胸躍らせぬ物語  カトリーヌ・アルレー『死神に愛された男』
4488140238死神に愛された男
カトリーヌ アルレー 安堂 信也
東京創元社 1986-02

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 サブタイトルにもあるように、基本的にこのブログでは面白かった作品をとりあげています。今回の作品はあまりに面白くなかったので、やめようかと思ったのですが、たまにはこういうのもいいかなと思うので、ちょっと書いてみます。問題の作品はこれ、フランスの作家カトリーヌ・アルレーの『死神に愛された男』(安堂信也訳 創元推理文庫)です。アルレーの作品は『わらの女』以外、どれもぬるい作品ばかりです。その中でも、この作品はかなりひどいのですが、こんな話です。
 モード・デザイナーであるポール・ラティノは、何事もうまくいかない男でした。それに比べ、ポールの雇い主ルノー・モラティエは富と才能をあふれんばかりに持つ男であり、ポールの羨望の念を集めていました。モラティエの秘書であり、ポールのフィアンセであるリーナは、出張の際にモラティエと関係を持ちます。プレイボーイのモラティエは、一夜の遊びとしてしか考えていませんでしたが、野心的なリーナはモラティエの夫人の地位を狙い、ポールとの婚約を一方的に破棄します。
 一方、夫の浮気に苦しんでいたモラティエ夫人フランソワーズは、ポールに悩みを打ち明け、夫への殺意さえ仄めかします。そんな折り、リーナがモラティエの家のガレージで車のバンパーに挟まれて圧死します。モラティエが、鬱陶しくなったリーナを殺害したと信じるポールは復讐の念に燃えるのですが…。
 これ、あらすじだけ聞くと、結構面白そうに見えるのが曲者。ここまでのあらすじで、ポールがモラティエを陥れようとするが失敗して破滅する、というようなストーリーを思い浮かべた人は、はずれです。この後、モラティエに詰め寄ってリーナとのことを指弾するポールは、モラティエの持ち出した昇進話に丸め込まれてしまいます。ここまではいいです。ポールの態度もとりあえずモラティエを安心させるためと描写されていますし。問題はこの後。なんと墜落事故でモラティエは死んでしまうのです! ここまでで、まだ小説は半分です。
 「死神に愛された男」ポールが、ことごとく不幸な目にあう、という設定はいいと思うのですが、作品全体があまりに行き当たりばったり感が強すぎます。モラティエが墜落事故で死ぬときに、ポールも乗り合わせており、唯一の生存者になるのですが、この墜落した場所がアフリカの人跡未踏の地! ここからサバイバルになるのかと思いきや、次のページでは、何事もなかったかのようにフランスに戻っているのです!これには呆れます。
 さらにこの後は、未亡人となったフランソワーズと結婚しようとポールがいろいろと手を尽くすという展開になります。ここでリーナ殺害事件やモラティエの死についての疑惑が絡み合ってサスペンスが増す、とかいうことには、全くなりません。伏線は全く活きてこないし、面白くできるところを、ことごとくつまらなくさせているとしか思えません。
 何をやってもうまく行かない男の喜劇として見るなら、この行き当たりばったりの展開も、うなずけないことはないのですが、どうも作品のトーンはシリアスで、笑えるような雰囲気ではありません。この作品の設定を使えば、たいていの作家なら、もう少し面白くできるような気がします。
 本当に安手のサスペンス。評価できるのはタイトルだけ。フランス製の「火曜サスペンス劇場」といった感じの超凡作です。ただ、ここをこうしたらもう少し面白くなるな、といった自分なりの改善策を考えられるという点では面白いかもしれません。逆に言うと、そういう考えがすぐに浮かぶほど不器用な作品ではありますが。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント

まず、名前がややこしいですね。ポール・ラティノとルノー・モラティエ。
読んでたらどっちがどっち?となりそうです。
おもしろい作品もいいですが、逆にツッコミどころのある作品の方が書きやすいし、人と話す時盛り上がりますよね。
【2006/04/16 23:25】 URL | 加納ソルト #- [ 編集]

そうなんですよ
そう! とくにこの二人の名前がごっちゃになりやすいんですよ。
内容も、最初はわりと面白そうなんですが、どんどん読者の期待を裏切っていくところが、もうたまりません。何でここでこうなるんだよ! というツッコミの嵐になること間違いなしです。これはもう完全に行き当たりばったりですよ。
たしかにこれをサカナにして、盛り上がれそうな作品ではありました。
【2006/04/16 23:31】 URL | kazuou #- [ 編集]


たしかこの作家の作品に「めざし一匹と10万ドル」があったような、
火曜サスペンス風で楽しめました。
この作家は必ずしも勧善懲悪じゃないところがいいな。
あとこの作家は女を描くのがうまいなと思います。

悪女ものではほかの作家の「悪魔のような女」が好きです。
これは映画化されていてとても傑作です。[フランス、白黒版]
(ただ今見るとネタがばれちゃうかも)
原作は映画化とはちがい新鮮です。
映画で悪女物と言えば「情婦」も最高ですね。
【2008/08/10 23:32】 URL | hitosi #mQop/nM. [ 編集]


フランス作家の書く作品って、全般的に勧善懲悪に縛られていない感が強いですよね。ボワロー、ナルスジャックとか。
そういう意味で、ハッピーエンドじゃないのはいいんですけど、アルレーの場合、ときどき、とんでもなく「変な」展開になってしまうので、あぶなっかしくて読んでいられない、ということがあります。「変な話」という意味では面白いんですけど。
【2008/08/11 20:47】 URL | kazuou #- [ 編集]


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男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主宰。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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