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迷宮と建築幻想をめぐる物語
 「迷宮」「迷路」「巨大建築物」「地下都市」…。現実には不可能な規模の建築物や、現実にはあり得ない建物など、フィクションには様々な建造物が登場します。本を読んでいて、作品中の「建築物」や「館」などの印象で記憶に残っている作品も多いでしょう。そんな中から、いくつかの作品を紹介していきたいと思います。あわせて、必ずしも建造物が登場するわけではなくても、物語自体が「迷宮」的なテーマを扱った作品も紹介しています。



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魔性の森 (1982年) (角川文庫)
ハーバート・リーバーマン 斎藤 伯好
角川書店 1982-04

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ハーバート・リーバーマン『魔性の森』(斎藤伯好訳 角川文庫)
 イギリスの山中の森に測量のために入り込んだ数人の男女。しかし測量人が発作を起こし、道がわからなくなってしまいます…。
 遭難するのは中年の男女なのですが、みな幼馴染であり、過去の因縁から心理的な対立が始まります。人間関係をめぐる心理描写部分は非常にリアルなのですが、全体としては非常にファンタスティックな幻想小説になっているという、ユニークな作品です。



4575517712MAZE 新装版 (双葉文庫)
恩田 陸
双葉社 2015-04-16

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恩田陸『MAZE』(双葉文庫)
 神原恵弥は、友人の満とともに中東で発見された白い遺跡の調査に訪れます。そこでは人々が消えてしまうという噂がありました。過去の記録から、人が消えるための条件があるのではと考えた満は仮説を立てますが…。
 人が消えてしまう迷路についての物語です。迷路そのものの探検というより、それをめぐる仮説を楽しむというタイプの作品です。魅力的な題材なのですが、結末にはちょっと不満が残るかも。



4488543014迷宮1000 (創元推理文庫)
ヤン・ヴァイス 深見 弾
東京創元社 1987-08-28

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ヤン・ヴァイス『迷宮1000』(創元推理文庫)
 男が目覚めると、そこは奇妙な塔のような場所でした。しかも男には記憶がないのです。持ち物から、自分が探偵ピーター・ブロークであり、失踪者を探すためにこの建物「ミューラー館」に潜入したことを知ります。独裁者オヒスファー・ミューラーによって支配される1000階建のビル「ミューラー館」の調査を始めるブロークでしたが…。
 チェコで1920年代に書かれた「迷宮」テーマ作品です。1000階建のビルという魅力的な建造物が登場します。



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黒の迷路 (ハヤカワ文庫 NV 20)
ロレンス・ダレル 沢村 灌
早川書房 1972-07-31

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ロレンス・ダレル『黒の迷路』(沢村灌訳 ハヤカワ文庫NV)
 ギリシャのクレタ島で、発見されたばかりの洞窟の迷路に入り込んだ観光団が突然の落盤で閉じ込められます。ガイドは事故で死亡し、暗闇の中、人々は散り散りになってしまいます。人々は洞窟から脱出できるのでしょうか…。?
 上記の粗筋からだとすごく面白そうなのですが、実際読んでみるとちょっとニュアンスが違います。粗筋自体は間違いではないのですが、この洞窟の冒険に至るまでが、やたら長いのです。全体で350ページぐらいある作品ですが、洞窟場面に来るまで250ページぐらいを要します。それまでは何が描かれるかというと、登場人物たちのそれまでの人生とか精神的危機などが描かれるのです。
 人物描写部分はそれはそれで興味深いのですが、かなり退屈する場面が長く続きます。ただ洞窟で事故が発生してからの展開は非常に面白く、そこまで我慢して読む価値はあるかと思います。散り散りになった人々の運命がそれぞれ描かれるのですが、中には幻想的な展開になるものもあります。
 一番面白いのは、何とか脱出に成功したものの、人里離れた場所に出てしまう夫婦のエピソード。そこで出会ったのは謎の老婦人。彼女も迷路から来たものの、絶壁に囲まれた土地から出られず20年以上そこで暮らしているというのです…。
 正直、全体を通して読んで傑作かというと微妙なのですが、妙に心に残る作品ではありますね。



