 アトリエサード)が刊行されました。
 E・F・ベンスン(1867-1940)は、クラシカル怪奇小説の時代の人だけに、オーソドックスなゴースト・ストーリーが集められているんだろうなと思いがちなのですが、読んでみて驚くのが、題材やテーマの多様さです。シンプルな怪物や幽霊が登場するものから、SF的なもの、奇妙な味など、非常にバラエティに富んでいるのです。
 またオーソドックスなテーマを扱っていても、変わったひねりがあったりと、その語り口も技巧的なのです。例えば、巻頭の「かくて死者は口を開き」。死者の声を聞く研究をしている男が、殺人容疑がありながら無実になった女を家政婦として雇う…という、何とも不穏な設定の物語。最後まで目が離せません。

 二篇目の「忌避されしもの」も傑作。美人で気さくな女性ながら、なぜか誰にでも忌まわしい気持ちを抱かせてしまう未亡人エイカーズ夫人。彼女の正体は…? 作中で夫人を形容する言葉「魂が吐き気をもよおす」が強烈です。

 既にアンソロジーなどで既訳のある作品も多く入っているのは、この作品集のレベルの高さの証拠でしょうか。「雪男」の登場する怪物ホラー「恐怖の峰」、霊的な怪物の登場する「幽暗に歩む疫病あり」、吸血鬼ものの名作「アムワース夫人」、予知と幽霊を組み合わせた「地下鉄にて」などは、どれも上質な怪奇短篇です。

 語り口がどれも非常にこなれており、時にはユーモアさえ感じさせます。それが強く出ているのが「ティリー氏の降霊会」で、これはなんと降霊会に行く途中で死んでしまった主人公が、そのまま降霊会に出現するという、ユーモア・ゴースト・ストーリー。

 巻末の「ロデリックの物語」では、ベンスン自身らしい怪奇小説家が登場し、自作の作品が言及されます。内容自体は、かって別れた恋人の死に目に会いに訪れた男性が、病で変わり果てたはずの恋人の美しい姿を幻視する…というジェントル・ゴースト・ストーリーです。「救済」を予感させる結末もあり、後味が非常にいい作品になっています。

 「ティリー氏の降霊会」のような、軽みのある作品から、重厚な怪奇作品まで、取り扱われているテーマやタッチが多様で驚きます。一冊を通して読んで、これだけ豊かな発想を感じた怪奇小説集は本当に久しぶりでした。やはりベンスンは「巨匠」といっていい作家だと思います。
 ベンスンには、四冊の怪奇小説集があるそうですが、残りの二冊の邦訳も、ぜひ実現してもらいたいものですね。

 『塔の中の部屋』の感想はこちら
 

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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