最近読んだ本(オーストリア幻想小説を中心に)
4560071985裏面: ある幻想的な物語 (白水Uブックス)
アルフレート クビーン 吉村 博次
白水社 2015-03-07

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アルフレート・クビーン『裏面 ある幻想的な物語』(吉村博次、土肥美夫訳 白水Uブックス)

 主人公の画家夫婦のもとに、学生時代の友人からの使いだという男が現れます。彼が言うには、その友人パテラは、東方で莫大な富を手に入れ、その富を利用して「夢の国」を建設したというのです。
 「夢の国」ペルレにたどり着いた主人公夫婦は、その国が年中霧に覆われ、人々も鬱々としていることに驚きます。しかも肝心の友人パテラには、なかなか会えないのです。
 やがてアメリカから大富豪がやってきたことから、「夢の国」の崩壊が始まりますが…。

 「夢の国」といいながら、主人公たちにとっても、既に住む人々にとっても、そこは、理想郷ではありません。日々暮らすことはできても、活気も希望もない街なのです。支配者である友人パテラに会おうとするものの、なぜか会えず、そのうちに街から出ようとする気力もなくなっていきます。不条理小説風の前半は、雰囲気は良いのですが、いささか冗長なきらいもあります。
 対して、アメリカからの大富豪が現れ、国の崩壊が始まる後半からが読みどころでしょうか。病が蔓延し、動物たちが暴れ出したり、人々が次々と死んでしまう…。それまでモノクロだった画面が、急に極彩色になったかのようです。
 作者は幻想的な画家として有名な人ですが、それだけに視覚的な描写は素晴らしく、ことにクライマックスの狂騒的な場面は読み応えがありますね。



4488010369両シチリア連隊
アレクサンダー・レルネット=ホレーニア 垂野 創一郎
東京創元社 2014-09-12

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アレクサンダー・レルネット=ホレーニア『両シチリア連隊』(垂野創一郎訳 東京創元社)

 第一次大戦後のウィーンが舞台。大戦時に、両シチリア連隊を率いたロションヴィル大佐は、娘のガブリエーレと一緒に、夜会に招かれます。席上、大佐は、見知らぬ男から奇妙な話を聞くことになります。その男は、ロシアで捕虜となって脱走し、ニコライ大公に別人と取り違えられたというのです。
 夜会がお開きとなる直前、元両シチリア連隊の将校エンゲルスハウゼンが、邸宅の一室で殺害されているのを発見されます。そして、事件を調べていた元連隊の少尉もまた行方不明となりますが…。

 「両シチリア連隊」の兵士たちが次々と死んでゆく謎を追う、ミステリ風味の強い幻想長篇です。章ごとに、それぞれの兵士たちにスポットを当てていくという形式になっています。
 序盤の取り違え話が、後半になると、さらに複雑な様相を呈してきます。取り違えられた人物は、生きているのか死んでいるのか? 死んだはずの人間が現れたりと、真実が二転三転するクライマックスのサスペンスは強烈です。
 正直、純粋なミステリとして読むと、割り切れない要素が多すぎますが、幻想小説としては、何とも魅力的な作品と言えます。



hore.jpg白羊宮の火星 (福武文庫)
アレクサンダー レルネット・ホレーニア 前川 道介
福武書店 1991-02

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アレクサンダー・レルネット=ホレーニア『白羊宮の火星』(前川道介訳 福武文庫)

 オーストリアの貴族であり、第一次大戦への従軍経験のある軍人ヴァルモーデンは、戦争の訓練のため、ウィーン郊外の連隊に入営します。
 開戦直前に、神秘的な女性ピストルコールスに夢中になったヴァルモーデンは、招集されてからも彼女と連絡を取ろうとしますが…。

 第二次大戦の前夜、風雲急を告げる時代が舞台なのですが、殺伐とした感じではなく、なにやら浮世離れした夢幻的な雰囲気で描かれる作品です。戦時中だというのに、軍人であるはずの主人公ヴァルモーデンが、社交生活をしたり、女性に夢中になったりと、日常と変わらぬ生活を送っています。
 作品の半ばも過ぎて、ようやく戦闘に駆り出されることになるのですが、そこでも戦闘を抜け出して、女性に会いに行ったりと、緊張感は感じられないのが面白いところ。
 作品自体に幻想的な雰囲気は流れているのですが、実際に超自然(のような)出来事が起こるのは、結末寸前のみです。その意味では、起伏の少ない作品なのですが、非常に洒脱かつ軽い雰囲気なこともあって、読みやすい作品ではあります。
 幻想的な要素のある、一般小説といった感じの作品ですね。



4874176941レオナルドのユダ (エディションq)
レオ ペルッツ Leo Perutz
エディションq 2001-08

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レオ・ペルッツ『レオナルドのユダ』(鈴木芳子訳 エディションq)

 レオナルドは、修道院のために描いている「最後の晩餐」の製作が止まっていることに対して文句を言われていました。レオナルドによれば、ユダを描くためには、ユダと同じような罪を背負ったモデルが必要であり、そのモデルが見つからないために製作が進まないと言うのです。
 一方、ミラノを訪れた商人ベーハイムは、借金を一向に返さない強欲な男ボッチェッタに恨みを抱いていました。挙句の果てには、ボッチェッタを襲う計画まで立てますが、夢中になっている美しい女性ニッコーラが、ボッチェッタの娘であることを知り、悩みながらも、ある計画を考え付きます…。

 レオナルド・ダ・ヴィンチの名作「最後の晩餐」に描かれたユダに、モデルがあったのではないか? という想像から生まれたと思しき歴史小説です。
 憎き仇への恨みと、愛する女性がその仇の娘であるという事実との間で悩む主人公が取った手段とは? そこにユダの顔を見たレオナルドを絡ませていくのが面白いところ。
 主人公ベーハイムの恋のライバル的な存在として、マンチーノという男が登場するのですが、このマンチーノが、なかなか味のあるキャラクターとして描かれます。記憶喪失だという設定なのですが、結末ではこの男の来歴が匂わされるなど、細かい部分でも楽しめます。
 邦訳のある、他のペルッツ作品と比較すると小粒な印象ですが、これはこれで味わいのある歴史奇譚ですね。

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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Author:kazuou
男性。本好き。短編好き。異色作家好き。怪奇小説好き。
怪奇幻想小説の読書会「怪奇幻想読書倶楽部」主催。
主に翻訳小説を紹介していますが、たまに映像作品をとりあげることもあります。
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