最近読んだ本

4309207243約束
イジー クラトフヴィル Ji〓´i Kratochvil
河出書房新社 2017-01-24

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イジー・クラトフヴィル『約束』(阿部賢一訳 河出書房新社)
 ナチス・ドイツ占領下のチェコの都市ブルノで、妹の命と引き替えに鉤十字型の邸宅を建てた有名建築家。戦後、秘密警察にマークされた建築家は、捕らえられた妹が自殺するに及び、妹を逮捕した警官に復讐を誓いますが…。

 大枠は、妹を死に追いやった男に復讐をする物語、といえるのですが、ストーリーの筋がなかなかまっすぐ進まないのが特徴です。語り手が次々と変わり、それぞれの視点から物語が語られることもあり、物語の本筋がなかなか見えてきません。
 中盤になり、建築家の復讐の手段が明らかになるのですが、そこからが圧巻です。この建築家、倫理的な義務感の強い男で、警官に苦痛を与えたくはないという観点から、持ってまわった手段を取るのですが、それが仇になり、事態がどんどんエスカレートしていきます。そしていつの間にか、目的自体がすり替わっていくことになるのです。
 最初はシリアスで重厚な物語なのかと思いきや、事態がエスカレートしてからの展開が奇想天外で、驚かされます。物語のところどころに省略があるため、どうしてこうなったのか? 結末は結局どうなったのか? といった部分で、かなりもやもやが残るのではありますが、そのあたりを想像力で補完するという意味では、非常に刺激的な作品ではありますね。



4488010679深い穴に落ちてしまった
イバン・レピラ 白川 貴子
東京創元社 2017-01-21

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イバン・レピラ『深い穴に落ちてしまった』(白川貴子訳 東京創元社)
 ある日、森で穴に落ちてしまった兄弟。深い穴からどうしても出られない兄弟は、木の根や虫を食べて生き延びようとしますが…。

 穴に落ちた兄弟の、極限状況を描くサバイバル的作品です。兄弟の名前も、穴に落ちた具体的な状況もわからず、ただ穴の中での暮らしと脱出の試みを描いていきます。「寓話的作品」とはいいつつ、実際の飢餓や病気の描写は詳細で、息苦しさを覚えるほど。
 結末にはある種の感動が得られる、不思議な魅力のある作品です。



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母親を喰った人形 (ハヤカワ文庫 NV―モダンホラー・セレクション (447))
ラムジー・キャンベル 小倉 多加志
早川書房 1987-05

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ラムジー・キャンベル『母親を喰った人形』(小倉多加志訳 ハヤカワ文庫NV)
 兄を乗せて車を運転していたクレアは、突然飛び出してきた男をよけようとして事故を起こしてしまいます。兄はドアに片腕を切断され命を落としますが、事故後、その片腕が見つからないのです。あの飛び出してきた男が片腕を持ち去ったのか?
 やがてクレアに接触してきた犯罪ノンフィクション作家は、飛び出してきた男は、子供の頃から異様な行動を繰り返し、殺人の容疑もある男だと話しますが…。

 切断された片腕が消えるという、インパクトのあるシーンから始まる物語ですが、全体の展開は、至って地味な作品です。
 登場人物たちが皆、感情移入をしにくい造形なのに加えて、行動の動機が理解しにくいので、作品のページ数が短い割には、読んでいてなかなか進まないのが難点です。
 ただ、犯人の生い立ちや、中盤から絡んでくる黒魔術の背景などは、非常に不気味な雰囲気が出ています。特に、タイトルの意味が判明する犯人の生誕シーンなどは、強烈なインパクトがあります。
 全体にバランスが悪いのは否めないのですが、ホラー小説としては魅力的な部分もあり、捨てがたい作品ではあります。



415209639Xわすれて、わすれて
清水 杜氏彦
早川書房 2016-09-21

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清水杜氏彦『わすれて、わすれて』(早川書房)
 拳銃の名人「リリイ・ザ・フラッシャー」ことリリイは、強盗に妹と両親を殺されていました。リリイは、自分と同じく、父親を殺された友人カレンの復讐の旅に同行することになります。
 カレンの父を殺したのは、カレンの叔父とその仲間であり、その目的は、記した事柄を忘れさせることができる本〈ダイアリー〉を奪うことでした。〈ダイアリー〉を奪われずにすんだものの、父親は殺されてしまいます。
 カレンの復讐の計画とは、父親を襲った犯人たちを拷問し、その後に〈ダイアリー〉で記憶を消せば、相手からさらに復讐されることを防げる、というものでした…。

 主人公たちが持つのは、人の記憶を消すことのできる本という、強力なアイテム。しかしその存在を知る者が、自分たちに向かって本を使う可能性もあるのです。二人は用心しながら旅を続けますが、思いもかけない事態が起こります。
 本当ならば、復讐として相手を殺したい。けれど、そうしてしまうと自分も同じ人殺しになってしまう。それならば、肉体的に痛めつけた上で記憶を消してしまえばいい、というのが、カレンの発想です。
 しかし、それで復讐はなされたことになるのか? リリイはカレンの考えに賛同しきれない状態で旅を続け、二人の間では、たびたび意見の相違が起こります。
 憎しみの連鎖を防ぐためにはどうしたらいいのか? 記憶とは人間にとって何なのか? 読みやすい文章とリーダビリティを持ちながら、扱うテーマはなかなか重厚で、非常に読み応えのある作品です。



4895728447ブラック・ドッグ
レーヴィ ピンフォールド Levi Pinfold
光村教育図書 2012-09

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レーヴィ・ピンフォールド『ブラック・ドッグ』(片岡しのぶ訳 光村教育図書)
 ある家族が住む、森の中の一軒家。そこにふらりと現れた黒い犬。その姿は家族が見る度に大きくなっていき、やがて家を隠すほどになりますが…。

 人間の想像力をテーマにした絵本です。大人や年上の兄弟たちが犬を恐れるたびに、犬が巨大化していき、最後は末っ子が活躍して一件落着…という、ストーリー的には単純な話ではあるのですが、コマ割の工夫や、それぞれの絵の描き込みが詳細で、見ていて楽しい作品になっています。
 家族が、犬をみて驚くシーンを連続で描いているのですが、犬と家族を同一画面で描かず、窓から覗いて驚く家族と、大きくなっていく犬、それぞれを別コマで描くことによって、家族が犬を客観的に見れていない(恐怖心を過剰に持ってしまっている)というのを表現しており、非常に技巧的です。
 絵のタッチも魅力的で、デフォルメの利いた絵柄はユーモアにあふれています。
Black-Dog01.jpg Black-Dog02.jpg Black-Dog03.jpg


テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
約束
図書館で「約束」を借りたのですが、理解出来ずに返却してしまいました。表紙絵に描かれているように、ハンマーで妹の仇をブチのめすのかと思ったら訳の分からない方向へ。建築家の業なのか?プラハの章はレオ・ぺルッツを思い出しました。迫害から逃れて新国家に安住しても喪った故国の事が忘れられない。祖国に踏み留まっても、秘密警察と全体主義に蹂躙される。最愛の妹の命は還らない。歴史が重すぎます。
【2017/05/19 23:31】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
テーマは非常に面白いのですが、本題に入るまでが長いのと、入ったら入ったで、なかなか本筋を語らないという…。エンタメを志向している作品ではないので仕方ないのですが。
ただ、ユートピア小説っぽい部分は、かなり面白かったです。
【2017/05/19 23:47】 URL | kazuou #- [ 編集]


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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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