奇妙な味の川下り  中村融編『夜の夢見の川』
4488555055夜の夢見の川 (12の奇妙な物語) (創元推理文庫)
シオドア・スタージョン G・K・チェスタトン他 中村 融
東京創元社 2017-04-28

by G-Tools

 中村融編『夜の夢見の川』(創元推理文庫)は、〈奇妙な味〉をテーマにしたオリジナル・アンソロジー。同テーマで編まれた『街角の書店』の続編的作品集です。

クリストファー・ファウラー『麻酔』
 予約をとらず歯医者に押しかけた男は、治療室に入り込み、たまたま手の開いていた医者に治療をしてもらうことになります。しかし、麻酔をかけた後、医者は不審な行動を取り始めます…。
 都市伝説風の不条理小説。肉体的な描写が強烈です。

ハーヴィー・ジェイコブズ『バラと手袋』
 友人のヒューバーマンは、子供時代から、周りの人間の膨大な品物を収集していました。仕事で成功した「わたし」は、かって友人と交換したオートバイのおもちゃを再び手にしたくなり、友人を訪ねますが…。
 子供時代の郷愁を扱いながらも、ノスタルジーとは異なる味わいを醸し出す不思議な作品。名作『おもちゃ』のバリエーション的作品です。

キット・リード『お待ち』
 旅行中の母娘は、ふとある町に立ち寄りますが、そこで母親は具合を悪くしてしまいます。その町では医者はおらず、住人の経験則だけから病気を治そうというのです。しかも直るまで町からは出れないのです。その内に、娘は、町には「お待ち」という風習があることを聞きますが…。
 親切で温厚な人々が住む町。しかしそこには何やら不穏な空気が漂っているという作品。

フィリス・アイゼンシュタイン『終わりの始まり』
 ある時、母親からかかってきた電話。しかし母親は何年も前に亡くなっているのです。しかし夫も兄も、母親はずっと生きているというのです…。
 恐怖小説風の出だしから始まり、結末は人情溢れるものになるというファンタジー作品。

エドワード・ブライアント『ハイウェイ漂泊』
 会議へ向かう車の中で、友人はハイウェイに乗り捨ててある車について奇妙な話を始めます。姿を消した人間たちは、空から飛来した何者かにさらわれたのではないか。また、姿を消した人間は一人で消えた例はなく、必ず家族連れだというのですが…。
 最後まで明確な事件は起こらず、徹頭徹尾、仄めかしで展開する技巧的な作品。まさに〈奇妙な味〉としか呼び様がない作品ですね。

ケイト・ウィルヘルム『銀の猟犬』
 失業した夫が農場を始め、子供とともに移り住んだ妻は、ある日、二頭の美しい猟犬が自分を見つめているのに気付きます。猟犬はなぜか自分の身の回りを離れようとしないのですが…。
 夫を無条件で愛していると思っていた妻の心の変化が丁寧に描かれていきます。猟犬は妻の心の象徴なのか? 結末も印象的です。

シオドア・スタージョン『心臓』
 心臓の弱い男を愛してしまった女は「憎悪」の力で彼の心臓を作り変えようと考えますが…。
 「憎悪」を使って人を愛する女を描く作品。掌編ながら、強烈なインパクトを残す作品です。

フィリップ・ホセ・ファーマー『アケロンの大騒動』
 娘をめぐって撃ち合いになった二人の男。片方の男は撃たれて死んでしまいます。そこへ突然現れた医者の男は、魔術的な手段で男を甦らせてしまいます。医者は町の死者をできる限り生き返らせると話しますが…。
 西部劇風の舞台の作品。ひっくり返しが楽しいユーモア・ストーリーです。

ロバート・エイクマン『剣』
 若い娘に剣を刺すという出し物に魅了された男は、その若い娘と二人だけの機会を作ってやろうと持ちかけられますが…。
 娘との逢瀬に胸を躍らすものの、実際の娘は以前ほど魅力的ではなく…。終始、不穏な雰囲気で進む作品。

G・K・チェスタトン『怒りの歩道─悪夢』
 ある日、いつも通っているはずの歩道がおかしなことになり始め…。
 今までがそうであったからといって、これからも同じだとは限らない…。哲学的な逆説に満ちた奇想小説です。

ヒラリー・ベイリー『イズリントンの犬』
 裕福な一家のもとに引き取られた犬には、人語を話す能力がありました。横領を繰り返していた一家の主人は、犬を売って大金を得ようと考えますが…。
 虚飾に満ちた一家の真実が、犬によって暴かれるという風刺的作品。

カール・エドワード・ワグナー『夜の夢見の川』
 護送車の転覆により、脱走を図った女。屋敷を見つけた女は、自らの境遇を騙り、助けを求めます。親切な女主人とメイドにより、体力を回復した女でしたが、二人はなぜか自分を離そうとしないのです…。
 屋敷の住人たちが異常性格者だった…という話かと思いきや、住人たちが異界のものだという可能性や、そもそも主人公の女自体が妄想に取り付かれているという可能性も示唆されます。
 チェンバーズ『黄衣の王』が言及されるなど、クトゥルー神話との関連も見えますね。夢幻的な雰囲気といい、何通りもの解釈が可能な懐の深さといい、集中一の力作でしょう。

