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吸血鬼小説を読む
 「吸血鬼」とは、主に人間の血液を吸い、栄養源とする怪物です。蘇った死者、または不死の存在であるともされています。古くはギリシャ・ローマの昔から、吸血鬼を思わせる伝承は存在しますが、メジャーな存在になったのは近代になってからといっていいでしょう。

 文芸・小説の世界で一番最初に影響力を及ぼしたのは、おそらくジョン・ポリドリ『吸血鬼』(今本渉訳 須永朝彦編『書物の王国12 吸血鬼』国書刊行会収録)です。19世紀前半に書かれたこの作品、バイロンの影響が濃いといわれますが、登場する吸血鬼ルスヴン卿が、貴族的で残酷なキャラクターとして描かれています。その影響か、これ以後の吸血鬼作品には、貴族的な吸血鬼が数多く登場するようになります。
 
 19世紀のエポックメイキングな作品としては、やはりJ・S・レ・ファニュ「吸血鬼カーミラ」(平井呈一訳『吸血鬼カーミラ』創元推理文庫収録)とブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』(平井呈一訳 創元推理文庫)が挙げられます。
 「吸血鬼カーミラ」は、女吸血鬼の登場する同性愛的な要素の強い作品。一方『吸血鬼ドラキュラ』は、吸血鬼小説の集大成的な大作といえます。現代の吸血鬼のイメージの源泉は、ほぼこの作品から来ているといっていいのではないでしょうか。

 20世紀も半ばを過ぎると、オーソドックスな吸血鬼ものや、「ドラキュラ」タイプの作品は減ってきます。ステレオタイプになりがちなのを避けてか、作家たちも工夫をした作品が増えてくるのです。
 吸血鬼を実在の「種族」として科学的に説明したものや、ウィルスや病気による「感染症」と捉えたもの、精神的な病気と捉えたもの、もしくはパロディとして描かれたものなど、バリエーションは多彩になっていきます。

 リチャード・マシスン『アイ・アム・レジェンド』(尾之上浩司訳 ハヤカワ文庫NV)は、吸血鬼が「感染症」だというアイディアが使われた作品です。大量の吸血鬼が襲ってくるというイメージは、ロメロ監督のゾンビ映画の発想元ともなりました。
 H・H・エーヴェルス『吸血鬼』(前川道介訳 創土社)や、シオドア・スタージョン『きみの血を』(山本光伸訳 ハヤカワ文庫NV)、ガイ・エンドア『パリの狼男』(伊東守男訳 ハヤカワ・ミステリ)などは、吸血行為が「病」として描かれた作品ですね。

 悪役として描かれていた吸血鬼側を主人公にした作品も現れ始めます。ホイットリー・ストリーバーやアン・ライスの作品は、吸血鬼の自意識を描き「悩める吸血鬼像」を生み出しています。
 アン・ライスの吸血鬼作品はまた「ヒーロー」としての吸血鬼作品のさきがけともなりました。

 また『吸血鬼ドラキュラ』のテイストを現代に復活させようとした作品もあります。スティーヴン・キング『呪われた町』(永井淳訳 集英社文庫)や、そのフォロワー的な作品である、ロバート・R・マキャモン『奴らは渇いている』(田中一江訳 扶桑社ミステリー)は、力業で吸血鬼の侵略を描いています。

 古典から現代まで、様々な吸血鬼作品がありますが、以下、その一部から紹介していきたいと思います。



4488501095怪奇小説傑作集4<フランス編>【新版】 (創元推理文庫)
G・アポリネール 他 青柳 瑞穂
東京創元社 2006-07-11

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 テオフィル・ゴーチェ「死女の恋」(青柳瑞穂訳 澁澤龍彦編『怪奇小説傑作集4』創元推理文庫収録)
 純朴な青年僧侶が恋をした、妖艶な美女クラリモンドは死者であり、吸血鬼でした。青年を愛するクラリモンドは、彼を傷つけないように少しづつ生気を吸い取っていきますが…。

