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新年のご挨拶
 2018年最初の更新になります。今年もよろしくお願いいたします。

 昨年は読書会に関連して、同じテーマを扱った作品の集中読書をすることが多く、そのおかげで例年になく本が読めた年でした。ただそのおかげで、読みたい本、買い込む本が増えてしまい、結局、積読本が倍増してしまったのは、悩みどころでもありますね。

 年末、年初に読んでいた本からいくつか紹介していきたいと思います。



448801075X肺都(アイアマンガー三部作3) (アイアマンガー三部作 3)
エドワード・ケアリー 古屋 美登里
東京創元社 2017-12-20

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エドワード・ケアリー『肺都』(古屋美登里訳 東京創元社)
 堆塵館は崩壊し、穢れの町から逃げ延びたアイアマンガー一族は、ロンドンに入り込みます。一族の影響なのか、ロンドンの内部は闇におおわれ、人々の間では奇妙な病気が蔓延していました。
 ロンドンを支配しようとする一族に反発するクロッド、そして子供たちとともに逃げ延びたルーシーは、互いに相手を探し始めます…。

 《アイアマンガー三部作》の完結編です。舞台をロンドンに移し、各勢力が縦横無尽に動き回るという、大スペクタクルになっています。
 国をひっくり返そうとするアイアマンガー一族、ビナディットやピナリッピーとともに出奔したクロッド、アイアマンガー一族を追う警察、一族の宿敵とも言うべき謎の男ジョン・スミス・反アイアマンガー、ロンドンの子供たちの助けを借りクロッドを探すルーシー、クロッドの命を狙うモーアカス、暴走するリピット…。
 敵役だと思っていた人物が味方についたり、逆に裏切られたり、追い詰められた一族のためにクロッドが奔走したりと、個性豊かな登場人物たちがこれでもとばかりに動き回り、最後まで息つく暇がありません。
 クライマックスでは、絶大な力を持ちながら今まで受身だったクロッドの活躍も見られます。結末にたどり着いたときの感動はひとしおですね。
 一作目、二作目を含め、素晴らしいシリーズでした。



4885880947魔法にかかった男 (ブッツァーティ短篇集)
ディーノ ブッツァーティ Dino Buzzati
東宣出版 2017-12-13

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ディーノ・ブッツァーティ『魔法にかかった男』(長野徹訳 東宣出版)
 初期から中期にかけての、ブッツァーティの未訳作品を集めた作品集の第一弾です。てっきり落穂拾い的な作品集かと思っていたのですが、さにあらず。「全盛期」のブッツァーティ作品で、非常に充実した短篇集でした。
 迷い込んだ猫を隠したことから起こる事件を描いた「騎士勲章受勲者インブリアーニ氏の犯罪」、学校で「変わってしまった」弟を描く「変わってしまった弟」、悪魔との契約テーマの「エレブス自動車整備工場」、得体の知れない男に一生を通じて追いかけられるという「個人的な付き添い」、悪夢のような不条理小説「あるペットの恐るべき復讐」など。
 巻末の中篇といっていい長さの「屋根裏部屋」は特に力作です。ある日、画家の家の屋根裏部屋に突如リンゴの山が現れます。その香りと味はこの世のものとも思えず、しかもリンゴはいつまで経っても腐らないのです。これは「禁断」のリンゴかもしれないと考える画家でしたが…。
 最初から最後まで、リンゴをめぐる画家の「不安」のみが描かれるという、純度の高い寓話小説です。代表作『タタール人の砂漠』とどこか通じるところもある作品ですね。



4121015614吸血鬼伝承―「生ける死体」の民俗学 (中公新書)
平賀 英一郎
中央公論新社 2000-11

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平賀英一郎『吸血鬼伝承「生ける死体」の民俗学』(中公新書)
 フィクションの吸血鬼ではなく、主に東欧に伝わる吸血鬼伝承を追った本です。吸血鬼の本質は「生ける死体」だとしていて、それゆえ、血を吸わない吸血鬼というのも出てきます。「民俗学的な吸血鬼」なので、ドラキュラのようなスマートなものではなく、元は農民で体は半分腐っていてと、ほとんどゾンビみたいです。
 東欧、中欧、バルカン諸国、トルコなど、それぞれの国の吸血鬼伝承をその国の名称で細かく見ていくという堅実な内容です。吸血鬼といっても、国によってその内容に魔女や人狼、夢魔などを含んだりしていて、同じ「吸血鬼」でもその意味するところはグラデーション状…というのが興味深いですね。
 「ドラキュラ以前」の吸血鬼像を知りたい方には、オススメしておきたいと思います。ロシアや東欧の吸血鬼小説を読む際にも参考になるんじゃないでしょうか。



B000J8DKMS蛾 (1979年) (サンリオSF文庫)
ロザリンド・アッシュ 工藤 政司
サンリオ 1979-10

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ロザリンド・アッシュ『蛾』(工藤政司訳 サンリオSF文庫)
 大学教授ハリーは、古い屋敷に魅せられ、そこに通ううち、屋敷を見に訪れた人妻ネモに惹かれはじめます。屋敷で行われたパーティの席上、ハリーはネモに幽霊らしき存在が取り憑くのを目撃します。直後にネモと肉体関係を結んだハリーは、彼女に殺されそうになりますが、何とか逃れます。
 ネモの日記を盗み読んだハリーは、彼女が何人もの男性と関係した直後に、彼らを殺害していることを知ります。ハリーが目撃した幽霊は、かって屋敷に住んでいた女優サラ・ムーアであり、殺人を犯しているのはネモに取り憑いたサラではないのかと考えたハリーは、ネモを救うために奔走することになりますが…。

