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最近読んだ本

B000J8HUBAローマの白い午後 (1979年) (Hayakawa novels)
ヒュー・フリートウッド 小沢 瑞穂
早川書房 1979-04

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ヒュー・フリートウッド『ローマの白い午後』(小沢瑞穂訳 早川書房)

 未亡人バーバラは、資産家の娘キャスリンの家庭教師としてローマに移住することになります。知的障害のあるキャスリンは母親に疎まれていましたが、バーバラはキャスリンをかわいがるようになります。順調な生活のなか、突然、バーバラの恋人デヴィッドが失踪してしまいます。
 デヴィッドはキャスリンの母親メアリィと不倫のあげく殺され、死体は屋敷の庭に埋まっている、というキャスリンの話に動揺するバーバラでしたが、メアリィはキャスリンの空想だと一顧だにしません。しかし、メアリィの言動にも不審な点があることに、バーバラは気付きます。
 嘘をついているのは、キャスリンなのかメアリィなのか? やがてキャスリンは資産家だった自分の父親も、金目当てにメアリィに殺されたと言い出しますが…?

 キャスリンの話が本当なのかどうか? というところがポイントです。周りの人間は空想だと取り合いませんが、空想にしてはリアリティがありすぎるのです。そもそもキャスリンは本当に障害があるのか、そのふりをしているのではないのか?という疑いも発生してきます。
 キャスリンの母親メアリィもまた不審な言動をする人物であり、バーバラはどちらを信じたらいいのかわからなくなってしまいます。夫を亡くし、実母とも問題を抱えるバーバラの精神のバランスが崩れていくなか、とうとう不穏な事件が起こります。

 全体的に筋の起伏が少ない作品なのですが、登場人物同士の心理から醸し出されるサスペンスが非常に強烈な作品です。主要な登場人物が数人であり、舞台もほとんど動かず、事件もほとんど起こらないなかで、これだけサスペンスを高められるのは、この作家、かなりの妙手ではないでしょうか。ユニークな異常心理サスペンス小説です。



B000J9499Kきみはぼくの母が好きになるだろう (1971年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)
ネイオミ・A.ヒンツェ 青木 久恵
早川書房 1971

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ネイオミ・A・ヒンツェ『きみはぼくの母が好きになるだろう』(青木久恵 ハヤカワノヴェルズ)

 ヴェトナム戦争で夫のマシューを失った若妻フランシスカは、臨月の体を抱えていました。実家に絶縁されていたフランシスカは、夫の母親を頼ろうと考えます。生前、夫は母親を優しい人だとしきりに言っていたのです。
 たずね当てた田舎の夫の家は、広壮な邸宅でした。しかし出迎えた義母は、終始冷たい態度で対応します。看護婦でもあるという義母はその冷たい態度にもかかわらず、しきりにフランシスカに泊まっていけと勧めます。直後に産気づいたフランシスカでしたが…。
 作品が始まった時点で、ヒロインは頼る人もお金も全くない状態で、唯一頼れる可能性のある義母を訪れることになるのですが、この義母が冷血な人で、次から次へと相手の心をえぐるようなことを言うのです。
 亡夫の話とあまりに異なる義母の姿に不審の念をおぼえたヒロインは、亡夫から来た手紙を探して読もうと考えます。直後に産気づいてしまったヒロインは、嫌々ながら、元看護婦だという義母の世話になることになるのです。

 夫を失った身重の若妻が恐ろしい目にあう…というゴシックロマンス風恐怖小説です。最初から最後まで、心理的にじわじわと嫌な話なのですが、気弱なヒロインが生きる気力を取り戻したりと、後味は悪くありません。現代的な味付けのゴシック小説として、秀作といっていいかと思います。



4566012425時をさまようタック (児童図書館・文学の部屋)
ナタリー バビット Natalie Babbitt
評論社 1989-12-01

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ナタリー・バビット『時をさまようタック』(小野和子訳 評論社)

 十歳になるフォスター家の一人娘ウィニーは、家出代わりに森の散策に出かけますが、そこで泉の水を飲む少年ジェシィと出会います。自分も水を飲もうとするウィニーでしたが、なぜかジェシィは水を飲ませようとしません。
 やがてジェシィの母のメイと兄のマイルズが現れたかと思うと、ウィニーは無理やり彼らの家に連れていかれてしまいます。そこで聞いたのは、彼らタック一家の秘密でした。 タック一家は、泉の水を飲むことで不老不死の命を得たこと、ジェシィは見かけは少年だが百歳を越える年齢であること、など。
 タック一家はウィニーに不老は決して贈り物でないことを語り、この秘密をばらさないように頼みますが…。

