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凍る記憶  ギルバート・フェルプス『氷結の国』
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氷結の国 (1970年) (世界ロマン文庫〈13〉)
フェルプス 大津 栄一郎
筑摩書房 1970

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 1963年発表のギルバート・フェルプス『氷結の国』(大津栄一郎訳 筑摩書房)は、アンデス山脈に住む謎の民族をめぐる秘境冒険小説です。あまり話題になることのない作品ですが、これは知られざる名作といっていいのではないでしょうか。

 語り手ディヴィッド・パーは、大叔父ジョン・パー大佐の遺言で、彼が住んでいた屋敷を相続します。そこで見つけたパー大佐の日記には、驚くべき事実が書かれていました。アンデス山脈の山中に、他の文明と隔絶された村があり、パー大佐はそこで彼らと暮らしていたことがあるというのです。
 山中に住む謎の民族を発見したパー大佐は、彼らについて知ろうと、村人に質問を繰り返しますが、まともに返事は返ってきません。不思議なのは過去について質問しても、過去とはなにかがわかっていないようなのです。やがて彼らには人間が普通持っているような「記憶能力」が欠けていることがわかります。
 村の娘に恋をしたパー大佐は、彼女の婚約者などとも対立しながら、村の人々の生活を探り始めます。やがて娘は別れの時が迫っていることを匂わせますが…。

 アンデス山中で大佐の出会ったのは謎の「氷結の民族」。まともな記憶能力を持たない彼らはどうやって暮らしているのか? その謎を解く過程が興味深いです。やがて明かされる、彼らの生活とその人生観には驚かされるはず。

 面白いのは、作品が枠物語の形になっているところです。語り手ディヴィッドがパー大佐の日記を読んでいく…という形になっているのですが、現実的なディヴィッドが、日記の超自然的な部分に疑問を抱いたり、考えたことが作中そのまま描写されます。

 パー一族は、非常に保守的な一族。しかし数世代に一人「変わり者」が現れるとされていました。「変わり者」の一人ジョン・パーは、南米で身分違いの恋に破れた後に、アンデス山脈での冒険に出かけるのです。
 対して、語り手ディヴィッドは、パー一族らしい非常に現実的な人間として登場します。しかし作品が進むにつれ、ディヴィッドもまた現実的な仮面をかぶっているものの、「変わり者」の一人であり、大叔父を愛していたことがわかってくるのです。現実に倦み疲れたディヴィッドが大叔父から受け取ったものとは…?

 日記の中で、パー大佐が村の人々を通して受け取ったもの、そしてまた日記を読んだディヴィッドも、またあるものを受け取る…という結末には、ある種の感動があります。
 単なる冒険小説に終わらず、感情を静かに揺さぶるロマンティックな作品といえます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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