 登場する女吸血鬼クラリモンドが可憐です。青年の師である聖職者セラピオン師は、クラリモンドを邪悪なものとして滅ぼそうとします。青年は彼女が吸血鬼とわかってからも、彼女の愛が真実であることを確信するのです。
 明らかに吸血鬼側に思い入れがあるタイプの作品で、本来善の側であるはずのセラピオン師が悪人のように描かれています。19世紀前半に書かれた作品なのですが、この時代に、吸血鬼が「悪」や「怪物」ではなく、人間味にあふれた存在として描かれているのがユニークなところです。20世紀後半以降に多く書かれるようになる「苦悩する吸血鬼」のプロトタイプ的な作品といえるかもしれません。



4488506011吸血鬼カーミラ (創元推理文庫 506-1)
レ・ファニュ 平井 呈一
東京創元社 1970-04-15

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J・S・レ・ファニュ「吸血鬼カーミラ」(平井呈一訳『吸血鬼カーミラ』創元推理文庫収録)
 父と共に城に暮らす令嬢ローラは、事故により城で預かることになった美しい女性カーミラに惹かれるようになります。しかしカーミラの行動には不審な点がいくつもありました。
 時を同じくして、城の周辺では原因不明の衰弱死を遂げる人間が相次いでいました。ローラ自身も急激に体調が悪化していきますが…。

 この時代の作品としては、女性の吸血鬼を登場させたところがユニーク。カーミラの妖艶な雰囲気が印象的です。
 1872年の作品ですが、棺桶で眠る、杭を刺されると死ぬ、などの吸血鬼の代表的な特徴がすでに現れています。ブラム・ストーカーの『ドラキュラ』以前の吸血鬼小説としては最も有名なものではないでしょうか。
 現代の読者としては、カーミラが吸血鬼であることはすぐに分かってしまいます。ただそれが分かっていても読ませられてしまうのは、ムード作りの名手であるレ・ファニュの筆力といっていいのでしょうか。



4891764201ドラキュラ
ブラム ストーカー Bram Stoker
水声社 2000-04

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ブラム・ストーカー『ドラキュラ 完訳詳注版』(新妻昭彦/丹治愛訳・註 水声社)
 言わずと知れた、吸血鬼小説の頂点といえる作品です。トランシルヴァニアに住む「吸血鬼」ドラキュラ伯爵が、ロンドンに来襲し恐怖を撒き散らす…というストーリー。
 関係者の日記や書簡によってストーリーが展開し、話者もたびたび変わるので、ドキュメンタリー風の臨場感があります。

 翻訳も非常に読みやすく、何より膨大な註と付属の資料が参考になります。本編から削除されたエピソード「ドラキュラの客」も収録しています。
 実は「吸血鬼」にはいろいろ制約があって、その一つとして「所有」している場所でないと移動できないとか、必ず棺で寝ないといけないとかのルールがあります。わざわざ、大量の棺を運ばせて複数の屋敷に分散させるとか、結構面倒くさいことをしています。
 ドラキュラ側も、主人公であるヴァン・ヘルシング側も、吸血鬼のルールとそれを撃退するためのルールを互いに知った上で、知的な応酬をするという感じなのが面白いですね。またヴァン・ヘルシング側が、何人かのチームを組んで応酬するところがまた興味深いです。
 註にもいろいろ面白い部分があって、例えばドラキュラに襲われたルーシーに男たちが輸血をするシーンがあるのですが、血液型も調べずに輸血をしていたりします。そもそも「ドラキュラ」発表時には輸血の技術も血液型の知識も普及していないらしいのです。
 ドラキュラもヴァン・ヘルシングたちも、ロンドンからトランシルヴァニアまでかなりの距離を移動するのですが、このあたりの海外遠征の描写もかなり忠実らしくて、これは名優ヘンリー・アーヴィングのマネージャーをしていたストーカーの海外知識が反映されているとか。



