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エドガー・アラン・ポオの怪奇とユーモア
ポオ小説全集 1 (創元推理文庫 522-1) ポオ小説全集 2 (創元推理文庫 522-2) ポオ小説全集 3 (創元推理文庫 522-3) ポオ小説全集 4 (創元推理文庫 522-4)
 アメリカの作家エドガー・アラン・ポオ(1809-1849)は、様々なジャンルの作品を残した作家です。その本領は怪奇幻想分野の作品にありますが、今でいうところのミステリ・SF・ユーモア小説などに分類される作品も多く書いています。
 ポオの小説作品は、唯一の長篇「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」を除けば、ほぼ短篇です。ポオの短篇はかなり短いものが多いのですが、その完成度は圧倒的。
 神経症的な兄妹と館の崩壊の物語「アッシャー家の崩壊」や、分身物語「ウイリアム・ウィルソン」、病を擬人化した象徴的な「赤死病の仮面」などの代表作は、極限まで無駄が省かれている…といった印象を受けますね。

 怪奇幻想的な作品では、悪魔に襲われる町を描いた「鐘楼の悪魔」であるとか、古風なゴシック・ロマンス「メッツェンガーシュタイン」などの古いタイプの作品もありますが、新しいタイプの怪奇小説も多く書いています。
 「新しいタイプの怪奇小説」とは、いわゆるヨーロッパの怪奇幻想小説の伝統的な素材、悪魔・妖精・幽霊といった素材を使わずに書かれた小説のことです。
 例えば「群衆の人」。この作品では、「群衆」の中にまぎれこまずには生きられないという男が描かれますが、これは非常に新しいタイプの作品だと思います。
 大渦に巻き込まれた男の体験談「メエルシュトレエムに呑まれて」、異端審問所で拷問にさらされる「陥穽と振子」などは、ほぼクライマックスのスペクタクル部分だけを取り出したようなエンターテインメントですし、患者が医者に化けるという「タール博士とフェザー教授の療法」は、正気と狂気の境目がわからなくなるような作品で、まるでロバート・ブロックが書きそうな題材です。
 「黒猫」「告げ口心臓」といった人間の異常心理が描かれる作品は「人間の恐ろしさ」を描いているという点で、非常に近代的な作品で、現代の「サイコスリラー」の原型といってもいいでしょうか。
 上記で「古風」と形容した「メッツェンガーシュタイン」も、実はポオがパロディとして書いたという話で、意識的にいろいろなタッチの作品を描き分けられるというポオの器用さが感じられますね。

 陰鬱でダークなイメージのあるポオの作品ですが、意外にユーモアの要素があるものが多いのも特徴です。「息」がなくなってしまう男を描いた「息の喪失」、立派な男の正体が明かされる「使いきった男」、視力の悪さからとんでもない恋愛事件を引き起こす「眼鏡」などの、明確にユーモア小説を志向した作品の他にも、一般的には「ユーモアもの」だと思われていない作品、例えば「盗まれた手紙」「お前が犯人だ」、一見シリアスながら脱力するような結末が待っている「スフィンクス」といった作品にも、ユーモアの要素が感じとれます。
 あと、不条理を信じない男がおかしな出来事に遭遇する「不条理の天使」などは、幻想小説とユーモア(というよりはナンセンスでしょうか)が融合した、非常に面白い作品だと思います。

 非常に「想像力」や「ファンタジー」に富んだ発想の作品を描く一方、ジャーナリストでもあったポオらしく、リアリティに富んだ実録風の作品もあって、「ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語」やロッキー山脈横断を描く「ジューリアス・ロドマンの日記」といった冒険ものは、ポオのそんな部分が発揮された作品でしょう。
 ただリアリズム要素の強い『ピム』の中にも、ところどころ奇想天外な要素は出てきます。逆に、気球で月に向かうという「ハンス・プファアルの無類の冒険」のように、実録風でありながらファンタジー要素の方が多い作品もあったりと、現実と想像の匙加減は絶妙ですね。

 ポオの小説は、創元推理文庫刊の『ポオ小説全集』でほぼ網羅されているので、ポオの小説を全部読みたい!という人にはこちらをお勧めしておきます。
 ただ、1巻の序盤の収録作品は比較的とっつきにくい作品が多いので、推奨したい読み方としては、まず3巻か4巻、次に1巻、余裕があったら2巻、といった感じで読むと、読みやすいかと思います。

 ポオのユーモアについて触れたついでに『エドガー・アラン・ポオ・ユーモア小説集』の収録作品を考えてみました。今回の記事のおまけとして載せておきたいと思います。

『エドガー・アラン・ポオ・ユーモア小説集』目次

「眼鏡」
「息の喪失」
「鐘楼の悪魔」
「使いきった男」
「チビのフランス人は、なぜ手に吊繃帯をしているのか?」
「週に三度の日曜日」
「ミイラとの論争」
「タール博士とフェザー教授の療法」
「お前が犯人だ」
「盗まれた手紙」
「スフィンクス」
「不条理の天使」

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
ポーは少し読みましたが
いつもながら、読書量と考察の深さに驚きます。どうやったらそんなに読めるんでしょうか?ポーはそんなにのめり込める作家ではなかったけれど、改めて読みたくなりました。
【2018/02/12 20:28】 URL | 加藤一美 #- [ 編集]

>加藤一美さん
こんにちは。
ポオ作品はすごくクールに出来ていて、読者の感情移入を拒むようなところがありますよね。それだけに「感性」よりも「理屈」で読めるところがあるような気がします。怪奇幻想的な作品でも、どこか計算されているような部分があって、そのあたりをじっくり読むと面白いと思います。ポオの「工夫」を探しながら読むような感じでしょうか。

僕個人の読み方ですが、ある作品を読んで、それに似た題材の作品とか、影響関係がある作品とか、そうした自分なりの関心があるテーマのラインを見つけると、それぞれのテーマに関して理解が深まるように思います。
【2018/02/12 22:00】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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