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ポオとヴェルヌの「ピムの物語」
 アメリカの文豪エドガー・アラン・ポオの小説作品はその大部分が短篇ですが、唯一、長篇といっていい長さの作品があって、それが『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』(大西尹明訳『ポオ小説全集2』創元推理文庫 収録)です。


4488522025ポオ小説全集 2 (創元推理文庫 522-2)
エドガー・アラン・ポオ 大西 尹明
東京創元社 1974-06-28

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 ナンタケット島出身の冒険好きな少年ピムは、親友のオーガスタスが、船長である父親と共に航海に出ることを知り、オーガスタスの手引きで船に隠れることになります。オーガスタスの合図が来るまで、部屋に潜むことになったピムでしたが、何日経ってもオーガスタスは部屋に現れず、出ようとしたピムは扉が開かなくなっていることに気がつきます。
 体は衰弱し、一緒に潜ませていた愛犬にも襲われるなど、命の危機を迎えるピムでしたが、やがて現れたオーガスタスによって部屋から脱出することに成功します。助かったと思いきや、オーガスタスは船員たちが反乱を起こし、船が乗っ取られたことを伝えます。対応次第では命を失う危険があることも。
 オーガスタスに目をかけていた屈強な船乗りダーク・ピーターズは、オーガスタスからピムの存在を聞き、ピムを利用して、船を取り返そうと考えますが…。

 上にあげたあらすじは、この作品のほんの一部といった程度です。ここまででも、閉じ込められたピムが死にそうになったり、狂った愛犬が襲ってきたり、船員が次々と殺されたりと、波乱万丈なのですが、その部分も全体のほんの一部でしかない、というところに驚きます。船乗っ取り事件の後も、次から次へと困難が襲ってくるのです。
 少年が主人公といえど、襲い来る困難や事件はハードかつ残酷です。敵は容赦なく襲ってきますし、人は次々と死にます。生き残るために、ピムもまた人殺しに加担せざるを得なくなっていくのです。

 作者ポオが本気で書いたエンターテインメントであり、今読んでもその面白さは衰えていません。
 長い作品のため、アンソロジーや文学全集などに収録されることも少なく、それゆえポオの作品としては読まれることは少ないと思うのですが、これは第一級の冒険小説であり怪奇小説といっていいかと思います。

 この『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』、結末も謎に満ちた終わり方であり、それが作家たちを刺激したらしく、この作品から触発されたと思しい作品もいろいろ書かれています。ポオ作品の設定を取り込んで書かれた、H・P・ラヴクラフトの『狂気の山脈にて』(大瀧啓裕訳『ラヴクラフト全集4』創元推理文庫 収録)などがその代表例ですが、なかでもポオ作品の直接の続編といえる作品があり、それが、ジュール・ヴェルヌの『氷のスフィンクス』(古田幸男訳 集英社文庫)です。


B00I9OLXHI氷のスフィンクス(ジュール・ヴェルヌ・コレクション) (集英社文庫)
ジュール・ヴェルヌ 古田幸男
集英社 1994-01-25

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 博物学者ジョーリングは、滞在中の島にやってきたスクーナー船ハルブレイン号に乗せてもらおうとしますが、船長のレン・ガイはなぜか首を縦に振りません。しかし、レン・ガイはやがて態度を変えて、乗船を許可します。その理由は、ジョーリングがコネチカット出身であり、ナンタケット島のことを知っているからだというのです。
 ポオの『アーサー・ゴードン・ピムの物語』が真実だというレン・ガイの言葉を一笑に付すジョーリングでしたが、ガイは、自分がピムを乗せたスクーナー船ジェイン号の船長ウィリアム・ガイの弟だということを明かします。そして兄を探すために航海をしているということも。
 航海中に、行方不明だったジェイン号の航海士パターソンの遺体を発見したことから、ポオの物語は真実だとジョーリングも確信し、ガイ船長に協力を約束します。捜索を開始するに当たって、レン・ガイは船員を大量に補充します。新たに加わったハントと名乗る男は有能な働き者ながら、その来歴は謎に包まれていました…。

 ポオが描いた物語は真実であり、ピムの旅で行方不明になった船員たち、そしてピム自身も生きているのではないかと考えた主人公たちは、彼らの捜索を始めます。準備万端で出航したものの、思いもかけないトラブルが続きます。自分たちの命が危機に陥るなか、行方不明者たちを見つけられるのでしょうか?
 ポオの続編という肩書きは別として、純粋に航海物語として読んでも非常に面白い作品です。航海上のトラブルだけでなく、途中からは船員の反乱の可能性が予想されており、彼らに対する監視を行いながらも捜索を続けなくてはいけないというサスペンスフルな状況になってしまうのです。

 ポオ作品で描かれた事件から十数年が経過しているという設定なのですが、行方不明者たちが生存するための科学的な条件がきちんと提示されているところは、ヴェルヌらしいというべきでしょうか。
 ポオ作品の結末で描かれた超自然的な現象に対しても「科学的」に説明されてしまうので『ピム』を幻想小説として読んでいた読者としては、ちょっとがっかりしてしまう部分もありますね。

 作中で、前作『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』のあらすじが詳細に記されるので、ポオ作品を読んでいなくても大丈夫ですし、単体でも充分に面白い作品です。ただポオの『ピム』を読んでいるとさらに楽しめることは間違いありません。。前作の登場人物が再登場したり、関係者が登場したりします。前作で起こった事件が伏線になっていたりするところは、非常に芸が細かいです。『海底二万里』との関係がちょっと匂わされたりするところも、ヴェルヌファンには楽しいですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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