4828831029モーパッサン怪奇傑作集 (福武文庫)
ギ・ド モーパッサン 榊原 晃三
福武書店 1989-07

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ギイ・ド・モーパッサン「オルラ」(榊原晃三訳『モーパッサン怪奇傑作集』福武文庫収録)
 透明で、人の生気を吸い取る謎の怪物に襲われた男の物語です。作中に「吸血鬼」の言葉は出てきませんが、ほぼ「吸血鬼」といっていいかと思います。
 作中に登場する怪物がすごく無気味で、姿は見えないながら実体はあり、牛乳と水を好むなど、妙なリアリティがあります。怪物の正体を探ったりする過程は非常にSF的です。
 語り手の男が狂気にとらわれており、怪物の存在が妄想である可能性も示唆されるという、多面的な作品でもあります。



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フランス幻想文学傑作選 3 世紀末の夢と綺想
窪田般弥 滝田文彦
白水社 1983-04

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J・H・ロニー兄「吸血美女」(小林茂訳 窪田般彌/滝田文彦編『フランス幻想文学傑作選3』白水社収録)
 うら若き美女イヴリンは、ある日突然息を引き取りますが、すぐに息を吹き返します。しかし記憶はあるものの、彼女の人格自体は変わっていたのです。一緒に暮らしていた家族の体調が悪くなっていきますが、イヴリンを見初めたジェイムズとの結婚以降、家族は健康を取り戻します。
 代わりにジェイムズの体調が悪化し、やがてイヴリンは夫の血を吸っていることが発覚します。ジェイムズはそれでもイヴリンを愛しますが、イヴリンは突如息を引き取ります。再び目を覚ましたイヴリンの人格は元の人格に戻っていました。結婚自体の記憶もない彼女は困惑しますが…。

 タイトル通り、吸血鬼になってしまった美女を描く作品なのですが、アイデンティティーと夫婦の愛情がメインテーマという面白い作品です。
 この作品での吸血鬼の扱いは独特で、例えば吸血行為自体は口をあてるだけで血を吸い取れる(噛まなくてもよい)とか、そもそも吸血鬼自体が異次元(?)から来た別人格なのです。しかも主人格が戻ってきてから、夫妻が再び愛情を取り戻す過程が描かれるという部分もユニークです。
 イヴリン自身が後半、吸血鬼人格と入れ替わりに、別の世界に行っていたことが明かされるのですが、この別世界がすごく無気味なんですよね。かすかな「クトゥルー」感もあったりと、今読んでも面白い作品です。



ザ・キープ〈上〉 (扶桑社ミステリー) ザ・キープ〈下〉 (扶桑社ミステリー)
F・ポール・ウィルスン『ザ・キープ』(広瀬順弘訳 扶桑社ミステリー)
 トランシルヴァニアの古い城に駐留することになったナチスドイツ軍。正体の知れない怪物に、兵士が次々と殺されていきます。虐殺が続くことに危機感を覚えたドイツ軍は、ユダヤ人の歴史学者クーザに調査を命じます。
 やがて城に巣食う魔性のものと接触したクーザは、彼を利用してドイツ軍を排除しようと考えます。一方クーザの娘マグダが出会った謎の男グレンは、魔性のものの事情を知っていることを仄めかしますが…。

 最終的には厳密な「吸血鬼もの」とは言えなくなるのですが、中盤までの展開はハラハラドキドキの連続で、非常に面白いエンタメです。深夜の古城で、目にも留まらぬ速さで跳梁する吸血鬼のイメージが強烈ですね。



4102216022薔薇の渇き (新潮文庫)
ホイットリー ストリーバー Whitley Strieber
新潮社 2003-08

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ホイットリー・ストリーバー『薔薇の渇き』(山田順子訳 新潮文庫)
 数千年にわたって生き続ける女吸血鬼ミリアムは、自身の孤独をまぎらわせるために人間を吸血鬼にしパートナーとしていました。しかし人間から吸血鬼になった者の寿命は数百年であり、現在のパートナーであるジョンもまたその限界に近づいていたのです。
 ジョンの老いを防ぐためと自身の体の秘密を知るために、老衰の研究を進める科学者サラに接近するミリアムでしたが…。

