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魔女のいる風景  トマス・オルディ・フーヴェルト『魔女の棲む町』
4775526642魔女の棲む町 (マグノリアブックス)
トマス・オルディ・フーヴェルト Thomas Olde Heuvelt 大原 葵
オークラ出版 2017-05-25

by G-Tools

 人口約三千人の町、ブラックスプリングには秘密がありました。住人はその町から出ることができず、町の外に出たとしても、強烈な自殺衝動にかられ自殺してしまうのです。その対象には、町で生まれたものだけでなく、引っ越してきた者も含まれていました。
 町の住人にかかった「呪い」は、数百年前に処刑された魔女のものだとされています。「キャサリン」と呼ばれる魔女は、今でも日常的に町に姿を現していました。目や口を縫い合わされ、体は縛られた状態で。災厄を押さえるために、過去に魔女に対して防御策を講じた人間がいたのです。
 彼女の囁きを聞いたものは死んでしまうと言われており、数十年前に魔女の縛りを解こうとした人間が大量に死ぬという事件が起きていました。町の人々は魔女の呪いへの対策として、自警団「HEX」を設置します。魔女の行動を監視するカメラを大量に設置し、噂が広がらないようにインターネットを監視していたのです。
 町の外の生まれながら、ブラックスプリングにやってきたスティーヴ一家は、町の「呪い」を受け入れ平穏に暮らしていましたが、外の世界に憧れる息子のタイラーは、魔女のことを調べ、その情報を外部に公開するべきだと考え、仲間とともに計画を立てていました…。

 トマス・オルディ・フーヴェルト『魔女の棲む町』(大原葵訳 マグノリアブックス) は、超自然現象の存在の当否を云々するのではなく、それが確実にあるものとして「科学的」に対応策を取る、という面白いアプローチの物語です。
 魔女キャサリンの幽霊(?)は、ランダムに町の中に出現するので、町中に監視カメラが存在したり、彼女の存在を隠すために定期的にパレードを行い、外部の人々にその存在を隠そうとしたりと、町の人々は努力を重ねています。

 町中の人々が魔女への対応策を重ねている…と聞くと、何やら「大げさ」でコメディ色が強い作品なのかと思いきや、さにあらず、非常に「怖い」作品なのです。魔女の呪いは、実際に人を殺すだけの威力があることがはっきりしており、彼女の存在が外部に広まった場合、町の壊滅もありうる、ということが仄めかされています。
 キャサリンとの意思の疎通はほぼ不可能だと言うことが過去の事例から証明されており、下手に接触をすると、死者が出る可能性もあるのです。

 そんな中、町に閉塞感を感じているスティーヴの息子タイラーやその友人たちは、外部に情報公開をするための計画を立てていきます。
 少年たちの計画は順調に進むかと思いきや、精神に危うさを抱える仲間の一人ジェイドンの勝手な行動をきっかけに、事態は急展開を迎えます。魔女自体の恐怖だけでなく、それにおびえる住人たちの疑心暗鬼がまた争いを引き起こしてしまうのです。
 全ては本当に魔女の仕業なのか? 魔女キャサリンの呪いが生まれることになった事情が追々語られますが、それは子供を大切に思うがための悲劇であり、それはまた主人公スティーヴのたどる道を暗示することにもなるのです。

 一般的に、怪異現象を解き明かす方向に物語が進めば、それに伴い「怖さ」は半減するものなのですが、この作品に関しては「怖さ」と「謎解きの興味」が上手く両立しています。新しいタイプのホラー小説として、非常に面白い作品です。
 作者のトマス・オルディ・フーヴェルトはオランダの作家で、本作品も最初はオランダ語で書かれていたそうです。英訳にあたり、アメリカを舞台にしてかなりの変更がされたとか。元のバージョンは結末も異なっているそうで、そちらの結末も気になりますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

こんにちは。お久しぶりです。
ホラーは苦手なのであまり読まないのですが、この本は面白かったですね。ネット上ではあまり評判にはなっていませんが。
序盤の主人公一家の会話が終盤に結びついて、そうきたかと思うのと同時に、恐くて悲しい話でした。
【2017/12/01 15:44】 URL | Takeman #- [ 編集]

>Takemanさん
Takemanさん、ご無沙汰してます。

これ、もっと評判になっていい作品だと思います。序盤で、自分と他の家族どちらを優先する?という息子の言葉が、終盤になって効いてきますよね。
「魔女の呪い」という、ある種ステレオタイプな題材を扱いながら、これだけ読ませるのは筆力のある証拠だと思います。この人の作品はもっと読んでみたいですね。
【2017/12/01 18:40】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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