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ポオに触発された作品たち
 エドガー・アラン・ポオの作品は、後続の作家たちに多大な影響を与えました。ポオ作品にインスピレーションを受けて創作された作品の中から、いくつか紹介していきたいと思います。


4787584987ポオ収集家
ロバート ブロック Robert Bloch
新樹社 2000-03

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ロバート・ブロック「ポオ収集家」(仁賀克雄訳『ポオ収集家』新樹社 収録)

 「わたし」が知り合いになった男ラウンスロット・キャニングは、ポオに関する収集家でした。彼の家に招待された「わたし」は、祖父、父と三代にわたって収集されたコレクションに目を見張ります。しかし、キャニングの祖父はコレクションのために、人には言えないようなこともしていたというのです。
 キャニングが見せてくれたのは、通常のコレクションだけでなく、ポオの未発表作品の原稿でした。「わたし」は、収集熱のあまりキャニングは自分がポオだと思い込んだのではないかと疑いますが…。

 タイトル通り、ポオの作品や遺物を収集する男を描いた物語です。語り手の「わたし」がキャニングの館を訪れるというのがメインストーリーなのですが、その全体がポオの「アッシャー家の崩壊」のパロディになっているという手の込みようです。ちょっとしたクトゥルー風の味付けも楽しい作品ですね。
 ちなみに、この作品、ロバート・ブロック作品を元にしたオムニバスホラー映画『残酷の沼』(フレディ・フランシス監督)で、映像化もされているので、興味のある方はぜひ。

B00XP94ST2残酷の沼 [DVD]
Happinet(SB)(D) 2015-10-02

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ロバート・ブロック「灯台」(仁賀克雄訳『ポオ収集家』新樹社 収録)

 自ら一人になる時間を作るために、犬一匹だけを連れて灯台にこもった男。やがて孤独に耐えられなくなった男は、精神の力だけで「物」を作り出す能力を開発します。
 バラについて念じた男は、灯台の下にありえるはずのないバラが現れたのを見て自分の能力を確信します。理想の伴侶を生み出すべく精神の力を振り絞った男は、灯台の外に何者かが立っているのに気がつきますが…。

 ポオの未完の短篇「灯台」をロバート・ブロックが書き継いで完成させた作品です。ポオの味を上手く生かした怪奇小説になっていて、正直どこからブロックが書き継いだのかがわからないほどです。
 ちなみに、ポオのオリジナルの「灯台」は本当に「断片」で、まだ話が全然展開していない段階で途絶しています。ブロックが書き継いだ部分では犬が錯乱するシーンがあるのですが、もしかしたらこのシーン、『ピム』を意識しているのかもしれません。
 ポオのオリジナルの「灯台」は、『大渦巻への落下・灯台』(巽孝之訳 新潮文庫)や『E・A・ポー ポケットマスターピース9』(鴻巣友季子/桜庭一樹編 集英社文庫)で読めます。



4150117640火星年代記 (ハヤカワ文庫SF)
レイ ブラッドベリ Ray Bradbury
早川書房 2010-07-10

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レイ・ブラッドベリ「第二のアッシャー邸」(小笠原豊樹訳『火星年代記』ハヤカワ文庫SF 収録)

 その時代、ポオやラヴクラフトなどの「恐怖と幻想の物語」は焚書にされ、禁じられていました。反逆の意味を込めて、資産家スタンダールは、火星にポオの作品に触発された巨大な屋敷「アッシャー邸」を建造します。
 さっそく調査に現れた道徳風潮調査官ギャレットは、邸の取り壊しを明言します。壊す前に内部をちょっと見てみたらというスタンダールの誘いに乗り、ギャレットは邸の内部を見て回ることになりますが…。

 ポオの「アッシャー家の崩壊」にインスパイアされた物語です。邸の内装や、そこで演じられるパフォーマンスは、皆ポオの作品からインスピレーションを得たものになっている…というのが凝っていますね。
 作中では「早まった埋葬」「モルグ街の殺人」「アモンティリヤアドの酒樽」などからの情景が再現されます。そして作品全体は「アッシャー家の崩壊」へのオマージュになっているという、ポオづくしの物語です。



4488612059ウは宇宙船のウ【新版】 (創元SF文庫)
レイ・ブラッドベリ 大西 尹明
東京創元社 2006-02-27

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 「恐怖と幻想の物語」が禁止される世界というのは、ブラッドベリが非常に危惧していたことのようで、「亡命した人々」 (大西尹明訳『ウは宇宙船のウ』創元SF文庫 収録)という短篇でも、似たモチーフが扱われています。

 やはり「恐怖と幻想の物語」が焚書にされてしまった世界が舞台です。火星には作家たちの魂(?)が住んでいました。彼らの本が一冊でも残っている限り、作家たちの魂は生き延びているのです。
 地球からの討伐隊は、作家たちの最後の本を積んだ宇宙船で火星に向かっていました。作家たちは力を合わせて、敵を撃退しようとしますが…。

