あなたも滅んでみませんか -破滅SFの愉しみ-
終末のフール トリフィド時代―食人植物の恐怖 ウェットワーク

 先日、伊坂幸太郎『終末のフール』(集英社)という作品を読みました。これ、すでにお読みの方もいるかと思いますが、隕石が地球に衝突して、人類滅亡が確実視されるようになった世界で生きる人々を描いたオムニバス長編です。で、これを読んでいて、ふと既視感に囚われてしまいました。似たような話を読んだことあるなあ。
 以前紹介したモルデカイ・ロシュワルト『レベル・セブン』をはじめ、1950~60年代に欧米で競って書かれた〈ディザスター小説〉または〈破滅SF〉と呼ばれるジャンルがあります。天災、人災を問わず、何らかの原因で人類が滅亡に追い込まれるというシチュエーションを扱った作品群です。
 米ソ冷戦の世界情勢を反映したものだったのでしょうが、一部の政治小説を除いて、今読んでも面白いものが、けっこうあります。そんな作品について、いくつか語ってみたいと思います。
 〈破滅SF〉と聞いて、まず僕が思い出すのはジョン・クリストファーの作品。最近では『トリポッド』なんかで有名ですが、もともとシリアスな作風の作家です。クリストファーの作品では『草の死』と『大破壊』が破滅ものです。
 『草の死』は、世界から植物がなくなってしまい食糧危機に陥った世界が舞台。政府が崩壊して人々は自衛のために武器を取り始めるというもの。
 『大破壊』は、大地震で破壊され尽くした世界で、主人公の男は遠く離れた娘の生存を信じて捜索の旅に出かける、という話。どちらも極限状況に置かれた人間の変貌ぶりが、リアリティ豊かに描かれる作品です。
 マックス・エールリッヒ『巨眼』は、『終末のフール』と同じく小惑星が地球に衝突するという報告が出された世界が舞台。人々は混乱しますが、一部の心ある人々により落ち着きを取り戻し、世界は一つになる、というかなり楽観的な作品。ものすごいオチがあるのが特徴。これ人によっては怒るんじゃないかと思います。
 リチャード・マシスン『地球最後の男』(ハヤカワ文庫NV)は、吸血ウィルスが蔓延し、周りが吸血鬼だらけになった世界で一人奮闘する男の物語。破滅テーマの変種であり、ホラーとしても第一級の作品です。
 J・T・マッキントッシュ『300:1』は、太陽が輝度を突然増したために、焦熱地獄となった地球が舞台。火星への移住計画が持ち上がり、急ピッチでロケットが作られますが、それに乗れるのは一部の人間だけ。その比率は全人口に大して300:1。 人々は醜い争いを始めるのですが…。
 地球脱出までのパートはすさまじいばかりの迫力です。自己犠牲的なテーマもあり、感動ものなのですが、後半は移住した先での開拓物語になってしまい失速してしまうのが残念。
 エドマンド・クーパー『太陽自殺』も、太陽が破滅原因ですが、ちょっとユニークです。未知の太陽光線の影響により自殺する人々が急増します。生き残ったのは狂信者や誇大妄想狂など、精神に異常を持つものばかり。危険人物ばかり生き残るというのが、かなり怖いです。
 ジョージ・R・スチュワート『大地は永遠に』は、疫病が原因で世界が滅びます。リイ・ブラケット『長い明日』は核戦争が原因。この二つはやたらと肯定的な雰囲気が特徴。未来への希望にあふれた作品です。
 ジョン・ウィンダム『トリフィド時代』(創元SF文庫)は、いわずと知れた有名作品ですが、盲目になった人類に、動く植物トリフィドが襲いかかるという話。盲目とトリフィドと、人類が滅びる原因が二重になってるのが特徴。同じくウィンダム『さなぎ』は、核戦争後、放射能の影響で生まれたミュータントの話。
 このテーマを扱った短編は、数多くあるので詳しくふれませんが、福島正美編のアンソロジー『破滅の日』が非常な秀作集です。
 同じ破滅テーマを扱っていても、イギリス作品はシリアスで陰鬱、アメリカ作品は楽天的なものが多いのが、面白いですね。アメリカの破滅テーマ作品では、滅亡後の世界が、まるで開拓時代の西部劇みたいになっちゃうものが意外と多いです。破滅した原因に対する反省というよりは、希望に満ちた復興、といった面が強く出ているのが特徴。個人的な好みを言わせてもらえば、人物描写に強いイギリス作品の方が全体的に傑作が多いように思います。
 最近この手の作品はあんまり見かけないようです。ウィルスによるパニックものとか、ゾンビものなんかという形では、まだ書きつがれているようですが。この方面で近年、出色だったのはフィリップ・ナットマン『ウェットワーク』(文春文庫)です。ゾンビものなのですが、知性を残したままゾンビ化した人間たちが政府を作り世界制覇に乗り出す、という凄まじい設定。ゾンビ同士のスーパーアクションが見られるというユニークな作品です。
 正面切って破滅を描く作品というのは少なくなっているんじゃないでしょうか。冷戦が終わって舞台設定にリアリティが感じられなくなったというのもあるんでしょうが、小説において極限状況を設定する手段としては、まだまだ有効なものだと思います。

