1970年代ホラーを読む

404265701X悪魔のワルツ (角川ホラー文庫)
フレッド・M・スチュワート 篠原 慎
角川書店 1993-04

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フレッド・M・スチュワート『悪魔のワルツ』(篠原慎訳 角川ホラー文庫)

 もとピアニストの作家マイルズは、世界的ピアニストであるダンカンのインタビューに訪れます。狷介で知られるダンカンとその娘ロクサーヌは、なぜかマイルスを気に入り、何くれとなく親切にしてくれるようになります。
 しかし、マイルズの妻ポーラは、ダンカン父娘の行動に疑いを抱きます。やがてダンカンは老衰で死にますが、それを境にマイルズの行動に微妙な変化が起こります。しかもピアノの腕が突如上達し、そのタッチはダンカンを思わせるものだったのです…。

 人格交換を扱ったホラー作品です。一応、人格交換が行われたかどうか、明確に記述はされないのですが、ダンカン父娘が、過去に魔術にかかわったと思われる伝聞情報や、実際に魔術を行う場面も描かれるので、実際に人格が交換されたことはわかってしまいます。
 それがわかってしまったら面白くないのかといえば、そういうわけではなく、結構面白いのですよね。夫の人格が変わってしまってから、妻が真実を求めて調査を重ねていくのですが、その過程で、ダンカン父娘の噂やスキャンダルが掘り起こされていくのです。父娘のいびつな関係や、過去の軋轢、娘のロクサーヌに至っては、過去にすでに人格交換がなされているのではないかという疑いも持ち上がります。
 夫の魂が失われたことを確信した妻は、自らも魔術を使って復讐のために立ち上がります。結末で、その強烈な方法が暗示されるに至って、ダンカン父娘よりも妻ポーラの行動の方に戦慄を感じさせられるのです。



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ヘパイストスの劫火 (1980年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)
トマス・ペイジ 深町 真理子
早川書房 1980-06

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トマス・ペイジ『ヘパイストスの劫火』(深町眞理子訳 ハヤカワノヴェルズ)

 地震による地割れから現れたのは、古代から地中で暮らしていたゴキブリに似た虫たちでした。虫たちには触角により火を起こす能力がありました。炭素そのものを食料とする彼らは、火災を起こし、それにより食料である灰を作ろうとしていたのです。
 頻発する火災により大量の死者が出るなか、科学者たちは、虫たちを殲滅するための手段を探し回りますが…。

 ゴキブリをテーマにしたパニック・サスペンス作品です。題材が題材だけにゲテモノ作品かと思いきや、意外にも丁寧に書かれた作品です。
 このゴキブリ、動きが遅く、人間を直接襲うことはありません。ただ、ものすごく頑丈でウィルスに対しても強く、半端ではない生命力を持っています。科学者たちは、虫たちの天敵を探し、サソリ、クモ、猛獣など、様々な生物と戦わせますが、どれも歯が立ちません。
 人間が殺そうと思えば、数匹は殺せるのですが、知らない間に家に火を付けられてしまえば、それでおしまいなのです。
 やがて、虫たちの撃退方法が見つかり、事態は収束したかに見えますが、研究に飽き足らない科学者の独断により、新世代の虫が生み出されてしまいます。人間とコミュニケートできるほどの知能を持つ彼らを撃退することは可能なのか? 後半は積極性を増した虫たちとの戦いが描かれます。

 虫たちと人類との戦いといっても、そんなに緊迫した感じではありません。火災によって被害は出るのですが、虫たちは基本的には人間を襲わないので、スプラッター的な描写もほとんどありません。それもあって、ゴキブリを題材としながらも、意外と後味も悪くないのです。
 作品の大部分は、虫たちの生態やその弱点を探す研究について描かれます。そこがこの作品の一番面白いところで、様々な生物たちとの戦いの描写や、虫自身の生態の研究部分はそこだけでも面白く、ストーリーの展開がゆっくりなのもあまり気になりません。
 変わり種のパニック小説として、一読の価値がある作品です。



