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忌まわしき祭礼  トマス・トライオン『悪魔の収穫祭』
悪魔の収穫祭〈上〉 (角川文庫)悪魔の収穫祭〈下〉 (角川文庫)
 広告会社の重役ネッドは仕事に疲れ、たまたま見つけた田舎の村コーンウォール・クームに、妻と娘とともに移住することになります。牧歌的と見えた村の生活ですが、やがてそこに住む人々は因習に囚われており、文明の利器に対しても否定的だということがわかってきます。
 村には、村人たちの主な生業である、とうもろこしに関する収穫祭があり、その祭りでは「とうもろこし王」と「とうもろこし姫」が決められます。「とうもろこし王」に選ばれれば、いろいろな恩恵を受けられるというのです。しかし前回の「とうもろこし王」は事故で死んでおり、その婚約者も自殺しているといいます。不審に思ったネッドは、情報を得ようと、村人たちから話を聞こうとしますが、なぜか人々ははっきりとした話をしてくれません…。

 トマス・トライオン『悪魔の収穫祭』(広瀬順弘訳 角川ホラー文庫)は、閉鎖的な村を舞台にじわじわと恐怖を盛り上げてゆく、モダンホラー作品です。
 作品の前半は、主人公ネッドたちが暮らす村の生活と人々との交流が描かれます。劇的な事件は起こらないものの、村全体が非常に保守的で閉鎖的だということが詳細に描写されていくのです。医者や警察といった公権力はまともに働いておらず、人々は昔から変わらない農業に従事しています。農業にトラクターを導入することさえ反対するという保守的な村人たち。
 医者のいないこの村では、ウィドー・フォーチュンと呼ばれる年配の女性が、医療や祭事をとりしきっています。ウィドー・フォーチュンが、喘息で死にかけた主人公の娘の命を助けたことから、妻と娘は村に溶け込んでいきます。
 隣人の女性との浮気めいた話をきっかけに、夫婦の信頼感も崩れていくなか、ネッドは村やその祭事に不信感を持ち、過去の事件の聞き込みを始めます。前回の「とうもろこし王」はどのように死んだのか? 「とうもろこし姫」はなぜ自殺に追い込まれたのか?
 やがて村に伝わる祭事のいまわしい秘密が明らかになっていくのです。

 1973年の作品なのですが、正直、村の秘密や祭事の真相は、現代の読者からすると、それほど強烈なものではありません。ただ、表面上、木訥で親切に見えた村人たちの本心がわかる後半の不気味さは比類がありません。村人たちの間の反目や対立などが、実際は目に見えていた通りではなく、まるで違っていたことがわかるのです。
 序盤から散りばめられた細かな伏線が、結末に至って結びつくという、練られた構成であり、完成度の非常に高い恐怖小説です。

 ちなみに、作者のトマス・トライオン(1926-1991)は元俳優で、何冊かの著作を残しました。邦訳されている中でホラーに属する作品は、この『悪魔の収穫祭』の他にもう一冊『悪を呼ぶ少年』(深町眞理子訳 角川文庫)があります。こちらもかなりの傑作です。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
イヤミス系作品
「悪魔の収穫祭」、あまり好みの作品ではないけれど傑作だ、と先日こちらで伺いましたが、同感です。リンクされた表紙画像を見ると、文庫版は再版もされたみたいですね。
イヤミス系統の話なんですよね。ありえないような(ありえるような)設定が1つある他は、リアルな、そして悪夢のような展開で展開していく物語。
日々の中に違和感を覚える出来事が起こり、それが謎となって追求すると、そこに悪夢のような状況と新たな謎が生じる… といったことが繰り返され、ラストでは既に取り返しがつかなくなっていて、主人公はそこに呑み込まれて終わる、という構造が巧みで、サスペンスとしての面白さがあるんですよね。
例えばマラスコの「家」とか、"痛む歯を突きまわすような"と評されるルース・レンデルの作品などが、事態の進行を単純に追っていて、"ただ次にもひどい事態が待っているだけ" な気がしてページをめくるのにうんざりしてくることが多いこと(⇒個人的な感覚です)と比べると、同じ "イヤミス系作品" であっても個人的にはリーダビリティに雲泥の差があるように感じてしまうので・・・
(ただ、レンデル作品では、「ロウフィールド館の惨劇」は何故だか別格で面白いと思うのですが…)

「悪魔の収穫祭」はミステリーゾーン以降・モダンホラー以前の作品の一つと考えていますが、その辺りの同時代性というか同時期の作品との関連性・類似性も感じられる作品ですよね。
この時代のアメリカのSFやホラー作品は、冷戦・「赤狩り」やベトナム戦争・反戦運動といった社会の状況が裏テーマになっていたり、影響を受けていたりといったことが多いというのはよく言われますが、この作品では閉鎖的な田舎の集落に越してきた都会人の違和感を扱いつつ、家庭崩壊や信頼できない隣人といったテーマを扱っている辺りが同時代的だなと。
「ローズマリーの赤ちゃん」がそうですし、家庭崩壊に限ればキングの「シャイニング」もそうですよね(以前もお話ししたかと思いますが、キングは、どちらかといえばモダンホラー系作家というより70年代系に近い作風だという気がします)。
そういえば、夫婦間の亀裂・溝を扱っている点(家庭崩壊の一環ですが)も前記の作品と似ている気がします。(フェミニズムの時代、というのもあるのでしょうか)