※今回紹介した作品は絶版が多いのですが、現行本で手に入ると思われるものだけ出版社名を記しました。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
あれ?読んでない!
昔のSF読みを自称する身として、提示の作品を読んでないのがちょっと恥ずかしい。特に『地球最後…』と『トリフィド…』は必読書と認識していたので、忘れていた宿題を思い出したたような気持ちです。破滅ものはあまり興味がなかったのでしょうか。バラードの世界シリーズもバラードだから読んでだみたいで…。
今のホラー読みを自称する身としては、スティーヴン・キングの『ザ・スタンド』で描写された破滅ぶりが印象深いですね。
【2006/04/26 12:30】 URL | 迷跡 #- [ 編集]

人類滅亡
破滅SFならば最後は人類滅亡でなければ駄目だ、って観点で私の方は取りそろえてみたのですが、ようするに<やりきれなさ>ってのをこのテーマの小説に求めてるんですね。
だから、助かっちゃうと私的には破滅SFじゃない(笑)
最近のものだとグレッグ・イーガンの「ディアスポラ」なんか破滅SFに入れてもいいのかなと思ったりもします。
【2006/04/26 17:47】 URL | Takeman #- [ 編集]

>迷跡さん
いやいや、結構マニアックなものもありますからね。僕、やたらと破滅ものが好きで集めてたんで、たぶん邦訳されたこの手の作品はほとんど読んだと思います。
極限状況に追いつめられた人間心理、という感じの作品が好きだったんでしょうね。その点で本文にも書きましたが、ジョン・クリストファーの作品は、圧倒的なリアリティでした。これ、現在で言うとキングの作品に似たものを感じます。しかもキングよりも冷徹な現実認識、これぜひ復刊してもらいたいものです。
『トリフィド』も面白いけど『地球最後の男』の方が、必読だと思います。全編かなりヴァイオレンスな話ですが、結末ではセンス・オブ・ワンダーが味わえます。その点これはSFの範疇にいれていいと思うんですけどね。
【2006/04/26 19:56】 URL | kazuou #- [ 編集]

>Takemanさん
なるほど! 確かに「破滅」ですから滅亡しないと駄目だというわけですね。
僕は、安易に楽観的な作品というのは嫌いなんですが、一抹の希望は残しておいてほしい、というタイプですね。上に挙げるのを忘れましたが、ディッシュ『人類皆殺し』なんかは非常に救いがないですよね。ああいうのはちょっと、きついかな。
『ディアスポラ』って、そういう系統の話なんですか?
イーガンの長編は『宇宙消失』で挫折して以来、避けてるんですよ。基本的に理系の頭じゃないので、ついてけない(笑)。
【2006/04/26 20:02】 URL | kazuou #- [ 編集]