 編者解説によると、前作以上に、解釈のはっきりしない作品を集めたそうです。確かに前作よりも〈奇妙な味〉としかいいようのない作品が多かった印象ですね。個人的には今回の『夜の夢見の川』の方が満足度が高かったように思います。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
上品な装丁ですが不穏な物語ばかり。
最初の「麻酔」からガツンとやられます。シャーリー・ジャクスンの「歯」を思い出しますが、もっと暴力的。エイクマンの「剣」の主人公の境遇ときたら。伯父さん推薦の宿の不愉快さもブラックな同族企業みたい。出てくる食事が不味そうなのもお約束です。
【2017/05/02 12:47】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
トップバッターの『麻酔』からガツンと来ますね。不穏な物語が多いので、対照的にエイクマン作品が目立たなくなるぐらいです。
それにしても、歯科医を扱った作品はどれも不穏な話が多いような…。
【2017/05/02 19:22】 URL | kazuou #- [ 編集]


表紙のデザイン画が漫画チックなのが多いですが…創元までやめてほしいですね涙…前作もですが…
【2017/05/03 07:47】 URL | 通りすがり #- [ 編集]


それほど漫画チックだとは思いませんが…。
【2017/05/03 19:11】 URL | kazuou #- [ 編集]

イギリスとアメリカ
この作品集ですが、確かにkazuouさん好みと思われる、謎を扱いつつ解決せずに終わる形態の作品が多かった気がします。
『夜の夢見の川』は確かに面白く読みました。オチは明確に付けてあった印象ですが、途中の悪夢めいた光景の連鎖を読んで連想したのは『牛家』(因みに私はこの作品も結構好きでした)でした。
ワグナーですが、結構いろいろなアンソロジーに作品を寄せている割に、あまり印象に残っていないので、この作品は今まで読んで来た中のベストという感じです。短編集の邦訳を熱望したくなるほどではない感じですが、キングのように長めのものが実は得意だったりするのかもしれないですね。
冒頭の作品は明確なショッカーですね(変容の状況が見える(描写される)のがわずかな時間のみ、更に主人公がことの重大さを本当に認識できる前に話が終わるのが上手いところですね)。
そこから読んできてエイクマンに至って思ったのが、やはりイギリスの作品は闇に覆われていて、世界が少なくとも蛍光灯の光で視野が明確に確保されているかのようなアメリカの作品とは何か質的に違う感じのものなんだなぁということ(但し、冒頭のファウラーは英国人作家ですね)。
例えば『お待ち』にしたって結構状況は悲惨(とはいえ、現代の通りすがりの人の体験談という部分をはぎ取ってしまえば、昔はこれに近い状況が当然のようにあった訳ですが・・・)だったりもしますが、これは何れも、少なくとも視界が利いた、あるいは理性で解釈可能な世界の中でのことという感じですが、一方でエイクマン作品は、起こっていることはさほどでもない(捉えようによっては身障者差別とも取れる??)一方で、それが起きている世界も、相対する人物の心理にも闇が深い印象があります。目前の光景すら把握が怪しいような感じ。この辺り、作家の個性もありますが、歴史あるゴースト・ストーリーの国と開拓精神の新興国との違いともとらえられるのかな、と。
(因みにエイクマン作品からちょっと連想したのは、ピークの『同じ時間に、この場所で』でした)

『終わりの始まり』のラスト、人情ものとも捉えられますが、私自身は結局何れともつかない世界を漂い続けるような不安定さの方を個人的に感じてしまいました・・・。『バラと手袋』も、印象的には悪魔との契約ものを連想したりとか・・・
『ハイウェイ漂泊』はそれこそ何でもないような話ですが、これ、主人公が女性で、実際にUFOの到来と人の連れ去りが発生したら、「男たちの知らない女」だよなぁ・・・なんてこともちょっと思いました。こちらの主人公にあるのは、漠然としたフロンティアや非日常の渇望、辺りなんでしょうけれど(まぁ根っこにあるものが全く違いますかね…)。
個人的には『イズリントンの犬』も結構愉しかったですね。おおよそ起こることは予測可能ですが、犬が話せるとはいえ、あくまで犬の精神を持っているものとして振舞うので、"見えるもの" "気になること" が違ってくる辺りが面白く、そこは扱う人が違ったらもっと拡張可能だったかも、なんてことも思いました。
【2017/06/25 23:34】 URL | Green #mQop/nM. [ 編集]

>Greenさん
『夜の夢見の川』は、傑作だったと思います。ワグナーは、アンソロジーなどでもよく名前を見る作家ですが、確かに印象に残る作品が思い浮かばないんですよね。長篇の邦訳があるはずですが、そちらも未読なので、あまりどういう作家かはっきりしないところがあります。
『牛家』に似ているというのは、なるほどと思いました。

ファウラー『麻酔』は、ショッカーですね。《奇妙な味》かというと微妙なところで、どちらかというとモダンホラーだと思いますが。

ヒラリー・ベイリー『イズリントンの犬』は、サキ『トバモリー』を彷彿とさせる作品で、イギリス作品らしい風刺がきいていました。

このアンソロジーで、イギリスとアメリカの作品の対比が意識されているかは別として、イギリス作品の方が「闇が深い」感じはしますよね。
怪奇幻想・ホラー小説を普段読んでいると感じることですが、いい意味で、アメリカ作品の方が「脳天気」なことが多いです。ジャンルが違いますが、映画だとそれが歴然としていることが多くて、ホラー映画などでもアメリカ作品に比べ、イギリスやヨーロッパ作品の方がやたらと「暗い」です。
【2017/06/26 18:40】 URL | kazuou #- [ 編集]


この記事に対するコメントの投稿














管理者にだけ表示を許可する


この記事に対するトラックバック
トラックバックURL
http://kimyo.blog50.fc2.com/tb.php/719-f4f9eb99
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

kazuou

Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
記事の新旧に関わらず、コメント・トラックバックは歓迎しています。



最近の記事



最近のコメント



最近のトラックバック



月別アーカイブ



カテゴリー



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



ブログ内検索



RSSフィード



リンク

このブログをリンクに追加する