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大いなる神々  ニコラス・コンデ『サンテリア』
4488556019サンテリア (創元推理文庫)
ニコラス コンデ Nicholas Conde
東京創元社 1993-02

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 妻を事故で失い、幼い一人息子とともにニューヨークに引っ越してきた人類学者のキャル。折しも町では、幼児の連続殺人が続いていました。担当の刑事は、連続殺人がヴードゥ=サンテリアの儀式の生け贄ではないかと考え、キャルに協力を求めます。
 ヴードゥを信じる恋人の手引きもあり、キャルはやがてヴードゥの効力を信じるようになっていきます。やがて幼児連続殺人の真相に行き当たったキャルは戦慄することになりますが…。

 ニコラス・コンデ『サンテリア』(大瀧啓裕訳 創元推理文庫)は、ヴードゥを扱ったオカルト・ホラー小説です。
 かなり分厚い本ですが、後半になるまで派手な事件は起きません。それまでは何が描かれるかというと、主人公の周囲の日常生活がリアリスティックに描かれるのです。ただ単なる日常ではなく、そこにはヴードゥの影がじわじわと忍び込んできます。
 主人公キャルは、人類学者とはいえ、かなりの現実主義者として描かれます。最初はヴードゥを迷信とみなしますが、ヴードゥの効力を目の当たりにし、その信仰に取り込まれていく過程がじわじわと描かれるのです。
 ヴードゥとはいっても、この作品で描かれるそれは、日常生活と同化した文化のような宗教で、それを信仰する人たちにとっては、もはや生活の一部のようなものなのです。ただ、それだけに何の疑問も持たずその信仰に従う人々を見て、キャルは驚きます。
 もともとヴードゥ信仰を持っていたヒスパニック系の人々だけでなく、ニューヨークの上流階級の人々が公然とヴードゥに関する集会を行う場面は、かなり不気味です。
 恋人がヴードゥの神々を信じていることにショックを受けるキャルですが、半信半疑で行った儀式の効果が現れたことから、だんだんとヴードゥは真実ではないかと考え始めます。やがて、自らの息子が生け贄になる運命だと悟ったキャルは、息子を助けるために奔走することになるのですが…。

 後半までは、作中で登場するヴードゥの魔術やその効果は、超自然的なものではないという解釈も成り立つように描かれています。その意味では、カルト教団をめぐるスリラーとも読めるのですが、結末付近になると、魔術や神々の存在はほぼ疑い得ないようになっており、壮大な規模の「破滅もの」として読むことも可能になっています。
 荒唐無稽になりがちな同種の作品の中にあって、非常に強いリアリティを持った、ホラー小説の傑作の一つといっていい作品です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
父性愛
世界の破滅を回避するにはお前の息子の命がいるんや、と言われてハイ分かりましたと
了承する親はいませんよね。日常に少しずつブードゥの魔術が忍び込み、カタストロフになだれ込む
のはサーペントゴッドも思い出されます。分厚いけれど最後までダレずに読み通せる面白さがあります。
【2017/09/22 05:55】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
ヴードゥを扱ったホラー作品は数あれど、この作品のような描き方をした作品は読んだことがなかったので、びっくりしました。
派手さには欠けるけれど、これは味わいがありますね。
大切な人と世界とどちらを救うか?という究極の決断が試されますが、ご都合主義にならない結末は良かったと思います。

『サーペントゴッド』も、ちょっとまとまりがないのが玉に瑕ですが、面白い作品だったと思います。
【2017/09/22 20:37】 URL | kazuou #- [ 編集]


お久しぶりです。
「サンテリア」読んだのにまったく覚えていません。
なんか、コワくて処分しちゃったというのだけ覚えています。
記憶が曖昧で、どんどん頭の中で「ローズマリーの赤ちゃん」化していっています。
【2017/09/28 19:37】 URL | fontanka #- [ 編集]

>fontankaさん
ご無沙汰してます。

『サンテリア』、展開は地味なんですけど、恐怖の盛り上げ方が非常に上手いです。モダンホラーの手本的作品の一つではないかな、と思っています。
『ローズマリーの赤ちゃん』は、初読から何十年経っても、何となく筋は覚えているのを考えると、やっぱりインパクトがあって、名作と呼ばれるだけのことはありますね(続編はどうかと思いましたが)。
【2017/09/28 20:00】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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