 人妻ネモは、最初は地味な中年女性として登場します。それだけに、人格が豹変したような行動は幽霊に憑かれたせい、と解釈してしまいがちなのですが、客観的に幽霊のせいだとは書かれていないのがポイントです。殺人もネモの妄想の可能性があり、ハリーも最初はその疑いを持って動くことになります。
 霊の存在はともかく、殺人自体の真実が疑えなくなった時点で、ハリーはネモを守ろうと決心します。場合によっては自分も人殺しを辞さないという覚悟を固めますが、その間にもネモは別の男性を誘惑し始めていました…。
 幽霊が本当に存在するのかが、最後まではっきりとわかりません。それに加えて、序盤は殺人が真実なのか否か、後半からは更なる殺人を防げるのか、ネモを救えるのか、といったサスペンスが発生するなど、一冊でいろいろな要素が楽しめます。
 ホラーとサスペンスの境界線上の作品として、秀作の一つではないでしょうか。



B000J835HI嵐の通夜 (1980年) (サンリオSF文庫)
ロザリンド・アッシュ 工藤 政司
サンリオ 1980-10

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ロザリンド・アッシュ『嵐の通夜』 (工藤政司訳 サンリオSF文庫)
 ヨーロッパに留学していたベスは、農園を営む実家に帰省します。両親はすでに亡く、双子の兄トムが農園を取り仕切っていました。帰省直後に強烈な嵐に襲われた館は、崩壊の危機に陥ります。飛行機でやってくるはずの従兄エドワードの行方もわからない状態で、一行は不安な夜を過ごしますが、館の外に出たベスの幼馴染モーリスが、首をはねられた状態で見つかります…。

 嵐を迎えた広壮な館の中で繰り広げられるゴシック・ロマンです。ヒロインのベスは、従兄エドワードに恋心を抱いていますが、野生的な魅力を持つモーリスにも惹かれています。兄のトムは妹に偏執的な愛情を抱いており、モーリスとの仲を嫉妬している…という、複雑な構図が描かれます。
 やがてモーリスが殺され、迷信深い使用人たちは怯え始めます。館の女中頭ナンは、現地の魔術師とされており、彼女の言動が混乱に拍車をかけていきます。
 嵐の一夜を描く物語であり、実際の一夜の時間経過がそれぞれの章を成しているという趣向です。
 『蛾』と異なり、明確に超自然現象が発生するという点で「ホラー小説」といっていい作品です。嵐がやってきてからの館の雰囲気は素晴らしいですね。後半に起こる超自然現象もじつに夢幻的で、幻想小説好きにはオススメしたい作品になっています。ちなみに、スティーヴン・キングが激賞した作品だとか。


 最後に、2018年度刊行予定の本の中から、気になる本をご紹介しておきたいと思います。

ホセ・ドノソ『夜のみだらな鳥』(水声社 2月予定)

マルク・パストル『悪女』(創元推理文庫 3月予定)
 「バルセロナの吸血鬼」と呼ばれた実在の犯罪者に想を得て書かれた作品だそうです。

ミック・ジャクソン『こうしてイギリスから熊がいなくなりました』(東京創元社 11月予定)
 『10の奇妙な話』の作者による短篇集です。

アンナ・スメイル『鐘』(東京創元社 12月予定)
 鐘の音で人々が支配される世界を舞台にした作品、らしいです。世界幻想文学大賞受賞作品。

アナトール・フランス『ペンギンの島』(白水Uブックス 3月予定)
 洗礼を施されたペンギンが人間になってしまうという作品。中央公論社の『世界の文学』に入っていたこともある作品ですね。

オラフ・ステープルドン『スターメイカー』(ちくま文庫)
 国書刊行会から単行本の出ていた作品の文庫化。

スティーヴン・ミルハウザー『危険な笑い』(白水社 6月予定)
 ミルハウザーの短篇集です。

シャルル・バルバラ『ウィテイントン少佐』(国書刊行会)
 表題作は、雑誌『幻想文学32号』に翻訳が掲載されてますね。人形テーマの幻想小説ですが、短篇作品なので、他にも作品が収録されるんでしょうか。

フィオナ・マクラウド『夢のウラド』(国書刊行会)

南條竹則編訳『英国怪談集成』(国書刊行会)

垂野創一郎編訳『ドイツ幻想小説集』(国書刊行会)

イサベル・アジェンデ『日本人の愛人』(河出書房新社)

ダグラス・アダムス『長く暗い魂のティータイム』(河出文庫 3月予定)
 「ダーク・ジェントリー」の2作目。

ケラスコエット『サタニエ』(河出書房新社)
 『かわいい闇』で話題を呼んだバンド・デシネ作家の新作だそう。

マリアーナ・エンリケス『わたしたちが火の中で失くしたもの』(河出書房新社 9月予定)
 「ラテンアメリカ新世代の「ホラー・プリンセス」による悪夢のような12の短篇集」だそうで、これは気になりますね。


 ※ネット上に公開されていた、「読んでいいとも!ガイブンの輪」の「来年の隠し玉」の内容レジュメを参照させていただきました。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
あけましておめでとうございます
あけましておめでとうございます。昨年はこのHPのおかげで、読書の幅が広がりました。最近、読書時間が減ってきてますが、今年は頑張って読もうと思います。今さらですが、スティーブン キングの年にしたいです。また、いろいろ教えてください。
【2018/01/07 17:18】 URL | 加藤一美 #- [ 編集]

>加藤一美さん
加藤一美さん、こんにちは。
あけましておめでとうございます。
いろいろ偏った趣味のブログではありますが、参考にしていただければ嬉しいです。

スティーヴン・キングも最近は初期作品が手に入りにくくなっていたりしますね。いずれ全集のような形で作品を出してくれるといいのですが。
【2018/01/07 18:04】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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