 自身の寂しさをまぎらわすために、常にパートナーを求める吸血鬼、というユニークな吸血鬼像を描いた作品です。その人物像は「人間的」なのですが、一方で人間は食料に過ぎず、パートナーでさえ対等の存在ではないという意味では、やはり「怪物」に近い存在でもあるのです。
 ストリーバーは、吸血鬼を、人間とは異なる進化を遂げた別の種族として描いています。血液の成分が人間とは異なったり、脳の作りが異なっていたりと「科学的」に描写します。このあたり、人狼を人間とは別の種族として描いた『ウルフェン』と共通するところがありますね。
 科学者サラを支配下に置こうとするミリアムと、恋人との愛を信じミリアムに抵抗しようとするサラの精神的な戦いが読みどころです。ミリアムの寵愛を失い嫉妬にかられたジョンの不穏な動き、ミリアムの数千年にわたる過去の回想なども読み応えがあり、吸血鬼小説の名作の一つといっていいのでは。



4102216030ラスト・ヴァンパイア (新潮文庫)
ホイットリー ストリーバー Whitley Strieber
新潮社 2003-12

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ホイットリー・ストリーバー『ラスト・ヴァンパイア』(山田順子訳 新潮文庫)
 不老の吸血鬼ミリアムは、同じ種族の伴侶を探すため、タイのヴァンパイアの集会を訪れますが、すでに仲間たちは壊滅させられていました。
 パリに飛んだミリアムでしたが、その後をCIAのヴァンパイア捜査班が追い続けます。捜査班のリーダー、ポールは、人間でありながらヴァンパイアなみの回復力を持つ男。殺される寸前まで追い詰められながら、なぜかミリアムはポールに惹かれはじめます…。

 『薔薇の渇き』の続編です。全篇、人類と吸血鬼との戦いが描かれ、アクション重視のエンタメに仕上がっています。人類はヴァンパイアが作り出した家畜だった…みたいな伝奇的な設定も出てきたりと盛り沢山です。前作とずいぶん趣が違いますが、これはこれで面白いですね。
 第一作『薔薇の渇き』が1981年、二作目『ラスト・ヴァンパイア』が2001年と、20年ぶりに描かれた続編であるせいか、前作との矛盾点や設定の後付けが目立ちます。前作では吸血鬼の孤独感がテーマだったと思うのですが、続編では仲間の種族がたくさんいることになっています。
 前作で最後まで抵抗を続けたヒロイン、サラが再登場しますが、あっさりとミリアムの軍門に下っているのもちょっと違和感が。単体作品として見ればなかなか面白い作品なのですが、前作と続けて読むと、ちょっと気になる点がないでもありません。
 ちなみに『ラスト・ヴァンパイア』の後に、もう一作シリーズ作品があるのですが未訳です。



奴らは渇いている〈上〉 (扶桑社ミステリー) 奴らは渇いている〈下〉 (扶桑社ミステリー)
ロバート・R・マキャモン『奴らは渇いている』(田中一江訳 扶桑社ミステリー)
 ヨーロッパからやってきた吸血鬼の王コンラッド・ヴァルカンは、その力を利用して吸血鬼を増やしていきます。暴走族や殺人者などを手下に引き入れ、その軍勢は数十万単位に。さらに超自然的な力による砂嵐で、ロサンジェルス全体に閉じ込められた人間たちは次々と殺戮されていきます…。
 ハンガリーからの移民であり、かって父親を吸血鬼に殺された警部パラタジンは、事態が吸血鬼のせいであり、彼らの王を倒すしかないと考えます。味方はいじめられっ子の少年、不良上がりの神父、コメディアン。彼ら4人は王を倒せるのか…?

