狭間の世界で  T・M・ライト『マンハッタン・ゴースト・ストーリー』
4087602265マンハッタン・ゴースト・ストーリー (集英社文庫)
T.M. ライト T.M. Wright
集英社 1993-11-01

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 写真の仕事のため、ニューヨークにやってきたカメラマンのアブナー。彼は、旅行中である友人アートのアパートを一時的に借りることになります。訪れたアパートには、アートの恋人だと名乗るフィリスという若い黒人女性がいました。
 アパートに出入りするフィリスと愛し合うようになったアブナーでしたが、アートからの電話に動揺します。なんと、友人はフィリスを殺してしまい、その容疑で逃げているというのです。それではアパートにいる女性は何者なのか? アートは、その女はフィリスではなく、別人に違いないと告げますが…。

 T・M・ライト『マンハッタン・ゴースト・ストーリー』 (矢倉尚子訳 集英社文庫) は、タイトルから想像がつくように、マンハッタンを舞台にしたゴースト・ストーリーです。
 序盤で登場する主人公の恋人が、すでに死んでいるということは、早い段階でわかってしまいます。わかった後も、主人公は、なんとか恋愛を成就させようと、かけずり回るのです
 主人公には、もともと霊能力が備わっており、恋人との出会いを境に、その能力が開花します。その能力とは、死者が見え、彼らと語ることができるというもの。しかし、その能力には欠点もあります。主人公には、逆に生者と死者の区別がつかないのです。生者のつもりで話しかけていても、それが周りの人間には見えていないことから、死者と認識することになったりと、出会った人間が本当に生きているのかがわからなくなっていきます。
 恋人フィリスが姿を現さなくなり、彼女を求めてアブナーはかけずり回ります。やがて、日常生活においても支障をきたしはじめるアブナー。彼女と会うために、死者の世界との接触を図ろうとするアブナーですが、生きたまま、その世界に入り込むことは容易ではないのです。

 幽霊との恋愛を描く「ラブストーリー」と言えるのですが、甘美な雰囲気だけでなく、死者の世界の不気味さも感じられるところが特徴です。
 恋人フィリスのように、生者と全く違いのわからない死者もいれば、同じ場所で同じ言動を繰り返す地縛霊のような死者もいたりと、いろいろなタイプの死者が描かれます。
 死者の世界自体も、生者が簡単に接触できるようなお手軽なものとしては描かれず、その得体の知れなさ、不気味さが描かれており、ホラーとしてもなかなかに魅力的な作品です。

 作者のT・M・ライトは、1970年代から活躍しているアメリカのモダンホラー作家ですが、邦訳されたのは、1984年発表のこの作品だけのようです。本作品を読む限り、ホラー作品としての雰囲気醸成の巧さといい、リーダビリティの高さといい、非常にバランスの取れた作風のようで、もっと他の作品を読んでみたい作家ではありますね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

死者との会合を密接に書いた作品となると、
一番初めに思い出すのはピーター・S・ビーグルの
「心地よく秘密めいたところ」ですかね。
とても19歳で書き始めたとは思えない出来栄えですが、
新芽のように優しく爽やかな余韻で、非常に好きです。

面白そうなので、早速注文してみました。
ゴーストストーリーって、意外と都会が多いですよね。
上記作品も同じニューヨークですし、
ある意味でゴーストと言って良いのであれば、カポーティの「ミリアム」等も…
物質的にも精神的も、身近な恐怖への転換が、現代ホラーの真髄とは思いますが。

人が集まる場所に存在する幽霊など、いかにも現代病という風ですが
突き詰めていくと内なる存在の、モーパッサン「オルラ」となるのか…
僕が言うのも大変おこがましいですが、人生の機微表現さながら、
死者の表現まで多種多様で、作家陣の一工夫には驚嘆するばかり、好奇心が尽きません。
それも科学の進歩に沿って行くのですから、皮肉というか、なんというか。
【2017/06/04 20:54】 URL | ぽんぽこ狸 #- [ 編集]

>ぽんぽこ狸さん
『心地よく秘密めいたところ』もいい作品ですよね。「死者との触れ合い」というのは、幻想小説の重要テーマの一つだと思います。その死者の世界の描かれ方が、日常とほとんど変わらないものであれば、薄っぺらに感じてしまうし、あまりにも隔絶したものとして描かれれば、それはまた読みにくいものになってしまう。というわけで、ライトのこの作品は、そのあたりのバランスが取れた、いい作品だと思います。

確かに、現代だと、昔ながらの屋敷に出る幽霊という、古いタイプのゴースト・ストーリーは少なくて、都会だったり、日常に出現する幽霊というのが多い印象です。テクノロジーが発達した現代でも、現代なりのゴースト・ストーリーがある、ということなのでしょうね。
この作品だと、生者の世界と死者の世界が重ね合わせで存在していて、能力を持つ一部の者は、死者の世界を認識することができる。しかし、認識できるのは一部だけ…というような感じでしょうか。
【2017/06/04 21:10】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
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