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幽霊船をめぐって
B01LTHNM7A文学季刊 牧神4 特集●海洋冒険小説 / 読書案内
八木敏雄 出口裕弘 高山 宏 一色次郎 南洋一郎
牧神社 1975-10-30

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 先日、古書店で、雑誌『牧神』の四号を購入しました。『牧神』は、1970年代に牧神社から出ていた文学季刊誌です。牧神社は、平井呈一訳『アーサー・マッケン作品集成』や同じく平井編のアンソロジー『こわい話 気味のわるい話』などを初めとして、幻想文学系の本をよく出していた出版社です。それだけに、この雑誌『牧神』も、その手の幻想文学系の特集を多く組んでいました。
 この『牧神』、創刊号が《ゴシック・ロマンス》、二号が《不思議な童話の世界》、三号が《幽霊奇譚》と、非常にマニアックな特集をしています。
 《ゴシック・ロマンス》は、タイトル通りラドクリフ、M・G・ルイス、マチューリンなどのゴシック・ロマンスの特集、《不思議な童話の世界》は、海外の童話やファンタジーの特集、《幽霊奇譚》はゴースト・ストーリーの特集です。一号まるまるゴシック・ロマンスの特集をした雑誌なんて、僕もこれ以外見たことがないです。

 さて、四号の特集は《海洋冒険小説》で、幻想文学そのものではないのですが、目次に「幽霊船の小説」(富山太佳夫)というエッセイがあったので、気になって購入しました。
 さっそく目を通したのですが、欧米の幽霊船小説の系譜を語った面白いエッセイでした。ポオの「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」「壜の中の手記」、H・P・ラヴクラフト「白い船」、フレデリック・マリヤット「幽霊船」、ハーマン・メルヴィル「ベニート・セレーノ」などについて触れられています。

 そういえば幽霊船って、ホラーでは定番のネタで、怪奇実話や映画なんかではよく聞きますが、幽霊船をテーマとして扱っている小説って、意外に少ないような気がします。『幽霊海賊』(夏来健次訳 アトリエサード)を初めとして、W・H・ホジスンの作品ではちょくちょく出てくるような気がするのですが、他に何かあったっけ?と考えてみました。
 すぐ思いつくのは、以下のような作品でしょうか。

リチャード・ミドルトン「幽霊船」(南條竹則訳『幽霊船』国書刊行会 収録)
クロード・ファレール「幽霊船」(青柳瑞穂訳『怪奇小説傑作集4』創元推理文庫 収録)
ヴィルヘルム・ハウフ「幽霊船の物語」(種村季弘訳『魔法物語』河出書房新社 収録)
ガブリエル・ガルシア・マルケス「幽霊船の最後の航海」(鼓直訳『エレンディラ』ちくま文庫 収録)
コナン・ドイル「ジェ・ハバカク・ジェフスンの遺書」(延原謙訳『ドイル傑作集2 海洋奇談編』新潮文庫 収録)
澁澤龍彦「マドンナの真珠」『澁澤龍彦初期小説集』河出文庫 収録)

 あと、ホラーアンソロジーシリーズの《異形コレクション》には『幽霊船』の巻があって(井上雅彦監修『幽霊船 異形コレクション』光文社文庫)、これは意欲的で面白い巻でした。やっぱり古風なテーマだということもあり、現代に近い時代の作品では少ないですよね。

4334731139幽霊船―異形コレクション (光文社文庫)
朝松 健 安土 萌 飯野 文彦 石神 茉莉 石田 一 薄井 ゆうじ 江坂 遊 奥田 哲也 小沢 章友 井上 雅彦
光文社 2001-02

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 そういえば、最近の作品でも幽霊船を扱った小説があったなと思い出しました。スペインの作家、マネル・ロウレイロの『最後の乗客』(高岡香訳 マグノリアブックス)という小説です。

4775526480最後の乗客 (マグノリアブックス)
マネル・ロウレイロ 高岡 香
オークラ出版 2017-03-25

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 最愛の夫を失ったばかりの新聞記者のケイトは、同業だった夫が最後に調べていた案件を引き継ぐことになります。それは、実業家フェルドマンが手がける奇妙なプロジェクトでした。
 第二次大戦中、航海中の貨物船が、漂流するナチスの船を発見します。晩餐室に用意された料理は出来立てにもかかわらず、乗員と乗客は誰もおらず、見つかったのはたった一人の男の赤ん坊だけでした。
 助けられた赤ん坊は成長し大富豪となります。その大富豪こそ、フェルドマンであり、彼は自らの出自を探るために、漂流船を当時の状態のまま復元し、可能な限り当時と同じ航海を再現しようと考えているというのですが…。