4582765491エル・アレフ (平凡社ライブラリー)
ホルヘ・ルイス ボルヘス Jorge Luis Borges
平凡社 2005-09-01

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ホルヘ・ルイヘボルヘス「二人の王と二つの迷宮」(木村榮一訳『エル・アレフ』平凡社ライブラリー収録)
ホルヘ・ルイヘボルヘス「アベンハカン・エル・ボハリー、自らの迷宮に死す」(木村榮一訳『エル・アレフ』平凡社ライブラリー収録)
 どちらも迷宮を扱った作品です。
 「二人の王と二つの迷宮」は象徴的な迷路もの作品。迷宮で迷わされたアラビアの王はバビロニアの王に対して復讐を誓いますが…。
 「アベンハカン・エル・ボハリー」では、自分の命を守るため迷宮を作る男が描かれます。殺された男は誰だったのか?といったミステリ的な部分も面白い作品です。



4562035102ナイトランド
ウィリアム・ホープ ホジスン William Hope Hodgson
原書房 2002-05

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W・H・ホジスン『ナイトランド』(荒俣宏訳 原書房)
 遠未来、絶滅の危機を逃れた人類が暮らすピラミッドの外界は、巨大な怪物が闊歩する「ナイトランド」でした。主人公は過去に死に別れた恋人がこの時代に転生していることを知り、彼女を求めて冒険の旅に出ます…。
 怪物が跋扈する世界観からして強烈ですが、作中に登場する「ラスト・リダウト」は百万単位の人類が居住するという設定の巨大な建物。その中で全てがまかなわれる一つの都市のような存在で、フィクションで登場する想像上の建物としては最大級のものでは。



4488629156ハイ・ライズ (創元SF文庫)
J・G・バラード 村上 博基
東京創元社 2016-07-10

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J・G・バラード『ハイ・ライズ』(村上博基訳 創元SF文庫)
 40階の高層住宅を舞台にした作品です。もともと格差のある上層と下層の住民たちが対立し始め、やがて暴力的な行為が日常的になっていく…という物語。
 学校や商業施設まである、テクノロジーの固まりの巨大ビルで展開される人間の行為が野蛮で獣性に満ちたものだった…というのが面白いですね。



4882930781座敷ぼっこ (ふしぎ文学館)
筒井 康隆
出版芸術社 1994-04-01

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筒井康隆「遠い座敷」(『座敷ぼっこ』出版芸術社収録)
 山のふもとに住む少年が、山の上の方にある友人の家に遊びに行きます。帰りが遅くなってしまった少年は座敷づたいに帰ればいいのではと勧められます。彼らの家同士は極端に長い座敷が連なっていたのです…。
 延々とつながる座敷を舞台にした作品です。帰路に通りかかる日本家屋の描写が非常に怖いですね。



4770403186エペペ
カリンティ・フェレンツ 池田 雅之
恒文社 1978-12

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カリンティ・フェレンツ『エペペ』(池田雅之訳 恒文社)
 言語学者ブダイは、ヘルシンキで行われる会議に出席するため飛行機で出国しますが、乗り間違いからか全く見知らぬ国に連れて来られたことに気がつきます。その国では、ブダイの言葉ばかりか身振りまでもが全く通じません。言語学者であるブダイの知るどの系統の言葉とも違った言葉が使われていました。
 パスポートも紛失し、出国の手立ても失ってしまいます。ホテルへの投宿には成功するものの、手持ちの金は底をつき仕方なく肉体労働に従事することになります。言葉が通じないものの唯一コミュニケートできるのは、ホテルのエレベーターガールの女性でした。ブダイは彼女を「エペペ」と名付けますが…。
 外国で言葉が通じない…という状況は誰にでも起こり得ますが、この作品の場合、ヨーロッパ言語ばかりかアジア言語やアラビア語に通じている言語学者が全く意思を通じさせることができない、という皮肉な状況が描かれます。その国の言葉には外来語がほとんどないため、言葉を類推することもできません。
 単純な数を示す言葉でさえ、聞くたびに違う単語が返ってくるのです。大使館も見つからず、わざと警察につかまっても留置されるだけ。やがて主人公は、自暴自棄になり、ホームレスのような状態になってしまいます。
 主人公が不条理な目に会う…という作品は数多くありますが、この作品ほど「怖い」作品はそうそうないと思います。コミュニケーションのあらゆる手段が通じず、その様子は、ほとんど他惑星に降り立った異星人のような感じなのです。