 数世紀を生きる吸血鬼の王によってロサンジェルス全体が制圧されるという、とにかくスケールの大きい作品です。
 吸血鬼の王の能力がものすごく、肉体的な力だけでなく精神的な支配力、さらには超自然的な能力まで持っており、町はあっという間に制圧されていきます。事態が悪化するなか、彼らに歯向かう4人の人間が登場し、本拠地の城に乗り込む…という展開は非常に熱いです。
 最後の部分がわりとあっさりしているのですが、なかなかに読み応えのある作品。



フィーヴァードリーム〈上〉 (創元ノヴェルズ) フィーヴァードリーム〈下〉 (創元ノヴェルズ)
ジョージ・R・R・マーティン『フィーヴァードリーム』(創元推理文庫)
 南北戦争前夜、持ち船を失ったアブナー・マーシュ船長のもとに、ジョシュア・ヨークと名乗る男が訪れ、アブナーの共同経営者になりたいと持ちかけます。ジョシュアの莫大な資金を元に、二人は豪華な蒸気船フィーヴァードリーム号を完成させます。
 意気揚々とミシシッピ川の船旅に出発した一行でしたが、なぜか、ジョシュアは夜にしか姿を現しません。問い詰めたアブナーは驚くべき話を聞きます。ジョシュアは人間とは別に進化した種族であり、血を糧とする「吸血鬼」だというのです…。

 アメリカ南部、蒸気船に命をかける男と吸血鬼との友情を描いた、異色の吸血鬼小説です。
 同族を血の縛りから解放しようとする「正義」の側のジョシュアに対抗する存在として、「悪」の側のダモン・ジュリアンという吸血鬼も登場し、彼ら二人の対決がたびたび描かれるのですが、ジョシュアがあっさりと負けてしまうこともあり、こちらの展開は、多少消化不良の感がないでもありません。
 それよりも、豪華船を作り、競争に勝とうとする男たちの熱い思いを描いた部分が、一番の読みどころでしょうか。女性キャラも登場するものの、総じて影が薄いです。吸血鬼ものにつきものの耽美性は薄いですが、非常に豊潤な物語といえます。



4828849327なぞのうさぎバニキュラ (Best choice)
デボラ・ハウ ジェイムズ・ハウ Deborah Howe
福武書店 1990-12

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デボラ&ジェイムズ・ハウ『なぞのうさぎバニキュラ』(久慈美貴訳 ベネッセ)
 飼い主の家族が映画館で拾ってきたうさぎを飼いはじめたことから、奇怪な事件が続発します。「バニキュラ」と名付けられたうさぎが原因だと考える犬のハロルドと猫のチェスターは、家族を守ろうと対策を練りますが…。

 うさぎの「吸血鬼」が登場する作品です。ただ「吸血鬼」とはいっても、うさぎが吸うのはなんと野菜の血! 「血」を吸われたトマトが真っ白になったりします。
 チェスターが飽くまでうさぎを撃退しようとするのに対して、犬のハロルドは同情心からチェスターの邪魔をしたりするようになるのも面白いところ。最後のオチも大団円で楽しい作品です。



B000J79KPAパリ吸血鬼 (1983年) (ハヤカワ文庫―NV)
クロード・クロッツ 三輪 秀彦
早川書房 1983-11

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クロード・クロッツ『パリ吸血鬼』(三輪秀彦訳 ハヤカワ文庫NV)
 ドラキュラの息子フェルディナンは人間と吸血鬼のハーフ。父親ともども長年暮らした城を追い出され、パリで自活をすることになります。夜警の職についたものの、生活は楽にならず、食料である血もなかなか手にはいりません…。

 とにかく主人公のフェルディナンが、徹底的に不幸な目にあいます。吸血鬼としての能力を利用して人間を襲おうとしますが、ことごとく失敗してしまうのです。職も追われ、飢餓状態になったフェルディナンに起こった変化とは…?
 吸血鬼を題材とした「ユーモア小説」といえるのですが、吸血鬼の性質や特徴などは非常によく描かれています。主人公が全くいい目を見ないので、このまま終わってしまうのかと思いきや、思いもかけない展開に。非常に後味のいい作品です。



sinku.jpg怪奇幻想の文学〈第1〉真紅の法悦 (1969年)
新人物往来社 1969

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荒俣宏/紀田順一郎編『怪奇幻想の文学1 真紅の法悦』(新人物往来社)
 いわゆる「ひねった」作品は少なく、真っ向から吸血鬼が登場するという作品の多い、全体に正統派の吸血鬼アンソロジーです。
 収録作品は、ジョン・ポリドリ「吸血鬼」、レ・ファニュ「吸血鬼カーミラ」、E・F・ベンスン「塔のなかの部屋」 、F・G・ローリング「サラの墓」 、マリオン・クロフォード「血こそ命なれば」、カール・ジャコビ「黒の告白」 、M・W・ウェルマン「月のさやけき夜」、リチャード・マシスン「血の末裔」、D・H・ケラー「月を描く人」、ジョン・メトカーフ「死者の饗宴」。

