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ジェームズ・ハーバートの恐怖小説
 イギリスの作家、ジェームズ・ハーバート(1943-2013)は、1970年代からホラー作品を中心に発表していた作家です。生前は非常に人気があり、一時期は、イギリスにおいてスティーヴン・キングより人気のあるホラー作家と言われていた人です。
 ハーバート作品の特徴は、とにかくエンターテインメントに徹していること。 読者を楽しませるために、見せ場をやたらと作ります。ただ、その見せ場は大抵、残酷シーンだったり、怪物に襲われたりと、B級まっしぐらな部分なので、人によっては眉をしかめるかもしれません。しかしホラーファンにとっては、読みたい部分を徹底的に描いてくれるという意味で、得難い作家でもあるのです。
 以下、いくつかのハーバート作品について見ていきたいと思います。



B00GZL20KGSF長編小説 鼠(ねずみ)
ジェームズ・ハーバート
サンケイ出版 1975-10-03

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ジェームズ・ハーバート『鼠』(関口幸男訳 サンケイノベルス)

 ある日、ロンドンに現れた巨大化した鼠の群れ。彼らは人間を襲い始め、食料としてしまいます。助かった者たちも、鼠が持つ未知の病原菌のため、24時間以内に死亡してしまうのです。最初は密かに活動を続けていた鼠たちは、とうとう正面から人間を襲い始めますが…。

 ジェームズ・ハーバートのデビュー作品です。
 巨大鼠が人間を襲ってくるという、非常にシンプルな話なのですが、読んでいて飽きさせません。構成に工夫がされていることと、アクション場面が非常に視覚的で、読みやすいのもその一因でしょうか。
 序盤は、巨大鼠が人知れず現れ、人を襲うようになる過程がエピソード単位で描かれます。それらのエピソードでは、ゲイのサラリーマンだったり、落ちぶれた娼婦だったりと、それぞれの登場人物の人生がスケッチ風にさらりと描かれます。これがなかなか味わいがあるのですが、結局は鼠に襲われて殺されてしまう…というところが、実に悪趣味ですね。
 中盤からは、主に学校教師の男性に視点が集中し、彼を中心に人間と鼠の戦いが描かれます。特に、学校での籠城戦や、地下鉄での襲撃などは、読み応えたっぷりです。
 人体の損壊描写がねちっこく描写されたり、赤ん坊が殺されてしまったりと、非常に悪趣味かつ強烈な描写が続くので、この手の作品が合わない人には合わないかと思います。 ただ、非常にスピーディかつ見せ場が多く、B級に徹したアクションホラー作品なので、娯楽作品としては、非常に面白い作品です。



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ダーク〈上〉 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
ジェームズ ハーバート 関口 幸男
早川書房 1988-12

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ジェームズ・ハーバート『ダーク』(関口幸男訳 ハヤカワ文庫NV)

 心霊研究家のビショップは、調査に訪れた家で、集団自殺した人々の死体を発見し、そのまま記憶を失うという経験をしていました。その家では、カルト教団の教祖が、邪悪な目的のため、人々を集団自殺に追い込んでいたのです。
 それから一年、問題の家のある周辺で、人々が突然狂気にかられ、家族や隣人を殺す事件が頻発し始めます。
 問題の屋敷が取り壊された直後から、その影響は広がり始め、人々が狂い始めてしまいます。心霊研究の大家とその娘ジェシカと協力するビショップでしたが、教団の生き残りの信者たちが現れ、彼らの命を狙い始めます…。

 死んだはずのカルト教団の教祖が残した闇の力により、人々が狂い始めるという物語です。
 主人公は、心霊研究家でありながら、現実的なアプローチを行う人物で、心霊現象を全面肯定はしないのですが、たびたび起こる現象に対し、信じざるを得なくなっていきます。精神を病んだ妻のことを気遣いながらも、ジェシカに惹かれていくビショップでしたが…。
 最初から最後まで、主人公たちを襲う困難がすさまじく、肉体的・霊的な暴力が彼らを襲い続けます。特別に鍛錬を積んだわけでもない主人公が、何度もピンチを切り抜けるのはご愛敬としても、たびたびはさまれるアクションシーンは手に汗握ります。
 敵方の信者の幹部が、女性ながら人間離れしていて、キャラが立っていますね。ハーバートのアクションホラーの総決算とでもいうべき娯楽作品です。



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奇跡の聖堂〈上〉 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
ジェームズ ハーバート 相沢 久子
早川書房 1989-05

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ジェームズ・ハーバート『奇跡の聖堂』(相沢次子訳 ハヤカワ文庫NV)