4588490249ムントゥリャサ通りで
ミルチャ エリアーデ Mircea Eliade
法政大学出版局 2003-10-01

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ミルチャ・エリアーデ『ムントゥリャサ通りで』(直野敦訳 法政大学出版局)
 小学校の元校長ファルマは、かっての教え子を訪ねますが、相手はファルマのことを知らないと突っぱねます。何らかの陰謀があるのではないかと考えた政府はファルマから話を聞きだそうとしますが、彼が話すのは際限のない物語でした…。
 作品の核になるのは、ある地下室で少年が消えてしまったというエピソードなのですが、その物語を説明するには過去の別の物語が必要になり、さらにまた別の物語が展開される…という風に、際限なく物語が広がっていってしまうという、ものすごい作品です。
 老人ファルマの語りが人を喰っていて、この物語を説明するには数百年前の出来事に遡らねばならない、などと口にするのです。それを真面目に聞いている政府の役人もどこかとぼけています。
 怪力を持つ大女の物語だとか、少女から老女まで年齢が変化する女の物語だとか、それぞれのエピソードが既に幻想的ではあるのですが、膨大なエピソードの集積がさらに幻想性を増していますす。
 挿話が挿話を生んでいくという、まるで「迷宮」のような作品ですが、何ともいえない魅力がありますね。ユーモアの要素が強いのも好感触。



4828831673ホーニヒベルガー博士の秘密 (福武文庫)
ミルチャ エリアーデ 直野 敦
福武書店 1990-10

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ミルチャ・エリアーデ『ホーニヒベルガー博士の秘密』(直野敦/住谷春也訳 福武文庫)
 表題作「ホーニヒベルガー博士の秘密」と「セランポーレの夜」が収録されていますが、どちらも東洋をテーマにした神秘主義的な作品です。
 「ホーニヒベルガー博士の秘密」は、インド研究者のホーニヒベルガー博士について研究していたというゼルレンディ博士の未亡人から、夫の仕事をまとめてほしいという依頼を受けた語り手が体験する不思議な物語です。
 ゼルレンディの書類を読み進むうちに、サンスクリット語で書かれた秘密の日記を発見した語り手は、ゼルレンディがヨガの奥義を体得し、不思議な能力を身につけていたことを発見します。やがて語り手も奇妙な体験をすることになりますが…。
 「セランポーレの夜」は、次のような話です。インドのリゾート地セランポーレのバンガローに滞在していた語り手と友人たちは、ある夜一本道であるはずの道で迷い、どことも知れぬ森の中にさまよいこんでしまいます。
 近くの屋敷で泊めてもらおうと考える一行でしたが、屋敷の主人の妻が殺されたばかりだと聞き、いたたまれずに屋敷を去ります。翌朝、家に戻った一行は自分たちの体験を話しますが、そもそもその付近に住んでいる人間などいないというのです…。
 どちらの作品も、神秘主義的な体験をした主人公が別の時間や世界に入り込んでしまう…という作品です。「セランポーレの夜」では時間、「ホーニヒベルガー博士の秘密」では世界全体が歪んでしまいます。とくに「ホーニヒベルガー博士の秘密」の結末は非常に不気味で、まるでパラレルワールドSFですね。



4560043175誰がドルンチナを連れ戻したか
イスマイル カダレ Ismail Kadare
白水社 1994-01

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イスマイル・カダレ『誰がドルンチナを連れ戻したか』(平岡敦訳 白水社)
 遠方の国に嫁いだヴラナイ家の娘ドルンチナが、ある日突然、生家の母親のもとに帰ってきます。ドルンチナは兄のコンスタンチンに連れられて来たと話しますが、コンスタンチンを含むヴラナイ家の息子たちは全て死んでいるのです。
 村人たちはコンスタンチンの幽霊が現れたと信じますが、警備隊長ストレスはドルンチナが嘘をついているのではないかと考えます。事件の噂が広まり教会も介入を始めるなか、ストレスは謎を解くべく調査を進めますが…。
 幽霊が本当に現れたという説のほか、現実的な解釈においてもいくつもの説が提示されます。仮説が次々に現れる、ミステリのような技法が使われていて、リーダビリティも非常に高いです。
 舞台は中世、超自然的な要素もあるものの、完全に「幻想小説」に行ききらず、虚構と現実の間を行き来するようなバランスが非常に魅力的。何ともミステリアスな作品です。



