老婦人の降る夜  レイ・ブラッドベリ『火星の笛吹き』
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レイ・ブラッドベリ『火星の笛吹き』

 今回はファンも多いだろう、レイ・ブラッドベリの『火星の笛吹き』(仁賀克雄編訳 ちくま文庫)です。ブラッドベリ原作の映画『サウンド・オブ・サンダー』もそろそろ公開されるようですし、またブラッドベリ熱が再発しそうな今日このごろです。
 本書は、40~50年代の作品を中心にした初期作品集。まだブラッドベリらしさが出ていない、オーソドックスなSFが多いのですが、中にはナイーヴさ、叙情性において優れたものも散見されます。
 往年の名作に比すべき作品としては、典型的なブラッドベリスタイルに近づいた『青い蝋燭』、火星の荒れ地で女の足跡を見つけた男たちの幻想的なストーリー『火星の足跡』なども捨てがたいのですが、いちおしは、名作『万華鏡』と同一モチーフを持つ『天国への短い旅』です。

 「ベロウズさん、私たちとロケットで宇宙に飛び、一緒に神を探しませんか?」

 年老いたベロウズ夫人は、宗教家サーケル氏のすすめにしたがって火星にやってきます。目的は宇宙の果てに神を探すこと。サーケル氏はロケットで神の御許に向かおうというのです。
 サーケル氏のもとに集まったのは、ベロウズ夫人と同じような老婦人ばかり。しかしいつまで待っても、出発する気配はありません。しびれをきらした老婦人たちは、サーケル氏につめよります。ロケットを見せろと言われたサーケル氏は仕方なく、ロケットを見せますが、それはぼろぼろのひどいものでした。
 老婦人たちは決心します。いやがるサーケル氏を無理矢理押し込み、ロケットに乗って出発するのです。しかし当然のごとく、おんぼろのロケットは、ほどなく爆発してしまうのです。

 宇宙船は分解して百万の破片になり、百名からの老婦人たちは、前方に放り出され、船と同じ速力で飛んで行った。

 こんな状況にもかかわらず、ベロウズ夫人をはじめ、老婦人たちは不思議な恍惚感にとらえられています。

 周囲には各々の軌道を飛んで行く女性たちの姿を見た。ヘルメットにはあと数分の酸素しか残っていなかったが、全員、行先を憧れの眼差しで見ていた。

 ベロウズ夫人が宇宙の果てで見たものとは一体何なのでしょう…。
 神に会うために火星にやってくる老婦人の集団、というコミカルな設定を持ちながらも、叙情的なイメージに優れた作品です。結末の美しさは比類がありません。優れたブラッドベリ作品の例にもれず、あらすじだけ紹介しても、その魅力が伝わりにくいのが、もどかしいところです。
 初期の習作を集めた作品集なので、玉石混淆の感は否めませんが、『天国への短い旅』一編だけでも読む価値があります。

テーマ:感想文 - ジャンル:小説・文学

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