 聾唖の少女アリスは、ある日突然話すことができるようになりますが、彼女が言うには、話せるようになったのは聖母マリアのおかげだというのです。たまたま現場に居合わせた新聞記者ハモンドが、それを奇跡だとして報道した結果、小さな村に奇跡を求める人々が集まるようになります。
 やがてアリスは、人々の前で、不治の病の病人を何人も癒します。聖堂が建てられ、そこは奇跡の聖堂として人々に崇められるようになるのです。
 しかし、ハモンドはアリスの力は本当に聖なるものなのか疑問を抱き、周辺の調査を開始します。そこでわかったのは、過去にその土地で魔女が処刑されたという事実でした…。

 奇跡の能力を発揮した少女に対し、主人公は、彼女の能力が本物なのかどうかを調査することになります。しかし、少女の周辺で、人々が怪死したり、家畜が突然死したりする事件が相次いでいるのです。
 疑いを深めていく主人公に対して、主人公の恋人は奇跡を信じており、それが元で二人の仲はこじれてしまいます。中盤から登場する女性記者を交えた三角関係が進行するなか、奇跡の聖堂には、大勢の人々が集まるようになり…。
 少女の能力は奇跡なのか否か?という、ハーバートにしては、おだやかなストーリー展開だと思っていると、中盤に劇的な事件が発生します。それを境に不穏な空気が漂い始め、クライマックスでは大惨劇が発生するのです。
 序盤は多少もたつくものの、奇跡の真相が徐々に判明する中盤からのリーダビリティは非常に高いです。クライマックスは、ハーバートお得意のスペクタクルに富んだ惨事が展開され、満足度は非常に高い作品です。



4150404941聖槍 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
ジェームズ・ハーバート 関口 幸男
早川書房 1988-05

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ジェームズ・ハーバート『聖槍』(関口幸男訳 ハヤカワ文庫NV)

 恋人を失い、殺戮に飽き果てたイスラエルの元諜報員ステッドマンは、現在はイギリスで私立探偵を生業としていました。彼のもとに現れたイスラエルの諜報員は、武器商人の大立者ギャントの身辺を探ってほしいと依頼します。
 一度は依頼を断るステッドマンでしたが、直後に、彼の共同経営者の女性が殺されているのが見つかったことから、調査を引き受けることになります。ステッドマンは、武器商人を装い、ギャントの身辺を探り始めますが、そこで判明したのは、彼らがナチス再興をたくらんでいるということでした。そのために、キリストの時代から伝わる聖槍を利用しようとしていたのです…。

 戦いに疲れ、引退した元諜報員がパートナーを殺され、怒りに燃えて立ち上がる…といった感じで始まる謀略スリラーです。敵方がナチスを再興しようとするオカルト団体であることを除けば、ほぼ超自然的要素のないスパイ・スリラーなので、ホラーを期待していると、肩すかしを食わされてしまいます。
 さらわれて拷問を受けたり、ヒロインを助けにいったりと、アクション上の見せ場はところどころにあるのですが、肝心の超自然的要素は、最後の最後まで出てきません。
 ホラーとしての雰囲気醸成や伏線張りをそっちのけで、アクション要素が強調されていくので、最後に出てくる超自然的要素も、どこか唐突の感があります。スパイ・スリラー部分も意外と行儀がよいので、ゲテモノとして読むのも難しい…という、評価に困る作品ですね。
 唯一、面白いと思ったのは、敵方として登場する謎の美女の存在ぐらいでしょうか。



4150404550魔界の家〈上〉 (ハヤカワ文庫NV―モダンホラー・セレクション)
ジェームズ・ハーバート 関口 幸男
早川書房 1987-07

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ジェームズ・ハーバート『魔界の家』(関口幸男訳 ハヤカワ文庫NV)
 互いにアーティストを生業とするミッジとマイクのカップルは、ある日ふと見たコテージの広告に惹かれ、家を見に行くことになります。なぜかコテージを買うことに執着するミッジに押され、二人はその家を買い、そこで暮らすことになります。
 コテージに引っ越してからの二人の生活は順風満帆でしたが、やがて近くに集団で暮らしているという宗教団体のメンバーが二人を訪れるようになります。
 教団の教祖は、霊的な力で、すでに亡くなった両親に合わせることができると話し、ミッジはそれを信じるようになります。現実主義者のマイクは、ミッジに考えを変えさせようとしますが、なかなか果たせません。時を同じくして、コテージの雰囲気が悪くなっていきます。遊びに来た友人は、家の中で幽霊を見たと話しますが…。

 「魔界の家」という大仰なタイトルといい、カバー絵といい、いかにも「幽霊屋敷」や「悪魔の館」みたいなホラーを期待させるのですが、案に相違して、魔術をテーマにしたファンタジー的な作品です。
 主人公のカップルが購入した家は、前の持ち主の女性が死んだために、売りに出されるのですが、彼女には癒しの能力があったことが仄めかされます。ミッジにも、ある程度の超能力があることが暗示され、それがゆえに宗教団体のメンバーも彼女を狙うようになるのです。
 かって両親を死なせてしまったという負い目を持つミッジは、罪の意識から、教団の教義に洗脳されていってしまいます。徹底して現実主義者のマイクは、教祖の力はまやかしだと説明しますが、どうやら教祖の力は本物のようで、マイクは打つ手がなくなっていきます…。
 舞台となるコテージは、そこに住む人間の能力を反映するらしく、善にも悪にも傾くようなのです。主人公のカップルの生活が暗礁に乗り上げたとたん、霊的な現象が発生し始め、やがて前の持ち主の霊らしきものも出現し始めます。やがて教団の家に行ってしまうミッジ。マイクはミッジを救い出すことができるのでしょうか?
 クライマックスでは、味方側と敵側の魔法・幻術合戦が繰り広げられるという楽しい趣向もあります。ハーバート作品としては、非常に陽性なベクトルの作品だといえますね。


