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孤独な夜  チャールズ・L・グラント『ペットの夜』
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ペットの夜 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
チャールズ・L. グラント 竹生 淑子
早川書房 1989-02

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 獣医になることを夢見ている、孤独な高校生ダンは、自分の部屋に飾られた剥製の動物やポスターなどに話しかけることを日課にしていました。
 教師である両親からは獣医の夢を否定され、学校では父親と対立する教師からにらまれたり、いじめっ子からは目を付けられるなど、ダンは悶々とした日々を送っていました。
 時を同じくして、町には連続殺人が起こり、ダンの知り合いの女子生徒が殺されます。両親との確執から家を飛び出したダンは、折悪しく連続殺人鬼に襲われてしまいますが…

 チャールズ・L・グラント『ペットの夜』(竹生淑子訳 ハヤカワ文庫NV)は、周りに虐げられている内気な青年が、ある出来事をきっかけに超常的な力を発揮する…という物語です。
 ただこの作品の場合、超常現象は、青年自身ではなく、青年の部屋のポスターに描かれた馬が実体化するという形をとります。
 馬は、主人公ダンが憎しみを向ける人物のもとに現れ、次々と殺害していきます。ダン自身がコントロールすることはできず、いつの間にか人々の元に現れるのです。やがてダンがふと不満を抱いた、ダン自身の母親やガールフレンドにまで、その魔の手は迫り、ダンは馬を止めようと奔走することになります。

 ホラー小説の主人公である「孤独で内気ないじめられっ子」というのは、ある種のステレオタイプではあるのですが、この作品では、その鬱屈した日常がこれでもかと描かれます。
 校長である父親は、息子よりも保身を優先する人物、母親は息子の担当教師と不倫をしていたり、いじめっ子たちは様々ないたずらをしてはダンのせいにします。ようやくできたガールフレンドも、別の男友達との間を揺れ動いていたりするのです。
 その鬱屈が溜まりきったときに、怪物が現れるわけですが、それまでの主人公の境遇が非常に救われないものなので、読んでいて、ある種のカタルシスがあります。しかし、作者は単純なカタルシスを否定し、事件を終息させてしまうのです。このあたり、読んでいて非常に不満がたまる展開ではあるのですが、ホラー小説としてはこれが正道なのでしょう。

 ポスターから抜け出る馬、というのは、伝統的な怪奇小説のテーマである「絵画怪談」の現代的なバリエーションといっていいでしょうか。媒体が「ポスター」というのが、いかにも安っぽく思われてしまうのですが、作者の丹念な描写の積み重ねもあって、作品の雰囲気は損なわれていません。さすが、雰囲気派の巨匠といったところでしょうか。
 リーダビリティも高く、思春期の青年を描いた青春ホラー小説として、上質な作品といっていいかと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
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怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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