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燃える世界  ステファン・グラビンスキ『火の書』
4336061750火の書
ステファン・グラビンスキ 芝田文乃
国書刊行会 2017-08-29

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 『火の書』(芝田文乃訳 国書刊行会)は、ポーランドの怪奇幻想作家ステファン・グラビンスキの3冊目の邦訳作品集。〈火〉にまつわるテーマを扱った作品が集められています。邦訳作品集3冊の中では、いちばんエンタテインメント性が強く読みやすいので、初めてグラビンスキを読む人にお勧めしたい作品集になっています。
 以下、各作品について紹介していきましょう。

「赤いマグダ」
 消防士のシュポナルは、ジプシーだった亡き妻との間の娘マグダについて悩んでいました。娘が行くところ、必ずといっていいほど火事が起こるのです。遠くへ預けていた娘が帰ってきたことから、再び騒動が起きますが…。
 火事を呼び寄せてしまう娘を扱った作品。火事は娘自身が起こしているのか、それとも…? その父親が消防士というところに皮肉が効いています。

「白いメガネザル」
 煙突掃除を生業とする親方は、徒弟があるビール工場に行ったまま帰ってこないことに気付きます。再度、別の徒弟を派遣するものの、彼もまた消息不明になってしまいます…。
 煙突に潜む怪物を描いた作品です。怪物が「メガネザル」のようだというところに違和感がありますが、これはこれでインパクトがありますね。

「四大精霊の復讐」
 消防本部長チャルノツキは、火に対する耐性が非常に強く〈耐火人〉と渾名されるほどでした。やがて彼は火の精霊からのメッセージを受け取ることになりますが…。
 火の精霊と戦うことになる消防士の物語。精霊側もさることながら、主人公の能力が人間離れしているところが面白いですね。

「火事場」
 何度家を建ててもすぐに火事になってしまうという呪われた土地。迷信に過ぎないと断じる男は、そこに家を建てて家族と共に移り住みます。最初は用心を重ねていた男は、やがて火をもてあそび挑戦的な態度を取るようになりますが…。
 冷静で現実主義的だった男が、火に関するオブセッションに囚われていくという作品。火遊びがエスカレートしていくところが読みどころです。

「花火師」
 王女との恋に破れた花火師は、世を拗ねてしまいますが、やがて運命の恋人と出会い変わっていくことになります…。
 グラビンスキには珍しいファンタジー作品。

「ゲブルたち」
 その精神病院では、院長の方針により患者の妄想を否定しないという方策をとっていました。行き着くところまでいけば偏執狂は良くなるというのです。ある心理学者が遺した論文を元に、病院内では拝火教のようなカルト宗教が発生していきますが…。
 狂気に囚われた心理学者が遺した論文により、カルトが発生するという物語。ポオの「タール博士とフェザー教授の療法」を思わせる作品です。

「煉獄の魂の博物館」
 その博物館では、煉獄の魂が残した焦げ跡を収集していました。やがて霊媒の女性を使った心霊実験が行われることになりますが…。
 実験の結果起こった心霊現象とは…。神秘主義的色彩の濃い作品です。

「炎の結婚式」
 その青年は火事の際にのみ性的興奮を覚える性質を持っていました。美しい未亡人と恋仲になるものの、日常生活では彼女を愛することができません。未亡人は彼に性的興奮を起こさせるために、自ら火事を起こしますが…。
 火を見ないと性的感興を憶えない青年の不幸な恋の物語。終始悲劇的なトーンの支配する作品です。

「有毒ガス」
 雪山で仲間とはぐれた若い技師は、ようやく旅籠のような建物を見つけ、そこに一夜の宿をとることになります。家のなかには、主と思しき老人と、肉感的な娘がいました。しかし、二人は互いに家の中には自分ひとりしかいないと言うのです…。
 怪しい雰囲気の老人と娘、彼らは人間なのかそれとも…? 怪奇色の濃厚な奇譚ともいうべき作品です。

 『火の書』には、小説作品のほか、グラビンスキのエッセイとインタビューが収録されています。エッセイ「私の仕事場から」は、短篇「機関士グロット」に関する創作秘話、「告白」は、自作について語った自伝的エッセイになっています。
 また「告白」では、自作の解説とともに、自らがポーランドにおいて幻想文学ジャンルをひとりで切り拓いたという自負も見えます。

 九年間、だれひとり注意を向けてくれなかったのです-私がこれまでポーランドになかった新しい文学ジャンルを創造していることに。私が厳密な意味での幻想小説、自立的かつ自律的な非ロマン主義的幻想小説のパイオニアであることに。ポーについてわれわれの国では下手で貧弱な翻訳を通して十のうち五しか知られていなかったとき、私自身まだマイリンクやスティーヴンソンの存在を耳にしたこともなかったとき-みずからの人生のヴィジョンを具現化できるかもしれないという憧れに押されて、私はみずからの手にシーシュポスの苦行〔果てしない徒労〕を引き受けました。

 当時、怪奇幻想ジャンルを独力で切り開いた、グラビンスキの作家としての自負心が見えるようです。

 エッセイやインタビューには、長篇作品についての情報も盛り込まれており、長篇も読んでみたくなります。邦訳を期待したいところですね。
 以前の邦訳作品集2冊もそうでしたが、今回の『火の書』の造本・装丁も素晴らしく、本そのものとしての魅力があることも付け加えておきましょう。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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