4054007163月下の恋
ジェームズ ハーバート James Herbert
学習研究社 1996-11

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ジェームズ・ハーバート『月下の恋』(宇佐和通訳 学習研究社)

 自らも霊能力を持ちながら、霊現象を否定するゴーストハンターのアッシュは、マリエル一族の館の霊現象を調査することになります。
 アッシュは、マリエル家の美しい令嬢クリスティーナに魅了されながらも、館の霊現象自体は認めようとしません。やがて錯覚や幻覚では済まされないほどの怪奇現象に襲われますが…。

 非常に雰囲気のあるゴースト・ストーリーです。どぎつい作品の多いハーバートとしては、異色の作品ですね。
 ゴースト・ハンターでありながら、主人公が怪奇現象を認めようとしないため、屋敷内で起きる怪奇現象に対しても、合理的に解明できるというスタンスで物語は進みます。
 主人公が体験する怪奇現象も、幻覚や錯覚で片付けられ、また、明確な怪奇現象自体もなかなか起こりません。
 主人公の探偵事務所の同僚である、霊能力者の女性が登場するのですが、この女性が、たびたび主人公の危機に対して感応を起こします。大したことはないと鼻をくくる主人公に対し、この女性のパートで危機を煽る、という形ですね。
 やがて主人公が怪奇現象を否定する理由も明らかになると同時に、霊的な危機が主人公を襲います。
 基本的に最後まで、怪奇現象に対して、主人公側は何もできず、なすがままといった感じなので、ちゃんとした解決を求めるタイプの読者には不満が残るかもしれません。怪異の一方的な勝利という意味では、モダンホラーというよりは、伝統的なゴースト・ストーリーに味わいが近いですね。
 続編があるそうなのですが、そちらは未訳。本作が、ゴーストハンターの主人公の紹介編といった趣なので、ぜひ続編も読んでみたいものです。
 ちなみに、コッポラ監督の映画化作品もあり、そちらも味わいは異なるものの、ロマンティックな雰囲気の作品に仕上がっていました。


 上に挙げた作品以外にも、ハーバートには魅力的な作品がいくつもあります。
 霧によって狂乱した人々を描くパニックホラーの極致『霧』(関口幸男訳 サンケイノベルス)、大事故から奇跡的な生還をとげた男の謎を描く、サスペンス風味の超常スリラー『ザ・サバイバル』(関口幸男訳 サンケイノベルス)、仔犬に転生してしまった男を描くファンタジー『仔犬になった男』(関口幸男訳 サンケイノベルス)、超能力を絡めたサイコ・スリラー『ムーン』(竹生淑子 ハヤカワ文庫NV)など。
 ハーバート作品は残虐描写も多いので復刊は難しいと思いますが、例えば『ザ・サバイバル』『仔犬になった男』などは、味わい深い佳作であり、ホラー要素も少ないので、ぜひ復刊してほしいところです。参考に過去のレビューをリンクしておきます。

死ねない理由  ジェームズ・ハーバート『ザ・サバイバル』
犬も捨てたもんじゃない  ジェイムズ・ハーバート『仔犬になった男』


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
懐かしい!
 若いころ、夢中になって読みふけった作家です。『鼠』を読んで完全KO。いろんなところで「ハーバート最高」と言っていました。そのころ、E・R・バローズの関係で関口幸男さんとお付き合いもあり、『鼠』を読んだ興奮をお伝えしたような……。
 こうして取り上げていただき、嬉しいです。
 書籍の復刊もそうですが、映画『巨大ねずみパニック』(『鼠』の映画化)のDVD化もぜひ。
【2017/09/03 17:29】 URL | 高井 信 #nOdkmSi2 [ 編集]

>高井 信さん
ハーバート、いつの間にか邦訳が出なくなってしまいましたが、本当に面白い作家でしたよね。
『鼠』や『霧』のインパクトは強烈でした。初期以降の作品は、スプラッター描写は抑え目になっていましたが、また違った面白さがあって楽しませてもらいました。
『鼠』には、続編があるらしいので、そちらもいつか読んでみたいものです。

『巨大ねずみパニック』は未見なのですが、ぜひ見てみたいです。書籍復刊より、こちらのDVD化の方が可能性は高そうですね。
【2017/09/03 17:49】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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