リドル・ストーリーと結末の定まらない物語 その1
 「リドル・ストーリー」とは、物語中に提示された謎に対して、明確な答えが与えられないまま終了するストーリーです。
 結末として登場人物が取るべき選択肢が複数提示されるもの(ストックトン『女か虎か』など)、物語上の謎の真相が隠されたまま終了を迎えるもの(モフェット『謎のカード』など)、作中の事実の解釈が複数存在するもの(芥川龍之介『藪の中』など)、物語そのものの解釈が謎につつまれているもの(デ・ラ・メア『なぞ』など)などがあります。


●二者択一型の作品
 選択肢が2つ提示され、どちらを取るか?というタイプの作品です。『女か虎か』を始め、リドル・ストーリーと言われて、思い浮かべるのはこのタイプの作品ではないでしょうか。


4480429050謎の物語 (ちくま文庫)
紀田 順一郎
筑摩書房 2012-02

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フランク・R・ストックトン『女か虎か』(紀田順一郎訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫収録)
 その王国では、絶大な権力を持つ王のもと、ある裁きが行われていました。それは闘技場で罪人に二つの扉のうち、どちらかを選ばせるというもの。
 片方には虎がおり、こちらの扉をあければ食い殺される。もう片方には美女がおり、こちらを開ければ、強制的にその娘と結婚させられるのです。
 王女と恋をした罪で罪人となった若者は、裁きにかけられることになりますが、王女はその権力を使用し、二つの扉のうち、どちらに虎がいるかを知ります。王女は若者に合図をしますが、実際に現れたのは女だったのか、虎だったのか?
 リドル・ストーリーの代名詞ともいうべき作品です。明確に2つの選択肢が示され、どちらも同じぐらいあり得る…と思わせる、優れた設定の作品です。
 ジャック・モフィットによる解決篇『女と虎と』(仁賀克雄訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫収録)などもあります。



フランク・R・ストックトン『三日月刀の督励官』(紀田順一郎訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫収録)
 若者が裁判にかけられてから1年ほどたって、遠い国から使者がやって来ます。裁判の結末を教えてほしいという使者に対し、役人はもう一つのエピソードを話し出します。
 ある国の王子が、王に対し、宮廷の侍女の誰か一人を花嫁にほしいと申し出ます。王は、王子に目隠しをしたうえで、侍女を進呈し結婚式をあげさせます。その後、花嫁を別の四十人の侍女と一緒にしてから、王子の目隠しを取り、自分の花嫁を連れ出しなさいと命令します。ただし、間違って他の女を連れ出そうとしたら、王子の命はないのです。
 四十人の侍女は同じような衣装をつけており、身動きをしてはいけないと王様に厳命されています。ただ、二人の侍女のみに、表情に変化が現れたのを王子は見て取ります。一人は微笑み、一人は眉を寄せています。王子が選んだのはどちらか? このエピソードの答えを当てられたら『女か虎か』の結末を教えようと言うのですが…?
 作者ストックトン自身による『女か虎か』の続編です。リドル・ストーリーの解答がリドル・ストーリーになっているという、なんとも人を喰った続編です。正編と同じく、女性はこういう場合、どんな反応を示すか? という設問になっており、どちらもあり得る…と考えられるところがにくい作品ですね。



マーク・トウェイン『恐ろしき、悲惨きわまる中世のロマンス』(大久保博訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫収録)
 大公である伯父の後継者になるために、女でありながら男のふりをさせられていたコンラート。戴冠する前に女であることがわかれば、法により死刑になってしまいます。
 伯父の娘コンスタンスは、ならずものに妊娠させられてしまいますが、国の法では結婚せずに子供を産んだ場合は死刑に処されてしまうのです。死を逃れるためには、子供の父親を身代りにするしかありません。コンスタンスは、父親はコンラートであると虚偽の告発をしますが…。
 告発を事実だと認めれば死刑、しかし疑いを晴らそうとするとこれまた死が待っている…という、究極の選択を描いた作品です。