 F・G・ローリング「サラの墓」 は、教会の修理で墓を動かしたがために、封印されていた女吸血鬼が復活する…という話。この吸血鬼、巨大な狼に変身したりと強力なのですが、珍しく人間の犠牲が出る前に倒されるという、この手の吸血鬼ものには珍しい展開です。

 マリオン・クロフォード「血こそ命なれば」は、財産家の父が死に、雇い人に財産を持ち逃げされた孤独な青年のもとに、かっての想い人の女吸血鬼が夜な夜な血を吸いにくるという物語。非常にロマンティックな雰囲気なのですが、吸血鬼がゴーチェ「死女の恋」のように優しくはなく残酷なところが印象的。

 D・H・ケラー「月を描く人」は、強圧的な母親に支配されていた青年画家が、母親の死後、精神病院に収容され、そこで奇妙な絵を描き始める…という話。いわゆる「絵画怪談」と「吸血鬼もの」を合体させた作品です。青年の死後、伝記作家が精神病院長に青年の人生を聞き取るという語りもユニークです。



B000J85DLOドラキュラのライヴァルたち (1980年) (ハヤカワ文庫―NV)
マイケル・パリー
早川書房 1980-09

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マイクル・パリー編『ドラキュラのライヴァルたち』(小倉多加志訳 ハヤカワ文庫NV)
 古典的な作品から現代作品まで、幅広い吸血鬼作品を集めたアンソロジーです。珍しい作品が集められているのが特徴。ラムジー・キャンベル、ジャン・レイ、M・R・ジェイムズ、マンリー・ウエイド・ウェルマン、ロバート・ブロックなど。

 とくに珍しいのが、ブラム・ストーカー『ドラキュラ』に影響を与えたと言われる吸血鬼小説の一つ、作者不詳の「謎の男」です。1860年にドイツ語で書かれ、英語に翻訳された作品だそうです。
 領地の城に向かう途中のファーネンベルク勲爵士の一行は、狼の群れに襲われ廃墟となった城に逃げ込みます。そこで一行は謎の男に助けられます。後日知り合いになった男はアツォと名乗り、ファーネンベルクの城に出入りするようになります。
 令嬢のフランチスカはアツォに夢中になりますが、婚約者のフランツと従妹のベルタはアツォに不審の念を抱きます。アツォは夜にしか現れず、食事も全くとらないのです。やがてフランチスカの体調が悪化し始めますが…。

 婚約者のフランツが柔弱であることに不満を抱いているフランチスカが、影のあるアツォに惹かれはじめるという、恋の鞘当て的な部分もあり、それぞれのキャラクターも立っています。とくに印象深いのが、後半に現れるベルタの婚約者の軍人ヴォイスラウです。 戦争で片腕を失ったかわりに、強大な力の出る黄金の義手を身につけて現れるという強烈な登場シーンです。その力で、アツォの人間離れした怪力に対抗する…というシーンもあります。やがてフランチスカの命を救うために、ヴォイスラウはある手段を提案しますが…。
 夜にしか活動しない、人間の食事を取らない、人間離れした怪力、棺桶で眠るなど、「謎の男」アツォの性質は、本当に「ドラキュラ」を彷彿とさせます。邦訳で60ページほどの作品ですが、物語として充分に面白く、これは手軽な形で読めるようになってほしいですね。