「悪を呼ぶ少年」は "異常な子供" "邪悪な子供" テーマの話で、これも「エクソシスト」「オーメン」とある意味同系列の話ですよね。映画化された点も共通点ですし。
"無垢なふるまい" が実は過去の悪夢を呼び覚ますという、ある意味「悪魔の収穫祭」以上にストーリーテリングと話の構成の冴えた作品で、映画版しか見ていないのですが、ラスト近くに至って真相が明かされると、状況の悪夢性を味わうことになりつつも、その上手さに感服せざるをえませんでした。
単行本で出ていたのは知っていましたが、文庫版があったことは知りませんでした。モダンホラーの時代には、既に品切れだったんでしょうかね…

因みに「悪魔の収穫祭」と同時期に角川文庫で文庫化された作品として、フェリータの「ゴルゴタの呪いの教会」というのがありましたが、こちらは特に面白かった記憶がなく、内容も覚えていないです・・・ 
(フェリータは、確か「オードリー・ローズ」の人ですよね。未読ですが。)
【2017/08/20 08:15】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

>Greenさん
「悪魔の収穫祭」は、最初ハードカバーが出て、その後文庫化、さらにホラー文庫へ編入されてるので、それなりに売れたのでは。

主人公が追い詰められていって…というのは、ホラーの常套なのですが、最終的に酷い目にあったまま…というところがきついんですよね。加えて「男性」が虐げられるという話なので、その辺も男性読者としては「嫌な」話でしたね。女性読者からすると、ちょっと違うのかもしれませんが。
ただ、リーダビリティは非常に高いと思います。超自然的な要素があるのかどうかも、じつははっきりしてないのですが、それがあってもなくても、そんなに物語の展開に影響がないだろうと思わせるところは、かなりの筆力かと思います。

外的な脅威と同時に内的な脅威(この作品の場合、家庭崩壊ですかね)が主人公を襲う…というのは、モダンホラー以降の手法だと思うのですが、「悪魔の収穫祭」の場合、外的・内的なトラブルが連動してどんどん悪化してゆくみたいな感じがあって、そのあたりも実に嫌な話だと思います。

「悪を呼ぶ少年」は、文庫化されたのが遅くて、確か1998年が初文庫化だと思います。ハードカバーは1973年だから、かなり間が空いてますよね。ミステリ系の作家や評論家が高評価をしていたのが、復刊された原因の一つではないかと。

デ・フェリータは、「オードリー・ローズ」の人ですね。僕もあんまり読んでいなくて「ゴルゴタの呪いの教会」は積んでいます。「カリブの悪夢」は、かなり面白いサイコ・スリラーでしたが。この人も1970年代には、小説と映画でずいぶん活躍していた人なので、もう少し読んでみたいと思っています。
【2017/08/20 13:48】 URL | kazuou #- [ 編集]

トマス・トライオン
俳優から作家に転身したトマス・トライオンは同性愛者であり、差別意識が強かった時代のハリウッドで苦労を味わい、失意のうちに俳優を辞めたそうです。
作家として成功した後も、スキャンダルへの不安から同性の恋人との破局を繰り返し、私生活は幸福ではなかったとのこと。
「悪魔の収穫祭」は作者が味わってきた、同性愛者を排斥する共同体の同調圧力を、怪奇小説として表現したのだと思われます。
そう考えると「悪を呼ぶ少年」の少年たちのキャラクター造形も同性愛的で、差別と偏見に苦しみ続けたトライオンの、社会への怯えと復讐心が生み出したのかも知れません。
【2021/02/16 19:05】 URL | オリヴィエロ #ncVW9ZjY [ 編集]

>オリヴィエロさん
なるほど。作家の個人的事情を知ると、そういう面からも作品の味わいが増すような気もしますね。
【2021/02/18 12:21】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き、短篇好き、異色作家好き、怪奇小説好き。
ブログでは主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。twitterアカウントは@kimyonasekaiです。
怪奇幻想小説専門の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。twitter上の怪奇幻想ジャンルのファンクラブ「 #日本怪奇幻想読者クラブ 」主宰。
『ミステリーズ!vol.96』(東京創元社)に怪奇小説の翻訳概況を書きました。
同人誌『海外怪奇幻想小説アンソロジーガイド』『物語をめぐる物語ブックガイド』『迷宮と建築幻想ブックガイド』『イーディス・ネズビット・ブックガイド』『夢と眠りの物語ブックガイド』『奇妙な味の物語ブックガイド』「海外怪奇幻想作家マトリクス・クリアファイル」を刊行しました。



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