異界との取引  篠たまき『やみ窓』
4041050774やみ窓
篠 たまき
KADOKAWA 2016-12-23

by G-Tools

 短い結婚生活を経て、夫と死別した柚子。しかし義母は、柚子のせいで息子は死んだと信じ込み、罵倒を繰り返します。柚子は、義母から隠れるように団地に移り住みます。
 柚子の住む部屋には秘密がありました。夜になると時折、窓を通して、あるはずのない場所につながるのです。そこからやってくるのは、異界の住人たち。彼らは、柚子を神とあがめ、物々交換を求めます。何の変哲もないペットボトルと交換に彼らが差し出すのは、植物であったり、織物であったりと、様々な品物でした。彼らはやがて、とんでもない品物を運んできますが…。

 篠たまき『やみ窓』(KADOKAWA)は、どこか見知らぬ場所とつながる窓を入口に、そこから来る人々との物々交換を描いた、ユニークなテーマの連作短篇集です。
 作品のプロローグともいうべき最初の一篇『やみ窓』を読むと、窓から訪れる人々は、この世の存在ではないかのように思わされますが、やがて彼らもまた人間であり、過去に住む人々らしい、ということがわかってきます。しかし貧しい生活を送る人々にとっては、柚子の容姿や部屋の内部は現実離れしており、それゆえに、柚子を神とみなし、あがめ始めるのです。
 柚子がペットボトルと交換に手に入れた品物はインターネットで高く売りさばくことができ、彼女はそれを生業にするようになります。しかし住人たちの要求はエスカレートし、それを拒んだ結果、住民たちは悲劇に直面することになるのです。

 異世界の存在と物々交換をするというテーマでは、クリフォード・D・シマックの短篇『埃まみれのゼブラ』(小尾芙佐訳 仁賀克雄編『幻想と怪奇2 宇宙怪獣現わる』ハヤカワ文庫NV収録)という作品を思い出します。
 シマックの作品では、相手側は完全に異世界の存在で、交換で手に入った品物は使用方法もよくわからない変梃な品物ばかり、という設定でした。
 『やみ窓』では、取引相手の人々は、獣じみてはいるものの、普通の人間であることがわかってきます。品物は現実的な物質であり、その意味で、取引される品物の珍しさが、物語の主眼になっているわけではありません。メインで描かれるのは、ヒロインの柚子と取引相手の人々との人間模様です。
 取引に欲を出す人間。口をすべらし、領主にひどい目に遭わされてしまう人間。柚子を殺そうとする人間。従来から過酷で貧しい生活を送っていた人々に、柚子が関与することによって、更なる悲劇を引き起こしてしまうのです。まさに、この世の地獄のような生活が描写されますが、柚子自身の精神もまた、地獄のような領域に踏み入りつつある…というのが読みどころでしょうか。

 団地の窓は、一種のタイムマシンといえるのですが、ふとしたことから、自分が与えた影響により、過去の村や人々がどうなったのかを柚子は知ることになります。同時に耳にした伝説はまた、柚子自身の将来をも暗示するかのようなのです…。
 主人公を含め、誰も幸せにはなりません。運命を変えることもできず、悲劇に向かっていくしかない…という、諦観とほの暗さにあふれた作品ながら、リーダビリティは非常に高く、読み応えのある作品です。

テーマ:書評 - ジャンル:小説・文学

この記事に対するコメント
「幽」文学賞が終わるのは残念です。
「るんびにの子供」「美しい果実」「枯骨の恋」など心に残る佳作が多く、ホラー大賞とは異なる怖い物語を提供してくれていたのに。「やみ窓」は装丁も内容に合っていて寂しく美しい。織物の女の運命は白土三平作品並に残酷ですが、恵まれた筈の現代の柚子の人生もまた地獄。自分も嫁だけに姑の言動に震え上がりました。平穏に取り繕っていても似た話は幾らでも見聞きしますから。
【2017/02/14 20:05】 URL | 奈良の亀母 #- [ 編集]

>奈良の亀母さん
「幽」文学賞、初期の受賞作品は微妙な作品もありましたが、近年はいろいろ魅力的も多かったですね。
『やみ窓』も、魅力を覚えたのは、主人公の心の動きや、村の住人の生活の部分などで、その意味では怪奇幻想とは少し異なるベクトルの作品だったかもしれません。
主人公と姑との確執の部分は、リアリティがあって、怖かったですね。似たような経験がある人は、なおさらでしょうか。
【2017/02/14 21:27】 URL | kazuou #- [ 編集]


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