4562028947吸血鬼伝説―ドラキュラの末裔たち
仁賀 克雄
原書房 1997-02

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仁賀克雄編『吸血鬼伝説 ドラキュラの末裔たち』(原書房)
 20世紀前半に活躍したホラー・SF作家たちの吸血鬼短篇を集めたアンソロジーです。基本的に「怪物」としての吸血鬼をテーマにした作品が多く、オーソドックスながら怪奇味あふれるタイプの作品が好きな方にはお勧めできるアンソロジーですね。
 収録作品は、カール・ジャコビ「黒の啓示」、カール・ジャコビ「血の末裔」、レスター・デル・リ「炎の十字架」、エドモンド・ハミルトン「吸血鬼の村」、シリル・M・コーンブルース「心中の虫」、バセット・モーガン「狼女」、ウイリアム・テン「夜だけの恋人」 、シーバリー・クイン「影のない男」、クラーク・アシュトン・スミス「アブロワーニュの逢引」、ロバート・E・ハワード「墓からの悪魔」、オーガスト・ダーレス「お客様はどなた?」、ヘンリー・カットナー「わたしは、吸血鬼」、A・E・ヴァン・ヴォクト「聖域」、ロバート・ブロック「マント」、チャールズ・ボウモント「会合場所」。



4390114182ドラキュラ学入門 (現代教養文庫)
吉田 八岑 遠藤 紀勝
社会思想社 1992-03

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吉田八岑、遠藤紀勝『ドラキュラ学入門』(現代教養文庫)
 吸血鬼についての総合的な入門書です。フィクションの吸血鬼よりも、民俗学的な伝承や、歴史的な記述の方に筆が多く割かれています。写真がたくさん載っており、ヴィジュアル的にも楽しい本です。
 ドラキュラのモデルになった実在の人物ヴラド・ツェペシュや「血まみれの伯爵夫人」エリザベート・バートリーの伝記なども収録されています。



hartman.jpg
フランツ・ハルトマン『生者の埋葬』(絹山絹子訳 黒死館附属幻推園)
 上記『ドラキュラ学入門』にも言及がありますが、オーストリアの医師フランツ・ハルトマンが「早すぎた埋葬」の例ばかりを集めたユニークな本です。
 「早すぎた埋葬」とは、仮死状態の人間が生きたまま埋葬されてしまう、という事例のこと。仮死状態で埋葬されてしまった人間を見て、吸血鬼だと思い込んだ例もあるのではないかと言うのです。
 以下のページで入手できます。
 http://klio.icurus.jp/kck-dic/info.html



4791756657陳列棚のフリークス
ヤン ボンデソン Jan Bondeson
青土社 1998-09

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ヤン・ボンデソン『陳列棚のフリークス』(松田和也訳 青土社)
 「早すぎた埋葬」に関しては、こちらの本にも詳しく語った章があり、参考になります。こちらは、医師が医学史の変わった現象をいろいろ取り上げるというコンセプトの本です。「人体自然発火」「胎内感応」「巨人」など、風変わりな題材が取りあげられています。



kyuketuki.jpg
吸血鬼の事典
マシュー バンソン Matthew Bunson
青土社 1994-12

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マシュー・バンソン『吸血鬼の事典』(松田和也訳 青土社)
 吸血鬼に関する百科事典とも言うべき本です。吸血鬼に関する伝承、歴史的な事件などから、小説や映画などのフィクションの紹介まで、いろいろな話題が盛り込まれています。欧米だけでなく日本やアジア諸国にまで言及しているのがすごいですね。
 とくに伝承や伝説に関しては変わったものが取り上げられていて面白いです。例えば「付喪神」の項目。ユーゴラスヴィアのイスラム教ジプシーによれば、三年間放置された農具は吸血鬼になるとか。
 吸血鬼を扱った小説に関してもかなり詳しく、『ドラキュラ』や『カーミラ』などの有名作だけでなく、マイナーな作品や未訳の作品まで紹介していて参考になります。それぞれの紹介文もよくまとまっていて、わかりやすいですね。巻末のリストも貴重です。