 赤ん坊以外の乗客は一体どこに消えてしまったのか? フェルドマンの奇妙な計画の意図とはいったい何なのか? 強烈な謎の魅力があり、読者を引っ張っていきます。
 読者の予想通り「幽霊」が出現するのですが、ただの「幽霊話」ではなく、非常に現代的な解釈がなされています。このひねり具合は新しく、なかなかに面白いホラー小説だと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
牧神について、もっと知りたいです
私も牧神の2号と3号を持ってます。とく3号は気に入って、隅々まで読みました。4号は読んでませんが、興味深いです。というか、まさか牧神の記事が載るとは思ってなかったので、嬉しい驚きです。昔は濃い本があったんですね。
【2018/03/02 23:11】 URL | ひとみ #- [ 編集]

>ひとみさん
「牧神」は僕も全号読んでいるわけではないのですが、内容的には雑誌というよりはムックに近い感じのものでしたね。2号と3号に関しては、かなり需要があったらしくて、後にハードカバーに改装されたバージョンも出ています。
3号の《幽霊奇譚》は本当に濃い特集で、平井呈一はじめ執筆陣は豪華だし、今でも怪奇小説ファンは楽しめる特集だと思います。

コメント欄に書くのも何ですが、全号の特集を記しておきますね。

マイナス3号 特集1 アリス&キャロル 特集2 A・マッケン=妖魔の世界
マイナス2号 フェデリコ・ガルシーア・ロルカ
マイナス1号 詳細不明(図書目録?)
創刊号 ゴシック・ロマンス
2号 不思議な童話の世界
3号 幽霊奇譚
4号 海洋冒険小説
5号 ウィリアム・ブレイク 予言と神秘の書
6号 ウィリアム・ブレイク 無垢(イノセンス)の歌
7号 神秘主義について
8号 ノヴァーリス
9号 崩壊する女らしさの神話
10号 SFファンタジーの世界 ル・グィンの神話と幻想
11号 都市の肖像
12号 人間の棲家

4号までは文学味が強い特集で、それ以降はもっと特集範囲が広い感じになってますね。それでもウィリアム・ブレイク、ノヴァーリス、ル・グィンなどの特集号があったりします。

「牧神」に限らないのですが、昔の(1970年代ぐらいまで?)雑誌の特集は、かなり濃い内容のものが多い気がします。そういう雑誌の特集が頭にあるので、最近の雑誌の特集は何だか薄味に感じてしまうんですよね。
【2018/03/02 23:31】 URL | kazuou #- [ 編集]


マリヤットの「The Phantom Ship」は、意外にも翻訳されたことがないんですよね。中の一つのエピソードが狼男テーマの古典として、「人狼」というタイトルで繰り返しアンソロジーなどに収録されたりはしてますけれど、全訳はおろか、抄訳もない。ボリュームがあるし、内容的にも「放浪者メルモス」っぽいので、なんとなく翻訳の機会を逃し続けて来たのかもしれませんが。でも、海洋怪奇譚としては欧米では最もよく知られたものの一つですし、邦訳があっても良い気がしますね。あまり需要がないかな。
「牧神」といえば、最近知ったのですが、マイナス1号というのが無料の目録だったらしいですね。昔からマイナス3号やマイナス2号はよく古書店でみかけていたのですが、マイナス1号というのを目にした記憶がありませんでした。よほど希少ななんだろうとおもっていたら、なんと、本当に薄い、普通紙を綴じただけの牧神社の出版目録だったようです。雑誌って、こういうことがあるから、面白いですね。
【2018/03/02 23:48】 URL | shigeyuki #- [ 編集]

>shigeyukiさん
マリヤット作品は、いろんなところで言及されていて、読んでみたいものの一つなんですよね。今更翻訳は難しいんでしょうけど。

海洋奇譚が個人的に好きなのですが、このジャンルの作品って、翻訳もので見るとあんまりないですよね。漂流実話とかはよくあるんですけど、フィクションの海洋奇譚というのは意外に少なくて。

そうなんですよね。「牧神」のマイナス1号は見たことがなくて、目録らしい…という話は聞いてました。そもそも「マイナス号」なんてのがあったのも面白いですよね。
幻想文学系の雑誌はほとんど短命で、この雑誌も例に漏れないのですが、今になってみると、それなりのインパクトのあった雑誌ということで、評価も落ち着いた形でしょうか。
【2018/03/02 23:58】 URL | kazuou #- [ 編集]


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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
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