4488070701夢宮殿 (創元ライブラリ)
イスマイル・カダレ 村上 光彦
東京創元社 2012-02-29

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イスマイル・カダレ『夢宮殿』(村上光彦訳 創元ライブラリ)
 その帝国では、人々の見る夢の中に国家の災いになる予兆が現れると信じられていました。そのため国は〈夢宮殿〉と呼ばれる機関を設立します。そこでは、国中から集められた夢を管理しているのです。
 帝国の名門キョプリュリュ家に属する青年マルク=アレムは、ある日突然〈夢宮殿〉に配属されることになります。まずは<選別>課で働くことになったマルク=アレムは、自分でも理由のわからないまま昇進していきますが…。
 主人公マルク=アレムは〈夢宮殿〉に配属されてからも、仕事の内容が全くつかめません。周りの人間に尋ねても一向に要領を得ないのです。わずかな立ち話などで、断片的な情報を得るものの、全貌はつかめません。そのような状態でありながら、なぜか昇進が続いてしまうという、悪夢的な状況が描かれます。
 非常にもやもやした話なので、〈夢宮殿〉という魅力的なガジェットの内容もあまり掘り下げられません。ただ、全編を覆う「不安」は強烈で、一読の価値はある作品だと思います。



4892570893黒いダイヤモンド
ジュール・ヴェルヌ Jules-Descartes Férat
文遊社 2013-12-30

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ジュール・ヴェルヌ『黒いダイヤモンド』(新庄嘉章訳 文遊社)
 栄えていたスコットランドのアバーフォイル炭坑は、石炭を採りつくしたために閉鎖されます。十年後、炭鉱の監督であった技師ジェイムズ・スターのもとに、坑夫頭を務めていたサイモン・フォードから炭鉱まで来て欲しいという手紙が届きます。
 さっそく出立の準備をするスターでしたが、その直後にやはり来るなという手紙が届きます。不審に思いながらも現地に飛んだスターは、サイモンから、掘りつくしたと思われていた炭鉱にまだ石炭が残っている可能性があると聞かされます。
 サイモン、サイモンの息子ハリー、スターの3人は炭鉱の奥深くで、自然に出来たと思しい広大な洞窟を発見します。そこには湖があり、良質な石炭が大量に眠っていたのです。サイモンの妻マッジを含め出直した4人は、その空間の探索を始めますが、何者かによって洞窟に閉じ込められてしまいます…。
 炭鉱の地下深くの広大な洞窟を見つけるものの、悪意のある人物によって閉じ込められる、というのが前半で、後半は洞窟内に都市を建設し、ひとつの小さな町ができるという過程が描かれます。この地下都市の描写が非常に魅力的です。
 ヴェルヌの他の作品でもそうなのですが、閉鎖的な空間や変わった場所に作られる町や都市がよく描かれ、「秘密基地」的な魅力があります。それらの中でも、この炭坑の地下の町は、ひときわ魅力を放っているように思います。
 舞台は妖精や精霊の伝説が伝わる土地であり、作中で起こる不思議な現象もそうした存在のせいなのではないかといった、幻想的な味付けも読みどころです。ヴェルヌ作品に頻出する科学的解説も抑え目で、ロマンティックな味付け、シンプルなストーリーと、ヴェルヌの美質が良く出た秀作かと思います。
 ちなみに「黒いダイヤモンド」とは石炭のこと。作品の舞台は、エネルギー源がまだ石油になる前の時代であり、その点古さを感じさせますが、ヴェルヌは作中で、石炭はすぐに枯渇するという意見も紹介しているのは流石というべきでしょうか。



4594007716アッシャー家の弔鐘 (上) (扶桑社ミステリー)
ロバート・R・マキャモン 大滝 啓裕
扶桑社 1991-07

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ロバート・R・マキャモン『アッシャー家の弔鐘』(大瀧啓裕訳 扶桑社ミステリー)
 巨大な軍需産業を経営するアッシャー家の次男リックスは、家業に関わるのを嫌い、作家として生計を立てようとしていました。愛妻の死を境に体調を悪くしたリックスは、一家に伝わる遺伝病「アッシャー病」に自らも犯されつつあるのに気付きます。
 「アッシャー病」により危篤にあるという父親から呼ばれたリックスは、一家が住む「アッシャーランド」に帰省します。巨額の遺産を狙う兄ブーンと対立するなか、リックスはアッシャー家の歴史を本にまとめようと、過去の書類を探り始めますが、次々とアッシャー家の秘密が明らかになっていきます…。
 ポオの短篇「アッシャー家の崩壊」に登場するアッシャー家は実在した…というテーマの作品です。
 前半は、リックスが探るアッシャー家の過去の歴史がメインになります。それと同時に「アッシャーランド」内に住む少年ニューの冒険行が描かれていきます。特殊な能力があるらしいニューは「アッシャーランド」で起こる子供の行方不明事件に関わっていくことになります。
 アッシャー家の秘密、少年ニューの能力の由来、そして行方不明事件の真実などが明らかになる後半の展開は怒涛の面白さです。加えて魅力的なガジェットやモチーフが頻出するのが興味深いところ。
 構造が変化し人を迷わせる「ロッジ」、聴いたものを自殺に追い込む「アッシャー・コンチェルト」、アッシャー家の最終兵器「振子」など。ところどころにポオの作品のモチーフが散りばめられているのも、非常に楽しいです。
 ポオの「アッシャー家の崩壊」はあくまでインスピレーション元といった程度なので、ポオ作品を読んでいなくても充分に楽しめる作品です。結末にはちょっとしたクトゥルー風味があったりと、これはぜひ復刊して欲しい作品ですね。