 児童文学枠で出版されている作品なのですが、「不死の命」をテーマにした意欲的な作品です。これは大人の読者にもぜひお勧めしたい作品。
 限りある命だからこそ価値がある…というテーマを扱っています。幼いヒロインがタック一家との交流を通して命の価値を知るという真摯な展開で、シンプルゆえにストレートにテーマが伝わってきますね。



4087605930屍車 (集英社文庫)
ジョー シュライバー Joe Schreiber
集英社 2009-11

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ジョー・シュライバー『屍車』(戸田裕之訳 集英社文庫)

 シングルマザーのスーは、幼い娘を誘拐したという電話を受けますが、犯人の男は、自分の言うとおりにしなければ娘を殺すと宣言します。男の指示は、決められたルートで車を運転しろというもの。車に乗り込んだスーが見たものは死体でした。男の目的とは一体何なのか…?

 最初は、誘拐犯の正体も目的も皆目わかりません。娘を助けたい一心で車を走らせるヒロインですが、やがて彼女のトラウマ的な過去が事件に関係していることがわかり、それは過去の連続殺人にも関わってくるのです。そしてドライブの途中で発生する超自然的な現象とは…。

 誘拐サスペンスに、連続殺人の謎、さらにオカルトとアクションを取り込んだ、サービスてんこ盛りのホラー小説です。
 物語の「緩急」がほとんどなく、ほぼ「急」で出来ているというノンストップスリラーです。題材がオカルティックで、いわゆるB級作品なのですが、読んでいる間は全然気になりません。犯人の「壮大な計画」には驚かされるのではないでしょうか。
 作者シュライバーの作品は、2009年に邦訳紹介されたこの作品だけのようですが、他の作品も読んでみたいところです。



4488010733嘘の木
フランシス・ハーディング 児玉 敦子
東京創元社 2017-10-21

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フランシス・ハーディング『嘘の木』(東京創元社)

 有名な博物学者であるサンダリー師は、その発見が捏造だという噂が広まり、家族を連れて逃げるようにヴェイン島に移住します。しかし噂は島にもすぐに広がり、一家は住民たちから村八分にされてしまいます。
 娘のフェイスは父親の無実を信じますが、直後にサンダリーは謎の死を遂げます。住民たちがサンダリーを墓地に葬ることに対して反対するなか、フェイスは父親は殺されたのではないかと考え、遺された書類を調べ始めます。
 そこで判明したのは、サンダリーは嘘を養分にするという「嘘の木」を密かに育てていたということでした。その実を食べると、真実がヴィジョンとなって現れるというのです。フェイスは「嘘の木」を利用して父親の死の謎を解こうとしますが…。

 作中に登場する「嘘の木」の印象が強烈です。人間がついた嘘を養分として実をつけ、その実を食べると、嘘にかかわる真実のヴィジョンが見えるようになるというのです。また、その嘘が大きければ大きいほど、大きな真実が得られるという設定。
 父親の「真実」を証明するため、ヒロインのフェイスはあえて「嘘」をばらまいていかなければならないという皮肉な展開になっていきます。その過程で、登場人物たちの「嘘」と「真実」も明らかになっていきます。善人だと思っていた人間が悪人であったり、その逆もまたしかり。殺人犯はいったい誰なのか?

 舞台がヴィクトリア朝、女性が社会的な地位をあまり認められていない時代という背景があり、その中でもフェイスはさらに立場が弱い少女として描かれています。その限られた条件の中で、強い意志を持って奔走するヒロインの姿は印象的ですね。
 少女の成長小説であり、殺人の謎を解くサスペンス・スリラーでもあるという、一級品のエンターテインメント。評判になるのも頷けます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

いつもながら、すごい読書量ですね。私はもともと読むのが遅いですが、大人になってから、読書量が減りました。うらやましいです。
【2018/03/20 14:12】 URL | ひとみ #- [ 編集]

> ひとみさん
いえいえ、僕の場合、エンタメ作品が多いのと、けっこう飛ばし読みが多いので…。
最近は、同じテーマのまとめ読みをすることが多いのですが、この方法だと結構読めるのですよね。例えばあるテーマを決めたら、積読の中から、それに類するだろうテーマの本を何冊か出してきて、続けて読むと、けっこう読書が進みます。
もともと興味があって買った本を積読してるので、さらにテーマで絞ると読むモチベーションが生まれる…ような気がしています。
【2018/03/20 21:09】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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