O・ヘンリー『指貫きゲーム』(紀田順一郎訳 紀田順一郎編『謎の物語』ちくま文庫収録)
 名門の出である青年は、都会で事業に成功します。田舎の召使である老人は、青年に一族に伝わる品を渡そうと上京しますが、部屋に通されると、中にいたのは互いによく似た容貌の二人でした。青年は、共同経営者であり、容貌もよく似た同じ一族のいとこと、いたずらをしかけていたのです…。
 品を渡すべきはどちらの青年なのか? 微笑ましいユーモア小説です。



465220177X百万ポンド紙幣―マーク・トウェイン ショートセレクション (世界ショートセレクション)
マーク トウェイン ヨシタケ シンスケ
理論社 2017-02

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マーク・トウェイン『天国だったか? 地獄だったか?』(堀川志野舞訳『百万ポンド紙幣』理論社収録)
 二人の伯母は、嘘をこの上ない罪だと考える信心深い人間でした。しかし、愛する姪に対して、姪の娘が死んだと伝えられず、生きているかのように装った手紙を書き続けます。やがて姪は息を引き取りますが、直後に天使が現れ、彼女たちへ判決を囁きます…。
 人を助けるためについた嘘は罪なのか? 倫理的なテーマをはらんだリドル・ストーリー。



415071956X特別料理 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
スタンリイ エリン Stanley Ellin 田中 融二
早川書房 2015-05-08

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スタンリイ・エリン『決断の時』(田中融二訳『特別料理』ハヤカワ・ミステリ文庫収録)
 好人物ながら自信家の男ヒューは、隣に越してきた元奇術師のレイモンドと、事あるごとに反目します。どんな場所からも脱出できると豪語するレイモンドに対し、屋敷の地下室から1時間以内に脱出できたら自らが出て行こうと、ヒューは賭けを提案します。
 閉じ込められた部屋から、レイモンドの苦しそうな呻き声が聞こえ、周りの人間は、心臓が悪いと言っていたレイモンドの言葉を思い出しますが、ヒューはそれは嘘だと判断し、扉を開けさせまいとしますが…。
 奇術師は本当に病気なのか、それとも芝居なのか? 破滅を賭けた取引で男が取るべき行動は…?
 閉じ込められるのが、心理的なミスディレクションを多用する奇術師、という伏線が効いています。現代リドル・ストーリーの傑作。



448826302Xあなたならどうしますか? (創元推理文庫)
シャーロット アームストロング Charlotte Armstrong
東京創元社 1995-04

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シャーロット・アームストロング『あなたならどうしますか?』(白石朗訳『あなたならどうしますか?』創元推理文庫収録)
 憧れの男性が従姉と結婚することに、苦々しい思いを抱いていたヒロインは、街中で、ある男性を見かけ驚きます。その男性は、事故で死んだはずの従姉の夫だったのです。ヒロインはその事実を従姉に伝えますが、彼女は結婚を壊すための嘘だと、とりあってくれません…。
 憧れ、嫉妬、愛情…。主人公の女性の心の動きを丁寧に描写したうえで、結末を読者に選ばせるというサスペンス・ストーリー。読んだ後、語り合いたくなる作品ですね。



B00NSE0J3Iマイ国家(新潮文庫)
星 新一
新潮社 1976-06-01

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星新一『友情の杯』『マイ国家』新潮文庫収録)
 資産家である老人は、死期が近づいていましたが、最後の願いとして、若いころ友人からもらった酒が飲みたいと話します。
 遠い昔にもらった酒を今まで飲まなかった理由を聞かれ、彼は答えます。ライバルでもあった友人は、酒に毒を入れた可能性がある。それを確かめてしまったら、毒が入っているにせよ入っていないにせよ、友人との関係が壊れてしまう。それが怖くて確かめられなかったのだと…。
 友人は敵だったのか、それとも親友だったのか? 解釈は読者に委ねられています。