B000J9496Iデラニーの悪霊 (1971年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)
ラモナ・スチュアート 小倉 多加志
早川書房 1971

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ラモナ・スチュアート『デラニーの悪霊』(小倉多加志訳 早川書房)

 大学教授の夫と離婚後、二人の子供と暮らす主婦ノラは、作家として生計をたてていました。世間では、若い女性を狙った連続殺人が続くなか、ノラは、弟ジョエルの様子がおかしくなったことに気付きます。やがて、ジョエルの恋人だった女性が首を切断されて発見されますが…。

 悪霊に憑依された男が殺人を繰り返す…という話を、取り憑かれた男の姉の視点で語るという、オカルト・サスペンス小説です。正直、ホラー作品のテーマとしては手垢のついたパターンではあるのですが、語り手の女性ノラのキャラクターが立っていて、それなりに面白く読ませます。
 弟が取り憑かれているのは、すぐわかってしまいます。読者の興味としては、どのように取り憑かれたのか、取り憑いているのは誰の霊なのか? といった部分で読んでいくことになります。この取り憑いている霊の生前の姿を、語り手ノラが調査していくのですが、この犯人(というか霊)の生い立ちや周囲の環境の描写が、なかなか面白く読めます。
 ホラーとしての結構よりも、キャラクター描写に生彩があるタイプの作品ですね。



B000J8U2N8タリー家の呪い (1977年)
ウィリアム・H.ハラハン 吉野 美耶子
角川書店 1977-08

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ウイリアム・H・ハラハン『タリー家の呪い』(吉野美耶子訳 角川書店)

 アパートの取り壊しのため、立ち退きを求められている中年男性が主人公。長年仲良く暮らしていた同じアパートの住人たちも、次々と引っ越しを決めて出ていきます。そんな中、主人公は、何ともいいようのない音を何度も耳にするようになります。
 精神的な病気ではないかと考え、医者にかかる主人公ですが、医者の判断は特に異常はないというものでした。友人は霊能力者の助けを借りるべきだと諭しますが、主人公は意に介しません。
 一方、数百年前にイギリスからアメリカに渡ったタリー家の末裔を探す男が描かれます。息子たちの系図をたどり、どれも子孫が途絶したかに見えた途端、また子孫がいたことがわかり、となかなか現代の末裔にたどり着くことができません。
 2つのパートがどのように結びつくのか? 結末寸前まで、その関係性はまったくわかりません。アパートを舞台にしたパートでは、だんだんと人がいなくなる建物の中で怪奇現象が頻発するようになるという心霊小説的な味わい、系図をたどる男のパートでは、一族の歴史をたどっていく面白さがあります。
 そして結末において、二つのストーリーが交錯し、印象的な幕切れを迎えます。読んでいてなかなか本題に入らないのは確かなのですが、構成や語りに工夫がされており、飽きずに読むことができるのは、ミステリやサスペンスの技法が上手く使われているからでしょうか。ミステリタッチのオカルトホラー小説として、佳作といっていい作品かと思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
オカルト時代
コメント連投気味で失礼します・・・

読書会についてのコメントで、「1960~1970年代のオカルト小説」ということを書かれていて先ずは懐かしいなと。
血の本、モダンホラー・セレクション、創元ノヴェルズなどが一斉にに刊行されていく辺りまでは、散発的に刊行されるコンテンポラリーな怪奇方面の本といえばその辺りだった訳で、モダンホラー系自体がまだ刊行点数も限られている時点で、渇きを癒すために(?)同種の本を見つけようと、刊行目録などから古い年代のものに遡及して探して行きあたるのがその辺りの本だった気がします。