 ここに登場する作家は、ポオ、ビアス、マッケン、ブラックウッド、コパード、ディケンズなど。自分は怪奇作家に間違えられただけだ…と言うディケンズのセリフが哀感を誘います。
 「第二のアッシャー邸」「亡命した人々」に登場する、「焚書」に対する抵抗というテーマは、後の長篇『華氏四五一度』(宇野利泰訳 ハヤカワ文庫SF)にもつながっているのでしょう。



4198908834幻夢エドガー・ポー最後の5日間 (徳間文庫)
スティーブン・マーロウ 広津 倫子
徳間書店 1998-04

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スティーヴン・マーロウ『幻夢  エドガー・ポー最後の5日間』(広津倫子訳 徳間文庫)

 ポーが死の直前に五日間ほど行方不明だったという事実をもとに、想像をふくらまして書かれた歴史ミステリー小説です。
 困窮したポーの死去直前の行動を想像で描きながら、その合間に過去のポーの回想が描かれます。この回想部分は、おおむね伝記的事実に沿っているらしいのですが、情感豊かに描かれていて読みでがあります。
 回想が進むにつれて、明らかに現実ではありえないような事件や情景がはさまれてきます。ポーが偽名を名乗ったのをきっかけに、別の人格が生まれ、そちらの人格はまた別の物語を語りだすのです。史実にはない、パリでの行動では、アレクサンドル・デュマと友人づきあいをしたりします。
 そしてオーギュスト・デュパンが実在の人物として登場し、ポーとともに「モルグ街の殺人」を思わせる殺人事件を調査するのです。他にもポーの作品を思わせるガジェットや事件が頻出し、ポーの愛読者には興味深く読めるのではないでしょうか。



norowaretae.jpg呪われた絵 (1978年) (海外ベストセラー・シリーズ)
スティーヴン・マーロウ 高儀 進
角川書店 1978-11

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 スティーヴン・マーロウは、歴史ものなどの邦訳もあるアメリカの作家です。個人的には、1976年発表のモダンホラー小説『呪われた絵』(高儀進訳 角川書店)が印象に残っています。ついでに紹介しておきましょう。

 17世紀フランスの伝説的画家コロンビーヌの作品が、アメリカのある町に譲られることになります。しかしその絵が到着してから、町には異変が起こり始めます。
 折りしも、フランス留学から戻った主人公のヒロインは、ジプシーからもらった古い日記を読み始めます。それは画家コロンビーヌの手記でした。彼はジプシーとともに黒魔術を学んでいました。家族を殺された画家は、絵に呪いをかけていたのです。やがてその影響はヒロインにも及びますが…。

 過去の画家の呪いが現代に甦るというオカルト・ホラー小説です。絵の影響で、一つの町そのものが呪いの影響下に置かれるのですが、ヒロインがかかる呪いも拒食症だったりと、派手さはあまりないのが特徴。ただ過去の歴史が現代の町に二重写しで再現されるという趣向は非常に面白いです。
 現代のパートと、過去の画家の手記パートが交互に現れるのですが、画家のパートの方が伝奇小説的な面白さがありますね。丁寧に描かれた幻想小説として、佳作といっていい作品だと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「第二のアッシャー邸」は読んだ事があります
 ブラッドベリが亡くなった頃に、ものは試しと「火星年代記」を読んだ事があります。それまでにポーの作品を結構読んでいたので「元ネタ」も大体わかって、ブラックに楽しく読めました。

 個人的には、スタンダールが終盤で言った
「作品をろくすっぽ読みもせず、他人が『けしからん』と言っているのを聞いただけで判断したのが許せない」
というセリフは、非常に共感しました。自分で読んでから言え、と。

 ただ、こういう別の作品が下敷きになっている話は、「元ネタ」を読んだ人と
読んでいない人の間に温度差が発生するのが難しい所です。
【2018/02/18 12:52】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
ブラッドベリは、過去の作家たちに対する感謝と敬愛の念が強かったのでしょうね。
あと怪奇幻想的な作品に対する世間のバッシング、というものも感じていたのかもしれません。
今読むと、ちょっとナイーヴな感じがしなくもないのですが、シンプルな分、メッセージ性は強いですね。

先行作家や作品へのオマージュ的作品は、その作家を知らないと楽しみにくい、というのはあると思います。同じブラッドベリでも、メルヴィルやトマス・ウルフといった作家は僕もほとんど読んでいないので、言及されてもぴんと来ない…ということはあったりします。
【2018/02/18 13:25】 URL | kazuou #- [ 編集]


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kazuou

Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』を2019年8月に刊行しました(完売しました)。
「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」、同人誌『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』を盛林堂書房さんで通信販売中です。



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