B00ALSRTDCドラキュラ文学館 吸血鬼小説大全 (別冊幻想文学 7)
東 雅夫
幻想文学出版局 1993

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『別冊幻想文学 ドラキュラ文学館』(幻想文学出版局)
 雑誌『幻想文学』の別冊として刊行されたムックです。吸血鬼「小説」に関する限り、最も有用なガイドブックといえるのではないでしょうか。吸血鬼を扱った小説のリストや登場する吸血鬼のキャラクター名鑑、各国の吸血鬼文学の事情を語ったエッセイ、吸血鬼をテーマにした短篇もいくつか収録されています。
 ちなみに収録短篇は、以下のようなもの。

須永朝彦『小説ヴァン・ヘルシング』
バイロン卿『断章』(南條竹則訳)
ステンボック伯爵『夜ごとの調べ』(加藤幹也&佐藤裕美子訳)
城昌幸『吸血鬼』
A・クビーン『吸血鬼狩り』(前川道介訳)
シーベリィ・クィン『月の光』(村社伸訳)

 エッセイでは、前川道介「死者たちの血の渇き ドイツ吸血鬼文学誌」、森茂大郎「メタファーとしての吸血鬼 フランス吸血鬼文学誌」、大石雅彦「吸血鬼における神話作用 スラヴ吸血鬼文学誌」などの、英米以外の国の吸血鬼文学事情が参考になりますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
明けましておめでとうございます。
「死女の恋」を読みましたが、確かにどっちが悪者だかわからないですね。
吸血鬼退治と言っても、やってることは墓暴きと死体損壊ですからね…
漫画で吸血鬼やその他怪物を扱ったものでは、退治に躍起になる人間の行動について
「それってどうなの?」と問いかける展開を時々見かけますが、その原型でもあると感じました。

まあ、この話自体は人間的な喜び、情熱の類いを否定する教会を皮肉っている様に感じます。
主人公とセラピオン師をエリート親子に置き換えれば現代にも通じるものが…

吸血鬼は力、不老不死、非人間、美しさ…と色々な要素があるのが魅力だと思っています。
吸血鬼を扱った作品も、どの要素に注目するかで全然違う話になる様です。
私自身は過去に吸血鬼の「孤独」を扱った作品を読んで、雰囲気にとても惹かれた事があります。
【2018/01/13 20:52】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
bear13さん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

現代の作品だと、一方的に退治される「怪物」というのに違和感を抱いてしまいますが、ゴーチェの作品はそうした作品の先取りなのかもしれませんね。「魔性のもの」に惹かれる心性というのもあると思いますが。

吸血鬼作品は、単純な「吸血」行為以外にも、いろいろな要素がありますね。長い時を生きる「孤独」を描く、というのも一つの要素で、ストリーバーの『薔薇の渇き』もそんなテーマの作品でした。
【2018/01/14 10:14】 URL | kazuou #- [ 編集]

「薔薇の渇き」読みました
面白かったです。各々の登場人物の苦悩がしっかり描かれていたと思います。

ミリアムは誰とも対等になれず、パートナーも、立場が近いだけで埋められない溝がある、という点で非常に孤独で、過酷な立場だとは思いますが、
現実の人間同士でも、周囲と対等になれない人はいますし、もっと良い方法があるように思います。

この本を読んでいてふと思い出したのが、押井守監督のアニメ映画「スカイ・クロラ」です。
この作品にも年を取らないヒューマノイドが登場しますが、
「いつも通る道でも、同じ景色とは限らない。それだけではいけないのか」という象徴的なセリフがありました。
ミリアムも、もう少しよそ見をしながら生きても良いのでは、と感じました。
【2018/03/25 00:25】 URL | bear13 #- [ 編集]

>bear13さん
「種族を超えた愛」みたいな感じで、安易にハッピーエンドにしないところが、『薔薇の渇き』の良さでもありますね。「孤独」や「コミュニケーション」についても考えさせられる作品でした。

「スカイ・クロラ」は未見なのですが、そういうキャラが登場するのですね。SF作品でも、不老の技術やサイボーグ化などで、長寿を手に入れた人間と自然寿命の人間が対立する…というテーマの作品がありますが、このあたりはなかなか難しいテーマですね。
【2018/03/25 09:32】 URL | kazuou #- [ 編集]


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プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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