4488654037インフェルノ SF地獄篇 (創元推理文庫 654-3)
ラリー・ニーヴン ジェリー・パーネル 小隅 黎
東京創元社 1978-05

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ラリー・ニーヴン&ジェリー・パーネル『インフェルノ SF地獄篇』(小隅黎訳 創元SF文庫)
 SF大会で酔っぱらい、ホテルの上層階から落ちた作家のカーペンタイアーが目を覚ますと、そこはダンテの「地獄篇」そっくりの場所でした。そこで出会った男ベニトは、死んで地獄に来たと言いますが、カーペンタイアーは信じません。
 全てが作り物だと考えるカーペンタイアーは、ベニトとともに出口を目指しますが、旅の途中で出会う情景は本当の地獄としか思えなくなってきます…。
 主人公がSF作家だけに、信じられない情景を見てもSF的な解釈をしてしまいます。「地獄」は遠未来のテクノロジーなのではないかと考えてしまうのです。
 旅の途次でカーペンタイアーは、かっての知り合いたちが罰を受けているのを目撃します。あれだけの苦しみを受けるだけの罪を犯したのだろうか? 地獄の存在を信じ始めるのと同時に、地獄の意味について考え始めるのです。
 全体にユーモアのある語り口で読みやすい作品なのですが、後半になるに従ってシリアス度が上がってきます。何より地獄の情景や刑罰シーンがかなり強烈なのです。結末では人間の罪と罰について考えさせられてしまうという、意外(といっては失礼ですが)な秀作でした。



4488539025夜の庭師 (創元推理文庫)
ジョナサン・オージエ 山田 順子
東京創元社 2016-11-11

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ジョナサン・オージエ『夜の庭師』(山田順子訳 創元推理文庫)
 故郷アイルランドを離れ、両親とも生き別れたモリーとキップの姉弟は、イングランドのある屋敷に雇い口を見つけます。その屋敷は巨木に密着して立てられた奇妙な屋敷で、住人のウィンザー一家は、主人を始め皆不健康そうな顔をしていました。
 主人のバートランドは、子供時代に屋敷で両親が行方不明になり逃げ出したという過去を持ちながら、再び自分の妻子を連れて屋敷に戻ってきていました。金がないといいながら、バートランドはどこからか金を調達してきます。他の家族も、それぞれ秘密を抱えていることにモリーは気付きます。
 屋敷に何か秘密があることに気付いたモリーは、ある日出入りを禁止されていた部屋に入ることに成功しますが…。
 親とも生き別れながら強く生きる少女モリーと弟キップのキャラクターが非常に秀逸です。姉モリーは「語り部」であり、危機を「お話」で乗り越えるという才能の持ち主。弟キップは生まれつき片足が不自由であり、とくに目立った才能はないものの、姉以上に強く強靭な意志の持ち主として描かれます。
 姉弟が不思議な屋敷の秘密に触れ、自分たちの欲望を試される…というのがメインのお話。しかし、ただで欲望がかなえられるわけはなく、その代償が遅いかかってきます。
 前半こそ、落ち着いた雰囲気の寓話なのかなと思わせますが、後半から一気にスピード感あふれる追跡劇に。「夜の庭師」を倒し、一家と姉弟は自分たちの人生を取り戻せるのでしょうか? 子供も大人も楽しめるダークなファンタジーです(子供にはちょっと「怖すぎる」かもしれませんが)。