読書会で改めてお話もあるでしょうが、それはそれとしてこちらの記憶の話だけをすると、この辺りで記憶に残っている本というとトライオンの「悪魔の収穫祭」辺りと、風間さんの紹介本だった「カリブの悪夢」そして「タリー家の呪い」でしょうか。(そういえば、レヴィンの「ローズマリーの赤ちゃん」や、ジャクスンの「山荘奇談」もここに入るでしょうか)
クーンツの大ブレーク以前の作品「悪魔は夜はばたく」「マンハッタン魔の北壁」も、むしろ後年の大半の作品より印象がいいです。
この時期の作品というと、映画がらみの作品も多いので小説の方は読んでいないというのも多かったりします。「オーメン」しかり、「エクソシスト」しかり(ブラッティといえば「999」所収の「別天地館」が好印象でしたが、かなり後年の作品なんですよね)、「悪を呼ぶ少年」しかり…… 映画自体も出来が良かったので、なおさら小説の方には手が伸びなかったです・・・(まぁ、映画自体も後年になってテレビで見た訳ですが…)
そういえば、マシスンの「地獄の家」も "ヘルハウス" という名前で映画化されてましたっけ・・・
「オードリー・ローズ」というのも有名だったみたいですが、こちらはどちらにも手を出していないので未だに中身を知りません…

さて、そんな訳で「タリー家の呪い」は個人的にもフェイバリットの一つです。割と展開は地味なんですが、面白かったです。成り行きはなんとなく想像はつくんですが、それでも読ませるんですよね。
他は読んだことがないので興味深く拝読しました。
個人的には「悪魔のワルツ」に一番興味を引かれますが、その他の作品も含め3者3様でバリエーション豊かだなぁと。むしろ現代作品の方が狭い範囲に押し込められているのではと思うくらいですね。

ただ、この時代の作品、様々なアイディアでこれでもか、これでもか、とやる訳ではなく、1アイディアものがほとんどな気がしていて、そのためか結構個人の趣味によって当たり外れははっきり出てしまう気がします。
ミステリを作るより難しいということなのか、傑作映画は幾つか見ていますが、小説の方となると個人的にもあまり当たりに出会っていないな…というのが正直なところです。
そんなこんなで、もはや改めてこの時期の紹介作品を探そう、という気もほとんどなくなっていますが、こうして紹介して下さる方がいると、それでも改めてチャレンジしてみる価値はあるかも、と思わせて頂けるのがいいですね。
【2017/07/23 14:26】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

>Greenさん
前回からの「欧米怪奇小説入門」のテーマのせいもありますが、ゴシック・ロマンスから現代作品まで、時代的にバラバラな作品を並行して読んだりしているのですが、じつはいちばん面白いなと思ったのが、この1960~1970年代の作品でした。
1980年代以降の作品になると、ジャンルミックス的な面が強くなって、建前はホラーだけれども、内実はミステリ・SF・冒険小説など多ジャンルが混ざった作品が増えてくるんですよね。
その点、Greenさんが言われるように、1960~1970年代の作品って「ワンアイディア」で押し通す作品が多いような気がします。ジャンルミックスも面白いんですが、ホラー小説としてみると1960~1970年代の作品の方が夾雑物が少ないという意味で、印象は強いです。
『悪魔のワルツ』なんか典型例ですが、正直、今読むとアイディア自体は使い古されているんですよね。ただネタが割れていても面白いのは面白い。『タリー家の呪い』もそうですね。

この年代の作品は、『エクソシスト』をはじめとして、メディアミックス的なものが始まった時代なので、小説と映画、それぞれに相互影響はある気はします。僕も映画は確実に観ているんだけれども、原作は読んだかどうかはっきりしない…なんて作品が、この年代のものにはいくつかありますし。

『オードリー・ローズ』は輪廻転生ものですね。かなり疑似科学的な要素が強い作品だったように思います。似たようなテーマでは、マックス・エールリッヒ『リーインカーネーション』なんてのもありました。
『悪魔の収穫祭』は、今読んでもすごく「嫌な」話で、好きかというと好きじゃないんですが、傑作だと思います。

今読んでも面白い作品はけっこうあって、今日とりあげた中では『デラニーの悪霊』は、ちょっと微妙ですが、他の作品はみな面白かったですよ。
【2017/07/23 16:25】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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