4151824014二壜の調味料 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
ロード ダンセイニ 小林 晋
早川書房 2016-11-22

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ロード・ダンセイニ『ネザビー・ガーテンズの殺人』(小林晋訳『二壜の調味料』ハヤカワ・ミステリ文庫収録)
 友人のインカー氏の家を訪れた「私」は、たまたま彼の殺人現場を目撃してしまいます。口封じのために殺されると考えた「私」は、とっさに逃げ出しますが、インカーは後を追ってきます。薄暗い場所に隠れてほっとしたのもつかの間、インカーは警察を呼び、「私」に殺人の汚名を着せます…。
 手記の形で書かれた殺人事件の真相、しかしその真偽は定かではありません。いったいどちらが嘘をついているのか…? その判断は読者にまかされているのです。



4794927428誰でもない男の裁判 (晶文社ミステリ)
A・H・Z・カー 田中 融二
晶文社 2004-06-17

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A・H・Z・カー『ティモシー・マークルの選択』(田中融二訳『誰でもない男の裁判』晶文社収録)
 学内で新聞の編集長をしているティモシー・マークルは、新聞編集のスタッフとして、デニーを招きいれます。彼は、ティモシーの父親が勤務する会社の社長の息子でした。
 ある日、ティモシーは、親から近所に住む老人が車に轢かれて死んだという話を聞きます。ふとしたきっかけから、その事故はデニーがおこしたものではないかと思い当たったティモシーは、思い悩みます。彼が突き付けられた選択とは…?
 倫理的な判断を迫られる青年の悩みを描いた作品。自分の人生を左右する問題に対して、彼が取った決断とは…? 結末を読者にゆだねる、リドル・ストーリーの佳作です。



4043455038山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー (角川文庫)
山口 雅也
角川書店 2007-12

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ハル・エルスン『最後の答』(田中小実昌訳 山口雅也編『山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー』角川文庫収録)
 夜勤の男は、ビルに見慣れぬエレベーター係がいるのに気が付きますが、エレベーター係りは唐突に二択の質問をしてきます。冗談だと思い答えるものの、しつこく質問を続けるエレベーター係に対し、男は恐怖を抱きます…。
 質問に間違えると殺される、というサイコ・スリラー作品。相手が狂人だけに、二択のうち、どちらが正解なのかがわからないというのが読みどころです。



B00C2R9W44二十一の短篇 新訳版
グレアム グリーン 高橋 和久
早川書房 2013-03-29

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グレアム・グリーン『弁護側の言い分』(高橋和久訳『二十一の短篇』ハヤカワ文庫epi収録)
 殺人容疑で起訴された男は、ほぼ有罪が決定しているかに思われていました。殺人直後に被告を目撃した証人が何人もいたのです。しかし弁護側は、被告の双子の兄を呼び出し、目撃したのは被告なのか、それとも被告の兄なのか、確信が持てるのかと問いかけます…。
 明らかな殺人であるにもかかわらず、罪を逃れようとする弁護側の策略の結果は…? 皮肉な結末が待つリドル・ストーリー。



4882930846F氏の時計 (ふしぎ文学館)
佐野 洋
出版芸術社 1994-07

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佐野洋『金属音病事件』『F氏の時計』出版芸術社収録)
 知人が交通事故に遭ったという知らせを受けた「私」は、見舞いに病院を訪れますが、患者は頭の中で金属のような音がすると話します。それと同時に、見たものを瞬間的に覚えてしまうほどの驚異的な記憶力が身についていたのです。同じような「金属音病」患者が他にもいることを聞いた「私」は、同僚とともに、この症状について調べ始めますが…。
 SF的な素材を扱ったミステリ作品です。結末において、殺人犯と目される人物に対して放たれる仕掛けがユニーク。容疑者が本当に犯人なのか否かは、明確に示されません。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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