maruperu.jpgマルペルチュイ (1979年) (妖精文庫〈19〉)
ジャン・レー 篠田 知和基
月刊ペン社 1979-02

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ジャン・レー『マルペルチュイ』(篠田知和基訳 月刊ペン社)
 莫大な資産を持つカッサーヴ叔父は、死の間際に一族を集めて遺産の相続について話します。一族全員に遺産を分け与えるが、その条件とは、一族全員が「マルペルチュイ館」に生涯住み続けなければいけないというものでした。やがて一族全員が「マルペルチュイ館」に集まり、共同生活を始めます。
 「マルペルチュイ」に移り住んだジャン=ジャックは、輝くばかりの美しさを持つウリアルに惹かれつつも、妖艶なアリスにもまた惹かれ始めます。やがて館の中では不思議な現象が起き、住人たちは一人また一人と行方がわからなくなっていきますが…。
 メインとなる物語は、ジャン=ジャックの語る「マルペルチュイ」における一族の生活なのですが、それらについて、さまざまな語り手が別の視点・別の時間軸から物語を補填するという構成になっています。
 後半になるにしたがい、幻想的ではあるものの「普通の人間」の恋愛だと思っていた物語が、全く別の様相を帯びてくるのには驚かされます。カッサーヴの目的とはいったい何だったのか? 人知を超えた計画とその顛末とは…?
 陰鬱な館で展開されるゴシックロマンスであり、神話的なファンタジーでもある作品です。幻想文学史に残る傑作といっていいのではないでしょうか。



taruno.jpegたるの中から生まれた話 (福武文庫)
テオドル シュトルム 矢川 澄子
福武書店 1990-01

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テオドール・シュトルム「ブーレマンの家」(矢川澄子訳『たるの中から生まれた話』福武文庫収録)
 大きな屋敷と資産を受け継いだ男ブーレマンは、恐ろしくけちな男でした。人間嫌いで可愛がるのは飼っている猫だけ。ある日困窮した姉が病気の息子を連れて援助を求めてきますが、にべもなく断ります。やがて息子は亡くなりますが、その直後からブーレマンの体は小さくなり家から出られなくなります…。
 後半は閉じ込められた家からブーレマンが脱出しようとするのですが、全く果たせません。自分の体に対して大きくなった猫が襲ってきて、自由に動くこともできないのです。さらに、少したつとなぜか眠りが襲ってきて、何年も経過してしまいます。
 物語の中では何十年も経過するのですが、その間ブーレマンも猫も年を取りません。おそらくこれが「永遠」に続く…と匂わせて終わります。陰鬱な館の雰囲気も強烈で救いがなく、この作品、子供の頃に読んだらトラウマ級の作品だと思います。



4061495321迷宮学入門 (講談社現代新書)
和泉 雅人
講談社 2000-12

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和泉雅人『迷宮学入門』(講談社現代新書)
 世界の迷宮イメージの変遷や文化的な意味などについて書かれた「迷宮」の入門書です。
 面白いのは「迷宮」と「迷路」が異なるということ。もともと「迷宮」は一本道であり、人を迷わせるものではなかった…というのは目から鱗でした。人を迷わせるための「迷路」のイメージと段々混交していったということのようです。
 内容は主にヨーロッパの絵画や美術がメインなので、フィクションにおける「迷宮」や「迷路」にはほとんど触れられないのですが、欧米の「迷宮」イメージについて非常に勉強になる本です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「ナイトランド」を読みました
外の世界や怪物の描写がユニークで、良かったと思います。
 地上の環境が変化して、人類が閉鎖空間に引きこもる、というタイプの作品(漫画「進撃の巨人」もその一つ)の原型の様に感じました。閉鎖空間モノは人間関係がドロドロし易い点が苦手なのですが、この作品では登場人物が揃って性格が良かったので、その点は問題ありませんでした。
ただ、もう少し短くても良い様な…

迷宮というと、私はミヒャエル・エンデの作品に出てくる建物が、何というか曲線的で好きです。
【2018/05/27 18:17】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
発表年代を考えると、すごくユニークな作品だと思います。現代では似たテーマの作品がありますが、当時の作品で類似したものはなかなか思い浮かびません。

ホジスンは、どこか人間の善性を強く信じている部分があって、怪物に襲われたり危機的な状況に陥っても、登場人物たちが協力しあったりすることが多いのですよね。『ナイトランド』の場合は、運命の恋人に対する愛、というのがそれに当たるかと思います。

正直、物語としては中盤かなりだれるところがあるのは確かですね。ただ世界観の設定は素晴らしいものがあるので、もう少しで「大傑作」になり損ねた作品、といっていいかもしれません。
【2018/05/27 19:25】 URL | kazuou #- [ 編集]


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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。
twitterアカウントは@kimyonasekai



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