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アフリカの神々  ジョン・ファリス『サーペント・ゴッド』
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サーペント・ゴッド (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
ジョン・ファリス 工藤 政司
早川書房 1987-11

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 結婚式場で突然錯乱したブラッドウイン少尉は、サーベルで花嫁と父親を惨殺し、自らも命を絶ちます。その後もブラッドウイン一族には、たびたび奇怪な事件が持ち上がります。
 一方、医者として活動する男は、アフリカの奥地で数百年生きているという謎の女性に出会いますが、その直後に、精神を病んでしまいます。錯乱した男は、息子の頭蓋骨に対して手術を行おうとしますが失敗します。命をとりとめた息子ジャクソンは、成人するに及び、自らも医者となります。ブラッドウイン家当主の後妻ノーラと出会ったことから、ジャクソンは、再びアフリカの呪術と相対することになりますが…。

 ジョン・ファリス『サーペント・ゴッド』(工藤政司訳 ハヤカワ文庫NV)は、アフリカの蛇神をテーマにした伝奇ホラー作品です。
 冒頭にブラッドウイン少尉が錯乱する事件とその顛末が描かれ、次の章ではアフリカで医者が土俗の神と呪術に出会う事件が描かれます。その2つの流れがどこで結びつくのかわからないまま物語は進みますが、やがて医者の息子ジャクソンは、ブラッドウイン家当主の後妻ノーラと恋人関係になり、ブラッドウイン家の呪いと向き合うことになるのです。
 序盤はブラッドウイン家の次男チャールズの視点、中盤からは医者になったジャクソンの視点で描かれ、正直、主人公は誰なのかはっきりしません。
 序盤で視点人物となるチャールズが、後半フェイドアウトしてしまったり、ブラッドウイン家の過去の事件とアフリカの呪いとの結びつきがはっきりしなかったりと、作品としてのバランスは非常に悪いです。ただ詰め込まれたネタの豊富さもあり、ホラー作品として、どこか捨てがたい味を持った作品といえます。

 やたらと沢山の伏線が詰め込まれているのが特徴で、いくつもの謎が登場します。ブラッドウイン少尉が錯乱したのはなぜなのか? 数十年前に失踪したブラッドウイン家の長男の行方は? 過去にブラッドウイン家に起こった事件とは? 当主の後妻ノーラの正体は? アフリカで医者が出会った謎の女性の正体は? ジャクソンが死にかかった手術は何のためだったのか?
 詰め込みすぎて、最終的に解決しない伏線や謎がたくさん残ります。おそらく著者が伏線を回収しきれていないだけだと思うのですが、不思議なことに、逆にそうした部分が物語に広がりを与えているのですよね。読者がサイド・ストーリーをいくつも想像できるような膨らみがあるといってもいいかもしれません。
 決して「傑作」ではないのですが「面白い」作品だといえます。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
表紙の絵が艶っぽすぎて。
開幕から最後まで不穏で血腥い場面が散りばめられていますが下品な感じは無く、引き込まれて一気に読んでしまいます。南部の名家の贅を尽くした屋敷や列車の描写がゴシック小説らしくて読み応えありました。ヒロインが魅力的ですが彼女を得た殿方は命を落とす定め。カバーを掛けないと外で読めません。
【2018/01/07 19:02】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
そうなんですよね。表紙画は艶っぽいですが、タッチは意外と上品で、「大河小説」の趣があります。演出も上手いし、物語自体も読ませます。まとまりがないのは確かなんですが、これシリーズになってたら、かなり面白いのではないかなと思いました。
【2018/01/07 19:15】 URL | kazuou #- [ 編集]

ストーリーテリングとディテール
本年もよろしくお願い致します。年初の記事もありましたが、アイアマンガーもブッツァーティも読了していないのでそちらはまた改めて・・・

こちら、まだモダンホラー・セレクションの刊行を楽しみにしていた頃に、リアルタイムに読んでいるのですが、バランスは悪いが捨てがたい、というkazuouさんのご指摘そのままというか・・個々の場面や個々人の運命などはドラマチックだったり意表をついて不気味・グロテスクな場面が描かれたりと結構印象的で、そこだけ見るとよい作品なのではと思うのですが、作品全体の印象はというとよく思い出せないというか混沌というか・・・話の流れも頭の中でこういうことだなと理解は出来ても、ストーリーとして直観的に想起・把握できないというか… そんな感じなのでそれまでの流れが頭の中で想起されてこないからか、ラストシーンをはじめとする印象的な場面の数々があまり生きてこない(気がする)んですよね・・・ 最終的に主人公をも捉えてしまうファム・ファタルでもあるノーラの存在も案外影が薄いというか…
わたしは余り再読をしない人なのですが、この作品、読み返したら案外面白いのではと思って、いちど思い立って再読したことがあります。作品全体の印象はとくになく、動機は漠然としたものなのですが、恐らく各場面の印象が心に残っていたせいなのではと…。だから個々の場面単位では結構傑作なのかもという感じなのですが(「風と共に去りぬ」みたいなアメリカ南部の世界を描いた伝奇ものという感じで、ランズデールとも違う味わいの、ホラーとしてはかなり珍しい作品の印象があります。上流階級を描いているせいか、よくあるヴードゥーものとも世界観が異なる印象なんですよね)、でも再読しても全体の印象は結局変わりませんでした。

その辺の理由はよく分からないままだったのですが、kazuouさんが伏線回収の話を書かれていてちょっと思ったのが、この作家さんはあまりストーリーテリング/作品構成が上手くない方なのかなと。モダンホラー・セレクションではもう一つ、「果てしなき夜の息子」というのもあって個人的にはこちらの作品より好きなのですが、でも作品について何を覚えているかというと登場人物が夜闇の中で悪魔つきの少女に出会って自分も憑かれてしまう場面のみ・・・
やはり全体の構成に難がある、あるいはストーリーの流れに無頓着だったりするからなのではとちょっと思ってしまうんですよね。ただ、個々の場面設定や描出は印象的で「果てしなき…」の先ほどあげた場面は個人的に名場面の一つとして心に残っていますし、「サーペント・ゴッド」にしても、読後感ではさしてよい作品と思わなかった割に、剣を呑む場面やラストシーン他、幾つもの場面を今でも想起することが出来て、確かに "捨てがたい" という表現がぴったりの作品だと…
【2018/01/08 14:22】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

>Greenさん
こちらこそ、今年もよろしくお願いします。

ジョン・ファリスは『果てしなき夜の息子』も読みましたが、おっしゃる通り、作品構成があまり上手くないんだと思います。『果てしなき夜の息子』の方は、割合シンプルな筋立てなのでそんなに気にならないのですが、『サーペント・ゴッド』はいろいろまとまりがない印象ですよね。そもそも、読み終わった直後でさえ、ストーリーが把握しにくかったぐらいですし。

構成はともかく、個々の場面は印象的なものが多いです。B級オカルト的な題材の割には意外に格調もあったりして、ファリスは、描写がかなり上手い人なんだと思います。そう考えると、短篇とか中篇はもっと完成度が高いのかもしれないですね。

ファリスは上記の2作と、あと映画の原作『フューリー』ぐらいしか訳されていないと思いますが、これ以降の作品で構成がもっと上手くなっているのであれば、もうちょっと読んでみたい作家ではありますね。
【2018/01/08 17:06】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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