ハリウッド映画の「破滅にみせかけたアメリカ万歳SF」には嫌気がさしています。神風的自己犠牲のパターンとでもいいましょうか、絶対一人のアメリカ人が世界を救ってくれていますよね。(アメリカ人しか戦ってないの?)
地球に隕石が衝突しても、全員が死ねるわけではないと思います。個人的には、生き残ってしまった人(死ねなかった人)の切なさを描いた作品が読みたいですね。
【2006/04/26 21:45】 URL | 加納ソルト #- [ 編集]

小説ではけっこうありますよ
たしかにハリウッド映画では、アメリカ万歳といった作品が多いですね。
小説でもアメリカ作品はこの傾向が強くて、映画ほどではないにしても、力強く生きるアメリカ人物語になってしまうものが結構あります。
そういうわけで、シリアスな人間心理を描いた作品を読みたければ、イギリス作品がオススメです。本当はジョン・クリストファーがいちおしなのですが絶版なので、上にも挙げたジョン・ウィンダム『トリフィド時代』をオススメしておきます。
【2006/04/26 22:09】 URL | kazuou #- [ 編集]


 Kazuouさんの守備範囲の広さには脱帽です。
 有名どころが並んでいますが,私が読んだのは,マシスンとウィンダムだけですな。
 ウィンダムは,創元さんが「トリフィド」をなんとか絶版にしていないので命脈を保っていますが,ハヤカワさんは「さなぎ」も「海竜めざめる」も「呪われた村」も全滅状態。
 結構,短編も翻訳されていたようですけど。
 「地球最後の男」は,似非科学的解説がいんちき臭くて気に入りました。
 
【2006/04/27 00:19】 URL | おおぎょるたこ #- [ 編集]

ウィンダム
ジョン・ウィンダムは、今読んでも充分面白い作家なんですけどね。『トリフィド』以外は全滅ですか。個人的には『トリフィド』よりも『さなぎ』とか『呪われた村』なんかの方が好みです。ウィンダムの短篇は少ししか読んだことないんですけど、手堅い話が多かったように思います。長編と違ってユーモア物がけっこう多かったような…。
『地球最後の男』は、たしかにいんちき臭いですが、あの説明はあってなきがごとし、といった感じですね。ホラーだと思って読んだんですけど、結末に感動しました。思わぬところでセンス・オブ・ワンダーに出会った気分です。
【2006/04/27 08:27】 URL | kazuou #- [ 編集]

ウェットワーク
リメイク版の映画「ドーン・オブ・ザ・デッド」を見た後だったこともあって、一気に読み進めました。
タイプの異なる二人のタフな主人公を中心に、カットバックしながらストーリーが進んでいきます。この辺は『クリムゾン・リバー』等にも似て、伏線を持たせながら中盤以降の展開を期待させます。
主人公の一人の「あの形」での復活には驚きましたが、冒頭の謎解きやエンディングにもう一ひねりあれば、という気もします。核の発射ボタンを押せば、確かに「ウェットワーク」となるのでしょうが・・・・。
あと脇を固める顔ぶれの人物描写も、もう少し書きこみが欲しかったところでしょうか。「ゾンビもの」のサブ・キャラクターは、考え方によってはこのくらいで丁度良いのかもしれませんが。
アクションシーンが映画を見ているように見事なだけに、そのあたりのバランスが気になりました。
【2007/07/07 09:32】 URL | newt #- [ 編集]

>newtさん
『ウェットワーク』は、「ゾンビ」を使ったエンタテインメントとしては、非常に斬新ですよね。なんといっても、アクションシーンのカラフルさが目を引きます。
物語の設定自体が、もともと馬鹿らしいといえば馬鹿らしいんですが、コメディに堕さずに、うまくまとめきった構成力には、感心します。
脇役の描き込みが甘い、というのも、このタイプの話では、あまり欠点にならないような気もするので、これはこれで面白いのではないかと思います。
【2007/07/07 14:55】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/77-7132a763
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

終末のフール

終末のフール伊坂 幸太郎著SFのサブジャンルに破滅テーマというものがあって、昔から好きでした。人類が滅亡するとか、地球が崩壊するとか、そんな話が大好きだったのです。明るい未来の話よりも暗い未来の話のほうが好きだったので、端から見ればさぞかし嫌なガキだったと アルファ・ラルファ大通りの脇道【2006/04/26 17:46】

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する