分割された人生  ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア『星ぼしの荒野から』
4150112673星ぼしの荒野から
ジェイムズ,ジュニア ティプトリー James,Jr. Tiptree 伊藤 典夫
早川書房 1999-04

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 今や伝説的なSF作家となったジェイムズ・ティプトリー・ジュニア。彼女の作品はSFというジャンルの枠を越えた魅力を持っています。そして昔ながらのオーソドックスなSFでも、その力量は遺憾なく発揮されています。『星ぼしの荒野から』(伊藤典夫・浅倉久志訳 ハヤカワ文庫SF)は、後期の作品集ですが、初期の作品と比べ肩の力が抜け、読みやすい作品が揃っています。その中から面白かったものを紹介しましょう。
 『天国の門』地球に飛来したエイリアンは、地球人の中から善人だけを選んでコンタクトします。その目的は善人だけしか入れないという楽園への扉を与えること。地球人たちはその善意を疑いませんが、エイリアンの本当の目的は…。
 「ET」風のいい話かと思いきや、実は侵略SFのヴァリエーション。
 『ビーバーの涙』も侵略SFですが、ビーバーと人間とがアナロジカルに対比されるショート・ショートです。
 『ラセンウジバエ解決法』恐るべきウィルスが蔓延した世界。その症状により男は女を殺しまくるようになる。ウィルスに感染した主人公は、妻と娘を守るために、自分に近づくなと警告するのですが…。
 女だけが虐殺される世界という、どこかフェミニズムの臭いも漂う破滅SF。空恐ろしい迫力に満ちた作品です。
 『汚れなき戯れ』宇宙の果てで究極の生命体を見た男。それは人間の願望を反映して実体化する。そこで理想の女を見た男は…。
 究極の欲望を目にしたために、現実が味気なくなってしまった男の物語
 『星ぼしの荒野から』宇宙を闊歩する超生命体が、外敵に襲われ地球に飛来する。そのエネルギーが何人かの人間の体に入り、生命体は人間の中で彼らの生き方を学ぶ…。
 エイリアンの目を通して、はかなくも価値ある人間の生命を賛美する物語。
 『たおやかな狂える手に』男性優位社会の近未来、一人の不器量な女性が宇宙からのメッセージに従ってエイリアンのいる惑星にたどり着きます。しかしそこは人間にとって長くは生きられない苛酷な環境でした。ただ愛を求めて宇宙を突き進む女性の狂おしい姿が印象に残る一編。名作『たったひとつの冴えたやりかた』にも通底する、限りない愛情に満ちた傑作。
 そして本書の収録作品ではもっともオーソドックスな味のする作品といえば、これ『時分割の天使』です。
 舞台は人口爆発寸前の地球。神経過敏な若い娘ジョリヤン・シュラムは、天使に祈ります。

 「わたしたちがあらゆるものを殺してしまわないうちに、もっとたくさんの人びとが生まれてくるのをとめてください!」

 その祈りは聞き届けられ、翌朝、全世界で同じ光景が見られることになります。子供のいる家庭で目覚めたのは、たったひとりの赤ん坊だけ、しかも末っ子だけでした。

 眠っている子供たちの肌が冷たく、胸が動いていないことに、母親たちが気づいたのだ。子供たちの唇には息がなかった。二歳から二十歳までの女の子と男の子、すべての兄弟姉妹が、びくりとも動かずに横たわっていた。成人して家を出た子供たちでさえ、死んだように横たわっていることがわかった。

 しかし子供たちは、死んでいるわけではありませんでした。かすかな、ゆっくりとした呼吸音が聞こえるのです。それはまるで冬眠のよう。彼らを目覚めさせようとする手段は、ことごとく失敗します。どんな刺激も療法も効果がありません。影響を受けなかったのはひとりっ子の家庭だけ。しかも新生児が生まれると、先に生まれた子供は昏睡状態に陥ってしまうことが判明します。
 日々が過ぎ、ある日異変が起こります。昏睡状態にあったデニー・マッケヴォイが突如目覚めたのです! しかしその代わりに今まで目覚めていた末っ子のデビーが昏睡状態に陥ります。そして、人々はようやくこの現象の意味に気がつきはじめます。いちどきに目覚めていられるのはたった一人の子供だけ。兄弟がいる場合、交代に目覚めるということ。しかもそれは一年をサイクルにされているようだということ。つまり兄弟が多いほど一人当たりの目覚めている時間が短くなるのです。
 世界経済は激変します。食糧不足は解消され、戦争はなくなります。しかし慢性的な人手不足で経済は停滞します。全ての時間を使えるひとりっ子は重宝され、もてはやされるようになるのですが…。
 時間を分割される子供たちを描くアイディアSFです。兄弟が多いほど、目覚める時間が少なくなる。それはまた成長にかかる時間が増えることにもなります。裏を返せば、他人よりも長寿を得ることができるともいえるのです。ずっと目覚めて生きるのと、どちらがより幸せといえるのでしょうか。
 コメディ調の作品なのですが、この事態はまた人類の滅亡につながるかもしれないという不安を残して物語は閉じられます。どこか薄ら寒さを感じさせる〈時間〉テーマと〈破滅〉テーマのハイブリッド作品。単なるユーモアSFに終わらないところは、さすがティプトリーと言うべきでしょうか。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
ラセンウジバエ解決法
ラセンウジバエ解決法は「マスターオブホラー」という
オムニバス作品でジョー・ダンテ監督が「男が女を殺すとき」
という題で映像化しております。愛し合う家族もウイルスには
勝てず・・・。エイリアンが地球の生物を救うためでは無く、
高級別荘地として売り出すのに人類が邪魔だから駆除する
のが残酷です。除草剤を撒いてセイタカアワダチソウを枯らす
よりも環境に優しいという・・・。自分が女だから余計苦い話です。
【2013/10/29 15:06】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]


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